黒髪と身の回りの異変3
初めて修兵さんにあったあの日。
あれから何やかんやあったけれど、修兵さんと出会って一年が経っていた
「独月」
その日家にやってきた修兵さんは、何時になく真剣な顔をしていた。
「今日は外に行かねぇか?」
神妙な表情。
その言葉に頷き、何時もの丘に連れ出される。何だろう、何だか嫌な予感
丘に聳え立つ大きな桜の木の前で、今まで黙って僕の前を歩いていた修兵さんが止まった。
無言で此方を振り向く
『……何?』
一瞬躊躇って、それからゆっくりと修兵さんが言った
「お前、死神になる気はねぇか?」
『………死神に?』
死神とは修兵さんが目指しているものだ。
何を突然言い出すのだろう、この人は
「ああ。もうお前は斬魄刀も使えるし、鬼道も出来る。真央霊術院に通ってみる気はねぇか?」
凄く言い辛そうに、水筒のお茶を飲みつつ修兵さんが言葉を紡いだ。今までの事と今の言葉を考えて、漸く合点がいった。
────────ああ、僕を鍛えたのは、この為だったのか
『……斬魄刀も鬼道も出来るのは、修兵さんが教えてくれた、から』
修兵さんが僕なんかの為に時間を割いてくれたから。
そう言えば、修兵さんは目を細めて優しく笑った
「たかが優等生って呼ばれてるだけの俺に一年教わって、そんなに育てば大したもんだ。霊術院に通えばもっと強くなるだろうしな」
『……でも…』
「それに、俺はもう始解に関しては何も教えてやれねぇ。他の事なら教えてやれるが、それにしたって霊術院で基礎から学んだ方が良い」
『………』
修兵さんの言葉に俯く
死神になるという事は、此処を出るという事。
お爺ちゃんとお婆ちゃんの傍を離れないといけないのは、正直辛い。
それに今お爺ちゃんとお婆ちゃんは具合が悪いのだ。僕が今傍を離れる訳にはいかない。
そう伝えた時、修兵さんが酷く辛そうな顔をした。
その表情を見た時、何故か胸が痛くなった
「…独月。辛ぇ事を言っちまうが…お前はあの家を離れた方が良い」
『……え…』
その言葉を言った修兵さんの方が、何だか僕より苦しそうに見えて。
彼は手元の水筒に目を落とし、続ける
「………藤凍月はどういう力を持つ斬魄刀か、覚えてるか?」
『えっと……氷雪系の…斬魄刀』
空気中の水分や、氷や雪を操る事の出来る斬魄刀。それが氷雪系だった筈。
それがどうかしたのだろうか
「あのな、独月」
修兵さんが視線を上げた。
灰色の瞳と視線が交わった時、より一層胸の痛みが増した。
何故。何でこんなに痛いんだ。
次の瞬間、修兵さんの言葉に頭が真っ白になった
「お前が寝てる間、あの家は氷点下まで気温が下がっちまってる」
『………』
待て。家の中が、氷点下?
何それ、どういう事?
「理由は、お前が霊圧を調節出来てないからだ」
『……霊圧…』
「お前の持つ氷の力が寝てる間に駄々漏れになっちまってるんだ…その冷気が太蔵さんとお琴さんを凍らせちまってる」
『………………』
氷の力。駄々漏れ。お爺ちゃんとお婆ちゃんを凍らせている。
それだけで頭が一杯一杯なのに、更に修兵さんは追い打ちを掛けた
「それに最近此処の近くに虚が出る様になったのは、お前が原因だ」
『……え…』
その言葉で思い出す。
昨日は鳥みたいな虚に襲われた。五日前は蜥蜴みたいな虚。一週間ぐらい前には百足みたいな虚に
「お前は霊圧を制御出来てねぇ。でかい霊圧を揺らすから、虚に狙われる」
修兵さんの言葉で完全に言葉を失う。
僕の所為で最近二人は痩せてきた?具合が悪そうなのはその所為?最近やたらと虚が出るのも僕が原因?
