I kill you, I also die
「……独月…?」
俯いたあいつに反応はない。独月に何かしたであろう藍染はその口元に笑みを貼り付けているだけだった
妙な胸騒ぎがする。可笑しい。あいつは死神だ
なのに何故――あいつから虚の気配がするんだ?
「……独月」
一歩、独月の下に近付く。あいつは俯いたまま。気の所為だと、勘違いだとその口で否定して欲しかった。虚の気配は気の所為だと、お前の顔に付いた仮面に見えるそれは虚の仮面ではない、勘違いだと。
ゆっくりと、独月に触れようと手を伸ばす。その細い肩をもう掴める、そう思った瞬間
「…な……っ!?」
衝撃。
気付けば俺の身体は吹き飛ばされていた。
勢い良く建物に激突する。
急過ぎて防御すら出来なかった。
独月は俯いたまま、左手を真横に出した状態で止まっていた。俺を、殴り飛ばした状態で。
「……独月っ…」
殴られた脇腹が痛む。何か今日脇腹やられてばっかだな。厄日か
たらりと垂れてきた血を拭う。右の眉の上辺りからどくどく流れるそれは止まりそうになかった
今までずっと俯いていた独月がゆっくりと顔を上げた。顔に貼り付けている真っ白な面。狐の面みてぇなそれを嵌めた独月の目の色が、可笑しい。あいつの目は右が青で左が紫の筈だ。でも今仮面の奥から見えているのは、血みてぇな赤。違う。これは独月じゃねぇ。
「おや、孔が完全に開ききってはいない様だな」
藍染の言葉で独月を見る。その白い喉に空いた三日月型の孔。まだ完全に虚になった訳じゃねぇって事か?なら、まだあいつを元に戻せるかも知れねぇ。
立ち上がり独月を見ればあいつも俺を見ていた。徐にその手を俺に向ける。寒気がして咄嗟に飛び退けば今まで俺が居た場所が抉られていた。虚閃か。そしてまた俺に掌が向けられる
「――『天譴』!!!」
独月の背後から狛村隊長が巨大な刀を振り下ろした。その刃を振り返る事なく片手で受け止める独月。マジかよ。細腕で受け止められた刀にびきびきと罅が入り出した。ばきり、と音がして天譴の刀が小さな手の握力のみで欠けた
独月がゆっくりと振り向き、狛村隊長の腹を蹴飛ばした
「ぐっ!!」
「狛村隊長!!」
狛村隊長は俺とは反対側の建物に突っ込んだ。あの巨体を蹴飛ばした独月はぼんやりと立ち上る粉塵を見つめている。
それまで傍観していた藍染が口を開いた
「桜花くん、君が完全に虚となる為には彼を殺さなければならない」
彼、で藍染が指差したのは俺。独月がその指を辿り俺を見た。嫌な予感がする。瞬きをした瞬間、目の前に居た独月に腹を蹴られた。
「………っ!!」
余りの衝撃に息が詰まる。めきめきと嫌な音が腹から聞こえた。また肋イったのか、俺
咳込みながら周りを確認する。手負いの狛村隊長、吉良、乱菊さん、射場さん、雛森。負傷した味方がこんだけ近くに固まってたら何かの拍子に巻き込みかねねぇ。此処は場所を移すべきか
「俺を殺してぇんだろ?なら付いて来いよ」
瞬歩で周りに誰も居ない所に移動すれば独月も付いて来た。此処なら柱も近くにねぇし、思い切り暴れても平気だ。
ちらりと風死を見た。今は仮面を着けてるがあいつは確かに独月だ。……もう大事な人を斬りたくねぇ
風死を鞘に収めて、白打の構えを取る
「さて、久々に手合わせするか、隊長」
『………』
にやりと笑えば動き出した独月が拳を振りかぶった。上体を僅かに捻って躱せばそれは背後の建物に激突する。再び俺に殴り掛かって来る前に、仮面目掛けて掌底を放った。ガツン、と仮面に当たる音。硬ぇ。仮面は無傷。やっぱりこの程度じゃ割れねぇか
顔面狙いで繰り出された蹴りを身体を反らす事で回避。ほんと顔面と脇腹狙われてばっかだな、俺
仮面に蹴りを食らわせれば独月の小さな身体は吹っ飛んだ。罪悪感はあるがそんなもんに構ってる暇はねぇ。あいつを元に戻す為なら手段は選ばねぇ。
建物に突っ込んだ独月がゆらりと起き上がった。その左手は変な方向に折れ曲がっている。さっき殴り掛かって来たからか?見ていれば腕は直ぐに元通りになった。超速再生か。
再び向かって来た独月を躱せば建物が抉られた。折れた腕を振り上げて、再生する間もなく俺に襲い掛かる
それを何度も躱して仮面に肘を入れれば独月がまた吹っ飛んだ。
何度も建物を破壊した所為で四肢は酷い事になっている。
ごきり、と奇妙な音を立てながら独月が腕を回した。肩外れてたのか?
