『そういえば』

「ん?」

修兵さんが入院して二日。病人が自分で林檎を剥いているという何処か不思議な光景を見つめながら浮かんだ疑問を口にする

『修兵さん何で入院してるの』

「あー…怪我したから?」

『え、何故疑問形?』

どうやら背中に太刀傷を負ったらしい修兵さんは入院する事になった、と。何だか説明が曖昧な気がするのは気のせいか
まぁ気にすんなと笑われ結局この話は有耶無耶になった

「そういや、隊長」

『……何、檜佐木さん』

修兵さんが何処となく真面目な表情で此方を見た。彼はゆっくりと口を開く

「俺に返すもの、あるんじゃねぇの?」

『………退院してからね』

一瞬何の事だと考えて、すぐに自分の右腕に陣取る副官章の存在に思い至った。返すのは仕事復帰した時で良いだろう。それまではまだ僕が預かっておく

「りょーかい」

そう言った修兵さんは何処か嬉しそうだった
















静かな隊首室で執務に没頭していると、不意に頭に何か暖かいものが乗せられた。驚いて顔を上げれば呆れた様な修兵さん。あれ、何時部屋に入って来たの?

「執務に没頭すんのは相変わらずか」

『……何時入って来た?』

「五分前」

そう言った修兵さんの姿が給湯室に消える。茶でも淹れに行ったのか
ちらりと壁に掛けられた時計を見る。六時四十七分。確か執務を始めたのは一時だから、軽く六時間近く仕事に没頭していたのか。どうりで肩が凝る筈だ。腕をぐるぐる回しながら小さく欠伸をする。そうこうしていると修兵さんが給湯室から戻ってきた

「お疲れさん」

『ありがとう』

礼を言えば頭を撫でられた。
そういう所は変わっていないらしい。茶菓子として出された饅頭を一口。うん、美味しい

「美味いか?」

『ん』

「そりゃ良かった」

小さく笑った修兵さんが茶を啜る。その姿を眺め、ふと首を傾げた。

『ねぇ修兵さん』

「どしたぁ?」

『……何で病室に居ないの?』

そう、可笑しいのはそれだ。
昨日も一昨日も見舞いに行った。卯ノ花隊長からはまだ掛かると聞いていたのだ。なのに何故その病人が此処に居るのか
思わず半眼になって問えば、きょとんとしてから修兵さんはさらりと

「退院したから」

そう言った。

『………は?』

退院した?
繰り返す様にそう問えばおう、と。いやいやいやちょっと待て、僕が卯ノ花隊長から聞いたのは二日前だ。暫くって少なくとも一週間以上はあるだろ。決して二日三日じゃない筈

「怪我なら治ってる」

『………』

「その目は信じてねぇな?」

そう言った修兵さんが徐に死覇装の上に手を掛けた。そのまま上を脱ぎ、僕に背を向ける。
その背には傷跡も何もなかった

「な?治ってんだろ」

『……ん』

念の為背中を軽く叩いてみるが痛がる様子はない。という事は完全に治ったのか。
脱いだ死覇装を着るのを手伝いながら首を傾げる。完治には暫く掛かると言われた怪我をどうやって二日で治したのか。そう考えた時、ふと修兵さんの背中から霊圧の名残を感じた。脳裏に浮かんだのは気弱な四番隊第七席。恐らくこれは彼の──────

『………修兵さん』

「ん?」

『…山田を酷使したでしょ』

「…………さぁ?」

何だその間は。
そう思いつつ溜息を吐く。恐らく山田花太郎に瓢丸を使わせた。彼の腕は確かだからそれこそ二日程度で完治したんだろう。
それにしてもどうやって山田を使ったのか。
…いや、あいつの場合ちょっと凄めば直ぐに言う事を聞きそうな気もするが
……後で何か持っていこう
そんな事を考えていると死覇装を着直した修兵さんが此方を見た。その視線が意図するものに気付いて溜息を吐く

『もう少しゆっくりしてても良かったのに』

「隊長をほったらかしにしたままってのは逆に休めねぇもんだ」

ああ言えばこう言う。修兵さんに口で勝てる時は来るのか…多分無理だな
右腕に着いていた副官章を外し、すっと差し出す。

『また宜しくお願いしますね、副隊長』

「お願いされました、隊長」

受け取った修兵さんがにっと笑った




副隊長の復帰




(取り敢えず四番隊行こうか)

(あ?何で)

(卯ノ花隊長に退院の報告と山田に労いの品を)

(………あー(卯ノ花隊長に怒られるわ俺))