『……僕、が…』
虚は魂魄を食べる。下手すればお爺ちゃんやお婆ちゃんが狙われていたかも知れない。
それに具合が悪いのは僕の所為なのに、お爺ちゃんとお婆ちゃんは何も言ってくれなかった。大丈夫だからと、何時も笑みを浮かべていた。
僕は…僕はずっと、恩を仇で返していたのか。
「独月」
愕然とする僕の頬を撫でた修兵さんが、諭す様に言った
「判るな、独月。
お前は霊圧の制御を学ばないといけねぇ。お前自身の為に」
『……僕自身の為…』
「ああ」
『………』
確かに僕自身の為ならば、霊圧をきちんと制御出来る様にならないといけない。
お爺ちゃんとお婆ちゃんに何時までも辛い思いをさせたくないし、今度こそちゃんと恩を返したい。
勿論虚を退ける為の力も欲しい
だけど、少しばかり不安も大きい。
上手くやっていけるだろうか。
確かに何れは死神になろうとは思っていたけど、僕は本当に、死神になれるんだろうか。
そしてそれ以前に、修兵さんが言っていた入試とやらに受かるだろうか、と
「……新しい所に足を踏み入れるのが怖いか…?」
『……ん…』
素直に頷くと、修兵さんの手が頭に乗せられた 。そのまま何時もの様にわっしわっし撫でられる。
そして優しく笑われた
「大丈夫だ。俺が居る。ちゃんと護ってやるから、な?」
『……ん…』
その言葉で不思議と心を支配していた不安が晴れた。何故だろう、何で修兵さんの言葉はこんなに安心出来るんだろう。
一つ息を吐いて、真っ直ぐ修兵さんを見つめた。
大丈夫、心は決まった
『……霊術院に、行きます』
お爺ちゃんとお婆ちゃんの為に。
背中を押してくれた修兵さんの為に。
そして何より────────自分の為に
頑張ろうと思った
(まず入試……)
(お前なら大丈夫だろ(その為に鍛えたんだし))
執筆訂正
20140314
あれから何やかんやあったけれど、修兵さんと出会って一年が経っていた
「独月」
その日家にやってきた修兵さんは、何時になく真剣な顔をしていた。
「今日は外に行かねぇか?」
神妙な表情。
その言葉に頷き、何時もの丘に連れ出される。何だろう、何だか嫌な予感
丘に聳え立つ大きな桜の木の前で、今まで黙って僕の前を歩いていた修兵さんが止まった。
無言で此方を振り向く
『……何?』
一瞬躊躇って、それからゆっくりと修兵さんが言った
「お前、死神になる気はねぇか?」
『………死神に?』
死神とは修兵さんが目指しているものだ。
何を突然言い出すのだろう、この人は
「ああ。もうお前は斬魄刀も使えるし、鬼道も出来る。真央霊術院に通ってみる気はねぇか?」
凄く言い辛そうに、水筒のお茶を飲みつつ修兵さんが言葉を紡いだ。今までの事と今の言葉を考えて、漸く合点がいった。
────────ああ、僕を鍛えたのは、この為だったのか
『……斬魄刀も鬼道も出来るのは、修兵さんが教えてくれた、から』
修兵さんが僕なんかの為に時間を割いてくれたから。
そう言えば、修兵さんは目を細めて優しく笑った
「たかが優等生って呼ばれてるだけの俺に一年教わって、そんなに育てば大したもんだ。霊術院に通えばもっと強くなるだろうしな」
『……でも…』
「それに、俺はもう始解に関しては何も教えてやれねぇ。他の事なら教えてやれるが、それにしたって霊術院で基礎から学んだ方が良い」
『………』
修兵さんの言葉に俯く
死神になるという事は、此処を出るという事。
お爺ちゃんとお婆ちゃんの傍を離れないといけないのは、正直辛い。
それに今お爺ちゃんとお婆ちゃんは具合が悪いのだ。僕が今傍を離れる訳にはいかない。
そう伝えた時、修兵さんが酷く辛そうな顔をした。
その表情を見た時、何故か胸が痛くなった
「…独月。辛ぇ事を言っちまうが…お前はあの家を離れた方が良い」
『……え…』
その言葉を言った修兵さんの方が、何だか僕より苦しそうに見えて。
彼は手元の水筒に目を落とし、続ける
「………藤凍月はどういう力を持つ斬魄刀か、覚えてるか?」
『えっと……氷雪系の…斬魄刀』
空気中の水分や、氷や雪を操る事の出来る斬魄刀。それが氷雪系だった筈。
それがどうかしたのだろうか
「あのな、独月」
修兵さんが視線を上げた。
灰色の瞳と視線が交わった時、より一層胸の痛みが増した。
何故。何でこんなに痛いんだ。
次の瞬間、修兵さんの言葉に頭が真っ白になった
「お前が寝てる間、あの家は氷点下まで気温が下がっちまってる」
『………』
待て。家の中が、氷点下?
