『────え?』

修兵さんから発せられた一言に頭が真っ白になった。

『嘘、でしょ…?』

「嘘じゃねぇよ」

目を伏せた修兵さんがもう一度その言葉を口にした





「───朽木ルキアが黒崎一護に殺された」





『っ……嘘……』

喉がひゅっと嫌な音を立てた。足から力が抜け冷たい床にへなへなと座り込む。
だってあの子は昨日も此処に来て僕の心配をしてくれていたじゃないか。なのに何故黒崎が?
……待てよ?黒崎がルキアを?
其処でふと疑問が浮かんだ

『……修兵さん』

「何だ?」

『………本当に、黒崎がルキアを殺したの?』

そうだ、納得出来ないのは其処だ。あの二人は互いを信頼しあっていて確かな絆があった。それなのに黒崎がルキアを手に掛けるとは考えられない。恐らく二人が戦わないといけなくなった何かがあった筈だ

『檜佐木さん』

「どうした、隊長」

修兵さんは僕の目をじっと見つめていた。

『黒崎と合流して下さい。恐らく黒崎は何かを知っている筈だ』

「了解」

僅かに笑った修兵さんが僕の頬を撫でてから隊舎牢を出ていった。謹慎中の修兵さんに頼むのは申し訳ないが誰よりも信頼出来るのが彼なんだから仕方がない。無茶をしなければ良いが。
そう思った時、また隊舎牢の扉が開いた
入ってきたのはピアスをじゃらじゃらと下げた男、と数人の顔を隠した男達

『───財前』

「堪忍な、独。今からお前を懺罪宮四深牢に移送する」

























あと六日、刻一刻と処刑の日が近付いてくる。
現世に降り立った俺は黒崎の霊圧を捜した。あの馬鹿でかい霊圧なら直ぐに見付かる筈。そう思い目を閉じる

「────居ねぇ?」

思わず首を傾げた。黒崎の霊圧は何処を捜しても見付からねぇ。まさかもう捕縛されちまったのか?焦り周りを見渡せば、目に付いたのは霊圧の高い奴等数人。井上に石田に茶渡に山田に志波岩鷲。あいつらは黒崎の仲間だ。なら黒崎の居場所を知ってるかも知れねぇ。
瞬歩で近付けば山田が悲鳴を上げた

「おい、黒崎は何処だ!?」

「何処だも何も、君達死神が捕らえたんじゃないか」

石田の返答に思わず眉を顰めた

「ちっ……もう捕縛された後かよ…!」

という事は丁度入れ違いになっちまったって事だ。なら今すべき事はただ一つ。尸魂界にとって返して黒崎に面会する事

「邪魔したな───解錠!」

「あ、檜佐木さんっ!」

井上達の声がしたが振り返らずに襖を潜る。時間がねぇんだ。独月はもう懺罪宮に移送されただろう。ならどうにかして早く出してやらねぇと











「っ…黒崎に面会したい。頼めるか?」

「はい、少々お待ち下さい」

瞬歩を使い全速力で駆けてきたせいで息が荒い。ぜーぜー言いながら面会を求めれば見張りが一旦下がり、また戻ってきた。道を開けた見張りに礼を言って牢の中に足を踏み入れる。
冷たい床に座っていたのは橙色の髪の男だった

「よぉ、死神代行」

「檜佐木さん……」

軽く声を掛けてからぱんと両手を合わせる。牢の中に不可視の結界を張った。理由は勿論外に立つ見張りに話を訊かれない様にする為

「黒崎、てめぇに訊きたい事がある」

漸く落ち着いてきた息を吐いて、口を開いた

「緋願花について、教えてくれ」















「桜花隊長に面会願う」

「どうぞ」

聞こえてきた声にゆるりと顔を向ける。薄暗い牢の中に入ってきたのは僕の頼れる副官。修兵さんは壁に寄り掛かる僕を見て眉を顰めた

「大分弱ってんな……」

『まぁ殺気石で造られた牢にぶち込まれればね…』

正直まだ三時間程度しか入っていないんだろうが凄くきつい。強制的に霊圧を削がれるのはやはり身体に負担が掛かるらしい
僕を抱き寄せた修兵さんがぱんと両手を合わせた。身体の気怠さが少し楽になる。結界を張ったのか

「黒崎から緋願花の話を訊いてきた」









修兵さんが聞いた話によると、緋願花は斬魄刀に取り憑くらしい。取り憑かれた斬魄刀は刀身が赤くなる。現在起きている隊士達の傷害事件もそれによるもの。因みにより強い者を襲う傾向にある
そしてその緋願花に魂魄を取り込まれたルキアが仮死状態に近いものになっている、と

「どうやら緋願花は尸魂界に潜伏しているらしい。烙罪刀を生み出したのも緋願花だ。そいつさえ砕いちまえば朽木もお前も助けられる」

『……そっか…良かった…』

ルキアはまだ助けられる。その事に安堵すれば修兵さんに呆れ顔をされた

「良かったってお前……てめぇの置かれた状況判ってんのか?」

『え?ああ…うん。冤罪の死刑囚』

言えば盛大に溜息を吐かれた。うわ、失礼な
ジト目で見れば修兵さんが僕を見た

「その事で一つご提案」

『何?』

首を傾げれば修兵さんが咳払いをした。そして僕の頬を撫でてニヒルに笑う

「こんな狭くて薄暗い牢なんかお前には似合わねぇ。だから俺と一緒に逃げ出しませんか、お姫サマ?」

芝居掛かった台詞に小さく笑う。そして僕もそれに乗る様な言葉を口にした

『……そんな事言って拒否権なんて与えてくれないんでしょ?王子サマ?』

「勿論」

目を細めて笑った修兵さんが藤凍月を背負って僕を横抱きにする。そして窓に足を掛け、一気に飛び上がった
殺気石から解放された身体が大分楽になる
息を吐いてふと後ろを見れば褐色の女性が何かを抱えて走ってきた

