『……追っ手が来た』

独月が俺の腕の中から後ろを振り向きそう呟いた。意識を集中させ霊圧を探る。これは日番谷隊長と乱菊さんか?

「僕は追っ手の死神を引き受ける。皆は対策を練ってくれ」

そう言った石田が来た道を戻っていく。それを見ていれば胸元をくいくいと引っ張られた。何だと聞けば独月が口を開く

『そろそろ下ろして』

「まだ駄目だ」

何故だと眉を寄せた独月が俺を見た。お前阿散井の話聞いてたか?

『?聞いてたけど』

「なら何で判らねぇんだ。緋願花が狙うのは霊圧の高い奴。今のお前じゃ狙って下さいって言ってる様なもんじゃねぇか」

『………あ』

そこまで言えば漸く理解したらしい独月が小さく声を漏らした。お前自分の霊圧が平隊士より高いって事忘れてただろ。
頼むからもう少し自分の事を把握してくれ

『……ごめん…』

「全くだ」

今のお前の霊圧は殆ど回復してねぇんだぞ。呟けば独月が気まずそうに俯いた。しゅんとしたその頭にくたりと垂れた獣耳が見える。疲れてんのか俺。だが流石に言い過ぎたかも知れねぇ。頭を撫でてやればそろそろと此方を見る。何だこの可愛い生き物

「わり、言い過ぎた」

『……ううん、僕こそごめん』

おずおずとそう口にする独月をぎゅっと抱き締める。苦しそうな声が聞こえるが無視。お前が可愛いのが悪い

「まぁ今は黙って甘えとけ。俺が護ってやっからさ」

『ん…ごめん……』

その言葉に苦笑する。俺が言って欲しいのはそれじゃねぇんだけどな。
抱き締める力を緩め、こつりと額を寄せて出来るだけ優しい声を出した。

「なぁ独月、俺はごめんじゃなくて違う言葉が聞きてぇんだけど?」

『へ?』

きょとんとした表情で俺を見る独月に小さく笑う。この顔はほんとに判ってねぇな

「謝るんじゃなくて、礼を言って欲しい訳よ」

『礼………あ』

思い付いたらしい独月が綺麗な目をぱちぱちと瞬かせた。俺を見つめ、微笑む

『修兵さん、ありがとう』

「どーいたしまして」

「………おい、そろそろ良いか?」

後ろから聞こえてきた声に振り向けば黒崎が呆れた様な顔で此方を見ていた。おい何だその顔は。周りも一様に同じ様な反応。ただし井上は何故か目を輝かせている。それを見て何時かの乱菊さんを思い出した。あれだ、あの目は勘違いをしている目だ。

『…日番谷隊長が動き出した』

井上をどう対処しようかと考えていると独月がそう言った。霊圧を探れば石田と別れた日番谷隊長と乱菊さんが大量の死神の群れに突っ込んで行くのに気付く
どうやら二人は隊士達を潰して瀞霊廷に戻るらしい。まぁあの二人なら大丈夫だろ。安心させる為に心配そうな独月の頭を軽く撫でれば胸元に擦り寄ってきた。可愛いなおい








「良し、じゃあ俺達も行くぜ織姫ちゃん!」

「おー!」

日番谷隊長達が出てから数分後、妙にテンションの高い阿散井と井上が瀞霊廷に向け出発した。それを見送って暫くしてから、ギリギリまで霊圧の回復に時間を使っていた黒崎が動く

「恋次の奴上手くやれてっかな」

「あの大役は奴にしか出来ん。良し、儂らも行くぞ」

夜一さんと黒崎、それに茶渡と岩鷲が瀞霊廷に向かって走り出した。石田は途中で合流するらしい。阿散井が上手くやれてりゃ成功する筈だ

「あ、あの桜花隊長」

『ん?どうした山田』

見れば独月が気弱そうな四番隊七席と話をしていた。山田が背負った袋から小さな瓶を出す。中に入っていたのは髑髏の描かれた丸薬。……おいてめぇどういうつもりだ

「うちの隊長に毒飲ます気かてめぇは……」

「ひいいっ!すいませんっ!」

『ちょっ修兵さん脅すな』

低い声で唸る様に言えば山田は土下座しそうな勢いで頭を下げた。それを見た独月が俺を窘める。だってあいつ明らかに怪しいもんお前に飲まそうとしたんだぞ?