独月が治りきっていない脚で動こうとしてよろめいた。ゆっくりと脚を見下ろしたと思えば骨の突き出したそれを無理矢理元通りに嵌め込んだ。何の躊躇もなくそんな事をやってのける姿に胸が苦しくなる。
止めてくれ。独月の身体を傷付けないでくれ
身勝手だとは判ってる。実際俺が仮面を蹴飛ばしたりしてる訳だし
でも幾ら超速再生出来るからって、自分の身体を人形みてぇに扱わないで欲しいんだ
「独月、聞こえてるか?」
再び向かって来た独月に反応はない。赤い目が何を思ってるのかさっぱり判らねぇ。只何の感情も伝わって来ない独月の攻撃をひたすら受け流していると――不意に、脚が動かなくなった。
「……う…っ!!」
その隙に貫かれた腹部。斬魄刀を抜いたのかと見れば腹を突き破っているのはあいつの手。
勢い良く手を引き抜かれたかと思えば右肩から血飛沫。鋭い爪で引っかかれたらしい。そう認識した途端に来た痛みに眉を寄せる
やはり脚は動かない。腹を押さえつつ下を見れば俺の脚は凍り付いていた。
振り返れば氷で作られた大木。
何時の間にこんなもんを作っていたのか。
俺から離れた独月が此方を見ている。只何をするでもなく、佇んでいた。
「……畜生…」
氷の大木が俺の身体を凍らせていく。寒い。上から散ってくる氷の破片が桜みたいで綺麗だ、なんて場違いな事を考えてみる。
独月の喉の孔が少しずつ広がっていた。ああ、俺が死ぬからか
「……此方来い、独月」
呼んでみれば素直に此方に来た。ああ、そういう所はお前のままなんだな、独月
まだ凍っていない右手で頭を撫でた。俺の作戦負け。だって後ろにこんなもん作られてるとは思わねぇし
頭を撫でていた手で仮面を掴む。
身体からどんどん感覚がなくなって来て、ああ俺死ぬんだな、とか考える。何か他人事みてぇ。まぁ死ぬとしてもお前を独りにはしねぇよ
「………君臨者よ…血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ……」
声が震えているのは寒さの所為にした
「……蒼火の壁に双蓮を刻む……大火の淵を…遠天にて待つ…」
独月は動かねぇ
抵抗もせず、只俺を見ている。
「…ごめんな…独月…」
視界が滲んだ。目から零れ落ちたそれは俺の手を濡らすものと同じで
「助けてやれなくて…ごめんな……」
独月も泣いていた。血みてぇな赤い目から零れる涙が仮面を伝って俺の手を濡らす。
俺がもっと強かったら、お前をこんな目に遭わせなくて済んだのかな
嗚咽で引きつる喉から無理矢理声を出す。震える声で、お前の好きな鬼道の名を口にした
「……破道の七十三・双蓮蒼火墜」
煙を上げて倒れる独月をぼんやりと見る。
氷の大木は粉々に崩れて、俺は独月の直ぐ隣に倒れ込んだ。
隣に横たわる独月の顔を見る。仮面は壊せたらしい
閉じられた目から涙が一筋零れ落ちた。ああ、泣かないで欲しい。お前に泣かれると胸が痛いんだ
「泣くな……独月…」
思う様に動かねぇ腕を必死に動かし、涙を拭う。
段々意識がぼやけてきた。そろそろ死ぬのかな、なんて思う
確かにまだしたい事は沢山あった。でもお前が先に行って待ってるなら、其方に行くのも悪くない
「待ってろ独月…俺もすぐ…いく…」
そう呟いた俺の意識はふっつりと途切れた
共に生きられぬのならば、共に死のう
俯いたあいつに反応はない。独月に何かしたであろう藍染はその口元に笑みを貼り付けているだけだった
妙な胸騒ぎがする。可笑しい。あいつは死神だ
なのに何故――あいつから虚の気配がするんだ?
