『九条望実は黒崎と共に居る可能性が高い。霊圧の高い奴を虱潰しに捜すぞ』

「それで良いのかよ」

「僕達の表向きの任務は黒崎の捕縛。幾ら影狼佐の頼みだからって、全くこなさなくても良いのかい?」

『構わないさ。どちらを選んでも目的までの道のりは変わらない』




「……あれか…」

話し込んでいる死覇装の奴等が三人。その内の一人は隊首羽織を着てる。首に咬まれた痕はない。まさかとは思ったが、やっぱりお前かよ

「僕は原種の僕に興味がある」

「僕は君になんて興味ないよ!」

綾瀬川がてめぇの霊骸に話し掛けると奴等は斬魄刀を抜いた。

「さっさと倒すぞ。数の上では此方が有利だ」

「ぁあ!?てめぇ檜佐木戦いってのは一対一でやるもんだろうが!!」

「んな事言ってる場合かよ!」

案の定俺の発言に食い付いて来た斑目に舌打ちが漏れる。確かにフェアじゃねぇが彼方には隊長が居るんだぞ。ちゃんと目見えてんのかこのハゲ

「ならこれで四対四だ!!」

その声と共に上空から誰かが降ってきた。うわ、砂埃が酷くて目を開けてられねぇ。
暫くして砂埃が収まった時、俺達の目の前に立っていたのは紫の襟巻を付けた男。誰だあいつ。や、あの襟巻何処かで見た事ある気もする。

「取り敢えず自分の偽物を相手にしようよ」

「おう!」

綾瀬川の提案に斑目が同意する。て事は俺はこの大男か独月の相手か

「お、おおおおう檜佐木、ちびさぎ隊長はてめぇに譲ってやるよ…」

「…そりゃどーも」

隣に立っていた大前田がそう言った。どもり過ぎ。てめぇ只隊長格と戦り合いたくねぇだけだろ。
その様子を見ていたらしい大男が大前田の事を鼻で笑った

「誰だてめぇ!大体その死覇装の着方は何だ!?変な襟巻付けやがって…」

大前田が指を差すのを眺める。あ、そう言やこいつも変な襟巻してんな。そう考えていると急に大前田が大声を上げた

「どうした?」

「あ、あいつ…まさか……」

大前田の様子を満足気に見た男が口角を上げた

「そうだ!俺様は大前田希千代様よ!」

「………はぁ?」

思わず間抜けな声が出た。いやだって大前田はこんなに腹割れてねぇだろ。寧ろ出てる。隠密機動に在らざる肉の塊だ。それにあんなリーゼントみてぇな髪型じゃねぇし。
原種は三分クッキングの裸の赤ん坊みてぇな髪型じゃねぇか。

「何でそんな見た目してんだよ!」

「それはな……」

大前田の言葉に奴の霊骸がにやりと笑った

「俺様がお前の醜い肉体に入るのを拒否したからだ!!!」

「や、そんなのアリかよ」

思わず突っ込んでしまった俺は悪くない。つか自分と同じ人間に体型嫌われてるとかどんだけこいつ可哀想なんだよ。いや笑えるけど

「だーはははははははは!んだよそれ!ぜんっぜん似てねぇじゃねぇか!!」

「はははははははは!寧ろ君が偽物で良いよっ君醜いからさ!代わって貰えば良いじゃん!」

「……お前等な…」

爆笑して顔面崩壊を引き起こしている十一番隊の二人に何も言えなくなる。軽く頭痛がする。何時も纏めるのに苦労していた日番谷隊長の心境が少し判った気がした。こんな時に知りたくなかったわ

「打っ潰せ――『五形頭』ィ!!」

キレたらしい大前田が始解した。互いの五形頭をぶつけ合う

「てめぇ大前田!勝手に先陣切ってんじゃねぇぞ!!先陣切んのはこの俺だぁ!!」

「じゃあ僕も!」

「おいお前等真面目に……っうわ」

勝手に飛び出して行った十一番隊の二人に声を掛けようとした時足元に何かデカいのが転がって来た。何だ、大前田か

「何でてめぇの五形頭はんなにでけぇんだよ…!」

「それはな………」

偉そうな大前田の霊骸が大声で言った

「俺様が全てにおいてお前を上回っているからだ!」

「そんなのズルだぁぁぁぁぁ!!」

「……はぁ…」

馬鹿共にもう溜息しか出ない。もう勝手にしてくれ、俺は知らん。
ちらりと見れば独月も眉間に皺を寄せて大前田達を見ていた。お前も苦労してんのか
見ていればぱちりと目が合って、独月の口角が僅かに上がる。顎で彼方に行くぞと指し示した独月に従って俺は歩き出した





