こいつを泣かすなら、俺はあんたも恨む
「……隊長」
隊首室に入って来た修兵さんを見る。その表情は、硬い
「雀部一番隊副隊長が何者かと交戦し、殉職なさいました。…これより隊葬が行われます」
『…隊葬、か』
「雀部長次郎忠息は隊長となるべき死神だった」
朽木隊長の言葉に耳を傾ける。目の前には棺。この間、修兵さんと総隊長と僕と雀部副隊長の四人でお茶会をしたばかりなのに
「記録によれば、京楽や浮竹の生まれる以前より卍解を習得していた。だが、護廷十三隊の成立以降は、一度たりともその能力を人前で使うことは無かった」
穏やかな人だった。僕や修兵さんも何度か手合わせをして貰った。その時に、雀部副隊長は卍解出来るのだと知った。
あの人は笑いながら誤魔化していたけど、きっと本当の力は卍解を得て数十年程度の僕じゃ到底敵わないものだったんだろう
「隊長格といえども、人格者ばかりでは無い。雀部の実力を伝え聞いていようとも、戦いに参加せぬ副隊長として、席官程度の扱いとして侮辱する者もあった」
そうだ。雀部副隊長は何時も総隊長の傍に控えていたから、前に出て戦う事はなかった。その為彼は居るだけの副隊長だと貶される事も多かった
「だが、如何様な扱いを受けようとも、雀部長次郎は副隊長としての居住まいを崩すことは無かった」
『……………』
「雀部副隊長って強ぇのかな?」
「さぁ?戦ってるとこ見た事ねぇよ」
「実は俺らより弱かったりしてな」
『………』
それは偶然聞こえてきた会話だった。見たところそんな事を言っているのは席官クラスの霊圧の隊士達。一介の席官が副隊長を侮辱するなんて、あってはならない事だ。
注意しようと彼等の方に脚を向ければ、隣に居た雀部副隊長に肩を掴まれた
「お待ち下さい、桜花隊長。たかが悪口、貴女が気を病む必要はありません」
『ですが雀部副隊長、貴方はあんな事を言われて良い様な人じゃない。僕なんかよりずっと強い貴方が……』
そう言った時、雀部副隊長は屈んで優しく笑った
「貴女がその様に怒って下さるだけで、私は嬉しい。ですからもう良いのです
それに隊長たる者、些細な事で心を揺らしてはなりません。霊圧を揺らせば貴女の副隊長が心配しますよ」
『…すみません…』
確かに僕の霊圧は揺れていた。小さな揺らぎだったけど、多分修兵さんにはばれるだろう。
自分の不甲斐なさに俯けば、優しく頭を撫でられた
「貴女は優しく冷静で、聡明だ。どうか貴女は貴女のままで居て下さい」
『…?……はい』
優しくもないし冷静でも聡明でもないと思うんだが。そう思いつつ、僕は頷いた
「そして隊長が入れ替わり、幾度その座に空席が出ようとも、暫定的な隊長代理どころか、先日まで吉良の就いていた隊長権限代行の座すらも頑として拒んだ。
全てはその苛烈なまでの忠誠心が故」
常に影に徹していた。総隊長を影から支えていた。会えば優しく笑ってくれる、そんな人。
「雀部長次郎は山本元柳斎在る限り、生涯一副隊長であると誓った男。その男が初めて戦いで卍解を使い、そして死んだ。
総隊長殿の痛嘆、我等若輩が推し量るに余り在る」
雀部副隊長の入った棺に火が焼べられた。煙が高く上がる。
煙をじっと眺めていれば、後ろからそっと手を取られた
「隊長、血が出てますよ」
『………あ…』
修兵さんが眉を下げてそう言った。優しく掴まれた左の掌には爪痕がくっきりと残り、血が滲んでいた。知らず知らずのうちに握り込んでいたのか。心配そうな視線を向ける修兵さんから目を逸らし、燃え上がる炎を見る。
赤々とした炎は彼の眠る棺を焼き尽くしていった
隊葬が終わり、隊首室に戻る。総隊長から、雀部副隊長を殺したのは見えざる帝国という賊軍だという事を聞かされた。左腕を奪われ、胸に矢を刺されて最期を迎えた雀部副隊長。彼を襲った見えざる帝国とやらが最近の急速な虚の消滅の原因だとしたら。
恐らく奴等は────────
『……滅却師、か』
雀部副隊長の殉職。流魂街の住人達の失踪。そして急速な虚の消滅。一体奴等は何が目的なのか。滅却師は昔滅ばした筈だし、生き残りとして確認されていたのも石田雨竜だけだった筈。でも総隊長の元に現れたのは複数。つまり過去に狩り残しが居た事になる。今回の賊軍はその狩り残しの子孫達?
