Kill this pain in your hand
『…お礼に参りました、藍染元隊長』
「ほう…皮肉を言う様になったか。成長した様だね、桜花くん」
元を強調して言ってやれば藍染は笑みを浮かべた。
「隊長になった様だね。君の事だ、九番隊の隊長になったんだろう?」
小さく頷けば藍染はやはりな、と呟いた。
ちらりと総隊長と破面側のリーダーらしき玉座に座った老人を見て、再び僕を見た
「君もこのままでは暇だろう。周りが終わるまでの暇潰しに私が相手をしてあげよう」
『それは有り難い』
深呼吸をして、藤凍月を抜く。あんたには恨みがあるんだ。蟹沢さん達や海燕さんが死んだ理由に、修兵さんの顔の傷。あんたは絶対に僕が殺す。
静かに胸の前で構えた
『――卍解』
「……隊長…」
独月の霊圧が膨れ上がるのを感じた。藤凍月が化けた肉雫唼から出され、直ぐに独月の方に向かおうとする。すると後方から視線を感じた。
振り向けば其処に居たのは忘れる筈も無い、あの人
「……東仙、隊長…」
「久しいな、檜佐木」
落ち着いた声が俺の名を呼ぶ。隣に居た肉雫唼は静かに後ろに下がった
「檜佐木…」
俺の隣に狛村隊長が並んだ。それを無表情に見つめる東仙隊長。ねぇ隊長、俺は貴方に訊きたい声が山程あるんですよ。
何故裏切ったんですか東仙隊長。貴方は今何を考えているんですか。隊長として働いている間貴方は何を考えていたんですか。何故俺達を見捨てたんですか。何故、何故、何故――
「………っ」
きつく唇を噛んで、集中する。しっかりしろよ俺。あの人はもう隊長じゃない、敵だ。今の俺の隊長はちいせぇ背中で九の数字を背負ってるあいつしか居ねぇ。
深呼吸をして左耳のカフスに触れる。大丈夫だ、俺は落ち着いてる。ちらりと隣を見れば狛村隊長が気遣う様な目で俺を見ていた。もう大丈夫ですと言えばそうかと一言。狛村隊長が前を向くのに倣い俺も視線を正面に戻す。
動く気配のない東仙隊長に向かって俺は言った
「………お礼に参りました、東仙元隊長」
『……っ!』
「四月の間に此処まで使いこなせる様になったとは、感心したよ」
『そりゃどうも……っ千本桜!』
斬り掛かって来た藍染に千本桜をけしかける。桜の花吹雪を躱した藍染に風死を向かわせた
藍染の首目掛けて襲い掛かった鎌は指一本で止められる
「やはりこれは檜佐木くんが居なければ弱い様だね」
笑いながら鎖を斬られた。
『ちっ…』
花天凶骨を差し向け、その間に斬られた風死を修復する。大丈夫、まだ時間もあるし、霊圧もそんなに消費してない。焦らずに考えろ。
『縛裟氷映!』
長刀で斬り掛かれば斬魄刀で受け止められた。交わった刃が音を立てて凍っていく。今だ。僕は右手の施条銃を藍染の額に向けた
『終わりだ』
虚化した東仙元隊長の姿が、気付いた時には目の前にあった。反射的に身を半歩引きつつ斬魄刀で受け止める。ぎちぎちと音を立てながら鍔迫り合いに持ち込んだ東仙元隊長の力は、有り得ねぇ程強い。これが虚化の力か。……本当に虚の力に手を染めたんですね、東仙隊長
「…まさか受け止められるとは。成長したな、檜佐木」
「……修行、しましたから…」
独月が隊長になった後も暇があれば修行をしていた。卍解した独月と何度も実戦形式で戦り合っていれば嫌でも力は付く
狛村隊長が斬魄刀を振り上げた。咄嗟に東仙元隊長の斬魄刀を弾いて後退する
「――『天譴』!!!」
始解した狛村隊長の天譴が東仙元隊長の背後から襲い掛かる。現れた巨大な腕を東仙元隊長は振り返る事なく片腕で受け止めた。おいおいマジかよ
「何!!!」
振り返った東仙元隊長が、狛村隊長の身体に蹴りを入れる。血を吐いた狛村隊長が吹っ飛んだ
