辺りも暗くなってきた頃、打ち合わせを終えた僕は隊舎に向かっていた。
現世から一端戻ってきた修兵さんは今は寝てる
基本隊首室に入り浸っている修兵さんをこっそり置いてきたので、早めに帰らないと機嫌を損ねる可能性が高い。ぶっちゃけそうなると機嫌取りが面倒以外の何者でもないので修兵さんが起きる前に急いで隊舎に向かう

「たーいちょ」

『っわ』

早足で歩いていたら急に後ろから抱き締められた。振り向けば笑っているのは隊首室で寝ている筈の修兵さん。あれ、何で此処に居るの?

『修兵さん、何で此処に?』

「ん?隊長の迎えに」

『……そう?』

にしては後ろから来た気もするんだが。まぁそこら辺は僕が詮索する事でもないだろう。修兵さんにも色々あるだろうし、僕が打ち合わせに行った後に起きて隊舎を出ていたのかも知れない
ていうか何で上衣脱いだんだこの人。見た目からして寒いんだが

「どうした?何が不安だ?」

『へ?』

修兵さんに訊かれ気付く。僕の左手が藤凍月の柄を握り締めていた。え、何で?不安になる要素が判らない。修兵さんも此処に居るのに。

「独月?」

『……修兵…さん?』

そっと手に触れて確かめる。修兵さんの手だ。大きくて無骨な手。安心する霊圧。落ち着く体温。大好きな声。目の前にいる人は修兵さんなのに。何?何が不安?何が、怖い?
ふと修兵さんの左手首に付いている腕輪を見る。
――こんな物付けてた?

「何が怖ぇのか判らねぇが、俺が傍に居る。安心しな」

『…ん……』

向きを変えられて正面からきつく抱き締められた。首もとに頭を押し付けられても何故か不安は消えない。何故。ぎゅっとしがみついて目を瞑る。近くから聞こえた金属の滑る音。まるで刀を抜く様な、音。……え、刀?

『っ修兵さ…っ』

「なぁ、独月」

修兵さんの優しい声。首もとに押し付けられて頭は動かせない。背中に突き付けられた何か鋭い物。刀の切っ先、だ。藤凍月を抜かないと。そう思うのに柄を握り締める左手は震えて動かない。
酷く優しい声で、僕の耳元で囁いた

「俺にくれよ、お前の命」

ぐっと切っ先に力が込められた。突き刺さって来る切っ先。本気みたいだな
僕は死ぬ、のか。でもまぁ修兵さんに殺されるのなら良いのかも知れない。他の大して知らない敵に殺されるよりは、修兵さんに殺された方が――

「――っ!!」

急に修兵さんが飛び退いた。
僕の目の前で飛んできた何かが交差した。そして僕の後ろに誰かが――良く知った霊圧が降り立った。え、何で?何で前方に居る人と後方に居る人も同じ霊圧?

「っ馬鹿野郎何黙って殺されようとしてやがる!!」

僕の背後に降り立ったその人は僕が振り向くなりそう怒鳴った。いや何で修兵さんが居るの。何で二人も修兵さんが居るの

『……修兵…さん?』

「おう」

僕の頭をわしゃわしゃと撫でて前に出る修兵さん。
風死を構えて、立ち上がった修兵さんを見た。

「てめぇが俺の霊骸か」

「――ああ。そうだよ原種」

『………霊骸?』

僕の呟きに修兵さん――霊骸が口角を上げた。

「違和感はあったみてぇだが俺を疑う事は出来なかったらしいな」

「…てめぇは俺の偽物ですらねぇ…」

何時もより低い声。じゃらりと風死の鎖が音を立てた。あれ、修兵さん怒ってる?

「てめぇが俺と同じ考えなら…独月を殺そうとは思わねぇ筈だ」

「判ってねぇなぁ…」

修兵さんの言葉に霊骸がやれやれとばかりに首を横に振る

「"俺"だからこそ、独月を殺すんじゃねぇか」

そう言って霊骸は笑った。
さて、と呟いた霊骸の姿が消えて――背後から気配

『――っ!!』

「じゃあな、独月。また殺しに来る」

「てめぇっ!!」

僕の頭をわしゃわしゃと撫でて霊骸は姿を消した。それに向かって修兵さんが怒鳴る。

『………』

取り敢えず、言葉が出ない。笑顔で殺人予告とか初めてされたんだけど。



His madness



(さて、何で黙って殺されようとしてやがったのかな独月チャン?)

(え……いや…その)

(今から説教な)

(!!!)