でも何で流魂街の住人達を連れ去った?斑目さんと綾瀬川さんは、住人が住人を連れ去った可能性があると言っていた。もしそれが見えざる帝国の作戦だったとしたら。でも連れ去ってどうする?一気に現世に流して霊的バランスを崩すとか?
『…駄目だ、不確定要素が多過ぎる』
頭をがしがしと掻いて思考を止める。憶測であれこれ考え過ぎるのは良くない。先入観があると柔軟な考えが出来なくなってしまうから
「二時間後には隊首会だろ?少しは休憩しろよ、隊長」
『…檜佐木さん…』
机の上に湯飲みが置かれた。見上げれば困った様に笑う修兵さん。あれ、何でそんな顔してるんだろう。首を傾げれば、まぁ飲めよと頭を撫でられた
……ああ、僕が考え事してたからか
『ありがとう』
「どーいたしまして」
湯飲みを口許に運ぶ。温めの緑茶。一口飲むと、不思議と心が落ち着いた。
「なぁ、隊長」
『ん?』
声のした方を見れば、修兵さんがソファに座り隣をぽんぽんと叩いていた。此方に来いってか。湯飲みを持って隣に座る。
『何?』
「今急ぎの仕事はねぇよな?」
考えてみるが、特に思い当たる事はない。書類は修ちゃんと直哉さんがやってくれてるし
『?ないよ』
なのでそう答えれば、修兵さんが小さく頷いた。え、何?その行動の意味が理解出来ず眺めていれば、修兵さんが此方に手を伸ばしてきた。避けずに見ていれば、その手は僕の背に回された。そのまま身体を引き寄せられる。何でだ。胸に顔を埋めされるがままにしていれば、耳許で優しい声がした
「急がなくて良いなら今は休め。隊長じゃなくて独月に戻れよ」
『………?』
何が言いたいのか理解出来ない。眉を寄せていればそれに気付いたのか、修兵さんが笑った
「つまり、泣けってこった」
『…泣く……?』
「そ。悲しい、けど今は仕事中だから泣けねぇって顔してんぞ、お前」
『………』
そっと胸から引き離された。大きな手がゆるゆると頬を撫でる。頬を数回、それから親指の腹で目許を撫で始めた
優しく笑う修兵さんが少しずつ滲んでいく。目頭が熱くなってきた
「今は俺しか居ねぇ。だから、好きなだけ泣きな、独月」
『…………っ』
滲んでいた視界が更にぼやけた。ぼろぼろと熱いものが零れていく。それでやっと自分の状態に気付いた。
『っ……ぅぐ…』
───────泣いている。胸が、痛い。
「泣け泣け。全部俺が受け止めてやる」
大きな手が優しく頭を撫でる。片手で抱き締めてくれている事に酷く安心した。
『っ…あああ…』
そうだ、もう会えないんだ。彼は霊子に還ってしまった。もしかしたらずっと先に現世に転生するかも知れないし、またこの尸魂界に生まれるかも知れない。けど、一番隊副隊長だった雀部長次郎さんにはもう二度と…会えないんだ。
『ああああ…っ』
青鹿さん、蟹沢さん、都さん、海燕さん、市丸隊長、東仙隊長、雀部副隊長。
皆、もう会えない。
もうあの笑みを見る事は出来ない。
あの声を聞く事は出来ない
「ほんと小せぇなぁお前」
「今日の演習頑張りましょうね、独月ちゃん」
「あらちびさぎちゃん、たまには休まないと駄目よ?」
「俺の願いをお前に託す」
「良い子なちびさぎチャンには飴ちゃんや」
「桜花、お前は少し無理をする癖がある。休む事を覚えなさい」
「桜花隊長、そんなに焦らずとも良いのですよ。皆貴女の努力を理解しています」
─────────もう、二度と
『ああ…うあああああああああ……っ!!』
『ひぐっ…ああああっ!』
「…………」
泣きじゃくる独月の頭を撫でる。
ずっと可笑しいとは思っていた。誰かが死んだ時、俺は一度もこいつが泣いている所を見た事がなかったから。
親しい誰かが死んでも、何時もこいつは無表情だった。何時もとは違う、完全に感情の抜け落ちた、無表情。それがこいつなりの悲しみの表現なんだと思ってた。
けど、それは間違ってたんだと今更知った
『うあああっ!あああああ…っ!』
俺の胸元を掴み涙を零す独月を見る。こいつは知らなかったんだ。悲しみの出し方を、知らなかっただけなんだ。それを知らねぇから、無表情になってた。悲しみを押し殺して、ずっとずっと溜め込んで。