何それ、どういう事?
「理由は、お前が霊圧を調節出来てないからだ」
『……霊圧…』
「お前の持つ氷の力が寝てる間に駄々漏れになっちまってるんだ…その冷気が太蔵さんとお琴さんを凍らせちまってる」
『………………』
氷の力。駄々漏れ。お爺ちゃんとお婆ちゃんを凍らせている。
それだけで頭が一杯一杯なのに、更に修兵さんは追い打ちを掛けた
「それに最近此処の近くに虚が出る様になったのは、お前が原因だ」
『……え…』
その言葉で思い出す。
昨日は鳥みたいな虚に襲われた。五日前は蜥蜴みたいな虚。一週間ぐらい前には百足みたいな虚に
「お前は霊圧を制御出来てねぇ。でかい霊圧を揺らすから、虚に狙われる」
修兵さんの言葉で完全に言葉を失う。
僕の所為で最近二人は痩せてきた?具合が悪そうなのはその所為?最近やたらと虚が出るのも僕が原因?
『……僕、が…』
虚は魂魄を食べる。下手すればお爺ちゃんやお婆ちゃんが狙われていたかも知れない。
それに具合が悪いのは僕の所為なのに、お爺ちゃんとお婆ちゃんは何も言ってくれなかった。大丈夫だからと、何時も笑みを浮かべていた。
僕は…僕はずっと、恩を仇で返していたのか。
「独月」
愕然とする僕の頬を撫でた修兵さんが、諭す様に言った
「判るな、独月。
お前は霊圧の制御を学ばないといけねぇ。お前自身の為に」
『……僕自身の為…』
「ああ」
『………』
確かに僕自身の為ならば、霊圧をきちんと制御出来る様にならないといけない。
お爺ちゃんとお婆ちゃんに何時までも辛い思いをさせたくないし、今度こそちゃんと恩を返したい。
勿論虚を退ける為の力も欲しい
だけど、少しばかり不安も大きい。
上手くやっていけるだろうか。
確かに何れは死神になろうとは思っていたけど、僕は本当に、死神になれるんだろうか。
そしてそれ以前に、修兵さんが言っていた入試とやらに受かるだろうか、と
「……新しい所に足を踏み入れるのが怖いか…?」
『……ん…』
素直に頷くと、修兵さんの手が頭に乗せられた 。そのまま何時もの様にわっしわっし撫でられる。
そして優しく笑われた
「大丈夫だ。俺が居る。ちゃんと護ってやるから、な?」
『……ん…』
その言葉で不思議と心を支配していた不安が晴れた。何故だろう、何で修兵さんの言葉はこんなに安心出来るんだろう。
一つ息を吐いて、真っ直ぐ修兵さんを見つめた。
大丈夫、心は決まった
『……霊術院に、行きます』
お爺ちゃんとお婆ちゃんの為に。
背中を押してくれた修兵さんの為に。
そして何より────────自分の為に
頑張ろうと思った
(まず入試……)
(お前なら大丈夫だろ(その為に鍛えたんだし))
執筆訂正
20140314