『破道の六十三・雷吼炮』

「ちっ」

躱して刀を振るえば長刀で防がれた。鍔迫り合いに持ち込もうとすれば眉間目掛けて拳銃が火を噴く。ギリギリで躱せたものの眉の上を掠った。
一端距離を取り傷口に触れる。本当に掠っただけだった。直ぐに血は止まるだろう

「お前の拳銃卑怯じゃね?」

『仕方ない。これが僕の始解なんだから』

そう言って僅かに首を傾げた姿が本物の独月と重なる。
首を傾げる仕草。表情。首輪に触る癖。戦い方
目が青白く光る事と好戦的な面を除けば、全てが本物のあいつと同じ。

『縛裟氷映!』

「破道の三十三・蒼火墜!」

冷気を纏った長刀を振り上げた独月に鬼道を放つ。青い炎は真っ二つに斬られた。そのまま刺突の構えで突っ込んで来る独月の刃を受け止めた。左手を独月の顔の前に翳す

「破道の七十三・双蓮蒼火墜!」

『っ!』

腕で顔を庇った独月に先程よりも強い炎が直撃する。煙を上げながら独月が吹っ飛んだ。
その様子に胸が痛いのに――何故か口角が上がる。何でだ。矛盾してんな俺

「ぬおおおおおお!!!」

「………」

足元に趣味悪ぃ襟巻した肉の塊が転がって来た。それを追ってきたらしい霊骸も現れる。何だてめぇら何しに来やがった。人が折角楽しんでんのに――
そう考えてはたと気付く。
俺、楽しんでんのか。ああ、だから笑ってんのか

「"俺"だからこそ、独月を殺すんじゃねぇか」

「……成程な」

俺の霊骸が言っていた言葉を漸く理解出来た。やっぱりアレは俺の霊骸だ

『けほっ……結構効いた…』

草むらから彼方此方擦りむいた独月が姿を現した。死覇装が所々焼けている。流石に至近距離じゃ避けられねぇみたいだな

「ボロボロじゃねぇか独月チャンよぉ」

口をついて出たのはあいつを挑発する言葉。思った通りに独月の眉が寄る。あれ、何で俺挑発してんだろ

『……そろそろ本気で行く』

構えた独月の霊圧が膨らんだ。バチバチと青白い目から残光が散り、形の良い唇が言葉を紡ぐ

『――卍解』










「な、なぁ檜佐木やべぇんじゃねぇの…?」

「あ?何がだよ」

「ちびさぎ隊長の霊骸だよ!卍解しちまった隊長格に副隊長が適う訳ねぇだろっ!」

一々うるせぇな。あいつの強さなら俺が良く知ってんだよ。てめぇなんかよりずっと
上空に浮かんだ独月がちらりと大前田二匹を見て溜息を吐いた

『……邪魔が入る。修兵さん、場所を変えよう』

「おう」

「ちょっおいコラてめぇ檜佐木俺様を置いて行く気か!?」

肉の塊の方がそう叫んだ
あーもう面倒臭ぇ奴だな

「邪魔すんな」

袴を掴む手を蹴飛ばして独月の後を追う。大前田が何か言ってるが無視。俺の邪魔すんな





『……此処なら良いかな』

きょろきょろと辺りを見渡した独月がそう呟いた。ふわふわと浮かんだ状態で俺を見下ろす。

「刈れ――『風死』」

鎌を振り回せば僅かに独月が目を細める。

『やっと始解した』

「ああ。気に入らねぇからな」

藤凍月の力を借りる様になってから、以前よりは始解する回数は増えた。
けど東仙隊長からの教えは深く胸に刻まれている。己の斬魄刀を恐れる心をそう簡単には変えられねぇ

『……此方の修兵さんとは違うね』

「違う?」

頷いた独月が自らの尾に触れる。触れられたそれは白い風死になった

『修兵さんは戦う為には力が必要だって、風死の力を使うのに迷いはないって言ってた』

「………へぇ」

それって独月やばくねぇか。霊骸の戦闘能力は俺達原種より上。只でさえ直接的な戦闘は俺の方が独月より上だ。
原種の俺にも勝てねぇのに、俺より上の霊骸に勝てんのか
――まぁ普通ならそう思うんだろうな

