『はぁ……』

書類を見て溜息を一つ。危険因子の殲滅なんか二番隊か十一番隊にやらせれば良いのに。まぁこれを引き受ける代わりにうちの隊に回されてくる書類を減らして貰えるからまだ良いけど

「準備は良いか?隊長」

修兵さんが僕の頭に手を置く。こくりと頷けば彼はにっと笑った
僕は後ろを振り向いて、隊士達を見る。今回連れて来たのは九番隊の中でも特に腕っぷしの強い席官数人に平隊士数人。平隊士達は経験を積ませる為。まぁそこまで深入りさせなければ大丈夫だろうし

『僕が西の本体を叩く。拳西さんは五席達を連れて東の群れに当たって』

「おう」

『檜佐木さんは南で単独行動。状況に応じて動く事を許す。残りは僕に着いて来い』

「りょーかい」

「「「はい!」」」

暗器を確認した修兵さんが笑う。うん、あんたと一緒に行かせたら寧ろ隊士達が危ない。一人で生物兵器状態だから、彼の戦闘スタイルを僕が把握出来るまでは誰かと組ませる事は控えた方が良いだろう

『全員死ぬなよ────行くぞ!!』

掛け声と共に全員が走り出した


















瞬歩で南にあるアジトの前に辿り着く。物陰に隠れ、見張りらしき奴の数を確認。五人か。これなら秒殺だな。そう思い右手に苦無を握った時、遠くから爆発音。方角からして拳西さんか

「な、何だ!?」

「────さぁ、何だろうな?」

狼狽えた見張りの一人の背後に近付き頸動脈を切る。声もなく崩れ落ちた仲間を見る男の背後に移動して喉を裂く。これで二人。残りは此方に向かって来る。俺は物陰に身を隠し、敵が此処まで来るのを待った。

「何が起きてるんだ!?」

「判らな────え?」

ぽかんと口を開けたままの男の首を掻き切る。
ごとりと落ちた首に気を取られた体格の良い男の胸に苦無を突き刺した

「て、てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

向かって来る痩身の男の額に胸から引き抜いた苦無を投げ付けた。男の身体が地面に崩れ落ちた。
深々と刺さった苦無を引き抜く事はせず、そのまま寂れた建物の中に侵入。ばたばたと走り回る奴等を片っ端から片付けていく
悲鳴を上げさせる事なく仕留める方法は砕蜂隊長から直々に教わった。暗器の使い方から毒の事まで。その所為か九番隊に戻って来ても隠密機動みてぇな事しちまってる。独月が俺に単独行動を許したのは、この二年近くの間にどれだけ俺が変わったのか把握する為だろう

「さて、こいつらにはさっさと死んで貰うか」

俺としては早く独月の傍に行きたい。その為にはさっさとこの南砦を制圧しねぇと
腰から風死を抜く。逆手に構え、俺は一気に駆け出した




















『虚空に色付け────『藤凍月』』

拳銃で片っ端から片付けていく。奴等が手に持っているのは使用者の精神を糧に力を引き出す妖刀。あれで斬られたら此方の精神がやられる。幸いにも奴等の戦い方は素人だから、鬼道で間合いを取っていれば問題はない。

「護廷十四隊を倒せ!!!」

『馬鹿も休み休み言え』

先程から口々に叫ばれる言葉にうんざりしてくる。どうやらこいつらの狙いは護廷十四隊の壊滅。素人なんかに僕達がやられる訳ないのに。
とは言え今砦の中に居るのは僕一人。他には砦から出て来た奴等の処理を任せているから助けは来ない。此処は鬼道でうじゃうじゃ居る敵を減らした方が良いだろう

『破道の六十三・雷吼炮!』

雷撃で敵が倒れていく。だがそれを踏み潰す様にまた隙間なく敵が押し寄せた。お前らは味方も物みたいに扱うのか。倒れた敵に一瞬同情したが、気を引き締めて再び藤凍月を構える
確かに奴等の刀は怖い。でもだからと言って奴等自体を怖れるには技術が足りない。注意するべきなのは刀のみ
要は斬られなければ良い。ならば

『僕があんたらより速く動けば良いだけの話』

強く床を蹴って敵の群れに襲い掛かる。
擦れ違い様に次々と敵の首を斬り落とす。振り下ろされた刃を躱して発砲。その間に氷の刃で敵を刻む。響く悲鳴。飛び散る赤。腕が、脚が、首が飛ぶ。藤凍月が赤く染まっていく。頬に返り血が付いた。
その時ふと考えてしまった。本来斬魄刀は虚を斬りその罪を洗い流してやる為の物なのに、今僕が斬っているのは────

『只の……魂魄だ…』

それを口にした瞬間、一気に腕が重くなった。
噎せかえる様な鉄の臭い。何故僕は虚でもない只の魂魄を斬っている?これじゃ只の、殺しだ

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

『!』

動きを止めた僕の背後で男が刀を振り上げる。
慌てて振り向いたがもう遅い。振り下ろされる刃。腕が重い。防がなきゃ。斬らないと、殺される。斬る?只の、魂魄を?