「……独月」
一歩、独月の下に近付く。あいつは俯いたまま。気の所為だと、勘違いだとその口で否定して欲しかった。虚の気配は気の所為だと、お前の顔に付いた仮面に見えるそれは虚の仮面ではない、勘違いだと。
ゆっくりと、独月に触れようと手を伸ばす。その細い肩をもう掴める、そう思った瞬間
「…な……っ!?」
衝撃。
気付けば俺の身体は吹き飛ばされていた。
勢い良く建物に激突する。
急過ぎて防御すら出来なかった。
独月は俯いたまま、左手を真横に出した状態で止まっていた。俺を、殴り飛ばした状態で。
「……独月っ…」
殴られた脇腹が痛む。何か今日脇腹やられてばっかだな。厄日か
たらりと垂れてきた血を拭う。右の眉の上辺りからどくどく流れるそれは止まりそうになかった
今までずっと俯いていた独月がゆっくりと顔を上げた。顔に貼り付けている真っ白な面。狐の面みてぇなそれを嵌めた独月の目の色が、可笑しい。あいつの目は右が青で左が紫の筈だ。でも今仮面の奥から見えているのは、血みてぇな赤。違う。これは独月じゃねぇ。
「おや、孔が完全に開ききってはいない様だな」
藍染の言葉で独月を見る。その白い喉に空いた三日月型の孔。まだ完全に虚になった訳じゃねぇって事か?なら、まだあいつを元に戻せるかも知れねぇ。
立ち上がり独月を見ればあいつも俺を見ていた。徐にその手を俺に向ける。寒気がして咄嗟に飛び退けば今まで俺が居た場所が抉られていた。虚閃か。そしてまた俺に掌が向けられる
「――『天譴』!!!」
独月の背後から狛村隊長が巨大な刀を振り下ろした。その刃を振り返る事なく片手で受け止める独月。マジかよ。細腕で受け止められた刀にびきびきと罅が入り出した。ばきり、と音がして天譴の刀が小さな手の握力のみで欠けた
独月がゆっくりと振り向き、狛村隊長の腹を蹴飛ばした
「ぐっ!!」
「狛村隊長!!」
狛村隊長は俺とは反対側の建物に突っ込んだ。あの巨体を蹴飛ばした独月はぼんやりと立ち上る粉塵を見つめている。
それまで傍観していた藍染が口を開いた
「桜花くん、君が完全に虚となる為には彼を殺さなければならない」
彼、で藍染が指差したのは俺。独月がその指を辿り俺を見た。嫌な予感がする。瞬きをした瞬間、目の前に居た独月に腹を蹴られた。
「………っ!!」
余りの衝撃に息が詰まる。めきめきと嫌な音が腹から聞こえた。また肋イったのか、俺
咳込みながら周りを確認する。手負いの狛村隊長、吉良、乱菊さん、射場さん、雛森。負傷した味方がこんだけ近くに固まってたら何かの拍子に巻き込みかねねぇ。此処は場所を移すべきか
「俺を殺してぇんだろ?なら付いて来いよ」
瞬歩で周りに誰も居ない所に移動すれば独月も付いて来た。此処なら柱も近くにねぇし、思い切り暴れても平気だ。
ちらりと風死を見た。今は仮面を着けてるがあいつは確かに独月だ。……もう大事な人を斬りたくねぇ
風死を鞘に収めて、白打の構えを取る
「さて、久々に手合わせするか、隊長」
『………』
にやりと笑えば動き出した独月が拳を振りかぶった。上体を僅かに捻って躱せばそれは背後の建物に激突する。再び俺に殴り掛かって来る前に、仮面目掛けて掌底を放った。ガツン、と仮面に当たる音。硬ぇ。仮面は無傷。やっぱりこの程度じゃ割れねぇか
顔面狙いで繰り出された蹴りを身体を反らす事で回避。ほんと顔面と脇腹狙われてばっかだな、俺
仮面に蹴りを食らわせれば独月の小さな身体は吹っ飛んだ。罪悪感はあるがそんなもんに構ってる暇はねぇ。あいつを元に戻す為なら手段は選ばねぇ。
建物に突っ込んだ独月がゆらりと起き上がった。その左手は変な方向に折れ曲がっている。さっき殴り掛かって来たからか?見ていれば腕は直ぐに元通りになった。超速再生か。
再び向かって来た独月を躱せば建物が抉られた。折れた腕を振り上げて、再生する間もなく俺に襲い掛かる
それを何度も躱して仮面に肘を入れれば独月がまた吹っ飛んだ。
何度も建物を破壊した所為で四肢は酷い事になっている。
ごきり、と奇妙な音を立てながら独月が腕を回した。肩外れてたのか?