「狛村隊長っ!!」
「…可笑しなものだな…」
そう言った東仙元隊長が再度俺に向かって斬魄刀を振り下ろした。斬魄刀でそれを受け止めれば真横から迫る脚。食らった脇腹がめきめきと有り得ねぇ音を立てる。そのまま勢い良く吹っ飛ばされ下にある建物に突っ込んだ。
「檜佐木!!」
いってぇな。蹴られた脇腹をさする。コレ絶対肋何本かイったぞ。折角肉雫唼に怪我全部直して貰ったのに
つか虚化の力で蹴られてこの程度で済んでる俺が可笑しい。これじゃ狛村隊長並みの頑丈さだ。最近段々と人間離れして来た気がする。いや、死神だから人間じゃねぇけど
「お前達が仲間とするあの半死神の少年も、同じ虚化の能力を持っている筈だ」
東仙元隊長が狛村隊長を見る。
俺は軋む身体を動かし何とか立ち上がった。
「私がその力を手にする事が、それ程蔑まれなければならない事か?」
「彼は…黒崎一護は望んで虚化した訳ではない…」
狛村隊長がゆっくりと身を起こした
「だが貴公は違う…貴公は死神として充分な実力を持ちながら、自らその道を踏み外したのだ……!!」
「刈れ――『風死』」
始解して風死を構える。東仙元隊長は狛村隊長との会話に集中しているのか、俺には気付いてねぇ。やるなら今だ
俺は静かに風死を投げた。飛んで行ったそれは東仙元隊長の首を捕らえる。鎖を引けば勢い良く東仙元隊長が建物に激突した。その首に手を掛け風死を構える。脇腹がめきめき言ってて痛ぇが気にする余裕はねぇ。
「…踏み込みが浅かったか。…私も甘いな」
「…いえ、俺が反射的に半歩躱したんです」
怪我の所為で汗が滲む。痛みを無視して俺は口を開いた
「剣を抜いて立つ時は常に半歩躱せる様に構える――」
それを教わった俺は独月にも教えた
「東仙元隊長、貴方の教えです」
「惜しかったな。君にもっと力があったなら、その銃弾は私を貫いていただろう」
『……う、そ…っ』
言葉に出来ない。至近距離で放った弾丸は藍染の手に止められた。開かれた掌からぱらぱらと粉々になった弾丸が落ちていく。
咄嗟に藍染から距離を取った。周りに漂う扇を見る。数は三。残り三十分しかない。
「どうやら君の卍解は、日番谷冬獅郎と同じ様に時間制限がある様だね」
『―――っ!』
気付かれた。睨み付ければ藍染はその口元に笑みを浮かべる
「十分置きにその扇が消える。もう消えたのは三枚。残りも三枚。君に残された時間は後三十分と言った所かな」
『……そう、ですよ…』
バレたなら隠しても仕方がない。肯定して長刀と施条銃を構える。
僕の卍解は保って一時間。それ以上は使えない。それはまだ僕が幼いからだと藤凍月に言われた。幼さと卍解を会得してからまだ日が浅い事、この二つが卍解を長く保てず充分に力を引き出せない最大の原因
「惜しいな」
藍染の言葉に目を細める。話をしているにも関わらずこの男には一切の隙がない
隙を狙う僕を見つめる藍染がすっと手を差し出した
「今からでも遅くはない。私と共に来ないか?」
『だが断る』
即答すれば僅かに呆れた様な表情をした。やれやれってか。何なんだお前
「君の力は此処で散らせるには惜しい。その斬魄刀に隠された力を目覚めさせたいとは思わないか?」
『…貴方が藤凍月の何を知ってるっていうんですか……』
警戒しつつそう言えば藍染は笑った。
「覚えはないのかな。君は以前その力の片鱗を見せている」
『………?』
「君の斬魄刀藤凍月は、君が心から信頼する者の力に同調し、力を与える能力を持っている」
「あの時貴方はこう言った。"だから君は席官でいるべきなのだ"」
「戦士にとって最も大切なものは力ではない。戦いを怖れる心だ。戦いを怖れるからこそ、同じく戦いを怖れる者達の為に剣を握って戦える。
