『あー…しんど』

「きゅうじゅなーーーな」

「てめぇは湯に浸かってるだけだろうが!てめぇらの面倒看る俺の身になりやがれ!」

「きゅうじゅはーーーち」

『五分置きに移動する身になれ。地味に面倒なんだぞ。そして温泉自体嫌いなんだ。熱いし。何これ拷問?』

「きゅうじゅきゅーーーう」

「てめぇが化物を長ぇ間使ってっからこうなってんじゃねぇか!大体この湯に入れるって事をもっと喜びやがれ!」

「ひゃーーーく」

『化物言うな、藤凍月だ。だから温泉嫌いなんだってば』

「ひゃくいーーぐほっ!!」

「っぶはぁぁぁぁ!!!」

二人組の片方が吹っ飛び、修兵さんが湯から顔を出した。
何これデジャヴ

『お疲れ』

声を掛けたが修兵さんは呼吸するのに必死で此方を見ない。あれ、ちょっと寂しいな
修兵さんはぎっと防護服コンビを睨み付けた

「っはー…はー…っざけんなてめぇら何しれっと百以上数えてやがる!俺ぁ息止め大会に出場中か!?てめぇらその防護服ひん剥いて湯にぶち込むぞ!!おお!?」

『うわぁ、修兵さんがキレてる』

「こんな事されりゃ誰だってキレるわ!てめぇらやってみろ!!」

数男と数比呂とやらの顔面をひっ掴んだ修兵さんが二人を湯の中に押し込んだ
ああ、有言実行ってヤツか

「「ごぼぉっ!?」」

「おいおいまだ一秒も経ってねぇぞ?てめぇらは二百秒だ」

そう言った修兵さんの笑顔が怖い。あれは相当怒ってる。悪魔の笑みに近い

「おい修兵そいつらをてめぇらの基準で勝手に湯に浸けんじゃねぇ!!てめぇらには只の湯でもそいつらにゃ身体を焼く熱湯だ!!」

「へーへー…わーったよ」

麒麟児に怒鳴られた修兵さんが仕方なさそうに数男と数比呂から手を離した。すると二人が飛び上がる様に湯から飛び出す

「ひ、酷い目に遭った……」

「まったくだ……」

「うるせぇよ、てめぇらが悪ぃんだろうが」

「「ぎゃあああ!!」」

文句を言う二人に向かって修兵さんが湯を掛けた。ほんと虐めっ子だなあの人

「てめぇ俺の話聞いてんのかバカヤロー!!」























『たれたれ……』

温泉の縁に引っ付きべたぁっと垂れてみる。

「あー…可愛いな。もうちょいヒント。てかもっかいたれたれって言って?」

『…たれたれ』

「うん、可愛い」

『可愛くない。んー…白黒で、こんな感じ』

くいっと目尻を下げてみる。
修兵さんの笑みが半端ないのは何故だ

「お前が垂れ目でも可愛い事は判った。…ああ、たれぱんだか?」

『正解』

てか良く判ったな。感心していれば修兵さんが少し悩み、思い付いた様に頷く

「じゃあ、これ判るか?」

そう言った修兵さんが頭に手をやりジェスチャー。耳?