「────気ぃ抜くな、隊長」

不意に聞こえた低い声。目の前の男は真っ二つに割れて倒れた。
目の前に立った修兵さんはぽんと僕の頭に手を乗せた

「動くなよ?直ぐに終わるから」

そう言った修兵さんが酷く冷たい目をした。そう思った瞬間、修兵さんの姿が一瞬ぶれた。
敵は勢いもそのまま此方に向かって来る。
修兵さんが僕の頭を自分の胸に押し付けた。嗚呼、これは知っている。修兵さんがこれを使ったら、どうなるのかを

「おおおおお────あ、?」

一人が怪訝そうな声を出した。その直後にずるり、と粘着質な物がずり落ちる様な音。それを見た男の悲鳴。どちゃどちゃと中身の詰まった重たい物が床に落ちる音。液体の滴る音。更に濃くなる鉄の臭い。また別の悲鳴。音が次々と重なり、崩れる
死んでいく。霊子に還る。消えていく、音

「さて、行くか隊長」

僕を抱えた修兵さんが瞬歩でその場を後にした。頭は胸に押し付けられたまま。
胸元をぎゅっと掴むと、応える様に抱える腕に力を込められた。建物の前に出た時、修兵さんに下ろして貰う。彼は渋ったがゆっくりと下ろしてくれた。隊長がみっともない姿を見せる訳にはいかない

「ちびさぎ隊長!」

『全員無事?』

「おう、怪我人もナシだ」

拳西さんの言葉に胸を撫で下ろす。誰も欠けてない。良かった

「これで任務完了だな。帰るか、隊長」

『ああ』


























「独月、起きてるか?」

『どうしたの?』

布団に入って三十分程度経った時、目を閉じていた修兵さんが口を開いた。僕は直ぐに返事をする。起きている。眠りたくはなかった。
目を閉じただけで今日のあの光景が脳裏に浮かぶ。何もしていなくても鮮明に思い出す
今は只修兵さんが話し掛けてくれた事が有り難かった。話していれば考えずに済む

「あれは、お前の所為じゃねぇ」

その言葉に緩く首を振った。見上げた修兵さんの目は静か。あの時の氷の様な冷たさはない

「殺らなきゃお前が殺られてた。お前は間違ってねぇんだ」

『……でも…』

言葉に言い淀む。僕が斬ったのは魂魄だ。
幾ら護廷十四隊に反旗を翻そうとしていたとは言え、虚じゃない。死神の持つ力は虚を倒す為であって、殺す為の力ではない筈なのに

「お前は殺したって考えちまってんだろうな」

でもそれは少し違う。その言葉に僅かに首を傾げた。何がどう違うというのか

「尸魂界である程度生きた魂魄は現世で転生する。だから厳密に言えば殺してねぇのさ」

『…でも僕が斬ったのは変わらない』

「んー…ならこれならどうだ?お前は尸魂界に反逆しようとした奴等の罪を斬った」

『……罪を?』

そうだと頷く修兵さんが僕を優しい声で諭す

「取り返しの付かねぇ事を仕出かす前に、お前が罪を斬った。そう考えれば良い」

罪を斬る。それは斬魄刀の正しい使い方だ。確かにそう考えれば僕の心は罪悪感から救われるだろう。でも、それで良いんだろうか
僕は救われても良いんだろうか
情けない顔をしている僕の頬を撫で、修兵さんが笑う

「お前は悪くないんだよ、独月」

だから、ゆっくりおやすみ。
途端に落ちてくる目蓋。必死に抗っていると優しく頭を撫でられる
その優しさに促され意識は闇に沈んだ
夢は、見なかった












眠った独月の頬を撫でる。やっぱりこいつにはあんな任務はまだ早かった。
大人になれば心の整理も出来るだろうが、まだ独月は幼すぎる。精神面でも決して強いとは言えねぇこいつには、人の死は酷く重かったんだろう。救われたいのに自分から救いを求めちゃいけないと言う様な、そんな目をしていた。

「お前は綺麗過ぎるんだよ」

だから汚れた時に辛くなる。背負いきれずに潰れそうになる。甘え方も知らねぇから一人で壊れてく。

「何の為に俺が居ると思ってんだ」

お前が壊れねぇ様に傍に居るのに。お前は頼り方すら知らねぇのか。
ぎゅっと独月を抱き締める。お前が汚れる必要はねぇ。全部俺に任せてくれれば良いんだ。

「俺の風死は……敵の命を刈る斬魄刀なんだからな」





It is just the beginning





(俺が全部背負ってやる)

(だからお前は)

(綺麗なままで居てくれ)