「毒かも知れねぇじゃねぇか」

『あれは霊圧を回復する薬だよ。確か負傷者が多い時は四番隊隊士はあれを飲んで治療に当たるんだ』

「……ほんとか?」

「はい、そうです!これは決して怪しいものじゃないですっ!」

その必死な姿にこれは毒ではないと判断する。
そもそもこんな気弱な奴が堂々と毒を薦める訳もねぇか。自分の浅慮さに溜息を吐く。駄目だな俺も。独月が絡むと途端に余裕がなくなっちまう。これじゃあ人の事は言えねぇな

「……疑って悪かったな」

「あ、いえ。僕こそ紛らわしいもの出しちゃってすみません」

へこへこと頭を下げる山田を制して瀞霊廷の方を見る。今空気が震えた。ぶつかり合う霊圧。
この霊圧は黒崎と朽木隊長か。どうやら阿散井は成功したらしい。

『あとは烙罪刀を待つだけか』

「ああ」

山田から受け取った丸薬を飲んだ独月が呟いた。これで三十分後ぐらいにはほぼ全快するらしい。てかこの丸薬四番隊を酷使する為に作られた様な気がしてならねぇ

『檜佐木副隊長』

「……はい」

隊長の顔になった独月が求めている事に気付き、ゆっくりと地面に下ろす。そして背負っていた藤凍月を渡せば独月は小さく礼を言った

『……近付いてくる』

険しい顔をした独月が藤凍月の柄に手を掛けた。俺も風死を抜き構える

『山田、僕から離れるなよ』

「はいっ!」

「おいでなすったかよ、くそったれ共が……」

ゆらりと現れたのは赤い斬魄刀を持った大量の隊士達。その中の一人が口角を吊り上げて嗤う

「フフフフ……この時を待っていた……!隊長格の霊圧を手に入れられるこの時を!!」

「隊長、見分け方は判ってんな?」

『ああ。問題ない……虚空に色付け───『藤凍月』』

独月に確認してからざっと奴等を見る。先頭に奴は居ねぇ。という事は数で攻めて弱った所を襲う気か

『氷狐・爪撃』

振るわれた藤凍月から氷の狐が現れた。向かって来た奴等を蹴散らす独月を見て小さく安堵してから強く地面を蹴る。円を描く様に駆け抜ければ峰打ちを食らった奴等は倒れた。
俺の方はこれで全部か。という事は独月の方に奴は居る。見れば建物並の大きさの狐が大量に暴れ回っていた。
それを一歩下がった所に立っている狐の背に乗る独月は気分が良さそうに見ていた。目が良い気味だって言ってる。あれ、お前そんな子だったっけ?

「終わりだ!」

独月の背後から飛び掛かった奴の手に握られた斬魄刀の色は白。───あいつだ

『お前のせいで……お前のせいで……!!』

口許を引き攣らせた独月が藤凍月を構えた……え、拳銃?それを見た俺は慌てて駆け出した。やべぇあいつキレてる。本気だ。隊士ごと撃つ気だ

『お前のせいで僕は死刑宣告されるわ殺気石の牢にぶち込まれるわ九番隊は取り潰しになりそうになるわ大変な目に遭ったんだぞ……!!!!』

「落ち着け隊長!刈れ───『風死』!」

咄嗟に始解した風死の鎖で隊士の首を絡めとり、そのまま地面に叩き付けた。すまん、痛ぇだろうが許してくれ。ああしなきゃお前は撃たれて死んでた
気を失った隊士を見ていたその時─────

「ぐっ……!?」

急に襲った痛みに目を向ける。視線の先─────隊士の斬魄刀の切っ先が触れた風死の鎖が、赤く染まっていた。その赤はどんどん広がっていく。やべぇ。これじゃ俺まで烙罪刀に呑み込まれ──────

『破道の六十三・雷吼炮』

「ぐあっ!!」

呑み込まれる、そう思った瞬間飛んできた雷撃に吹っ飛ばされる。
直撃した風死から赤い光が飛んでいく。それを見送った銀髪の隊長が狐の上から俺を見下ろした

『ご無事で良かったですね、檜佐木副隊長』

「……助けてくれてアリガトウゴザイマス」

『どーいたしまして』

ひっくり返った状態で民家に突っ込んだ俺を見て独月は鼻で笑った。その仕草が赤い目の奇人と被った。あれ、何かこいつこの二年で国後に似てきてねぇか?

「何も雷吼炮じゃなくても……」

『銃で撃てば下手したら檜佐木さんに当たるかも知れないと考えたので使いましたが何か?』

「……もう良い…」

俺が言いたかったのは別に蒼火墜とか、雷吼炮より弱い鬼道でも良かったんじゃねぇのって事なんだが。多分それを言った所でまた無表情且つ若干早口で返される。要は俺に怒ってるんだろう。仕方なかったとは言え迂闊に敵に触れた、俺に

『僕が本気で隊士を撃つとでも思った?』

「……ああ」

静かに頷けば盛大に溜息を吐かれた。だって目がマジだったじゃねぇか。

『霊子でコーティングした空弾を撃つつもりだったんだ。だから彼も怪我しないで済む筈だった』

「………え」

そこまで言われて漸く理解する。つまり撃ちはするが殺す気はなかった、と。てか空弾とか使えるなんて知らなかったぞ俺。負け惜しみの様に呟けば独月がくつりと笑った

『これからはもう少し隊長の事を知っておいた方が良いですよ、檜佐木副隊長。二年近くも修行に出てたのにまだまだですね』

「……………」





可愛さ余って憎さ百倍





(あーすっきりした)

(あ、あの……檜佐木副隊長が物凄く恐い顔してらっしゃいますけど……)

(ああ、放っといて良いよ)

((随分良い性格になったじゃねぇかあのチビ……))