「起きろ、独月」

ゆさゆさと肩を揺らされる。ぼんやりと目を開ければ厳つい顔が目に映った

『……しゅーへ…さん……』

「おう、おはよ」

『…はよ……』

頭を撫でる手に擦り寄れば修兵さんが小さく笑った

「白猫チャンはまだおねむか?」

『……猫違う…』

呟けばまだ小さく笑う修兵さんが優しく肩を掴んだ。引っ張られゆっくりと上体を起こされる。自然と閉じる目蓋に逆らわず目を閉じていれば修兵さんが頭を軽く叩いた

「ほら、起きろ。飯出来てるぞ」

『………ん……』

ぐしぐしと目を擦ってやっと目を開ける。あー、まだ頭ぼんやりする。ぬぼーっとしていれば何かを手に握らされた

「着替えな」

『……んー…』

死覇装を眺めて寝間着を脱ごうとすれば頭を叩かれた。痛い
何故叩く。痛いんだけど
修兵さんを見れば溜息を吐かれた。失礼な

「せめて俺が部屋を出るまで待て」

『………了解』

ぐしゃぐしゃと頭を撫でてから修兵さんが部屋を出た。それを見てからごそごそと着替える。
もたつきながらも何とか着替えを済まして洗面台に向かい顔を洗った。
居間に向かうと修兵さんがテーブルに配膳を終えていた。席に着く修兵さんを見て、お茶を注ぐ黒いぬいぐるみを見る。ああ、先に起きてたから布団に居なかったのか

『おはよ、修ちゃん』

「おう、起きたか独月」

おはよと言った修ちゃんの尻尾はぱたぱたと振られている。可愛い。頭を撫でてから座れば隣にクッションを積んだ修ちゃんが座った。ああ、身長届かないからか

『「「いただきます」」』

三人で手を合わせる。
お味噌汁を一口。

『美味しい』

「そ」

呟いた修兵さんが白米を口に入れた。素っ気ない返事だがその雰囲気は柔らかいので良しとする。
隣を見れば修ちゃんがふかふかした手で器用に箸を使っている。どうやって箸持ってるんだろう。というか修ちゃんはぬいぐるみなんだけどご飯食べても大丈夫なんだろうか
見ていると視線に気付いたらしい修ちゃんが首を傾げた。うん、可愛い
何でもないと頭を撫でてから食事に戻る。あ、この卵焼き刻んだウィンナー入ってる





「そろそろ行くか」

『ん』

隊首羽織を身に付けた所でふと思った

『修ちゃんどうすんの?』

「俺?」

首を傾げた修ちゃんが僕を見た。え、だって置いて行ったら暇でしょ?
修兵さんは別に留守番で良いんじゃねぇの?と。ちゃんと考えてないだろあんた
少し悩んでから修ちゃんが僕を見上げる

「なら付いて行くかな」

そう言った修ちゃんがぴょんと跳んで僕の頭に引っ付いた。
それを引っ付けたまま部屋を出て鍵を閉めれば身体を襲う浮遊感。何だと見れば修兵さんが僕を腕に乗せていた。や、せめて何か一言言ってよ。直ぐ頭に引っ付く辺り充分僕も慣れてしまっているけれども



『おはよう』

「ちーっす」

挨拶しながら歩けば隊士達から返事が返って来た。
執務室に入り周りを見る。うん、全員居るからもう朝会始めて良いかな

「おーっす。今日はトーテムポールごっこか?」

『おはよう拳西さん』

欠伸をしながら寄って来た拳西さんが僕達を見てそう言った。そもそもトーテムポールごっこって何だ



『良し、じゃあ朝会を始める』

修兵さんの腕に乗ったまま今日の連絡事項を確認する。降りないのは修兵さんが下ろしてくれないっていうのもあるし降りたら隊士達に僕の姿が見えないからっていうのもある。周りが大き過ぎるんだ。決して僕が小さい訳じゃない

