『ただいまー』

「お帰りー」

それは珍しく独月自ら虚退治に行った日の事。任務を終わらせた独月が隊首室に戻ってきた。
俺は温めの茶を注いでソファの前の机の上に置く。あいつは温めの茶が好きだからだ。礼を言った独月が湯呑みを手に取った。そこで怪我はしていないかと独月の顔を見て、気付いた

「隊長、その髪どうしたんだ?」

『へ?』

不思議そうに首を傾げた独月の髪に触れる。伸ばされたサイドの髪の右側だけが不自然に短くなっていた

『ん?…ああ、虚の攻撃避けた時かも』

ざっくりと短くなった髪に触れ、独月がそう言った。髪を切られた事はどうでも良いらしい。

「こりゃ整えねぇと」

『え、短くして良いの?』

「馬鹿。此方の長さを整えるだけだ」

そう言うと独月は肩を落とした。お前まだ髪を短くしようとしてんのか。この前少しなら伸ばしても良いって言ってた癖に
霧吹きで髪を湿らせて鋏を入れる。整えるだけだから数分で終わった

「こんな感じで如何でしょうか、お客様」

『おー、良い感じです』

「そいつは良かった」

渡した鏡で切った部分を見る独月をそのままに手早く掃除を済ませる。独月の髪に触れ眉を寄せた。やっぱり此方だけ短いと変だな。どうにか誤魔化さねぇと

『…檜佐木さん?』

「んー…ちょっと待て」

どうかしたのかと此方を見る独月に動くなと指示。お前は自分の髪なんだからもう少し気にしてくれ
何か使えるもんはねぇかと懐を漁り、発見。これ使えるんじゃね?

「じっとしてろよ」

『ん』

切った髪と前髪の一部を後ろに流す様にしてピンで止める。長いままの左側の髪には髪飾りを着けた。

「良し、完成」

『ありがとう』

飾りを触りながら独月が笑う。
再び鏡を見て、ふと独月が俺を見た。あれ、やっと気付いたか?

『これって修兵さんとお揃い?』

「そ、お揃い」

『………お揃い』

独月が僅かに頬を緩めた。そしてはっとしてから急に此方に背を向ける。
何だ今の反応。首を傾げつつ顔を覗き込めば独月は慌てて下を向いた。や、悪いがもう見ちまった。

「顔真っ赤」

『……やかましい…』

色が白いから赤くなれば直ぐ判る。俯いたままの独月を抱き締めれば小さな身体がぴくりと跳ねた

「お前離れてた間にもっと可愛くなったな」

『………』

独月は黙りこんでしまった。只小さな手がぎゅっとしがみついてくる。腕に力を入れれば胸に擦りついてきた。猫みてぇ。
そう思いながら髪を撫でていると独月が恨みがましい目で俺を見上げて来た

『………タラシめ…』

「タラシじゃねぇよ」

そう言ってもいやあんたはタラシだ、と返される。違ぇ、俺はタラシじゃねぇぞ。つかんな事言ったの誰だ。阿散井か、またあいつなのかあの野郎シメる。
赤い髪の馬鹿犬を後でシメる事を決めて独月の頭を撫でる。前よりも照れやすくなったらしい独月はじっと俺を見上げていた。その両目は強い意志を宿したまま。空と藤の色を持つ双眸は俺の好きなままだった

「俺が居ない間、良く頑張ったな」

この二年近くの間の独月の様子を色んな奴から聞いた。同じ隊に居る国後や拳西さん隊士達は勿論、阿散井や吉良、日番谷隊長や他の隊長達からも。それだけこいつは回りから気に掛けて貰っているらしい。話をしてくれたほぼ全員に言われたのが「お前が居れば安心だ」の一言。何故かと問えば独月はまともに睡眠も取らずに仕事をしていたから、と。
またやらかしたのかお前。そう思った俺はきっと悪くねぇ。だってこれで何回目だ?六徹しようとしてぶっ倒れてからもう出来るだけ徹夜はすんなと説教かましたのに、こいつはそれをすっかり忘れたと見た。つか何で俺が居ねぇとやらかすんだよ。あれか、犬っころだけじゃこいつは言う事聞かねぇのか

「でも無茶し過ぎだ」

『……ちゃんと寝てた』

「一時間ぐらいしか寝てねぇのにんな事言う気か」

そう言うと独月は言葉に詰まった様に黙りこんだ。何で知ってるんだと言わんばかりの表情に溜息が出た。言っとくけどお前の睡眠時間の話は全員から聞かされてんだからな

『顔面卑猥、タラシ、ヘタレ』

「何だとチビ」

俺の悪口らしきものを言い始めた独月の額を軽く指先で突く。ヘタレじゃねぇっての。
そう言い掛けて俺は僅かに口角を上げた。耳許に顔を寄せ、こいつが好きだという声で囁く

「まぁ、お前なら幾らでも口説いてやるけど?」

『……………………』





赤く染まる





(……………)

(おい、どうした)

(あ、六車三席。いや、その、この書類届けに来たんですけど…)

(あー…またいちゃついてんのかあいつら)