自分の剣にすら怯えぬ者に、剣を握る資格は無い。
檜佐木、お前が本当に心から戦いを怖れているのなら……」
「お前は既に戦士としてかけがえの無いものを手にしているのだ……!」
あの日貴方はそう言ったのに
「…俺は…俺には判りません東仙隊長…」
俺はあの言葉に救われたのに
「あの言葉を言った貴方が…何故力の為に全てを捨てたんですか……!」
貴方に憧れていたのに
「今の貴方は…一体何を怖れていると言うんですか!!」
言った瞬間、腹部に衝撃。見れば刀に貫かれていた。東仙隊長の、刀に
「…東…せん…隊長……」
立ち上がった東仙隊長に蹴飛ばされた。ぐらついた俺の身体は、為す術なく建物から落とされる。
「…怖れているさ。私の恐怖は百年前から、お前達死神と同化して死ぬ事だ」
『!』
今修兵さんの霊圧がぶれた。怪我したのかも知れない。慌てて霊圧を探って息を吐く。生きてる。それに直ぐ近くに肉雫唼も居るから大丈夫。
気持ちを落ち着けて藍染を見た。奴は僕を見て笑う
「残り二十分弱。この限られた時間の中で何が出来る?」
『……あんたを、倒せる』
藤凍月を構え直し、静かに唱えた
『…戦舞・壱式……』
ざっと僕を灰猫が覆い、千本桜が僕と藍染のみを残した球状の空間を作る。僕は長刀の飾り紐の勾玉に触れた。
三つの勾玉から管狐が飛び出し、藍染に襲い掛かる
「この程度では私に傷を付ける事は出来ない」
ばっさりと斬られた管狐から沢山の蝶が飛び出した。
――今だ
『蝶炎跋扈』
『僕』を象っていた管狐がにやりと笑い、沢山の蝶へと姿を変える。数多の蝶は空間を覆い尽くさんとばかりに羽ばたき――一斉に爆発した
『……上手く行ったか…?』
建物の上で煙の上がった方を見上げる。流石にあの空間で爆発したんだから、少しは傷を負っていて欲しい。
あの中に居た僕は管狐が化けた偽物だ。灰猫に包まれる間に予め呼び出しておいた管狐を僕に化けさせて、僕は建物の上に避難した。
『……ふぅ…』
流石に長時間卍解してる上での蝶炎跋扈はキツい。これで倒せたら一番良いが、恐らくそんな奇跡は起きないだろう。あいつ絶対生きてるし。
ちらりと後方を見る。そこには虚になった東仙隊長。狛村隊長が応戦しているが押されている。修兵さんは肉雫唼の近く。怪我が軽ければ良いんだけど
『…死ぬなよ…修兵さん…』
「……畜生…」
首だけじゃなくて刀を持っている手も封じておけば良かった。刺された腹がかなり痛い。
落とされた俺を受け止めた肉雫唼はふよふよと浮かんでいる。
「…肉雫唼、バレない様に東仙隊長の頭上まで俺を運べるか?」
そう訊けば、了承したとばかりに肉雫唼がふよふよと動き出した。その背に乗ったまま、始解の解けた斬魄刀をぎゅっと握り締める。
「思っていたより…醜いな」
耳を塞ぎたかった。貴方はそんな事を言う人じゃなかった。言葉で他人を傷付ける様な人じゃなかった。
「……変わっちまったんだな…」
姿も、心さえも。
「…終わりにしようか、狛村」
黒縄天譴明王を倒し、貴方は狛村隊長に止めを差そうとしている。
「正義とは、言葉では語れぬものなのだ」
頭上に浮かんだ肉雫唼から飛び降りた。握り締めた斬魄刀を、その喉に突き刺した。
肉を突き刺す鈍い感触。
きっと俺はこの感触を一生忘れられないだろう
「…やはり、貴方はもう東仙隊長じゃない…」
俺の知っている東仙隊長じゃない
「眼が見えない時の貴方なら…この程度の一撃は躱していた」
突き刺した刀を握る手が震えているのは見ないフリをした
「刈れ」
きつく目を閉じて、貴方を追い込む言葉を口にする
「『風死』」
――俺の言葉が貴方の喉を貫くのを感じた