『…原種の僕は殺されるかもね』

独月の呟きに自然と俯かせていた顔を上げる。あいつはその目に何の感情も宿さずに口を開いた

『原種の僕に修兵さんは殺せないけど、修兵さんは僕を殺したがっていたから』

「………あいつは死なねぇよ」

『………?』

独月の顔を見て笑みが漏れる。お前本物の事何にも判っちゃいねぇな

「確かに勝てるか判らねぇ。実力じゃあいつは負けてるしな」

『……なら…』

「でもな」

独月の言葉を遮って言葉を続ける

「俺が殺されるんじゃねぇぞって言ったんだ。だからあいつは死なねぇ」

『……ふぅん…』

独月は俺との約束を破らねぇ。お前が独月の霊骸なら判るだろ?

『なら、僕も負けない』

「へぇ?」

鋭い目をした独月が尾を化けさせた。数は九本、全て。五本までしか化けさせられねぇ独月よりも上

『修兵さんに負けるなと言われたから』

「精々足掻けよ独月チャン」

風死を構え、口角を上げる。
今から独月と戦うってのに、気分は昂揚していた









桜吹雪と大量の灰が押し寄せる。全て躱せば影から出て来た双刀。斬り付けて来たそれを寸で避けた。

『……全部躱されるとは思わなかった』

「惚れたか?」

『誰が』

軽口を叩けば独月が風死をけしかけた。飛んでくるそれを躱せば流刃若火に追撃される。それを弾けば瑠璃色孔雀の蔓が迫って来た。躱して斬り伏せれば迫る天譴の巨大な刃。

「破道の六十三・雷吼炮!」

瞬歩で躱し独月の上空から放った電撃が双振りの刀に吸い込まれた。吸い込んだ方とは対の刀から俺目掛けて雷吼炮が返される。それを避ければ俺に向かって蛇の骸骨が向かって来た

「あーくそ……やり辛ぇな…」

太い枝の上で荒い息を吐く。
腹からは血が出ていた。躱しきれなかった狒狒王蛇尾丸の牙が掠った…というか刺さったから。
独月の尾を見る
卍解してる斬魄刀が複数。始解してる斬魄刀も充分厄介な能力ばかり。斬魄刀九本に独月の藤凍月を合わせれば十対一。あまりにも分が悪過ぎる

『修兵さんじゃ僕には勝てないよ』

独月が俺を見下ろす。冷たい目。無表情なあいつが施条銃を俺に向けた

『諦めて』

「やなこった」

施条銃の発砲を躱し独月に飛び掛かる。向かって来た蛇の頭を踏み越えて、そのまま背を走った。

『…すばしっこい…』

灰猫と千本桜が向かって来たのを風死で振り払う。そのまま走って独月の目の前まで行けば───急に頭痛に襲われた。

「くそっ……!」

あまりの痛みに膝を着く。
その瞬間回りを灰猫に包まれた。

『戦舞・壱式』

そう呟いた独月の姿が大量の蝶に変わった。灰猫に覆われた空間内を目一杯に広がる蝶。やべぇ、この技は――

『――蝶炎跋扈』

声がした瞬間、一斉に蝶が爆発した









『………死んだか』

爆煙の上がる場所を見る。灰猫が包囲を解けば煙を上げた何かがどさりと地面に落ちた。確認しなくても判る。原種の修兵さんだ
地面に転がった修兵さんは動かない。いや、原種の僕よりも高い威力の蝶炎跋扈を食らったんだ、意識がある筈がない。寧ろ五体満足な時点で奇跡だ

『…九条望実を捜さないと』

他の奴等ももう終わりそうだ。何れにしても全て僕達の勝利。当たり前か。影狼佐に原種よりも強く作られているんだから負ける筈がない
他の奴等と合流しようと歩き出して――腕に、衝撃。

『……え…』

見れば右腕の肘から下が無くなっていた。ぼとりと音を立てて地面に転がっているのは、僕の腕

『――っ!!』

激痛。痛みに顔を歪めれば僅かに笑った気配。振り向けば鎖を掴んで鎌を回す、良く知る姿

「痛そうだな、独月」

『………何故』

何故生きている?蝶炎跋扈を逃げる場所なく食らった筈なのに。今にも倒れそうなふらふらな身体で何故笑っていられる?