そうしてずっと押し潰してきたそれが、雀部副隊長の死で堪えきれずに出て来た。
───────だから泣きそうな顔してたんだな
「ごめんな…辛かっただろ……」
早く気付いてやれば良かった。俺が一番傍に居たのに。
お前が泣けなかったのは、蟹沢と青鹿が死んだ時からか?あの時俺はてめぇの事に手一杯で、お前の事はちゃんと見てやれてなかった
「あの時からずっと、我慢してたんだな…」
『ああああああっ…!』
しがみついてくる独月をきつく抱き締める。獣みてぇに意味もなく声を出しながら泣くのは、泣き方も満足に知らねぇから。縋りたくてもその方法を知らねぇから、どんどん溜め込んでいく。限界になるまで、誰にも言えねぇまま
「これからは俺を頼れよ。全部、受け止めてやる」
寧ろ頼らなくても無理矢理泣かす。きっとそれが最良の方法だ。
こいつは自分の感情に疎いから、俺が促してやった方が確実だろう。
何も聞こえてねぇだろう独月の耳許で、そっと囁く
「泣き方が上手くなるくらい、沢山泣かしてやるからな」
誰かが死んだ時。失敗して泣きたくなった時。悲しくなった時。全部俺が泣かしてやる。涙が枯れるまで泣かして、その後たっぷり甘やかしてやる。
震える独月の小さな背中を撫でた。その頭に頬を寄せながら、窓の外を見る。さっきまで煙の上がっていた空。俺も世話になった雀部副隊長を燃やしていた炎の、煙だった
「…確かにあんたには感謝してる」
独月には聞こえねぇ様に、呟く。こいつに連れられて、良く一番隊隊舎で将棋や囲碁の相手をして貰った。手合わせもして貰った事もある。俺も尊敬してた
───────けど、こうも思うんだ
If this is made to cry, I will also blame you
(こいつの涙を見るのは、好きでもあり嫌いでもある)
(誰かの為に泣いているのを見るとそいつが堪らなく憎く思える俺は……きっと、狂ってる)
修ちゃんの時の涙はノーカン(生きてたし。多分檜佐木が死んだらっていう感情とごっちゃになってたし)
隊首室に入って来た修兵さんを見る。その表情は、硬い
「雀部一番隊副隊長が何者かと交戦し、殉職なさいました。…これより隊葬が行われます」
『…隊葬、か』
「雀部長次郎忠息は隊長となるべき死神だった」
朽木隊長の言葉に耳を傾ける。目の前には棺。この間、修兵さんと総隊長と僕と雀部副隊長の四人でお茶会をしたばかりなのに
「記録によれば、京楽や浮竹の生まれる以前より卍解を習得していた。だが、護廷十三隊の成立以降は、一度たりともその能力を人前で使うことは無かった」
穏やかな人だった。僕や修兵さんも何度か手合わせをして貰った。その時に、雀部副隊長は卍解出来るのだと知った。
あの人は笑いながら誤魔化していたけど、きっと本当の力は卍解を得て数十年程度の僕じゃ到底敵わないものだったんだろう
「隊長格といえども、人格者ばかりでは無い。雀部の実力を伝え聞いていようとも、戦いに参加せぬ副隊長として、席官程度の扱いとして侮辱する者もあった」
そうだ。雀部副隊長は何時も総隊長の傍に控えていたから、前に出て戦う事はなかった。その為彼は居るだけの副隊長だと貶される事も多かった
「だが、如何様な扱いを受けようとも、雀部長次郎は副隊長としての居住まいを崩すことは無かった」
『……………』
「雀部副隊長って強ぇのかな?」
「さぁ?戦ってるとこ見た事ねぇよ」
「実は俺らより弱かったりしてな」
『………』
それは偶然聞こえてきた会話だった。見たところそんな事を言っているのは席官クラスの霊圧の隊士達。一介の席官が副隊長を侮辱するなんて、あってはならない事だ。
注意しようと彼等の方に脚を向ければ、隣に居た雀部副隊長に肩を掴まれた
「お待ち下さい、桜花隊長。たかが悪口、貴女が気を病む必要はありません」
『ですが雀部副隊長、貴方はあんな事を言われて良い様な人じゃない。僕なんかよりずっと強い貴方が……』
そう言った時、雀部副隊長は屈んで優しく笑った
「貴女がその様に怒って下さるだけで、私は嬉しい。ですからもう良いのです
