十二番隊隊舎に向かえば日番谷隊長と更木隊長が戦っていた。相手は緑と黄色の髪の男。因幡影狼佐だ

『行くよ…藤凍月』

応える様にかたりと震えた拳銃を因幡に向け、引き金を引く
僕に気付いた因幡が斬魄刀で弾丸を弾いた

「おや、これはこれは桜花隊長」

『覚悟しろ…因幡影狼佐』

僕を見た因幡がやれやれとばかりに手を動かした

「残念…やはり檜佐木副隊長と貴女自身では大した手傷を負わせる事は出来ませんでしたか」

『充分負ったよ…精神的にね』

「それは結構」

にやにやと笑う因幡を睨みながら日番谷隊長の隣に移動する

「無事だったか、桜花」

『はい、日番谷隊長もご無事で何より』

隣の日番谷隊長も更木隊長も大分怪我をしている。此処は比較的軽傷な僕が行った方が良いか?
そう悩んでいれば急に走り出した更木隊長

「俺が気になるのは只一つ…てめぇが強ぇか、只それだけだ!」

「何や…相変わらず血気盛んな人やなぁ」

『!………財前』

後ろから知っている声がして、振り向けば傷だらけの財前が立っていた。

「おう独、六車さん達は無事やで」

『……拳西さん達?』

訊けば、巡回中の拳西さん達九番隊の隊士が大虚の群れに襲われたらしい。拳西さん一人で隊士を護りながら戦っていた所に財前が助太刀に入った、と

『うちの隊士を助けてくれてありがとう』

「おん」

小さく頷いた財前が斬魄刀を抜いた。
それにつられて前を見れば、更木隊長に斬られた日番谷隊長。でも更木隊長は更木隊長で離れた所で怪我をしてる
という事はさっきのは因幡の能力?え、あの斬魄刀どうなってんの?

「行くで、独」

『あ…ああ』

飛び出した財前に続く。闇燕の竜巻から逃げた因幡に発砲した。奴はそれを躱して斬魄刀をくるりと回した。出て来たのは更木隊長。振り下ろされた一撃を瞬歩で躱す

「すばしっこい方だ」

『それはどうも』

長刀で斬り掛かれば斬魄刀で受け止められた。
拳銃を構えれば因幡は素早く上空に逃げた。その因幡の背後から襲い掛かる影

「ぐあっ!」

日番谷隊長に背を斬られた因幡が地面に叩き付けられる。それを四人で取り囲む様にして立てば、背後から気配

『砕蜂隊長、虎徹副隊長』

そこには砕蜂隊長と阿近さんを支える虎徹副隊長。
慌てて虎徹副隊長の下に駆け寄る。阿近さんはどうやら気を失っている様で、ぴくりとも動かなかった

「大丈夫ですよ桜花隊長。阿近さんは治療も終わって気絶しているだけです」

『…そうですか…良かった』

安堵して溜息を吐けば上空から夜一さんが降ってきた。階段を降りてくるのは朽木隊長。やって来た浮竹隊長と京楽隊長。これで十対一。僕達が有利だ

「数で勝ったとお思いですか?」

上空から複数の気配。見れば浮竹隊長や京楽隊長が此方を見下ろしていた。目が青白く光っている。霊骸か

「ほーん…俺のはこないなトコに居ったんかいな…通りで見つからへん筈や」

自分の霊骸を見付け、舌打ちした財前が闇燕を構えた。

「さぁ、これで人数は丁度良いでしょう」

















『……っ…』

連携攻撃で因幡を倒した、筈だった
日番谷隊長と更木隊長に斬られた因幡は実は偽物で。霊骸達に急に動きを封じられたと思ったら、上から降ってきた因幡に斬られた。
腹部から血が流れる。傷を押さえて膝を着けば二階から因幡が酷く楽しそうに笑った

「貴女方は良く頑張りましたよ。私の予想以上にね」

そう言った因幡の顔が不意に歪んだ
何だと思い見ていれば、奴の背後に居たのは涅隊長の霊骸。
彼は因幡の背に自らの斬魄刀を刺していた
何故?彼は霊骸の筈じゃ────

「まさか私が霊骸と入れ替わっていた事に気付かなかった、とでも言うつもりじゃないだろうネ?」

ニヤリと笑った涅隊長は左手首のブレスレットを外し、コンタクトを取った。あれで目を青白くしてたのか

「恐ろしい人やなぁ」

財前の言葉にこくりと頷く。
あの人は絶対敵にしたくない。だって敵になった瞬間全力で実験台にしようとするのが目に見えてる
遠目には判り辛いが因幡を追い詰めているらしい。凄いなあの人
暫くして急に因幡が大声を出した。言葉ではなく、声。怒りのみを宿した雄叫びの様な、やたらと論理を振りかざす科学者らしくないものを。それを見た虎徹副隊長の霊骸が因幡の下へ向かう。
だが彼女は因幡の身を案じて、逆に殺された。
砂になった霊骸から因幡が何かを掴んだ。遠目からではいまいち何か判らないが…恐らく赤い丸薬だと思う。
義魂丸らしきそれを飲んで────因幡が増えた。いや、片方は酷く苦しんでいる。新たに出て来た方は余裕の笑み。もしかして、霊骸に自分の症状を移した?