『兎?』

「良く見ろ。兎じゃねぇ」

そう言われてまた見る。両方とも少し斜め。耳の動きを表す様にぴこぴこ動く。
てかそのポーズしてる修兵さんが可愛い

『じゃあ犬』

「残念」

『じゃあ藤凍月』

「お、近い」

『え、まさかの』

適当に言ったら何故か近くなった。藤凍月が近い?でもって耳。え、もしかして

『結九十九尾藤凍月?』

「正解」

『普通に判んないから』

僕が使い手だったから判っただけで多分普通に判んないぞ。

「少女よ、血の池地獄へ」

『はいはい』

数男に言われトマトジュースに移動する。もう何回移動した事だろう。
ぶっちゃけもう入りたくない。熱いし。
温度下げられないかな。藤凍月がないから無理か

『ねぇ、藤凍月は?』

「もう準備済みだ。てめぇの準備が整うのを待ってんよ」


ルキアを血の池地獄に投げ込みながら麒麟児がそう言った。準備済み?じゃあ何処かで僕が来るのを待ってるのか。

『後どれぐらい掛かる?』

「てめぇら二人共後一時間ってとこか。だが此処が終わってもまだ鵺には会えねぇ」

『そう。でも最後には藤凍月に辿り着くんでしょ?なら良い』

「くくっ…お前らしいな」

焦っても仕方ないし。そう言えばくつくつと修兵さんが笑った
























「完全に抜けたな。なら次に行け馬鹿共」

『やっと温泉地獄終わった…!!』

「はーっ…良い湯だった」

上がってサラシに手を伸ばす。そういえば誰に死覇装脱がされたんだろう。
考えていれば修兵さんに腕を掴まれた

「ちょっと待てあっちで着替えろ!」

『え、裸の付き合いした癖にそんな事言う?』

「不可抗力だ!早くあっち行け!」

『ヘタレめ……』

てかタオル外してないのに何で顔赤いんだ。仕方なく岩影に移動して着物を着る。隊首羽織を着て岩影から出れば修兵さんはまだ上半身裸だった

『自分は此処で着替えてるし』

「俺は男だから良いの」

『差別だ』

「区別と言え」

上衣を着た修兵さんが腰に風死を差す。藤凍月は何処かで待ってるから此処にはないんだろう。何かないと変な感じだな
何時も柄の見える左肩を見ていれば、修兵さんが不思議そうな声を出した

「飾り紐がねぇ」

「てめぇから鵺の霊圧を吸い出したからだ。あれは侵食の証だからな、鵺の霊圧を取り除けば自然と消える」

『侵食?』

首を傾げれば麒麟児が僕を見た

「不治痛尽をてめぇの斬魄刀に溶け込ませれば、力を得られる分斬魄刀に寄生される。その第一段階が飾り紐だ。
それが付いた奴には傷を与える。鵺の使い手が受けた傷を、内面的な異常を。てめぇの使い手がくたばらねぇ様にな」

『………それが、力の代償?』

「ああ。だがまだそいつはマシな方だ。第二、第三と進めばまず並の奴じゃ生きてられねぇだろうよ」

やっぱり僕は修兵さんを殺しそうになってたのか。
俯けば上から声がした

「俺には丁度良い条件だったから良かったんだけどな」

『「……は?」』

出した声が麒麟児と被った。うわ、ちょっとショック……じゃなくて

『……今、なんて?』

何か物凄く有り得ない言葉が聞こえた。凝視すれば修兵さんが不思議そうに首を傾げた

「だってその条件は藤凍月に最初から聞かされてたんだぜ?力と引き換えに、独月の傷を全部貰う事になるってな」

『……不治痛尽って方の話を聞いてもそう言えるの?』

「お前の斬魄刀は藤凍月だろ?不治痛尽なんて知らねぇしどうでも良い」

そう言った修兵さんが優しく笑って僕の頬を撫でた

「それに────────どうせ第二段階やら第三段階やらになってもお前の痛みを貰うのは出来るんだろ?お前の痛みがなくなるなら、俺はそれで良い」

『………馬鹿』

自然と口から出たのはそんな言葉。どうしよう、この人馬鹿だ。馬鹿って言葉じゃ足りないぐらい馬鹿。
確かに月閉風死のリスクは前に修兵さんに教えて貰ったから知ってたよ?
だからこそ出来るだけ使う状況にならない様に頑張ってきた訳だし。
でもさ、今言える様な台詞じゃないでしょ?
だって藤凍月は、ほんとは不治痛尽って鵺で。力を貸すけどその代わりにどんどん侵食して。
今は違うけど修兵さんは第一段階になっちゃってて
第二、第三は麒麟児の言う通りなら凄く辛いもので。下手したら死ぬかも知れない。
なのに、なのに………

