『………?』

目を開けると一面に氷の世界が広がっていた。此処は僕の精神世界だ。あれ、どうして此処に?

「起きたか、独月」

名を呼ばれ振り向き、首を傾げる。後ろに居たのは赤茶色の毛並みの狐ではなく、男の人。白い飾り毛の付いた兜を被り、扇子を手に持っていた。腰には赤いラインの入った白い銃
あの姿は一度だけ見た事がある

『……赤色?』

「ふん、判らねば打とうと思ったが」

『や、叩くなよ』

絶対その扇子で叩くつもりだろ。睨めば赤色は小さく笑った。
それから急に真面目な表情になった

「我等が此処に貴様を呼んだ理由は、判っているな?」

『藤凍月を完全に従える為……というか藤凍月をもっと理解する為』

「は?」

目を見開いた赤色が僕を凝視する。こんな顔するなんて珍しいな。見つめていれば我に返った赤色が眉を寄せた

「ふざけるな。貴様は不治痛尽を消しに来たのだろう」

今度は僕が眉を寄せた。何でそう解釈したんだこの狐

『藤凍月は僕の相棒だ。だから消したりしない』

「……ならば貴様の斬魄刀はもう戻らぬぞ。それでも良いのか?」

『僕は藤凍月以外の相棒を知らない。だから、良い』

そう言った時、赤色はゆるゆると首を横に振った

「いや、貴様は知っている。何故なら───」

『!!』

不意に背後から刺す様な殺気を向けられた。反射的に飛び退けば、今まで僕が立っていた場所が粉々に砕けた。原因は刀。刀身の長い、鍔が二つ付いた真っ白な………

『……銀、色…?』

銀髪の男の人の名を呼べば、彼はゆっくりと顔を上げた。月の様な瞳は血の様な赤に染まり、恐ろしい形相で僕を睨む
そんな銀色を見つめながら、赤色は言った

「貴様の本当の斬魄刀は、奴一人だからだ」
























「独月!独月っ!!」

氷の中、眠る様に目を閉じる独月に必死に声を掛ける。けど返事はねぇ。何でこんな事に。これが藤凍月の試練だってのか?

「おい曳舟さん!独月は……」

「落ち着きな。その子は不治痛尽とケリ着けに行っただけさ」

氷を撫でた曳舟さんが目を細める

「まぁこの子の場合、不治痛尽と自分の斬魄刀の二本とケリを着けなきゃなんないけどねぇ」

「二本……?」

曳舟さんの言葉に首を傾げ、思い当たる事に気付き目を見開いた。
独月の藤凍月。具象化は──────赤茶色と、銀色の二匹の狐

「まさか…あいつらのどっちか片方が不治痛尽で、片方が本当のあいつの斬魄刀だってのか!?」

聞けば曳舟さんは感心した様に頷いた

「頭の良い奴は勝手に察してくれるから助かるよ。そうさ、あの子の斬魄刀は不治痛尽に喰われても尚、生きてるんだよ」

























────────私は待つ。
貴様が、私に気付くまで。
私の名を、私の存在を、貴様が知るまで。
得体の知れぬ化物に私は喰われた。
だが未だにあの化物の力を奪い、共存する形で私は生きている。
そう、私は生きているのだ
貴様が藤凍月と呼ぶ存在など本来ならば有り得ない。
私が貴様の斬魄刀なのだと。
隣に居る狐は私を喰らう事でその身を変えた鵺なのだと。
貴様に会ったあの日から、何度もそう言いたかった。
だが藤凍月という斬魄刀を信じた貴様にそんな事は言えなかった。
我等に笑みを向ける貴様にそんな事は言いたくなかった。
だから、貴様が藤凍月という斬魄刀に疑問を抱くのを待った。
二刀一対とも違う特殊な形状。持ち主に平然と意見する特異さ。
それを何時かは疑うと、思っていた。
だが貴様は我等に疑いを持つ事はなかった。
藤凍月の本当の名を知らされても、揺らぎは消えた。
そして確かに言ったのだ。
私を、要らぬと


























「許さない……!!」

『っ破道の六十三・雷吼炮!』

「私は貴様を許さないッ!!!」

怒号と共に振られた刃が腕を掠った。刹那繰り出される第二撃。躱しきれず、腕を斬られた

『っ…!』

飛び退けばすぐその俊足で追い付かれる。防ごうにも居合のスピードが速すぎて目で追えない。瞬く間に身体中が傷だらけになっていく

「私は…!私は貴様を待っていたのに!!ずっと貴様が…本当の斬魄刀は私なのだと!気付くのを待っていたのに!!」

『……ぅ…ぐ…!』

「貴様はッ!気付かぬ処か私を不要だと…!!私を要らぬとそう言ったのだ!!」

『!!』

力任せに振られた刃を防ぐ。銀色の瞳から、血が流れていた。涙、か?ぎちぎちと刃が噛み合う中、銀色は涙も拭かず叫び続ける

「貴様を許さない……!!今この場で貴様を殺し、不治痛尽も斬滅する!」

『…………』

哭いている。心も、身体も。
僕はそれだけ酷い事をしてしまった。ずっと傍に居てくれたのに、ずっと助けてくれていたのに。
僕はその存在を理解する処か、知らないと。彼の事を、要らない、と