「危ない所でした」

にやりと笑った因幡の声がして、涅隊長が上から降ってきた。見た所彼に怪我はない。それに少し安堵していれば、因幡が此方を見下ろしてきた
そしてぺらぺらと語り出し、ある重要な一言を口にした

「私は改造魂魄の製作者」

「冗談ならもっとマシなものを……」

「冗談などではない!」

涅隊長に激昂する辺り、恐らく因幡の言葉に嘘はない。奴が改造魂魄の製作者なんだろう。
奴は自らの作品が忘却される事が耐え難いと呟いた。そして近くに居た浮竹隊長の霊骸のブレスレットを外した。
─────途端に跳ね上がる霊圧

「これは制御装置ですよ!私の作品はこんなにも素晴らしい!」

周りの霊骸のブレスレットもどんどん外れていき、直ぐに霊圧の跳ね上がった奴等に囲まれる。
それに警戒していれば新たに感じる複数の霊圧。その中に慣れ親しんだものを見付けて息を飲んだ
何故。彼はさっき僕が倒したばかりだ。何で、此処に

「先程回収しましてね、再び霊骸に入れさせて頂きました」

僕の疑問に答える様に因幡が言った。
増えたのは現世に行っていた侵軍の副隊長達と、さっき僕が倒した筈の九番隊副隊長。
先程からずっと目が合ったまま。彼は一瞬辛そうに眉を寄せて、それから不敵に笑った

「ちっ……核さえあれば入れ物は幾らでもあるって訳かネ」

「幾らでもはございません。これだけの霊圧に耐えうる霊骸は貴方でも造るのが難しいでしょう、涅隊長?」

侵軍組のブレスレットも外れ、一気に隊長格と同等の霊圧になる。数も彼方が有利。霊圧も上。しかも此方は負傷者だらけ
────不味いんじゃないか、この状況

「ひゃっはぁ!!」

『────っ!』

鬼灯丸を構えた斑目さんの霊骸が突っ込んで来た。何すんだこのハゲ。跳んで躱せば、背後から飛んでくる鎖に繋がった武器。あの人の鎌、だ。拳銃で撃ち落とすと脇腹に衝撃。吹っ飛ばされ壁に激突する

『…くそ…っ…』

壁に手を着きながらずるずると立ち上がる。
蹴られたらしい脇腹が痛い。肋骨が数本御臨終なさったっぽい。

「………独月」

足を上げたままの状態で、彼は此方を見下ろしていた。静かに足を下ろし、彼は風死を回し始めた

「…あの時改造魂魄を壊していれば、今お前と戦う事はなかったのにな……」

『……修兵さん…』

溜息を吐いて、彼は此方を見た。
確かに僕の霊骸の丸薬は壊したが、修兵さんの丸薬はそのままにしていた。…畜生、壊しとけば良かった。
僅かに悲しそうな表情をした所を見るに、彼は少しでも戦う事を嫌がっていると考えても良いんだろうか。

「余所見しとってええの?」

『っ!』

修兵さんの霊骸を見つめていれば、急に突風に吹き飛ばされた。見れば闇燕を構えた財前の姿。
くそ、霊骸とは言え奴にやられると腹立つ

『縛裟氷映!』

長刀に冷気を纏わせて斬り掛かれば、闇燕で防がれる。風を纏った刀を凍らせてやろうと更に冷気を込めようとすれば、僕に向かって飛んでくる鎌。
撃ち落として財前から距離を取る。二対一は分が悪い

「霊圧制御装置を外した私の霊骸達に勝てる筈がない!」

『………ムカつく』

因幡を睨み付ける。
奴は一人だけ二階から此方を見下ろしていた。にやにやとした笑み。恐らく奴は油断している。他の霊骸達や隊長達もそれぞれ戦闘中。
…今なら奴の背中を取れるか?

「影狼佐なんかほっといて俺の相手しろよ、独月」

向かって来た刃を長刀で防ぐ。やっぱりこの人が向かって来たか。
鍔迫り合いに持ち込まれ手が震える。
ぎちぎちと音を立てながら刃が噛み合う。こんな事をしている相手が修兵さんだと思うと、気が重くなった。

「さようなら、原種の皆さん」

その声の方を見れば因幡がにやりと笑っていた。何か企んでいる様な顔。あいつ何するつもりだ。
そう思った瞬間────辺りが急に緋色になった。
何だこれは。そう考えた時にはもう直ぐ傍まで迫っていた。

『なっ……!?』

緋色の衝撃波。炎にも似たそれが此方目掛けて飛んできた
避けようとすれば身体から力が抜け、がくりと膝を着く。頭がくらくらして目が霞む。血を流しすぎたらしい

『っ……くそっ…!』

避けられない。そう感じてぎゅっと目を閉じた。
次の瞬間響く爆発音

「────最期まで目は閉じるな。忘れたのか?」

からかう様な声がして、身体に感じる温もり。
僅かに目を開ければ見えるのは黒。
────その黒に何故だか無性に安心して、ゆっくりと意識を手放した







尸魂界、壊滅