「連絡は以上だ。何かお前等の方から伝えておきたい事はあるか?」

修兵さんの問い掛けに皆首を横に振る。じゃあ解散で。そう言えば皆それぞれ机に向かった

「じゃ、俺達も部屋に行くか」

『ん』

修兵さんが執務室を出て奥の隊首室に向かう。中に入り戸を閉めれば修ちゃんが僕の頭から離れ机に飛び乗った。
ああ、修ちゃんが頭に引っ付いてたからトーテムポールって言われたのか

『今日の書類は?』

「これか?」

書類を抱えた修ちゃんがとてとてと僕の方まで歩いてきた
礼を言って書類を受け取れば、黒い尻尾がぱたぱた揺れた。可愛いな

「じゃあやるか」

『ん』










「おし、休憩だ隊長」

『………んー』

持っていた書類を脇に置いて伸びをする。あー背中がごきごき言った
修兵さんが煎れてくれた茶を飲みながら、ふと黒いぬいぐるみが見当たらない事に気付く。あれ、修ちゃん何処行った

「犬っころならそこだぞ」

そう言った修兵さんが指差したのはソファ。此方に背を向ける形で鎮座しているソファを覗き込めば、小さなぬいぐるみが身体を丸めて横になっていた。

『疲れたのかな……』

「幾ら俺っつってもナリはぬいぐるみだしな」

確かに慣れないだろう小さな身体で書類を運んだりしていれば疲れるだろう。小さなタオルを掛けてやれば修兵さんに頭を撫でられた。

「食堂行くか?」

『修ちゃんが起きてから』

そう答えれば修兵さんが笑った















自分の部屋でテレビをぼんやりと眺める。
現在十一時。修兵さんと外食して入浴も済ませた僕は、ドン観音寺とかいう不審者が除霊を行う番組を目に映しながら麦茶を啜っている
てか何でこの霊媒師こんなに怪しいんだろう。見た目か?それとも言動か?…ああ、全部か

『……ん…?』

自己完結した所でタイミング良く鳴り出した電子音。リモコンの隣にあったスライド式の伝令神機を手に取れば、画面に表記されていたのは修兵さんの名前。一時間前くらいまで一緒に居たんだが一体何の用だ。通話ボタンを押し耳元に近付ける

『もしもし?』

[おー、俺だ]

『オレオレ詐欺なら切ります』

[檜佐木さん詐欺だから安心しろ]

『何その新手の詐欺』

何だか一切安心出来ない詐欺名を言った修兵さんが伝令神機越しにくつくつと笑った。

[今空いてるか?]

『ぶら霊見てる』

[そうか暇か]

話聞けよ。
そう返しつつ、残り少なくなったコップに麦茶を注ぎ足した

[なぁ独月、今から俺の部屋来ねぇ?]

その問い掛けに首を傾げる。
別に不都合はないが何かあるんだろうか

『別に良いけど、何か面倒事?』

[おー。それなりに面倒…ってかいきなり押し掛けて来た台風みてぇな?]

『何その迷惑な感じ』

台風という単語で一人の爆乳美女が浮かんだんだが気のせいだと思いたい。というか隣の部屋煩い。わーわー騒いでんのが聞こえてくるんですけど

『今其方何人来てんの?』

[ん?乱菊さんに阿散井に吉良に雛森に…さっきまで射場さんも居た。もう帰っちまったけど]

ああ、だから煩いのか。というかさっきの予想が当たった事に軽い頭痛を感じる。

『雛森が居るとは珍しい……んで、僕を呼びたい理由は?』

[俺がお前に会いたくなったからー]

一瞬言葉に詰まるものの、それを悟られない様に口を開く

『一時間前まで一緒に居たじゃん』

[うっせ。今会いてぇんだよ、鍵開けとくからさっさと来いよー]

そう言った修兵さんにより通話が切られた。何と勝手な、もうそろそろ布団に転がってだらだらしようと思ってたのに

『……しょうがないな…』

麦茶の入ったペットボトルを冷蔵庫に直し、テレビを消して伝令神機を懐に入れる。
着流し一枚で外に出ると修兵さんが怒るので、近くにあった羽織を肩に掛けた。麦茶を飲み干し流し台に置く。
戸締まりをして隊舎の廊下に出た。
隣の部屋まで徒歩十歩。自動ドアの如く開いた扉から修兵さんが顔を覗かせた

