「ルキア!」

「何なのだ一護、急に呼び出しおって」

穿界門を潜って来たルキアに駆け寄る。

「何処でも良い!桜花が行きそうなトコ知らねぇか!?」

半ば叫ぶ様に言った俺をルキアは怪訝そうな顔で見る。その表情に違和感を覚えた
何でそんなに落ち着いてるんだよ。
桜花は霊術院ってトコに通ってた頃の先輩なんだろ?
そう言った瞬間、今まで黙っていたルキアの放った一言に目を見開いた

「…話の腰を折る様で済まぬが、
その桜花という者は一体誰なのだ?」

























「くそっ…一体どうなってんだ…!!」

あれからルキアと共に穿界門を潜って尸魂界に行った。其処で桜花の事を訊ねても皆一様にソイツは誰だとしか言わねぇ。まさか本当に皆忘れちまったのか?

「誰か一人ぐらい覚えてそうな奴は………」

そう呟いて、はっと思い出す。
あの人ならきっと覚えてる筈だ

「ルキア!檜佐木さんは何処に居る!?」

「む?檜佐木殿なら確か今は二番隊に……っおい一護!」

最後まで聞かずに走り出す。二番隊か。砕蜂が素直に入れてくれるかも判らねぇが取り敢えず行くしかねぇ。

「一護!何をそんなに焦っておるのだ!?」

追い付いて来たルキアが訊ねてきても明確な答えは見付からない。只、直感で判るんだ

「急がねぇと、桜花が危ねぇ…!!」





















二番隊隊舎前に着くと金属のぶつかる音が聞こえてきた。そして知っている霊圧が二つ。ぶつかり合っているそれの片方が俺達の探している人だろう
隊舎内を突っ切り鬱蒼と生い茂った森に入る。

「檜佐木さん!!」

「あ?」

声を掛ければ返事が来た。小柄な影を弾き飛ばして木の上から飛び降りてくる

「黒崎に朽木じゃねぇか。どうしたんだ?」

首を傾げた檜佐木さんは前より髪が伸びていて一瞬誰か判らなかった。まぁ修行なら髪切る暇もねぇか
そう考えてそれよりも重大な事があるのを思い出す。のんびり手拭いで汗を拭く檜佐木さんに向かって俺は口を開いた

「檜佐木さん、単刀直入に聞くぜ」

「んだよいきなり。俺に答えられる事なら何でも聞けよ」

いや、これはきっとあんたが答えられねぇと駄目なんだ。多分俺一人じゃ駄目だと、何故か確信にも似た思いが渦を巻く
覚えていてくれ。そう祈りながら俺はゆっくりと口を開いた

「桜花を、知ってるか?」

頼む、知っていると言ってくれ。でないとあいつは――







「……てめぇ何言ってんだ?」







「………っ!」

あんたも忘れちまったのか?
なら桜花はどうすんだよ。あいつが一番信頼してたのはあんただったのに

「そうか……邪魔したな」

ルキアの肩を軽く叩いて行くぞと促す。事態の飲み込めていないルキアは不思議そうな顔をしつつ俺に続いた
どうすれば良い。どうすれば桜花を助け出せる?
悩みながら歩き出した俺の後頭部を、強い衝撃が襲った。

「いってぇ!」

「――だーれがあいつの事を忘れたなんて言ったよ?」

呆れた様な声に振り向けば檜佐木さんが此方を見て溜息を吐いた。だってさっきてめぇ何言ってんだって言ったじゃねぇか。だから俺はてっきり、あんたも桜花の事を忘れちまったんだと…

「ああ確かに言ったよ。でも早とちりだ。俺はこう言おうとしてたの」

「むぐっ」

俺の鼻を摘まんだ檜佐木さんがにやりと笑う

「てめぇ何言ってんだ?俺が独月の事を忘れる訳がねぇだろう、ってな」























「……じゃあ独月はいきなり消えちまったのか」

「ああ…」

黒崎の話を纏めるとこうだ。
独月は急に空から降ってきた。穿界門も何もない、青空から
普通ならそんな事は有り得ねぇ。だが穿界門の見張りに通過記録を聞いても独月が通った記録はねぇ。それどころか桜花とは誰だと聞かれる始末。こりゃ予想外に大事だな

「推測するにこの様子じゃ他の奴等も忘れてんな」

「ああ…現にルキアも忘れてる」

指で差された朽木が神妙な顔で頷いた。姿は勿論名前にも聞き覚えがねぇらしい。それはさっきまで俺の修行に付き合ってくれていた砕蜂隊長も同じだった

「手詰まりか…」

此処数日の様子を聞こうにも記憶がねぇなら無駄足になりかねねぇ。故に動けず仕舞い。恐らく時間はそう長くは残されてねぇってのに

「黒崎、あいつが消える前、何か可笑しな様子はなかったか?」

「んー…」

黒崎が眉を寄せて考え始める。
俺が傍に居てやれれば良かったんだが運悪く修行中。何で俺が居ない時に――

「って…居るじゃねぇか、"俺"」

伝令神機を取り出しある番号に掛ける。
あいつならきっと覚えてる筈だ。造られたとはいえ"俺"なんだから

[――もしもし?]

「おい犬っころ話がある」

[犬っころ言うな原種]

繋がった。犬っころ――霊骸は不機嫌そうな声を出した

「単刀直入に聞くぜ。独月に最近可笑しな様子はなかったか?」

[あ?独月そっちに居んのかよ!?]

急に大声を出されて耳がキンキンする。この野郎しばくぞ犬っころ

「うっせぇ喚くな!此方にも居ねぇよ!」

片耳を押さえながらそう叫べば急に奴は静かになった。どうやら落ち込んだらしい。……俺ってこんな性格なのか?

[……周りが変なんだよ。皆独月の事を覚えてねぇんだ]

「それは俺も知ってる。それで、変わった様子は?」

[あー…唄、か?]

「……唄?」

霊骸の言葉に眉を顰める。唄が何だってんだ?

[最近狐がどうとかって唄をぼんやりした顔で歌う事が多かったんだよ。聞いてもあいつは覚えてねぇって言うし]

「狐に関する唄か」

[ああ。こんこん狐がどうとかってヤツだ]

「こんこん狐…」

記憶を探るが聴いた事はない。だが恐らくそれが独月に繋がる唯一の鍵だろう。
俺は礼を言って通話を終えた。それを見ていた黒崎が口を開く

「そのこんこん狐ってヤツの唄、あいつが降ってきた時も歌ってたぜ」

「本当か?」

「ああ。橋がどうとか歌ってたな」

「………」

橋。こんこん狐。幾ら考えてもそれが該当する唄は出て来ねぇ。少しでも良い、何か似たような唄は――

「あの、檜佐木殿」

「どうした朽木」

見れば朽木が確信を持った目で俺を見ていた

「その唄、恐らく私は知っています」




残された唄





(マジか!頼む教えてくれ!)

(はい。これが少しでもお役に立つのなら)