「出来るだけ風死で爆発を避けたんだよ。まぁ殆ど食らっちまったけど」

『……そんな…』

殆ど食らっておいてまだ風死を振り回す力があるのか。

「――さて、今度は此方の番だな?」

笑みを浮かべている彼に恐怖を感じる。有り得ない。何で。ただただその言葉だけが僕の頭をぐるぐる回る。
血塗れの修兵さんが風死を構えた。その手が一瞬ぶれる。
ごとり、と音がして襲って来た喪失感。音のした方を見れば肩から斬り離された左腕が丸々地面に転がっていた

『――――っ!!!!』

しゃがみ込み痛みに耐える。両方の腕の在った場所を襲う燃える様な激痛。熱い。痛い。喉からは引きつった悲鳴しか出ない。

「良い声だ、独月」

笑みを浮かべた修兵さんが一歩ずつ此方に歩み寄って来る。
僕は自然と後退りしていた。口にするのは原種の僕の下へ向かっているだろうあの人の名前

『……しゅ、へ…さん……』

「ん?」

違う、お前じゃない。僕の傍に居てくれた修兵さんは優しくて強い人だ。お前みたいに僕を痛めつけたりしない

『っ灰猫!』

変化の解けた尾を再び化けさせ、差し向ければ邪魔だとばかりに灰が吹き飛ばされた。回転しながら鎌が主の下に戻っていく。

「怖ぇか?」

優しい声が怖い。その目が、その手が怖い。
風死が投げられ、施条銃を構えようとして腕がない事を思い出す。

『ちっ……!』

「遅ぇよ」

千本桜が灰猫と同じ様に散らされ、そのまま風死が向かって来る。他の斬魄刀を向けようとする前に尾を全て斬り離された

『………っ』

もう痛過ぎて痛覚が麻痺して来た。血をぼたぼた垂らす僕を見て修兵さんが笑う

「血塗れのお前は綺麗だ」

『来るな…っ』

修兵さんから後退りする
走ろうにも歩くのだけで精一杯な僕には無理だ。

「楽しかったぜ独月。だがそろそろ終わりにしようや」

がっと首を掴まれた。もがいても修兵さんが手を離す素振りはない

『ぅ……ああ…っ』

足が地面から離れた
ぎりぎりと首が締められ、気道が圧迫されていく。頭に血が上っていく感覚。苦しい。痛い。涙が滲む。助けて修兵さん
ぱくぱくと口を動かして名を言えば――胸に鎌が突き立てられた

『か、は……っ』

「これで苦しくねぇだろ?」

深々と刺さったそれは見る間に僕の血で赤く染まった。ごぼりと嫌な音がして、口から血が流れ落ちた。鎌によって後ろの木に縫い付けられた身体から力が抜ける。顎を掴まれ正面を向かされた。ぼやけた視界に映るのは修兵さんの顔

「大好きだ独月」

『……しゅ…へ……』

笑顔の修兵さんに涙が零れ落ちた。
自分の身体が壊れていくのが判る。痛みはもう判らない。意識が遠くなる。もう何も判らない。只、修兵さんの笑顔を見ながら逝けるのは、幸せだ、と、思………













砂になった独月の死覇装が地面に落ちた。上は風死に突き刺されたままゆらゆらと揺れている。

「……くくっ…」

風死を引き抜いて、死覇装を抱き締める。俺が殺した。命を奪った。俺が、独月の

「約束通り、命は貰ったぜ」

くつくつと笑いが漏れる。胸が張り裂けそうなくらい痛ぇ。視界が滲む。
嬉しいのに、哀しい。何だこの矛盾は

「………っ」

ああ、俺はそれぐらい独月が好きなのか
殺したいくらい大切なのか
ぎゅっと死覇装を抱き締めて、倒れる。くそ、血を流し過ぎたか
ごめんな独月。霊骸とは言え傷付けちまった。

「……ごめんな…」

転がっていた赤い丸薬を握り潰す
お前が死ぬ時は俺が殺してやりたいと、思っちまった





Too deep affection turns into madness





(恐らく俺の霊骸も同じ考えだ)

(俺に殺されんなよ、独月)