「………っ」

額に手をやって立ち止まる。痛みに呻きながら背後の壁に凭れ掛かった
鈍器で強打されている様な絶え間ない痛み
だが直ぐに止んだそれに溜息を吐く。

「何なんだよ……ったく…」

最近猛烈な頭痛に襲われる事が増えた。時や場所はバラバラ。思い出した様に痛んでみたり、連続だったり。痛む長さも決まってない
何もねぇ時ならまだ良いが下手に任務の時に動けなくなる程のモンに襲われれば命に関わる。
これはあの決戦が終わった直後から始まっているからかれこれ1ヶ月は経っている。最初は直ぐになくなるだろうと思っていたんだがこんなに長引くとなれば話は別だ。四番隊で診て貰うべきだろう



「……ほんと何なんだよ…」

診て貰ったは良いが異常ナシ。またその症状が起きた時に来て下さいと卯ノ花隊長に言われたがどうせ行っても無駄な気がする。
溜息を吐きつつ隊舎に戻れば見慣れた小さな背が見えた。長めの斬魄刀を背負った銀髪は隊首室に向かって歩いていく。
そうだった。あいつはもう起きたんだ。
もう寝顔ばかり見ずに済む。ちゃんと返事をくれる。俺を、その目に映してくれる
何となく力の入っていた肩が楽になった。その時丁度独月が振り向いた

『檜佐木さん、立ち止まってどうしたの?』

掛けられた中性的な声に思わず頬が緩む。理由が判らない独月は怪訝そうに眉を寄せた

『さっき霊圧が揺れたけど、何かあった?』

「や、何でもねぇよ。行こうぜ隊長」

立ち止まった独月の頭をぽんと撫でて隊首室に向かう。そういや最近副官室使ってねぇな。あ、拳西さんが使ってたっぽいからもうあの人にあの部屋任せるか。俺は基本的に隊首室に入り浸ってる訳だし
それにしても霊圧が揺れたとは思わなかった。もしかしなくても原因はあの頭痛だろう。
独月に原因がバレる前にどうにかしないといけねぇな

『檜佐木さん、今日飲み会らしいよ』

「あ?また乱菊さんか?」

隣に並んだ独月に訊けばこくりと頷かれた

『僕の快気祝いと拳西さんの復帰祝いらしい』

相槌を打ちながら仕事量を考える。まだ病み上がりの独月に大量の仕事はさせたくない。だが隊長しか捌けない書類が此処1ヶ月分がっつり溜まってる。気は乗らねぇが独月には其方の書類を頼むか。他の書類は俺がやれば良いし
そう算段が付いた瞬間独月が口を開いた

『隊長しか捌けない書類はもう他の隊に回したから』

「………あ?」

『それと書類処理ももう終わった。だから五席に運ばせてる』

今何て言ったコイツ。
終わらせた?あの量を?いやいや冗談だろ?
凝視すればちらりと此方を見た独月が言う

『後は虚退治の報告書待ち。なので檜佐木さんは今から休憩入って下さい』

「え」

『休め、てか今すぐ寝ろ』

そう言うと独月が俺の胸倉を掴んですたすたと歩き出した。や、ちょっと強引過ぎませんか隊長。お前まだ俺が拳西さんと稽古させた事根に持ってんだろ
途中擦れ違う隊士達に不思議そうな目で見られる。そりゃそうか、何時もは立場が逆だもんな。
ぼんやりとそんな事を考えていれば着いたのは隊首室。扉を開けた独月が中に入っていく。引き摺られる様にして俺も入り、独月は俺を強制的にソファに座らせた。

『仮眠室は夜勤明けの八席が使っていて使えない。なので此処で寝て下さい』

や、何で俺寝かされる事になってんの?身体は少し怠いが特に気にする程のもんでもねぇし

『そんな事は自分の顔見て言って下さい』

すっと独月が俺に手鏡を渡した。それを借りて見れば映っているのは隈の酷い俺。え、俺こんなになってんのか

『判った?』

頷けば呆れた様に溜息を吐かれた。何か何時もと立場が逆な気がする。
俺の肩を押してソファに寝かせた独月が俺の身体に毛布を掛けた。寒くないかと問われ頷けば小さな手が俺の髪に触れた。
優しく撫でられ自然と目蓋が落ちる。少しばかり眠っても良いのだろうか。

『お休み、修兵さん』

「……お休み…」














『修兵さん、修兵さん』

「……ん…?」

優しく肩を揺すられてゆっくりと意識が浮上する。
ゆるりと目を開ければ鮮烈な光。
瞬きをすればより鮮明に銀髪が映る。
何となく手を伸ばせばさらさらな銀糸に触れる。

『修兵さん?寝ぼけてる?』

「や……寝ぼけてねぇ…」

只触りてぇと思っただけだ
そう呟くと不思議そうに俺を見ていた独月が僅かに口元を綻ばせた

『そう?なら、良いけど』

中性的な声が鼓膜を震わせる。ゆっくりと身を起こせば独月は俺の背に手をやった。

「確か……飲み会に行くんだったか?」

『うん。辛いなら寝てても良いけど』

「いや、身体は楽になった。俺も行くさ」

軽く死覇装の皺を伸ばしていれば独月が扉を開けた。
俺もその後に続く。

『じゃあ、行こう』

「おう」









「……っ…」

急に視界がぶれた。
脳味噌を揺さぶられる様な痛み。身体がぐらりと傾き、倒れない様に足に力を込める。

『修兵さん?』

「っ…ああ…大丈夫だ…」

振り向いた独月に笑って見せる。独月の眉が寄った。やべ、上手く笑えてなかったか?

『…ねぇ修兵さん。僕に何を隠してる?』

鋭い目に息が詰まる。完全にバレてんな。そして訊くまで引き下がる気はなさそうだ。
しゃーねぇな…言うしかねぇか。溜息を吐き、ゆっくりと口を開く

「…空座町での決戦の後から1ヶ月…頭が痛くなる事が増えた…」

『………』

ずきずきとした痛みが少しずつ治まっていく。割と楽になったそれに静かに息を吐いた

『……四番隊には?』

「行った。だが問題はねぇ、と」

『……そっか…』

思案顔の独月の頭を撫でる。お前にんな顔させたくねぇから黙ってたんだけどな。

「まぁそんなに辛くねぇから大丈夫だ」

『………霊圧揺れる程痛い癖に』

痛い呟きは聞こえなかった事にする。
早く行こうぜと言えば独月は渋々と言った感じで従った。

「おう、独月に修兵じゃねぇか」

「『拳西さん』」

低い声に振り向けば銀髪の大柄な男。拳西さんは俺達に軽く手を挙げながら近付いて来た

「オメーらも亀之屋に行くんだろ?」

『はい』

「拳西さんもっすよね?」

そう訊けばおうと言う返事。なら一緒に行きますかと誘って独月が歩き出した。それに続こうとして、肩に温かいものが乗せられる

「……拳西さん?」

「修兵」

行かないんすかと訊こうとして振り向けば思ったよりも真剣な顔の拳西さんと目が合った。
俺の目をじっと見て、ゆっくりと口を開く

「――呑み込まれるんじゃねぇぞ」

「…え……?」

そう言ったかと思えばもう俺の隣を通り過ぎてしまった。呑み込まれるなって一体何の話だ?例え訊いても拳西さんは答えてくれない気がして、前を行く銀髪二人に追い付く事を優先する



この時はまだ、この身に何が起きているのかなど知る由も無かった



(修兵さん飲み過ぎない様にね)

(わーってるよ)

(オメーら兄妹みてぇだな)