『……修兵さん…』
修兵さんが東仙隊長を倒した。その喉を風死で貫いて。
大切な人を自ら手に掛けるとは、どれだけ辛い事なんだろう。僕なんかでは到底計り知る事は出来なくて。何故あの人は大切な人を目の前で失い続けるのか。代わってあげられたら良いのに、そう思う
「要が負けた様だね」
『!!!』
落ち着いた声。煙の方を見れば藍染が姿を現した。その服や頬に、少しだが火傷や擦り傷を負っている。良かった。あれかまして無傷だったらどうしようと思った
「中々効いたよ。大したものだ」
そう言った藍染が刀を振るった。僕の居る前方ではなく、下に向けて。
何故だと視線を下に向けて、言葉を失った
「…東仙……!」
狛村隊長の悲痛な声が響く。其処にあるのは東仙隊長の肉片。斬撃で殺されたのだ。一瞥もされぬまま
「戦闘中に敵から目を離すとは、未熟な証拠だな」
『あ、ぐ…っ!』
直ぐ近くで声がした瞬間、顔面を鷲掴みにされた。僕の名を呼ぶ修兵さんの声が聞こえる。ばたばたと暴れてもその手の力が緩む事はない
「丁度良い。死んでしまった要の代わりに君に幹部になって貰おう」
瞬間、ぞわり、と。言い知れぬ寒気を感じた。力の限り暴れればあっさりと解放される。
「独月!」
『……しゅ、へ…さん…』
「大丈夫か…?」
隣に来た修兵さんに顔を覗き込まれる。頷けば安心したと小さく呟いて、僕の前に立った
「あまり彼女の傍に寄らない方が良い」
「……どういう事だ…」
「そのままの意味だ」
『…え……?』
ごぼり、と。
口から真っ白な何かが飛び出した。それは目からも出て来て僕の顔に纏わり付いて来る。
「独月っ!?」
――殺せ殺セコロセコロせころせ
頭の中に響く、愉しそうな僕の声
『……しゅ…へ………』
修兵さんの名を呼ぼうとして、目の前は真っ暗になった
Sink into the abyss
(な…何なんだよ…これ…!)
「ほう…皮肉を言う様になったか。成長した様だね、桜花くん」
元を強調して言ってやれば藍染は笑みを浮かべた。
「隊長になった様だね。君の事だ、九番隊の隊長になったんだろう?」
小さく頷けば藍染はやはりな、と呟いた。
ちらりと総隊長と破面側のリーダーらしき玉座に座った老人を見て、再び僕を見た
「君もこのままでは暇だろう。周りが終わるまでの暇潰しに私が相手をしてあげよう」
『それは有り難い』
深呼吸をして、藤凍月を抜く。あんたには恨みがあるんだ。蟹沢さん達や海燕さんが死んだ理由に、修兵さんの顔の傷。あんたは絶対に僕が殺す。
静かに胸の前で構えた
『――卍解』
「……隊長…」
独月の霊圧が膨れ上がるのを感じた。藤凍月が化けた肉雫唼から出され、直ぐに独月の方に向かおうとする。すると後方から視線を感じた。
振り向けば其処に居たのは忘れる筈も無い、あの人
「……東仙、隊長…」
「久しいな、檜佐木」
落ち着いた声が俺の名を呼ぶ。隣に居た肉雫唼は静かに後ろに下がった
「檜佐木…」
俺の隣に狛村隊長が並んだ。それを無表情に見つめる東仙隊長。ねぇ隊長、俺は貴方に訊きたい声が山程あるんですよ。
何故裏切ったんですか東仙隊長。貴方は今何を考えているんですか。隊長として働いている間貴方は何を考えていたんですか。何故俺達を見捨てたんですか。何故、何故、何故――
「………っ」
きつく唇を噛んで、集中する。しっかりしろよ俺。あの人はもう隊長じゃない、敵だ。今の俺の隊長はちいせぇ背中で九の数字を背負ってるあいつしか居ねぇ。
深呼吸をして左耳のカフスに触れる。大丈夫だ、俺は落ち着いてる。ちらりと隣を見れば狛村隊長が気遣う様な目で俺を見ていた。もう大丈夫ですと言えばそうかと一言。狛村隊長が前を向くのに倣い俺も視線を正面に戻す。