独月が治りきっていない脚で動こうとしてよろめいた。ゆっくりと脚を見下ろしたと思えば骨の突き出したそれを無理矢理元通りに嵌め込んだ。何の躊躇もなくそんな事をやってのける姿に胸が苦しくなる。
止めてくれ。独月の身体を傷付けないでくれ
身勝手だとは判ってる。実際俺が仮面を蹴飛ばしたりしてる訳だし
でも幾ら超速再生出来るからって、自分の身体を人形みてぇに扱わないで欲しいんだ
「独月、聞こえてるか?」
再び向かって来た独月に反応はない。赤い目が何を思ってるのかさっぱり判らねぇ。只何の感情も伝わって来ない独月の攻撃をひたすら受け流していると――不意に、脚が動かなくなった。
「……う…っ!!」
その隙に貫かれた腹部。斬魄刀を抜いたのかと見れば腹を突き破っているのはあいつの手。
勢い良く手を引き抜かれたかと思えば右肩から血飛沫。鋭い爪で引っかかれたらしい。そう認識した途端に来た痛みに眉を寄せる
やはり脚は動かない。腹を押さえつつ下を見れば俺の脚は凍り付いていた。
振り返れば氷で作られた大木。
何時の間にこんなもんを作っていたのか。
俺から離れた独月が此方を見ている。只何をするでもなく、佇んでいた。
「……畜生…」
氷の大木が俺の身体を凍らせていく。寒い。上から散ってくる氷の破片が桜みたいで綺麗だ、なんて場違いな事を考えてみる。
独月の喉の孔が少しずつ広がっていた。ああ、俺が死ぬからか
「……此方来い、独月」
呼んでみれば素直に此方に来た。ああ、そういう所はお前のままなんだな、独月
まだ凍っていない右手で頭を撫でた。俺の作戦負け。だって後ろにこんなもん作られてるとは思わねぇし
頭を撫でていた手で仮面を掴む。
身体からどんどん感覚がなくなって来て、ああ俺死ぬんだな、とか考える。何か他人事みてぇ。まぁ死ぬとしてもお前を独りにはしねぇよ
「………君臨者よ…血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ……」
声が震えているのは寒さの所為にした
「……蒼火の壁に双蓮を刻む……大火の淵を…遠天にて待つ…」
独月は動かねぇ
抵抗もせず、只俺を見ている。
「…ごめんな…独月…」
視界が滲んだ。目から零れ落ちたそれは俺の手を濡らすものと同じで
「助けてやれなくて…ごめんな……」
独月も泣いていた。血みてぇな赤い目から零れる涙が仮面を伝って俺の手を濡らす。
俺がもっと強かったら、お前をこんな目に遭わせなくて済んだのかな
嗚咽で引きつる喉から無理矢理声を出す。震える声で、お前の好きな鬼道の名を口にした
「……破道の七十三・双蓮蒼火墜」
煙を上げて倒れる独月をぼんやりと見る。
氷の大木は粉々に崩れて、俺は独月の直ぐ隣に倒れ込んだ。
隣に横たわる独月の顔を見る。仮面は壊せたらしい
閉じられた目から涙が一筋零れ落ちた。ああ、泣かないで欲しい。お前に泣かれると胸が痛いんだ
「泣くな……独月…」
思う様に動かねぇ腕を必死に動かし、涙を拭う。
段々意識がぼやけてきた。そろそろ死ぬのかな、なんて思う
確かにまだしたい事は沢山あった。でもお前が先に行って待ってるなら、其方に行くのも悪くない
「待ってろ独月…俺もすぐ…いく…」
そう呟いた俺の意識はふっつりと途切れた
共に生きられぬのならば、共に死のう