『修兵さん、後ろ』

僕がそう言えば女性───夜一さんが修兵さんの隣に並んだ。その時漸く抱えられていたものの正体に気付く

『あ、黒崎』

「あ?おー黒崎か。お前も脱獄か?」

修兵さんが声を掛ければ黒崎が驚いた様に目を見開いた。黒崎を抱えた夜一さんが僕を見て口を開く

「何じゃ、お主らも脱獄か?」

「まぁそんなとこっす」

寧ろそれ以外の何物でもないんだが。互いに囚人を抱えた二人がへらりと笑った。つか脱獄させた張本人達がこんな会話してて良いのかとも思うが、この間にも二人は猛スピードで走ってるもんだからもうどうしようもない。お主なかなかの速さじゃの、とか二番隊で鍛えて貰ったんで、とかもう普通に日常会話だし

「黒崎くーん!」

不意に下から声が聞こえてきた。見れば井上さん達が此方に向かって手を振っている。旅禍が侵入したとかって見張りが騒いでたのはこの人達が原因か

「え、独月ちゃんに檜佐木さん?」

「さっき振りだな」

『どうも』

「あれ、檜佐木先輩ちびさぎ隊長連れ出したんすか?」

「おう」

驚いた様子の現世組と阿散井への挨拶もそこそこに再び出口を目指す。
此処からなら白道門が一番近い。瀞霊廷を脱出する為に白道門へ向かえば、目の前に現れたのは紅い斬魄刀を持った隊士達

『……予想外に多いな』

「井上、独月を頼む」

抱えていた僕を下ろした修兵さんが前に出た。
井上さんに身体を支えられながら彼を見る。この数を一撃も受けずに倒すのはきついんじゃないか?藤凍月に手を掛ければ修兵さんが此方を肩越しに振り向いた

「下がってな隊長、俺が出る」

『でも数が多い。僕も出る』

僕がそう言うと修兵さんが鼻で笑った。何だ今の笑い方腹立つな



「───九番隊副隊長サマを嘗めんなよ?」



そう言った修兵さんがはばきをキンと高く鳴らした。それでふと気付く。修兵さん何時風死を鞘から抜いた……?

『え……』

「速過ぎて見えなかった…」

見れば次々と崩れ落ちる隊士達。血は一滴も流れてない辺り全員峰打ちで伸されたらしい。この数をあの速さで全員峰打ちって……

『…お見逸れしました……』

「そいつはどうも」

また僕を抱えた修兵さんがにっと笑った。てかもう自分で歩けるんだが。呟けば大人しく運ばれとけと頭を撫でられた。

「白道門を抜けて流魂街の空鶴の元へ行くぞ」

夜一さんがそう言った瞬間、修兵さんが急に立ち止まった。え、どうしたの?
皆は走ったままで立ち止まらないから、距離がどんどん開いていく。不思議に思い見上げれば彼は小さく笑って霊圧を上げる。ちょっほんとどうした。僕が口を開こうとした時───空気がずんと重くなった

「よぉ、待ってたぜ一護」

「げ……剣八…!」

前方から聞こえてきたその声に誰が来たのか把握する。更木隊長か。あの人珍しくこの騒ぎに参加してないと思ったら門の前で待ってたのか

「きつくねぇか、隊長」

『ん、大丈夫』

其処で漸く修兵さんが立ち止まった理由に気付いた。白道門の前に更木隊長が居る事に気付いたから、少し離れたこの距離で立ち止まって霊圧を上げたんだ。
井上さんに回復して貰った黒崎はともかく、今の僕は殺気石のせいで霊圧を削がれたままの状態。この状態で更木隊長の凶悪な霊圧に触れれば物凄く辛い事になる。それを空気が重くなった程度にしか感じないのは、修兵さんが僕を抱えた状態で霊圧を上げてくれているから

『ありがとう修兵さん』

「どーいたしまして」

此方を見た修兵さんが優しく笑った。
派手な破壊音が散々鳴り響いた後、黒崎の霊圧が急に上がった。何だ?何が起きた?首を傾げていれば修兵さんが口を開く

「卍解したらしい」

『え、殺気石から出たばっかりなのに?』

幾ら井上さんに回復して貰ったからって直ぐに卍解は辛いんじゃないか。確かに相手が相手だから仕方無いが、大丈夫なのか黒崎は

「まぁ大丈夫だろ……終わったみてぇだな。動くぞ隊長」

『ん』

戦闘が終わった事に気付いたらしい修兵さんが石畳を蹴った。白道門の上に立てば倒れている更木隊長とそれを見下ろす黒崎達を見付けた

「おい、そろそろ行かねぇとやばいんじゃねぇか?」

「む、そうじゃな。行くぞ!」

「怪我が治ったらまた殺り合おうぜ一護」

「冗談じゃねぇ!じゃあな!」




脱獄




(黒崎も厄介な人に目を付けられたな)

(ご愁傷様)