動く気配のない東仙隊長に向かって俺は言った
「………お礼に参りました、東仙元隊長」
『……っ!』
「四月の間に此処まで使いこなせる様になったとは、感心したよ」
『そりゃどうも……っ千本桜!』
斬り掛かって来た藍染に千本桜をけしかける。桜の花吹雪を躱した藍染に風死を向かわせた
藍染の首目掛けて襲い掛かった鎌は指一本で止められる
「やはりこれは檜佐木くんが居なければ弱い様だね」
笑いながら鎖を斬られた。
『ちっ…』
花天凶骨を差し向け、その間に斬られた風死を修復する。大丈夫、まだ時間もあるし、霊圧もそんなに消費してない。焦らずに考えろ。
『縛裟氷映!』
長刀で斬り掛かれば斬魄刀で受け止められた。交わった刃が音を立てて凍っていく。今だ。僕は右手の施条銃を藍染の額に向けた
『終わりだ』
虚化した東仙元隊長の姿が、気付いた時には目の前にあった。反射的に身を半歩引きつつ斬魄刀で受け止める。ぎちぎちと音を立てながら鍔迫り合いに持ち込んだ東仙元隊長の力は、有り得ねぇ程強い。これが虚化の力か。……本当に虚の力に手を染めたんですね、東仙隊長
「…まさか受け止められるとは。成長したな、檜佐木」
「……修行、しましたから…」
独月が隊長になった後も暇があれば修行をしていた。卍解した独月と何度も実戦形式で戦り合っていれば嫌でも力は付く
狛村隊長が斬魄刀を振り上げた。咄嗟に東仙元隊長の斬魄刀を弾いて後退する
「――『天譴』!!!」
始解した狛村隊長の天譴が東仙元隊長の背後から襲い掛かる。現れた巨大な腕を東仙元隊長は振り返る事なく片腕で受け止めた。おいおいマジかよ
「何!!!」
振り返った東仙元隊長が、狛村隊長の身体に蹴りを入れる。血を吐いた狛村隊長が吹っ飛んだ
「狛村隊長っ!!」
「…可笑しなものだな…」
そう言った東仙元隊長が再度俺に向かって斬魄刀を振り下ろした。斬魄刀でそれを受け止めれば真横から迫る脚。食らった脇腹がめきめきと有り得ねぇ音を立てる。そのまま勢い良く吹っ飛ばされ下にある建物に突っ込んだ。
「檜佐木!!」
いってぇな。蹴られた脇腹をさする。コレ絶対肋何本かイったぞ。折角肉雫唼に怪我全部直して貰ったのに
つか虚化の力で蹴られてこの程度で済んでる俺が可笑しい。これじゃ狛村隊長並みの頑丈さだ。最近段々と人間離れして来た気がする。いや、死神だから人間じゃねぇけど
「お前達が仲間とするあの半死神の少年も、同じ虚化の能力を持っている筈だ」
東仙元隊長が狛村隊長を見る。
俺は軋む身体を動かし何とか立ち上がった。
「私がその力を手にする事が、それ程蔑まれなければならない事か?」
「彼は…黒崎一護は望んで虚化した訳ではない…」
狛村隊長がゆっくりと身を起こした
「だが貴公は違う…貴公は死神として充分な実力を持ちながら、自らその道を踏み外したのだ……!!」
「刈れ――『風死』」
始解して風死を構える。東仙元隊長は狛村隊長との会話に集中しているのか、俺には気付いてねぇ。やるなら今だ
俺は静かに風死を投げた。飛んで行ったそれは東仙元隊長の首を捕らえる。鎖を引けば勢い良く東仙元隊長が建物に激突した。その首に手を掛け風死を構える。脇腹がめきめき言ってて痛ぇが気にする余裕はねぇ。
「…踏み込みが浅かったか。…私も甘いな」
「…いえ、俺が反射的に半歩躱したんです」
怪我の所為で汗が滲む。痛みを無視して俺は口を開いた
「剣を抜いて立つ時は常に半歩躱せる様に構える――」
それを教わった俺は独月にも教えた
「東仙元隊長、貴方の教えです」
「惜しかったな。君にもっと力があったなら、その銃弾は私を貫いていただろう」
『……う、そ…っ』