『いだっ!』

急に額に痛みが走った。何これ地味に痛い。
涙目になって見上げれば、修兵さんが呆れた様な顔で僕を見ていた。
呆れたいのは此方だ馬鹿

「うだうだ悩むんじゃねぇよ。俺はお前を護る。判ったか、相棒?」

その言葉に目を見開いた。
自信に満ち溢れた声に、不安を全て吹っ飛ばす様な一言。ああもう、何でこの人は

『……はぁ…判ったよ』

頷けば修兵さんが満足そうに笑う。
もうこの馬鹿何言っても聞かないし、良いや。僕が月閉風死を使わせなければ良い話だし。
そう結論付けていれば、麒麟児が溜息を吐いた

「…予想以上の大馬鹿野郎だな、てめぇは」

「誉め言葉として受け取っとく」

「あーそうかい。おら、準備出来たぞ。さっさと其処に立て」

麒麟児の言葉に思わず頬を引き攣らせる。
そこにあるのはどう見たって梃子
これって黒崎達と同じシーソーコースか。他に方法ないの?

「「セイ、応!!」」

見れば数男と数比呂が跳び跳ねた。
あれ、デジャヴ。

『ちょっ、一言断ってから……!』

「ってめぇら後でぶちのめす!!!」

立っていた床が物凄い勢いで跳ね上がり─────吹っ飛ばされた

『まてまてまてまて首痛いこれマジで何なの!?』

「ちょっ独月此方来い!」

重力に逆らっているからか滅茶苦茶身体が痛い。主に首が。強引に腕を引かれ修兵さんに抱き込まれた
ぎゅっとしがみつくと少し楽になり、周りを見る余裕も出てきた。辺りは空っぽい。現状は取り敢えず、飛んでる

『何処まで飛ぶのこれ……』

「取り敢えずあいつら殴りてぇ」

『確かに』

てか修兵さん首痛くないのかな。
そう思った瞬間────────ふわっ、と

『「は?」』

無理矢理飛ばされる力が薄れた。
つまり、今度は素直に重力に従う訳で

『っまて無理上下の重力は人体が苦手なものって何かの本で読んだ気がッ……うわあああああああああああ!!?』

「うおおおおおおおおおおお!?」

内臓が持ち上がっている。辛い、出る。口から内臓が出るっ!
無我夢中でしがみつくと修兵さんの腕が僕を離した。え、ちょっ何で!?

「ちょっと我慢しろよ独月!刈れ────────“風死”!!」

『きもちわるいぃ………!!!!』

始解したらしい修兵さんが鎖鎌を投げた。それが何処かに刺さり、暫く落下して────────がくん、と強い震動がきた。
背中に力強いものが回される。修兵さんの腕?

「大丈夫か?」

『……とまってる…?』

「おう」

というかぶら下がってる?と言われ上を見上げる。
遥か上の崖っぽい岩場に鎌が刺さってる。あれ風死離すか刺さってるとこが崩れたら落ちるんじゃ………

「取り敢えず上がるか」

捕まっとけ、と言われ大人しくしがみつく。霊子で足場を作った修兵さんが瞬歩で崖の上に立った。
その瞬間─────────修兵さんに放り投げられた

『は?』

何で?
理解出来ず修兵さんを見た瞬間、彼に向かって何かが突撃した

「らっしゃい!!!」

「うおおッ!!?」

『修兵さんっ!?』

着地して慌てて崖を見る。そこには片手でぶら下がった修兵さん
手を貸していれば恰幅の良い女の人が豪快に笑った

「良く来たねぇ独月ちゃん修兵ちゃん!!アタシの臥豚殿へようこそ!!!
おもてなしするよぉ!!!」

『………………』

突撃をかました女の人の言葉に、黙っていた修兵さんが遂にブチキレた

「っ此処の奴等全員もてなすって言葉を辞書引いて線引いて擦りきれるまで読んでこいっ!!!」







おもてなしって何だっけ







(大丈夫?)

(おう)