それに隊長たる者、些細な事で心を揺らしてはなりません。霊圧を揺らせば貴女の副隊長が心配しますよ」
『…すみません…』
確かに僕の霊圧は揺れていた。小さな揺らぎだったけど、多分修兵さんにはばれるだろう。
自分の不甲斐なさに俯けば、優しく頭を撫でられた
「貴女は優しく冷静で、聡明だ。どうか貴女は貴女のままで居て下さい」
『…?……はい』
優しくもないし冷静でも聡明でもないと思うんだが。そう思いつつ、僕は頷いた
「そして隊長が入れ替わり、幾度その座に空席が出ようとも、暫定的な隊長代理どころか、先日まで吉良の就いていた隊長権限代行の座すらも頑として拒んだ。
全てはその苛烈なまでの忠誠心が故」
常に影に徹していた。総隊長を影から支えていた。会えば優しく笑ってくれる、そんな人。
「雀部長次郎は山本元柳斎在る限り、生涯一副隊長であると誓った男。その男が初めて戦いで卍解を使い、そして死んだ。
総隊長殿の痛嘆、我等若輩が推し量るに余り在る」
雀部副隊長の入った棺に火が焼べられた。煙が高く上がる。
煙をじっと眺めていれば、後ろからそっと手を取られた
「隊長、血が出てますよ」
『………あ…』
修兵さんが眉を下げてそう言った。優しく掴まれた左の掌には爪痕がくっきりと残り、血が滲んでいた。知らず知らずのうちに握り込んでいたのか。心配そうな視線を向ける修兵さんから目を逸らし、燃え上がる炎を見る。
赤々とした炎は彼の眠る棺を焼き尽くしていった
隊葬が終わり、隊首室に戻る。総隊長から、雀部副隊長を殺したのは見えざる帝国という賊軍だという事を聞かされた。左腕を奪われ、胸に矢を刺されて最期を迎えた雀部副隊長。彼を襲った見えざる帝国とやらが最近の急速な虚の消滅の原因だとしたら。
恐らく奴等は────────
『……滅却師、か』
雀部副隊長の殉職。流魂街の住人達の失踪。そして急速な虚の消滅。一体奴等は何が目的なのか。滅却師は昔滅ばした筈だし、生き残りとして確認されていたのも石田雨竜だけだった筈。でも総隊長の元に現れたのは複数。つまり過去に狩り残しが居た事になる。今回の賊軍はその狩り残しの子孫達?
でも何で流魂街の住人達を連れ去った?斑目さんと綾瀬川さんは、住人が住人を連れ去った可能性があると言っていた。もしそれが見えざる帝国の作戦だったとしたら。でも連れ去ってどうする?一気に現世に流して霊的バランスを崩すとか?
『…駄目だ、不確定要素が多過ぎる』
頭をがしがしと掻いて思考を止める。憶測であれこれ考え過ぎるのは良くない。先入観があると柔軟な考えが出来なくなってしまうから
「二時間後には隊首会だろ?少しは休憩しろよ、隊長」
『…檜佐木さん…』
机の上に湯飲みが置かれた。見上げれば困った様に笑う修兵さん。あれ、何でそんな顔してるんだろう。首を傾げれば、まぁ飲めよと頭を撫でられた
……ああ、僕が考え事してたからか
『ありがとう』
「どーいたしまして」
湯飲みを口許に運ぶ。温めの緑茶。一口飲むと、不思議と心が落ち着いた。
「なぁ、隊長」
『ん?』
声のした方を見れば、修兵さんがソファに座り隣をぽんぽんと叩いていた。此方に来いってか。湯飲みを持って隣に座る。
『何?』
「今急ぎの仕事はねぇよな?」
考えてみるが、特に思い当たる事はない。書類は修ちゃんと直哉さんがやってくれてるし
『?ないよ』
なのでそう答えれば、修兵さんが小さく頷いた。え、何?その行動の意味が理解出来ず眺めていれば、修兵さんが此方に手を伸ばしてきた。避けずに見ていれば、その手は僕の背に回された。そのまま身体を引き寄せられる。何でだ。胸に顔を埋めされるがままにしていれば、耳許で優しい声がした
「急がなくて良いなら今は休め。隊長じゃなくて独月に戻れよ」
『………?』
何が言いたいのか理解出来ない。眉を寄せていればそれに気付いたのか、修兵さんが笑った
「つまり、泣けってこった」
『…泣く……?』
「そ。悲しい、けど今は仕事中だから泣けねぇって顔してんぞ、お前」
『………』
そっと胸から引き離された。大きな手がゆるゆると頬を撫でる。頬を数回、それから親指の腹で目許を撫で始めた
優しく笑う修兵さんが少しずつ滲んでいく。目頭が熱くなってきた
