『……此処は…?』

――目の前に立っているのは真っ赤な鳥居。
幾つか判らない程ずらりと並んでいるそれの色は、血の様に赤い。
処狭しと貼られた御札からは何だか禍々しいものを感じた。近寄ってはいけない様な、真っ黒なもの。
灯籠に照らされた鳥居は妖しげな雰囲気を醸し出していた。
僕は只ぼんやりと佇んで、見詰めている。



――急ぎやれ急ぎやれ この道は



ふと、聴いた事のある唄が耳に入ってきた。
声のした方を見るものの、人影はない。



――こんこん狐の出る道じゃ 出る道じゃ



振り向くが其処には灯籠があるだけ。誰も居ない。これは、誰が歌っている…?



――さぁさ急いで通りゃんせ



――おお こわ こわや 狐はこわや



直ぐ近くから聴こえた気がして首を傾げる。
そしてゆっくりと振り向いた。
まさか、今の声は…………


『――こんこん狐が出りやこわや』


『――――っ!!!』


狐の面を着けた僕が、寄り添う様にぴったりと背後に立っていた。

『あーあ、振り向いちゃった』

愉しそうに嗤った"僕"が、僕の身体を突き飛ばした。
僕の身体は押されるままに後退り――何かに引き込まれる様に後退を始める。
何故、何が僕を引き込んでいる?
踏ん張りも効かない程強く、ずるずると
ちらりと腕を掴むものに目をやって――――







『あーあ、見ちゃった』


























「――桜花!」

『………ん……』

何か温かいものが僕を揺らす。聞いた事のある声だ。一体誰だ?
重たい目蓋を開ければ目に入ったのは鮮やかなオレンジ色。あれ、髪染めたんですか海燕さん

「桜花!」

ああ、この人は海燕さんじゃない。海燕さんは黒髪だし、僕の事をちびさぎと呼ぶ。死神代行のこの男は――

『…黒崎…一護……?』

「ああ、大丈夫か?」

名を呼べば思っていたより掠れた声が出た。それを聞いた黒崎が僕の口元に水の入った容器を寄せる

「飲めよ。少しは楽になるぜ」

『……すまん』

頭を軽く持ち上げられ、ゆっくりと水を注がれる。数回飲むとペットボトルが口元から離された

『ありがとう黒崎』

「おう」

身を起こし、黒崎に頭を下げる。彼は僕の頭を軽く撫でて気にすんなと笑った。そして真剣な顔をして、僕に問う

「一体何があったんだ?」

その問いに僕は首を傾げる。只夢見が悪いだけで他には何もないと思うんだが。
そう返せば黒崎が眉を寄せた

「…本気でそんな事言ってんのか…?」

『…?ああ』

何かこの反応前にもあった気がする。あれは誰だったか…ああ、確か修ちゃんだ

「お前、何もないトコから急に降ってきたんだよ」

『…………え?』

降ってきた?
いやそれは普通に可笑しい。だって僕は今まで隊首室に居た筈で――
そう思いふと周りを見る。尸魂界にはない沢山のコンクリートで出来た建物。そして目の前の黒崎一護。見た所死神化はしていない
つまり僕は

『何時の間に現世に来た…?』

いや、現世に来ただけならまだ良い。死神の仕事は現世にもある訳だし。けれど現れた方法が可笑しい。
黒崎は確かに何もない場所、と言った。彼はもう何度か穿界門を潜っているからこそその事で首を傾げている。
通常ならば、穿界門を通らなければ現世には来られない。

『ったく、何が起きてるんだ…』

頭を掻きながら小さく呟く。最近僕の身に覚えのない事が頻発している。唄然り、行動然り

『待てよ。唄…?』

ふと脳裏を過った言葉に着目し、黒崎を見た。
他の人は知らなかったが現世の者なら知っているかも知れない

『ねぇ黒崎、この唄聴いた事ある?』









「いや、聴いた事ねぇな…」

『そうか…』

俺がそう言うと桜花は肩を落とした。
その姿を見て慌てて言葉を言い募る

「他の奴等にも聞いといてやるよ。だからそんなに落ち込むなって。な?」

『…ありがとう』

そう言った桜花の表情が僅かに緩む。その小さな頭を撫でようとして――

「なっ……!?」

桜花の姿が、透けた。
慌てて肩を掴もうとするが、その手も通り過ぎる。俺の手を目で追って漸く事態に気付いたらしい桜花が小さく悲鳴を上げた

「桜花!!」

『っ…黒崎……!!』

伸ばされた手を掴もうとした瞬間、何事も無かったかの様に桜花の姿が消えた。
握らせていたペットボトルが音を立てて床に落ちる。

「桜花……っ!!!」




そして彼女は居なくなった



(っくそ…どうなってんだ…!)