「ほいさっほいさっ」

『………………』

「美味しくなれなれ」

「………………」

「ほいっとほいっと」

臥豚殿。
両手に調理器具を持ち、料理を作る曳舟桐生さんを唖然として眺める。
次々と作られた料理が広いテーブルにところ狭しと並べられた
何か一品一品量が凄いな

「さっきの湯治といい此処といい普通にもてなすんだな」

『てっきり厳しい修行だと思った』

「俺もだ。…だが食わすだけ食わせて修行させるつもりかも知れねぇぞ」

『……有り得る』

テーブルの前で話していると曳舟さんが口を開いた

「おやおや、あんたらも随分用心深く育っちまったみたいだねぇ。
でもね、要らん心配するんじゃないよ!この臥豚殿は食の宮殿だ
アタシの仕事は此処であんたらを腹一杯にさせる事!
そして、あんたらの仕事は此処で腹一杯になる事さ!」

豪快に笑った曳舟さんがまた料理を増やした。…誰がこんなに食べるんだろう

「さぁ、たらふく食べな!滅茶苦茶に腹減ってる筈だよ!」

その言葉で修兵さんと顔を見合わせる

「そう言われると腹減ってる気もすんな…」

『……食べる?』

「そうすっか」

椅子に座り二人で手を合わせる

「『いただきます』」

小皿に適当な料理をよそって食べる。修兵さんも一口食べて目を瞬かせていた

「美味い」

『ん』

凄く美味しい。ぱくぱくと食べていれば曳舟さんが笑った

「しっかり食べるんだよ、アタシはデザート作ってくるからね!」

そう言って曳舟さんは奥に消えていった。此処の厨房ってどれぐらいの広さなんだろう。

「確かに飯は美味ぇけど……これは何だ…?」

隣の修兵さんが見ていたのは、アレだ

『……蝶になる生き物』

「良い言い方したなお前」

修兵さんが箸で摘まんだそれを口に放り込んだ。え、食べたよこの人。
見ていれば咀嚼しながら一つ頷く。
飲み込んだらしい修兵さんが口を開いた

「見た目はアレだが美味いぞ。嫌なら俺が食おうか?」

『や、一つ食べてから決める』

そう修兵さんに返し、自分の皿の上で横たわっている緑色を箸で摘まんだ。
蝶になる生き物はご臨終なさっているらしく、されるがまま
大丈夫、これは蛹になるアレじゃない。
葉っぱだ。何かのハーブだきっと

『……これは葉っぱこれは葉っぱ』

「おい独月そんなに無理しなくても……」

『葉っぱ。葉っぱ』

何でも口にせずに嫌うのは失礼に当たる。お爺ちゃんとお婆ちゃんがそう言ってた。
気合いを入れつつ口の中に放り込んだ。
思いきって噛んでみる。すると口の中に広がる旨味。思わず目を瞬かせた

『…あれ、美味しい……?』

「だろ?」

そう言いつつ修兵さんが僕の皿から葉っぱ(仮)を取った

『修兵さん?』

「美味くても見た目で食いたくねぇんだろ?一個食ったから十分だ。後は俺が食ってやるよ」

『…ありがと』

「どーいたしまして」

小さく笑った修兵さんがまた葉っぱ(仮)を食べる。食べ方綺麗だが食べてる物がえげつない。…うん、見てない事にしよう

「此処までで十分休憩したって事は、そろそろ次が修行かもな」

『お風呂で怪我を治して、ご飯食べて……眠れたら一番良いけど』

「流石にそれは無理じゃね?」

修兵さんに釣られて僕も笑う。まぁ麒麟児と曳舟さんのお陰で身体的な面ではもう準備万端だ。後は藤凍月の所に行くだけ

「流石に隊長副隊長ともなると、何も言わなくてもちゃんと理解出来る様だねぇ」

その言葉に顔を向けて……修兵さんが噎せた。慌てて水を渡しながら背中を叩く。
誰だあの乱菊さんタイプの女の人。曳舟さんに似てる気がするがきっと気の所為だ

「これは一護ちゃんと恋次ちゃんにも話したんだけどねぇ……アタシらのやってる事は、普通の修行までの準備の流れと何も変わりゃしない。
ただしそれを“霊王のスケール”でやってるってだけの事」

声からして多分この人曳舟さんだ。あれ、でも何であんなに激痩せした?しかもこんな短時間で?
……この料理と関係あるのか?

「アタシらの“儀”には霊王様の力と尸魂界百万年の歴史の全てが詰まってる。瀞霊廷での“治療”とも“食”ともまるで別の階級にあるのさ」

『ふぅん………』

頷けば曳舟さんに頭を撫でられた。

「今はしっかり身体を作んな。次の宮で死なないようにね
さっ、判ったらとっととデザートを食うんだよ!」

出されたのは巨大なケーキ。
あ、修兵さんが復活した

「…あんた…料理作ったら痩せんのか…」

あー苦しかったと呟く修兵さんを見て曳舟さんが目を見開いた

「修兵ちゃんは鋭いねぇ……そう、アタシは料理作るのに全霊圧使い切るから、全品作り終えると毎度激痩せしちゃうんだよねぇ。
だから普段は出来るだけ太ってないと身体保たなくてねぇ」

一護ちゃんと恋次ちゃん送り出してから太るの大変だったんだよ?と曳舟さんは豪快に笑った。

「そういや独月、お前今日有り得ねぇ程良く食うな」

『へ?…そういえば……』

修兵さんに言われはたと気付く。確かにそうだ。大皿に盛られた料理をほぼ半分平らげた。普段ならお皿の三分の一も食べられないであろう量を。
なのにまだ空腹感は存在している。何故

「そりゃあんたの霊圧が高いからだよ」

曳舟さんの言葉に耳を傾ける。
霊圧が高い?そりゃ仮にも隊長だから普通の隊士よりは高いと思うけど。
そう言うと曳舟さんはそういう事じゃないよと首を横に振った

「この料理は食えばその分だけ力になる。欲しがるだけ霊圧が高いって事さ
それに今のあんた達は不治痛尽を剥ぎ取られちまってるから、本来の霊圧が戻ってきてるんだろうねぇ」

「本来の霊圧?」

「未完成なまま使われれば不治痛尽にも負担が掛かる。だからその分をあんた達の霊圧で補ってたのさ」

取り敢えず未完成なまま使いまくってごめん藤凍月。てか未完成だって事すら知らなかった。

『僕が完成させたらもうそんな事はなくなるの?』

「恐らく、ね。今までに不治痛尽が其処まで従ったなんて話聞いた事ないからねぇ、アタシにも判んないのさ」

『……そっか』

なら取り敢えず今は食べよう。確かに不安だけど、どうせ逃げられないんだ。ならば腹を括るしかない
同じ考えらしい修兵さんがにっと笑った

「っし、独月デザート食うぞ」

『ん』





























「気を付けるんだよ。さっきアタシは、アタシらの“儀”には尸魂界の歴史が詰まってるって言ったろう」


──────独……

曳舟さんの話を聞いていると声が聞こえた気がした

『え……?』

不意に辺りを見渡す。けれど姿はない。


──────独月。此方だ、独月


──────我が名を呼べ



確かに聞こえた。赤色と銀色の声だ。
頭に直接響く様な声に、応える

『……藤凍月』

その名を口にした瞬間─────────世界が白んだ













そして彼女の試練は始まる














(独月っ!?)