「今は俺しか居ねぇ。だから、好きなだけ泣きな、独月」
『…………っ』
滲んでいた視界が更にぼやけた。ぼろぼろと熱いものが零れていく。それでやっと自分の状態に気付いた。
『っ……ぅぐ…』
───────泣いている。胸が、痛い。
「泣け泣け。全部俺が受け止めてやる」
大きな手が優しく頭を撫でる。片手で抱き締めてくれている事に酷く安心した。
『っ…あああ…』
そうだ、もう会えないんだ。彼は霊子に還ってしまった。もしかしたらずっと先に現世に転生するかも知れないし、またこの尸魂界に生まれるかも知れない。けど、一番隊副隊長だった雀部長次郎さんにはもう二度と…会えないんだ。
『ああああ…っ』
青鹿さん、蟹沢さん、都さん、海燕さん、市丸隊長、東仙隊長、雀部副隊長。
皆、もう会えない。
もうあの笑みを見る事は出来ない。
あの声を聞く事は出来ない
「ほんと小せぇなぁお前」
「今日の演習頑張りましょうね、独月ちゃん」
「あらちびさぎちゃん、たまには休まないと駄目よ?」
「俺の願いをお前に託す」
「良い子なちびさぎチャンには飴ちゃんや」
「桜花、お前は少し無理をする癖がある。休む事を覚えなさい」
「桜花隊長、そんなに焦らずとも良いのですよ。皆貴女の努力を理解しています」
─────────もう、二度と
『ああ…うあああああああああ……っ!!』
『ひぐっ…ああああっ!』
「…………」
泣きじゃくる独月の頭を撫でる。
ずっと可笑しいとは思っていた。誰かが死んだ時、俺は一度もこいつが泣いている所を見た事がなかったから。
親しい誰かが死んでも、何時もこいつは無表情だった。何時もとは違う、完全に感情の抜け落ちた、無表情。それがこいつなりの悲しみの表現なんだと思ってた。
けど、それは間違ってたんだと今更知った
『うあああっ!あああああ…っ!』
俺の胸元を掴み涙を零す独月を見る。こいつは知らなかったんだ。悲しみの出し方を、知らなかっただけなんだ。それを知らねぇから、無表情になってた。悲しみを押し殺して、ずっとずっと溜め込んで。
そうしてずっと押し潰してきたそれが、雀部副隊長の死で堪えきれずに出て来た。
───────だから泣きそうな顔してたんだな
「ごめんな…辛かっただろ……」
早く気付いてやれば良かった。俺が一番傍に居たのに。
お前が泣けなかったのは、蟹沢と青鹿が死んだ時からか?あの時俺はてめぇの事に手一杯で、お前の事はちゃんと見てやれてなかった
「あの時からずっと、我慢してたんだな…」
『ああああああっ…!』
しがみついてくる独月をきつく抱き締める。獣みてぇに意味もなく声を出しながら泣くのは、泣き方も満足に知らねぇから。縋りたくてもその方法を知らねぇから、どんどん溜め込んでいく。限界になるまで、誰にも言えねぇまま
「これからは俺を頼れよ。全部、受け止めてやる」
寧ろ頼らなくても無理矢理泣かす。きっとそれが最良の方法だ。
こいつは自分の感情に疎いから、俺が促してやった方が確実だろう。
何も聞こえてねぇだろう独月の耳許で、そっと囁く
「泣き方が上手くなるくらい、沢山泣かしてやるからな」
誰かが死んだ時。失敗して泣きたくなった時。悲しくなった時。全部俺が泣かしてやる。涙が枯れるまで泣かして、その後たっぷり甘やかしてやる。
震える独月の小さな背中を撫でた。その頭に頬を寄せながら、窓の外を見る。さっきまで煙の上がっていた空。俺も世話になった雀部副隊長を燃やしていた炎の、煙だった
「…確かにあんたには感謝してる」
独月には聞こえねぇ様に、呟く。こいつに連れられて、良く一番隊隊舎で将棋や囲碁の相手をして貰った。手合わせもして貰った事もある。俺も尊敬してた
───────けど、こうも思うんだ
If this is made to cry, I will also blame you
(こいつの涙を見るのは、好きでもあり嫌いでもある)
(誰かの為に泣いているのを見るとそいつが堪らなく憎く思える俺は……きっと、狂ってる)
修ちゃんの時の涙はノーカン(生きてたし。多分檜佐木が死んだらっていう感情とごっちゃになってたし)