「あらま、こないな事になってしもうたんか」

笑みを貼り付けた男はそう呟いた。
男の視線の先では二人の男女が折り重なる様にして倒れている。少女を抱き締める様にして倒れている男はうっすらと笑みを浮かべていた

「一緒に死ねて満足なんやろ檜佐木クン。せやけどまだ死なせてあげへんよ」

そう呟いた男が懐から小さな包みを取り出した。包みから出したのは小さな丸薬。それを一粒ずつ少女と男の口に入れる。二人が飲んだのを確認してから男は少女の頭を優しく撫でた

「隊長サンになるとは頑張ったんやねぇ、ちびさぎチャン」

再度懐から何かを取り出した男は、少女の手にそれを握らせた。

「頑張ったちびさぎチャンには飴ちゃんあげような」

貼り付けていた笑みとは別の、優しい笑みを浮かべて男は立ち上がる

「ああ、何でこないな事するんやろうとか思うんやろなぁ」

ゆっくりと歩き出した男は寂しそうに笑った

「やってボク悲しいお話嫌いやもん」














「やっと、見つけた……!!」

倒れている銀色のチビ。隣に倒れている男もついでにバラバラにしてしまおう。ボクに傷を付けたんだ、それぐらい当然だよね
帰刃状態から戻れなくなってしまったけれど気にしない。触手を引きずってあいつ等に近付く。僅かに霊圧を感じるから生きてるよね。というか死体を只グチャグチャにするなんてつまらない。ボクはこいつの命を奪いたいんだから。だから銀色のチビが生きてる事に口角が上がった。今度こそあの首を捻り切って小さい頭をグチャグチャに握り潰してやらないと気が済まない。
ずりずりと引きずっていた触手を持ち上げる。ボクを氷漬けにして粉々に砕いたんだ。仕返しにボクもお前をグチャグチャにしてやる。誰かも解らないぐらいに
持ち上げた触手を勢い良く銀色のチビに振り下ろそうとして――触手の先が消えた。
痛い。何で。誰が。チビじゃない。こいつは目を閉じたままだ。じゃあ、誰が

「…何…してやがる…」

銀色のチビを抱き締める様にして倒れていた男が斬魄刀を片手にボクを睨んでいた











目を開けた瞬間何かが振り下ろされている事に気付いた。
何となく防がないといけない気がして斬魄刀で斬り落とす。そしてその白い触手の狙いに気付いて思わず低い声を出した

「…何…してやがる…」

奴が狙っていたのは俺の隣で倒れていた独月。帰刃しているらしい破面から独月を抱えて距離を取る。

「誰だてめぇ」

「ボクは第6十刃のルピ。銀色のチビに借りを返しに来たよ」

そう言って奴は腰骨の辺りを捲った。其処にあるのは数字ではなく、火傷の様な痕。

「…てめぇには其処に数字がある様に見えてんのか……?」

「………?何言ってるのさ此処にちゃんと数字が………あれ?」

今まで余裕の表情を浮かべていたルピの動きが止まる。奴は自らの火傷の痕を凝視していた。

「あれ、何で?ボクは確かに第6十刃なのに…グリムジョーじゃなくてボクが…何で…何で何で何で?」

「………っ!」

頭を抱えたルピの霊圧が膨れ上がる。やべぇな、今の俺で勝てんのか?利き腕も動きにくい状態で、肋が何本かイってて腹に穴が空いてる俺に。
不意に腕に抱えた独月の背からがたがたと音がした。見れば藤凍月が振動している。まるで俺を抜けとばかりに

「…独月、藤凍月少し借りるぞ」

その背に背負われた鞘から藤凍月を抜く。すらりと抜かれたそれを見て、同じ様にがたがた言い出した風死を構える。

「悪ぃな。力貸してくれや、藤凍月」

同じ飾り紐を付けた斬魄刀の刀身を交える様に重ね、俺は口を開いた

「欺き魅せろ――『月閉風死』」

解号を唱えれば大量の鎖と暗闇が辺りを覆い尽くした










「――ようこそ、俺の世界へ」

暗闇の中警戒した様子のルピを嘲笑う。今更んな態度取ったって無駄だ。生き残りたかったならこれを使わせる前にその自慢の蛸足でさっさと俺を殺すべきだったんだ。

「宵闇」

呟けば空間が揺れる。それに気付いたルピが辺りを見渡して――目を見開いた

「な、んで…何だよコレ……っ!!」

「俺の世界だ。俺の好きな様に出来て当然だろ?」

まぁ、あいつにはもう俺の声は届かねぇだろうけど。
宵闇は相手から五感を奪う技だ。一瞬でも俺から目を離して空間の揺らぎを見れば、もう俺を認識する事は出来なくなる。
勿論独月の事も認識出来ない様にしているからこいつが狙われる心配もない。

「……怖ぇか?」

声が全方位から聞こえる様にすればルピが身体を震わせた

「ふざけんなっ!!ボクがお前なんか怖がる訳ないだろ!!」

「……お前も同じか…」

溜息を吐き、右手に持った輪を軽く引く。繋がった沢山の鎖が引かれ、彼方此方から現れた長刀や鎌がルピ目掛けて襲い掛かった

「うわあああああああ!!」

ドスドスと中身の詰まった物を突き刺す音がして、ルピが血塗れになる。

「……死んだか」

藤凍月がまだ生きていると呟けば風死が徹底的に止めを差せと喚いた。何こいつほんとうるせぇ
まぁ死んだにせよ死んでないにせよこのままで済ませてやる気はねぇし

「破道の五十四・廃炎」

動かない身体に向かって炎を放つ。瞬く間に炎はルピの身体を包んだ。そのまま燃やし尽くすのをぼんやりと眺める。灰すら残さずしっかり焼き尽くされた所で俺は月閉風死を解いた

「……いてっ…」

解いた途端に地面に崩れ落ちる。全身が痛ぇし頭痛も酷い。目が覚めた時よりキツいのは何でだと考えて、ああ独月の分も来てんのかと納得。
月閉風死を使うには独月の怪我を全部俺が受け取らねぇといけねぇ。まぁそれでこいつの傷はなくなるし、俺の傷は増えるが卍解並みの力を手に入れられるんだから悪くはねぇ

「…早く起きろよ…独月…」

目を閉じたままの独月の頬を撫でる
お前の痛みは全部俺が貰ったから、お前は早く起きてくれ。


痛みと引き換えに


(そういや俺達死ななかったんだな)

(独月の握ってるこれって……市丸隊長が良くこいつにやってた飴…?)