『ん………?』

目蓋に光が突き刺さるのを感じ、ゆっくりと目を開ける。数回瞬きをして、映したのは真っ白な天井。回らない頭で必死になって考える。此処は、何処だ?
目蓋を擦ろうとして右手が動かしにくい事に気付く。見ればチューブが繋がれていた。どうやら点滴を打たれているらしい。
辺りを見渡しふと此処が良く知っている場所である事に気付く。四番隊舎の綜合救護詰所だ
でも何で救護詰所に?僕は隊首室で執務を行っていた筈なんだが
首を傾げていると扉がノックされた

『どうぞ』

「入るぜ」

聞こえてきたのは聞き慣れた低い声。ゆっくりと扉が開かれた。

『…………え?』

てっきりぬいぐるみが入って来るものだと思っていた僕は目を見開いた。
入って来た彼がにっと笑う

「やっとお目覚めか?お姫サマ」











『………じゃあ僕は良く判んない所で舞ってたの?』

「ああ」

しゃりしゃりと林檎を剥きながら修兵さんが頷いた。うん、久々に会ったのにそれ程久し振り感がない。何故だと考えてああ修ちゃんが居たからかと納得。院生の姿だったけどあれも修兵さんな訳だし
てか鳥居に囲まれながら舞ってたって何だ。何でそれを回避出来なかったんだ僕。仮にも隊長なのに情けない
溜息を吐けば修兵さんが僕の顔を覗き込んできた

「どうした?」

『…んー…何か情けなくなっちゃって』

「あ?…ああ、お前が気にする事じゃねぇよ」

頭の上に大きな手がぽんと置かれた。それが優しい手付きで動き始める。久し振りに感じる暖かさ。院生の修ちゃんの手とはまた少し違う温もりに自然と頬が緩んだ

「あれは防ぎようがなかったんだ。仕方なかったんだよ」

『……ん…』

静かに頷く。すると修兵さんは優しく笑った。
長くなった髪がさらりと揺れる。この人大分髪伸びたな。前髪の分け方変えたら院生時代と同じだ
髪に触れれば擽ったそうに首を竦めた。

『髪伸びたね』

「切る暇がなかったからな」

そう言った修兵さんの手が僕の髪に触れる。

「随分短くなったな」

『自分で弄るのが面倒だったから』

というかこれでも伸びた方だ。切りたてはもっと短かった。そう言えば呆れた様な目を向けられた。や、何なのその目は

「自分で結ぼうとは思わねぇのか」

『短い方が楽』

修兵さんはそれ以上に伸ばした事ないから判らないんだ。長いと地味に手入れとか髪洗う時とか面倒なんだぞ。

「勿体ねぇ。綺麗なんだから伸ばせよ」

『やだ』

綺麗とか何とかどうでも良い。僕は髪より頭の軽さを選ぶ。そう言うと馬鹿みてぇだぞそれと笑われた。や、そうじゃないから。髪って案外重いからそう言ってんのに

「俺が長い方が好きなの。だから伸ばして?」

『修兵さんの好みなんぞ知らん』

伸ばしたままの襟足をくるくると指に巻き付けて修兵さんが笑った。うん、可愛い感じで言っても駄目。あんたのファンなら喜んではいと言うんだろうが僕には効かんぞ
そう言えばちぇっと修兵さんが口を尖らせた。
……何か修兵さんこの二年近くの間に子供っぽくなった?

「独月が反抗期だ」

『や、意味判らん』

髪伸ばさないって言っただけで反抗期扱いってどんだけだ。意味判んないから

「何か男らしくなったな独月や」

『凍らせますよ檜佐木さん』

隣に置いてあった藤凍月を掴めば素早く修兵さんが頭を下げた。男らしくなったって何だ。そこまで内面が変わった覚えはないんだが

『修兵さんは子供っぽくなった』

「ははっ、そりゃ寂しかったからかもな」

『…は?』

意趣返しのつもりでそう言えばさらりと返され逆に此方がぽかんと口を開ける事になった。そんな僕の口に林檎を突っ込んで修兵さんが笑う

「独月が居なくて寂しかった」

『……………』

しゃくしゃくと林檎を齧りながらぼんやりと修兵さんを見つめる。あれ、久々過ぎて頭が着いていけない。フリーズしている僕を見ながら修兵さんが林檎を齧る

「そんなに意外だったか?」

『や、えっと………素直にそう来るとは思わなかったから』

「ふぅん?」

にやにや笑う修兵さんの顔を見ない様にしながら林檎を食べる事に集中する。悪かったな予想出来てなくて。
黙々と林檎を消費していれば修兵さんが口を開いた

「一つ言い忘れてた」

此方を見た修兵さんが優しく笑う



ただいま、それとお帰り



(……お帰り、それとただいま)

(おう)