「おー、独月だ」

『…っと。やっぱ酔ってるし……』

抱き付いて来た修兵さんは見事に酒臭い。電話が妙に機嫌良さそうだったからもしやとは思ったけど、やっぱり酔っていた

『ほら、部屋行くよ』

「んー」

へらへらと笑う修兵さんを引き摺って部屋に入る。歩く気のないデカい荷物を連れて居間に行けば、其処はまぁ酷い事になっていた
泣きながら酒を飲む吉良。その話を聞いてやる雛森。顔を真っ赤にしながら尚も酒を飲む阿散井。ご機嫌な乱菊さん。一升瓶を手にした犬のぬいぐるみ。
……え、ぬいぐるみ?
二度見したもののやはりぬいぐるみはぬいぐるみ。何飲んでんだあの犬っころ

「あーちびさぎあんたも飲みなさいよーっ!」

『遠慮します』

ずるずると引っ付き虫を引き摺りながら、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出す。キャップを外してボトル毎差し出せば気怠げな手がにゅっと伸びてきた
耳元からごくごくと水を飲む音が聞こえてくる。ダイレクトで飲水音が聞こえるとか何か変な感じだ

「……っぷは」

『酔いは醒めた?』

「まずまずだな……」

ぐでーっと寄り掛かって来る修兵さんを連れて酔っ払い共の群れに近付くか悩む。だって今のあの人達に近付けば絶対絡まれるし飲まされる。
さてどうしようかと思っていれば乱菊さんに強制的にソファに座らされた。
正しくはソファに座らされた修兵さんの上に、か

『ごめん修兵さん痛くなかった?』

「へーき」

へらりと笑ってぎゅっと抱き付いて来る辺り本当に平気なんだろう。てかこの態度から見るに、何時もよりかなり酔ってる。ほんと酔うと甘えたになるよね修兵さん。
首に擦り付いて来るデカいわんこの頭を撫でていればやたらと視線を感じた。何だと見れば、この場に居る犬のぬいぐるみ以外の全員が此方を見ている。え、皆何があった

「…修兵ってちびさぎが居たら甘えたになるわよねー……」

乱菊さんの一言に周りが皆頷いた。そんなに驚く事でもない気がするんだけど

『本気で酔ったら何時もこんなでしょ?』

「あんたがいないとそんな風にはならないわよ」

そう言った乱菊さんが修兵さんの肩をばしばし叩く。ちょっと痛いんじゃないかとも思うが、叩かれている本人は僕にすりすりし続けているので気にしてないんだろう

「独月。独月」

『はいはい。此処に居ますよ』

「独月ー」

力加減一切ナシで腹部をぎゅうぎゅう締め付けて来る修兵さんの頭を撫で続ける。優しく撫でれば小さく笑ってまた首筋にすりすりし始めた。可愛いなこの人

「「「「………」」」」

『……え、何か…?』

何故かひたすら凝視されている。
修ちゃんはまだ酒を飲んでいた。我関せずってか
此方を凝視し続ける四人を取り敢えず放置してつまみの枝豆を食べる。うん、美味しい

「ねぇ、ちびさぎ」

『はい?』

乱菊さんを見れば彼女は恐ろしいくらいに目を輝かせていた。え、何、ごめん乱菊さん軽く引きました

「あんた達やっと付き合ったの!?」

『………はぁ?』

やっとって何だ。しかも付き合ってないし
そう言うと乱菊さんはあからさまに肩を落とした。え、そんなに落ち込む事?

「……修兵もヘタレねー…」

「マジでヘタレっすね……」

乱菊さんと阿散井が溜息を吐いた。修兵さんがヘタレなのは元からだがそれがどうかしたのか

「もういっその事結婚しちゃいなさいよあんた達」

『何処をどう考えたらそんな結論に至ったんですか』





飲み会in檜佐木部屋





(さてちびさぎも飲みなさい!)

(いや、ちょっと乱菊さんっ)