「桜花隊長!」

『ん?』

背後から呼ばれ振り向けば此方に駆け寄って来る黒髪。腕に着けられた副官章が懐かしい人を思い出させる。

『ルキア』

名を呼べば彼女は笑った






『副隊長になったんだね』

「はい」

頷いた彼女は副官章に触れた。無席だったルキアが副隊長になれたのは、偏に兄である朽木隊長の一押しが大きい。けれど彼女自身の実力もこれまでの働きで認められていたから、こうして副官の座に就いたのだろう

「井上に言われ気付いたのです」

『ん?』

「兄様に、心配を掛けていたのだと」

ルキアが自らの手に嵌めた手甲を見る。朽木家の家紋が刺繍された肘までを覆う純白のそれは、もしかしなくとも朽木隊長からの贈り物だろう

「井上は、私が軽率な行動を取らぬ様に兄様が副隊長にしたのだと言いました」

『そう』

や、阿散井とか副官の癖に無謀な気がする。まぁ副官にすれば無席の時よりほいほい動き辛いとは思うがあいつに責任感はないのか。いや、違うな。あいつは責任感もひっくるめて動くもんだから面倒なのか
そう考えると僕は隊長として軽率な行動を取っていないかと心配になる。もし取っていたとしたらどれだけ修兵さんに迷惑を掛けた事か……ちょっと土下座したくなると思うんだがどうしよう

『……前、言われたんだ』

「…何を、ですか?」

『隊長は、副官に頼るべきだって』


「無理して隊長面すんじゃねぇ。辛い時は俺に頼れ。苦しい時は俺が代わりになってやる。荷が重いなら俺が半分背負ってやる。逃げ出したいなら抱き締めて繋ぎ止めてやる」

「俺が支えてやる。俺が護ってやる。だからもっと甘えろ。…一人で何もかも抱え込むな、独月」



隊長になったばかりの頃、そう言われた事を思い出す。
あの時は確かに隊長になったばかりで、焦っていたのかも知れない。少しでも早く仕事を覚えて九番隊を立て直さないと────そればかり考えていた

『隊長は、副隊長が居てくれる事で安心して動ける』

それは今になって気付いた事。
僕は、修兵さんが直ぐ傍で支えてくれていたから好き勝手出来ていたのだと

『隊長は、副隊長やその下の隊士達に支えられてるものなんだって思う様になった』

それは僕だけなのかも知れない。実際他の隊の隊長達は皆強いし、一人で何でも出来る感じだし。
でも少なくとも隊長にとって副隊長は自分の背を任せられる存在。一番傍で自分を支えてくれる重要な位置だ
浮竹隊長がルキアを副隊長に選んだという事は、今は亡き海燕さんの後を継げると考えたからこそ。海燕さんに心を預けられた彼女なら、きっと出来ると

『ルキアはきっと海燕さんより凄い副隊長になれるよ』

「桜花隊長……」

『いや…副隊長になった以上、ルキアは海燕さんを越えなきゃならない。けど無理はしちゃいけない』

無理するのと頑張るのは違う。少しでもと思って独り善がりに無理をするのは、お前じゃ頼りにならないと他者を遠ざける様なものなのだと最近漸く気付いた。それがどれ程相手を傷付ける事なのかも

『…ごめん。上手く言えなかった』

「いえ、桜花隊長のお気持ちは良く判りました」

ルキアが笑う。
今の地位になり隊に馴染んだらしい彼女の笑みは前より柔らかくなった。
海燕さんが見ていたら、どんなに喜ぶだろうか

「私も無理せず励んでゆこうと思います。海燕殿を、越えられる様に」

『……ああ…』



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((届いていれば良いな))