言葉に出来ない。至近距離で放った弾丸は藍染の手に止められた。開かれた掌からぱらぱらと粉々になった弾丸が落ちていく。
咄嗟に藍染から距離を取った。周りに漂う扇を見る。数は三。残り三十分しかない。
「どうやら君の卍解は、日番谷冬獅郎と同じ様に時間制限がある様だね」
『―――っ!』
気付かれた。睨み付ければ藍染はその口元に笑みを浮かべる
「十分置きにその扇が消える。もう消えたのは三枚。残りも三枚。君に残された時間は後三十分と言った所かな」
『……そう、ですよ…』
バレたなら隠しても仕方がない。肯定して長刀と施条銃を構える。
僕の卍解は保って一時間。それ以上は使えない。それはまだ僕が幼いからだと藤凍月に言われた。幼さと卍解を会得してからまだ日が浅い事、この二つが卍解を長く保てず充分に力を引き出せない最大の原因
「惜しいな」
藍染の言葉に目を細める。話をしているにも関わらずこの男には一切の隙がない
隙を狙う僕を見つめる藍染がすっと手を差し出した
「今からでも遅くはない。私と共に来ないか?」
『だが断る』
即答すれば僅かに呆れた様な表情をした。やれやれってか。何なんだお前
「君の力は此処で散らせるには惜しい。その斬魄刀に隠された力を目覚めさせたいとは思わないか?」
『…貴方が藤凍月の何を知ってるっていうんですか……』
警戒しつつそう言えば藍染は笑った。
「覚えはないのかな。君は以前その力の片鱗を見せている」
『………?』
「君の斬魄刀藤凍月は、君が心から信頼する者の力に同調し、力を与える能力を持っている」
「あの時貴方はこう言った。"だから君は席官でいるべきなのだ"」
「戦士にとって最も大切なものは力ではない。戦いを怖れる心だ。戦いを怖れるからこそ、同じく戦いを怖れる者達の為に剣を握って戦える。
自分の剣にすら怯えぬ者に、剣を握る資格は無い。
檜佐木、お前が本当に心から戦いを怖れているのなら……」
「お前は既に戦士としてかけがえの無いものを手にしているのだ……!」
あの日貴方はそう言ったのに
「…俺は…俺には判りません東仙隊長…」
俺はあの言葉に救われたのに
「あの言葉を言った貴方が…何故力の為に全てを捨てたんですか……!」
貴方に憧れていたのに
「今の貴方は…一体何を怖れていると言うんですか!!」
言った瞬間、腹部に衝撃。見れば刀に貫かれていた。東仙隊長の、刀に
「…東…せん…隊長……」
立ち上がった東仙隊長に蹴飛ばされた。ぐらついた俺の身体は、為す術なく建物から落とされる。
「…怖れているさ。私の恐怖は百年前から、お前達死神と同化して死ぬ事だ」
『!』
今修兵さんの霊圧がぶれた。怪我したのかも知れない。慌てて霊圧を探って息を吐く。生きてる。それに直ぐ近くに肉雫唼も居るから大丈夫。
気持ちを落ち着けて藍染を見た。奴は僕を見て笑う
「残り二十分弱。この限られた時間の中で何が出来る?」
『……あんたを、倒せる』
藤凍月を構え直し、静かに唱えた
『…戦舞・壱式……』
ざっと僕を灰猫が覆い、千本桜が僕と藍染のみを残した球状の空間を作る。僕は長刀の飾り紐の勾玉に触れた。
三つの勾玉から管狐が飛び出し、藍染に襲い掛かる
「この程度では私に傷を付ける事は出来ない」
ばっさりと斬られた管狐から沢山の蝶が飛び出した。
――今だ
『蝶炎跋扈』
『僕』を象っていた管狐がにやりと笑い、沢山の蝶へと姿を変える。数多の蝶は空間を覆い尽くさんとばかりに羽ばたき――一斉に爆発した
『……上手く行ったか…?』
建物の上で煙の上がった方を見上げる。流石にあの空間で爆発したんだから、少しは傷を負っていて欲しい。
