ずっと俺の記憶がある『俺』の存在が判らなかった
それこそ物心ついた時から死神として生きている今までの記憶が全てあるんだ。『俺』自身は培養液の入った水槽から出て一月も経ってねぇのに
他の奴等はその事に疑問を抱いたりはしていなかった。皆自らの存在に自信を持ち、誇りを持っていた
『俺』には判らねぇ。何で皆そこまで自信を持てるのか
『俺』達霊骸は影狼佐が造った所謂紛い物、で。きっと用済みになれば処分される。若しくは逆らう奴は自我を消される。詰まる所それは処分されるのと大差ねぇ

『俺』は『俺』でなくなる事が怖い

それが『俺』の怖れる事
一つで良い、俺とは違う記憶が欲しい。俺が知らない記憶が欲しい。きっとそれは『俺』の存在を肯定する大切な記憶になる。















『………』

ぱちぱちと目を瞬かせる。
依然として右目には包帯を巻かれている。というか身体全体包帯だらけ。何故見知らぬ棚が横向きに映るのか、そう考えて身体が横向きなのに気付く。動こうとすると背中と肩、そして腹部から痛み。ああ、怪我がまだ治ってないのか。
視線を目一杯上に上げれば真っ白な天井。割と広い部屋。…ああ、此処四番隊の救護詰所か。そして個室。僕はまた隊長権限で個室でぐーすか寝てたのか
僅かに身動ぎして痛みに呻く
腹部も依然として痛い。怪我は酷いままだ。
てか何時此処に運ばれたんだろう。寝てる間に運ばれていたなら普段の僕なら目を覚ます筈だ。けれど実際目を覚まさないまま僕は此処に運ばれた。睡眠薬でも盛られたか?けどそんな事して得がある人なんか居るか?

『……んー…』

悩んでいれば良く知る霊圧が此方に向かって来た。控え目にノックされ扉が開く

「!……起きたか、独月」

部屋に入って来たのは修兵さんだった。彼は一瞬目を見開いて、それから優しく笑った
手に小さな篭を持って此方に寄ってくる。

「調子はどうだ?」

『………まずまず』

そう答えれば修兵さんがそうかと言って篭を置いた。椅子を出して座り、僕の頬に触れる

『…修兵さん、霊骸達は?』

「……消えたよ」

修兵さんの言葉に首を傾げる。消えた?どういう事だ

「霊骸達と戦っていると影狼佐が尸魂界を壊そうとしてな、霊骸達はそれを身体張って止めて、消えた」

『………』

思わず目を見開いた。
霊骸達が尸魂界を救った?じゃあ彼等の誇りって……
僕を見つめていた修兵さんがつ、と目を逸らした

「……あと、俺の霊骸は…」

『……霊骸は…?』

再び此方を見て、小さく息を吐いた

「九番隊隊舎の前で砂になっていたらしい」

『……隊舎の前で…?』

小さく頷いた修兵さんが続ける

「俺も見てたんだが、影狼佐が放った攻撃が隊舎のある方向に向かった。恐らくはそれを防いで奴は消えた」

『………』

言葉が出なかった。
彼は何時そんな事を…不意に先程考えた可能性が頭を過ぎった。睡眠薬。もしあの人が僕を戦闘に参加させない為に、食事に混ぜていたとしたら?
そうだとしたら、あの人は僕に食事をさせた時にはもう…死ぬ覚悟を決めていた…?

「……あいつはやっぱり俺だったな…」

僕の頭に手を置いた修兵さんが目を細めた

「きっとあいつが一番護りたかったのはお前だ、独月」

『………っ』

視界が滲んだ。目に熱いものが湧き上がり、膜を張る。ぽろぽろと零れ落ちるそれが涙だと気付いたのは修兵さんに頬を拭われた時だった

「泣くなよ」

泣き虫だなと修兵さんが笑う。その笑顔が青白い目の彼を彷彿とさせて、また涙が溢れ出た
何度拭っても止まらないそれをどうやって止めようかと考えていると、部屋に響いたノックの音。二人で見れば、僕の返事を待つ事なく扉は開かれた

「起きたか、独月よ」

そう言って扉の前に立っていたのは、赤い目の奇人。
九番隊三席の一人、直哉さんはにんまりと笑って此方に歩いて来た。

「早速だがお前に渡したい物がある。受け取れ」

そう言った直哉さんの手に握られていたのは大きな青い袋。黒いリボンでラッピングされたそれを素直に受け取った。何だこれと見ていれば、それは急に動き出した。

「ちょっ、国後これ何だっ!?」

「開ければ判る」

修兵さんの問いをさらりと躱して彼は言った。その目は僕に向けられたまま。
何かもぞもぞと動いてる辺りから、多分動物だと思われる。何生き物を袋に詰めてんの直哉さん。余り長時間この中に閉じ込めるのも可哀想なので、出してあげる事にした。結ばれていた黒いリボンを解く。しゅるりと音を立ててリボンが解けると、中の動物は袋が開いたのが判ったのかぴょんと飛び跳ねた

『「………え?」』

その動物を見て絶句する。修兵さんも目を見開いていた。静まった病室に直哉さんの小さな笑い声が響く。

「ったく、早く開けろっての。あの中結構キツいんだぜ?」

そう修兵さんの声で言ったのは今目の前に居るぬいぐるみで
そもそもこのぬいぐるみは、僕が修兵さんの誕生日のプレゼントとして現世で注文して作って貰った犬のぬいぐるみで。勿論勝手に飛び跳ねるとか、喋るとか、そんな機能は付いていない筈で。
隣に居る修兵さんがゆっくりと口を開いた

「お、お前………霊骸か…!?」

「正確だ、原種」

つっても今は只の改造魂魄だけどな、とぬいぐるみが頭を掻いた。修兵さんが困った時に良くやる癖だ。

『……本当に…霊骸……?』

「おう」

だから泣くなとふわふわの手に涙を拭われた。修兵さんが優しく笑って此方を見ている

「そいつは俺が改造して義魂丸にした。任務時にでも連れていけ」

『判った』

未だ僕の涙を拭い続けるぬいぐるみに頬が緩む。修兵さんがぽんと僕の頭に手を置いた

『ありがとう、直哉さん』

「俺は暇潰しをしただけだ」

そう言って直哉さんは病室から出て行った。
それを見送ってからぬいぐるみを見て、口を開く。

『ありがとう、それからおかえり』





新しい生き方





(両方修兵さんって呼ぶ訳にも行かないしどうしよう)

(そいつはそのぬいぐるみの名前で良いじゃねぇか)

(あー。じゃあ修ちゃんで)

(原種面貸せや)

(やってみろやぬいぐるみ)

((あれ、修兵さん同士って仲悪い?))