『……僕を殺せば、気が済むの?』

そう訊くと、一瞬銀色の刀が震えた

「嗚呼そうだ!!今すぐその頭を垂れろ!私に首を差し出せ!!」

『…素直に死ぬよりは、隊長として戦って死にたい』

「…ならば望み通り斬滅してやるッ!!」

『ああ』

振り払い、藤凍月を構える。

『虚空に色付け───“藤凍月”』

拳銃と長刀になった藤凍月を構える。もっと早くこの斬魄刀に違和感を抱いていれば、銀色にこんな想いをさせなくて済んだんだろうか。
銀色が刀を咥えた。頭部を黒い靄の様なものが覆い、両腕に赤い光。
赤い霊圧を纏った拳から逃げる為、拳銃を乱射して距離を取る。銀色の腕が掠った地面は抉れていた。それだけ、僕が憎いんだろう。
その姿に胸が痛む
──────銀色は、どんな想いでずっと僕に力を貸していたんだろうか

「死ねぇッ!!!」

『鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し────縛道の七十五・五柱鉄貫!』

「邪魔だ!!」

斬り掛かろうとする銀色を封じようと鬼道を使えば、握った刀で斬り捨て向かってくる

『破道の七十三・双蓮蒼火墜!』

「斬滅!!」

鞘を口で咥えた銀色が刀を振り上げた。其処から放たれる紫の衝撃波。それは容易く青い爆炎を斬り裂いた。

『っぐ……!!』

衝撃波を躱した瞬間、前方から伸びてきた腕に掴まれ、壁に叩き付けられた。
そのまま胸倉を掴まれ宙吊りにされる

「懺悔しろ。詫びて私に首を差し出せ!」

『……、…』

目の前で泣きながら僕を憎む姿が、僕自身と重なった。寂しくて、辛くて、泣きたくて。その姿は大切な人を失くしたみたい
きっと僕も、あの人を失えばこうなってしまうんだろう。

『……ああ…そうか…』

浮かんだのは澄んだ色の月。舞い散る銀色は、羽根だ。
きっと真っ直ぐだから僕に怒りをぶつける事しか出来ない、彼の名

「……?貴様…何故笑っている…!」

低く唸る銀色にそっと笑い掛ける。銀色がそんなに怒って僕を憎んでいるのに、泣いているのは

『気付いてやれなくて…ごめん…』

それだけ銀色が僕を好いていてくれたから。

『……やっと…判ったんだ……』

斬魄刀は死神と一心同体。銀色の為に死ぬのは、間違ってる
正しいのは、きっと

『……刹那、滅殺……』

「………!!!」

目を見開いた銀色の解号を唱え、声に乗せる。
ずっと彼が待ち望んでいた言葉を

『待たせてごめんね………“銀翼澄月”』

「……っ…やっと…!私の名を…!!」

途端に銀色の目から赤が消え、何時もの月の瞳に戻った。ぎゅっと抱き締められ、小さく笑う。
子供みたいにギャン泣きしてる辺り今までの銀色のイメージとは違うが、これが本当の彼なんだろう

「…私はまだ貴様を完全に許した訳ではないからな…っ」

『ん。許さなくて良いよ。まだ銀色の卍解も会得してないし』

銀翼澄月の卍解を会得してこその完全な償いになるんだろう。だからそれまでは、僕を許さなくても良い。
そう伝えれば銀色が首筋に顔を押し付けてきた。
あんまりぐりぐりするとその前衛的な髪型崩れると思うんだが大丈夫か?

「……漸く名を知ったか」

『…赤色』

今まで傍観していた赤色が静かに近付いてきた。その表情は何処か寂しげで

「ならばその斬魄刀で俺を斬れ。そうすれば俺を貴様から切り離せる」

『………』

「貴様にならば、大人しく斬られてやる。ほら、早くしろ」

手を広げた赤色に向かって、はっきりと答えを返した

『断る』

「「は?」」

赤色だけじゃなく銀色まで声を上げた。
え、何で?
首を傾げればまた涙目の銀色が眉を吊り上げた

「貴様…!また私を要らぬと言うつもりか!?」

『何であんたはそう被害妄想ばっかりするんだ……。違うよ、僕の斬魄刀は藤凍月だろう?なら赤色も銀色も必要だ』

「だから俺は……」

『僕の相棒は赤色と銀色だ。文句あるか』

何か言おうとする赤色を黙らせる。
不治痛尽とか物騒な名前の斬魄刀なんか知らん。
僕の事をずっと支えていてくれたのは赤色と銀色だ。
だから僕にとっての藤凍月は、この二人なんだ