あの中に居た僕は管狐が化けた偽物だ。灰猫に包まれる間に予め呼び出しておいた管狐を僕に化けさせて、僕は建物の上に避難した。
『……ふぅ…』
流石に長時間卍解してる上での蝶炎跋扈はキツい。これで倒せたら一番良いが、恐らくそんな奇跡は起きないだろう。あいつ絶対生きてるし。
ちらりと後方を見る。そこには虚になった東仙隊長。狛村隊長が応戦しているが押されている。修兵さんは肉雫唼の近く。怪我が軽ければ良いんだけど
『…死ぬなよ…修兵さん…』
「……畜生…」
首だけじゃなくて刀を持っている手も封じておけば良かった。刺された腹がかなり痛い。
落とされた俺を受け止めた肉雫唼はふよふよと浮かんでいる。
「…肉雫唼、バレない様に東仙隊長の頭上まで俺を運べるか?」
そう訊けば、了承したとばかりに肉雫唼がふよふよと動き出した。その背に乗ったまま、始解の解けた斬魄刀をぎゅっと握り締める。
「思っていたより…醜いな」
耳を塞ぎたかった。貴方はそんな事を言う人じゃなかった。言葉で他人を傷付ける様な人じゃなかった。
「……変わっちまったんだな…」
姿も、心さえも。
「…終わりにしようか、狛村」
黒縄天譴明王を倒し、貴方は狛村隊長に止めを差そうとしている。
「正義とは、言葉では語れぬものなのだ」
頭上に浮かんだ肉雫唼から飛び降りた。握り締めた斬魄刀を、その喉に突き刺した。
肉を突き刺す鈍い感触。
きっと俺はこの感触を一生忘れられないだろう
「…やはり、貴方はもう東仙隊長じゃない…」
俺の知っている東仙隊長じゃない
「眼が見えない時の貴方なら…この程度の一撃は躱していた」
突き刺した刀を握る手が震えているのは見ないフリをした
「刈れ」
きつく目を閉じて、貴方を追い込む言葉を口にする
「『風死』」
――俺の言葉が貴方の喉を貫くのを感じた
『……修兵さん…』
修兵さんが東仙隊長を倒した。その喉を風死で貫いて。
大切な人を自ら手に掛けるとは、どれだけ辛い事なんだろう。僕なんかでは到底計り知る事は出来なくて。何故あの人は大切な人を目の前で失い続けるのか。代わってあげられたら良いのに、そう思う
「要が負けた様だね」
『!!!』
落ち着いた声。煙の方を見れば藍染が姿を現した。その服や頬に、少しだが火傷や擦り傷を負っている。良かった。あれかまして無傷だったらどうしようと思った
「中々効いたよ。大したものだ」
そう言った藍染が刀を振るった。僕の居る前方ではなく、下に向けて。
何故だと視線を下に向けて、言葉を失った
「…東仙……!」
狛村隊長の悲痛な声が響く。其処にあるのは東仙隊長の肉片。斬撃で殺されたのだ。一瞥もされぬまま
「戦闘中に敵から目を離すとは、未熟な証拠だな」
『あ、ぐ…っ!』
直ぐ近くで声がした瞬間、顔面を鷲掴みにされた。僕の名を呼ぶ修兵さんの声が聞こえる。ばたばたと暴れてもその手の力が緩む事はない
「丁度良い。死んでしまった要の代わりに君に幹部になって貰おう」
瞬間、ぞわり、と。言い知れぬ寒気を感じた。力の限り暴れればあっさりと解放される。
「独月!」
『……しゅ、へ…さん…』
「大丈夫か…?」
隣に来た修兵さんに顔を覗き込まれる。頷けば安心したと小さく呟いて、僕の前に立った
「あまり彼女の傍に寄らない方が良い」
「……どういう事だ…」
「そのままの意味だ」
『…え……?』
ごぼり、と。
口から真っ白な何かが飛び出した。それは目からも出て来て僕の顔に纏わり付いて来る。
「独月っ!?」
――殺せ殺セコロセコロせころせ
頭の中に響く、愉しそうな僕の声
『……しゅ…へ………』
修兵さんの名を呼ぼうとして、目の前は真っ暗になった
Sink into the abyss
(な…何なんだよ…これ…!)