「…つまり、貴様は俺にまた銀翼澄月に寄生しろと?」

赤色の問いに悩む。
銀色は何か訴える様な目で僕を睨んでいた。
うーん、銀色も寄生されるのは嫌みたいだし、どうしようか。
そう考えてふと赤色を見て、その手に握られた扇を見る。そしてぽんと手を打つ
良い事考えた

『他の物に寄生出来る?』

「?物にもよるが…大体の物になら寄生出来るぞ」

『じゃあ………』

懐からある物を取り出す。
結構前に直哉さんから貰った、先にふわふわの白い毛が付いた扇。確か戦闘にも使える鉄扇だった筈

『今日から赤色はコレに入って』

「神遊扇か……」

名前らしきものを呟いた赤色が鉄扇に触れる。淡い光が灯った金具の部分から下げ緒が垂れた。
同時に手に持っていた藤凍月の始解が解ける。斬魄刀の下げ緒は消えていた

『…もう藤凍月は使えないの?』

やっと解号の意味が判ったのに。
呟けばぐりぐりと頭を撫でられた。見上げれば赤色が馬鹿にした様な表情で僕を見ていた

「俺を勝手に生かしておいて、もう使わぬつもりか?馬鹿にも程があるのだよ」

『へ?』

首を傾げれば銀色がすっと僕から離れた。泣いて赤くなった目を細めて、彼は笑う

「名を呼べ、独月。我等の名を」

『……虚空に色付け──────“藤凍月”』

呼んだと同時に赤色が持っていた神遊扇が光り、斬魄刀と鎖で繋がった。斬魄刀は鍔が二つ付いた真っ白な長刀になり、扇は銃と刀が合体した様な武器になった。
どちらにも以前の様に下げ緒が付いている

『これ………』

「名を呼ばれた銀翼澄月が俺に喰われる事はもうない。寄生はしていないが、銀翼澄月とは藤凍月として繋がっているという事だ」

赤色がすっと銃剣を指す

「銃剣とその仮面は貴様が俺の解号を理解したから得たものだ。上手く使えよ、馬鹿」

「私の名を呼べば私のみが始解する。藤凍月を呼べば我等が二人始解する」

「簡単に言えば斬魄刀が増えたのだと考えれば良いのだよ。難しくはないだろう?」

『……要は戦術が増えた、と』

「「ああ」」

天使と悪魔の羽がそれぞれ生えた双振りの刀を見る。見た目はゴツいのにこの銃剣軽いな。これなら二刀流でも行けそうだ。
刀の重さを確かめて、頭の右側に着いたなんだか固いものに触れる。何これ鎧?触っていればあっさり動いた。右側頭部からスライドしたそれがかぽっと僕の顔に被さる。

『これは?』

「虚の仮面だ」

赤色の言葉にぎょっとする。それやばいじゃん僕。確か内なる虚って力ずくで押さえ付けないといけないんじゃなかった?
訊けば赤色が頷く

「ああ。名を呼んだ事で銀翼澄月は虚を取り込んだ。俺の解号を理解した事でその力を自在に使える様になっただけの事」

「元々小僧が貴様の虚を再起不能なまでに痛め付けていた。故に貴様が屈伏させずとも済んだ」

え、何したの修兵さん。あんた再起不能ってどんだけ痛め付けたんだ
苦笑いしつつ、赤色に訊ねる

『…じゃあ大丈夫なのか。三分以上いける?』

「ああ。それも始解の一部だと思えば良い」

…何かかなりパワーアップしたな。勿論前の藤凍月も強かったのに、何かもうこの藤凍月は次元が違う。常時虚化とかどんだけだ
仮面をまた元の位置に戻す。ふと思い立ち、長刀をくるりと回転させてみる。もう一本長刀が出てきた。
ふよふよ浮いている刀に指示を出す

『…化けろ─────“風死”』

すると現れた長刀が変則的な形をした真っ白な鎖鎌になった。ああ、化ける能力は健在なんですね

『どうしよう、持てない』

「以前の様に片方だけ化けさせれば良いだろう」

『………………』

赤色の言葉に頷きつつ、銃剣に霊圧を込めてみる

『縛裟氷映』

振れば氷の波が辺り一面を覆った。え、何この威力。ぽかんとしていれば赤色に頭を叩かれた

「常時虚化をした状態だと言っただろうが。忘れたのか、馬鹿」

『………マジか』

ちょっとチート過ぎやしませんか、これ










虚ろな空に自在に色を付ける








(難しいな…)

(そのうち慣れるだろう)






この話から銀翼澄月(BASARA三成)は独月を貴様呼びになります。そして性格も過激化。要は名を呼ばれて二人揃っての『藤凍月』ではなく『銀翼澄月』としての本来の自分を取り戻したと考えて頂ければ。
勿論無双三成も長い間独月の斬魄刀になっちゃってるので、性格的に彼女と似ている部分はあります。
BASARA三成は独月の妄信的な激情を、無双三成は独月の冷静な感情を表しています
因みに独月は周りとは違い解号の意味を知りませんでした。知るも何も勝手に手元に現れた斬魄刀だったので