『銀色』

「何だ」

取り敢えず治療しながら銀色を見る。彼は通常運行の無表情で僕を見た

『居合を教えて欲しい。あと歩法も』

「居合は構わないが歩法など私は知らん」

『え』

じゃあ何であんなデタラメなスピード出せたの?何か特殊な瞬歩使ってるんじゃないの?
そう訊けば銀色は表情を変えず答える

「私は只走っただけだ」

『………マジか』

今しれっと凄い事言ったぞこいつ。走っただけで朽木隊長の閃花並みの速度?あんたどんだけ速いんだ。つかその痩せた身体の何処にそんな力があるんだ

『じゃあ歩法は自分でどうにかする。赤色、僕に銃剣の使い方教えて』

「ふん、良いだろう」

扇を開いたり閉じたりしながら赤色が鼻で笑った。あんたはその人を馬鹿にした感じをどうにか出来んのか。
粗方深い傷を塞いで立ち上がる。此方を見る二人に頭を下げた

『ご指導、宜しくお願いします』

























「……独月…」

「はぁ…アンタは此処じゃこの子が気になって修行が出来ないみたいだねぇ」

曳舟さんの言葉を左から右へと聞き流す。当たり前だろ、こいつは俺の相棒なんだ。
氷の中で目を閉じる独月を眺めていると、がしっと

「………え?」

「良し!アンタは尸魂界に戻すよ!」

「は!?」

襟首を掴まれ、ぶん投げられた。や、ちょっと待てこんなのアリかよ!

「アンタは会得しなきゃならないモンがあんだろ?もうアンタが此処でしなきゃなんない事は終わったし、独月ちゃんはアタシが面倒見るから修兵ちゃんはあっちで頑張りな!!」

「ちょっと待ててめぇ……!!」

投げられた先の何かに為す術もなく吸い込まれる。笑顔で手を振る曳舟さんに怒鳴った

「てめぇマジで覚えてろッ!!!!」






















がんっ

「〜〜〜〜〜ッ!」

顔面を床に叩き付け悶絶する。痛ぇ、特に鼻が。痛過ぎて涙出てきた。鼻を押さえて蹲っていれば扉の開閉する音が聞こえた

「…修兵?何やってんだ?」

「……なんでもないです…」

聞こえてきたのは低い声。涙を拭いて立ち上がれば怪訝そうな顔をした拳西さんと目が合った

「戻ってきたのはお前だけか?」

「はい。隊長は今修行中です」

氷の中に閉じ込められた独月の姿を思い出す。芸術品みてぇに綺麗で、あいつはもう二度とあの氷の中から出てこねぇんじゃねぇかって、怖くなった。

「俺は…もうやる事がねぇって…集中出来てねぇから帰されました」

「そうか……着いてこい、修兵」

「へ?」

いきなり何処行くんだ?
首を傾げていれば、扉に手を掛けた拳西さんが俺を見た

「着いてくりゃ直ぐに判る」
























人気のない森の中。

「…何すか?こんな所に連れてきて…」

前に佇む拳西さんが俺を見て、言った

「修兵、卍解しろ」

「え…?」

卍解?いや待てマジで?拳西さんにふざけた様子は一切ねぇ。って事はマジか

「今回は俺も隊長も卍解は奪われなかったが、次もそうだとは限らねぇ。卍解出来る奴は少しでも多い方が良い」

「!」

拳西さんの言葉に合わせる様に空から誰かが降ってきた。このスカーフ…久南か

「虚化しろ白!」

「はーーい!へーんしんっ!」

元気良く返事した久南が仮面を付ける。待て、激しく嫌な予感がする

「気を付けろよ。虚化した白は強ぇぞ
死なねぇ為には卍解を修得するしか無ぇと思うぜ」

「ちょっ…待て、久南!」

向かってこようとする久南を止めつつ此方を見つめる拳西さんに声を掛ける

「拳西さん!そんないきなり──────」

ゴッ

反射的に半歩下がったが、ボディブローが入った

「げほ…っ」

いってぇなこのアマ。虚化でんな攻撃しやがって。血ぃ出たじゃねぇか。
睨み付ければ久南が俺を指差した。人を指差すんじゃねぇよ馬鹿

「ダメだよォ〜〜ッ!副隊長がスーパー副隊長に逆らっちゃダメなのだーー!」

「…スーパー副隊長…?」

其処で突き付けられた“SUPER”の文字が入った副官章。おい何面倒な事してやがる。只でさえ三席が二人の隊なのに意味判んねぇふざけた階級増やしてどうすんだ。余計ごちゃごちゃなんじゃねぇか。
独月が戻ってきたら絶対スーパー副隊長なんざ廃止にさせてやる

「…馬鹿野郎、気を付けろって言ったろ」

口許を拭っていれば聞こえた言葉。拳西さんの声に顔を上げる。

「本気で殺しゃしねぇと思ってんじゃねぇだろうな?俺は東仙や独月みたいに甘かねぇぞ」

──────その言葉で俺の中の何かが切れた

「…待って下さいよ…六車元隊長」

敢えて元を強調すれば拳西さんは眉を上げた。それを知りながら言葉を続ける

「あんたは俺の憧れだったし、尊敬もしてる」

百年前、あんたは俺を助けてくれた。だから今の俺が在る。此処に居る

「だけど…」


「自分の握る剣に怯えぬ者に剣を握る資格は無い」


俺に剣を教えてくれた。怖れを抱く事の大切さを教えてくれた。


『…背中、任せます』


何時も俺の傍に居てくれた。俺の全てを受け止めてくれた

「東仙隊長と独月を……桜花隊長を悪く言われる筋合いは無ぇぞ…!」

──────怒り睨み付ける俺を、拳西さんが何とも言えない表情で見下ろしていた
























『……ん…?』

「どうした、独月」

『……いや…』

銀色に首を横に振る。多分気の所為だろう。すっと目を閉じ、気分を落ち着かせる

『……修兵さんが、怒ってる気がした』

浮かんだのは黒い背中。あの人も今修行をしてるんだろうか

「貴様がそう感じたのならば、そうなのかも知れんな」

『赤色……』

「我等は奴の斬魄刀とも融合していた。我等の持ち主である貴様が奴の断片的な激情を感知しても、何ら不思議な事はない」

つまり風死と融合した事があるから、持ち主同士で感情を感知しても可笑しくない、と。

『何気に凄いな』

「何を今更。貴様等は前から感知していただろうが」

『え』

銀色の言葉に目を瞬かせる。え、そうなの?でも今考えると修兵さん楽しそう、とかふと感じる事がこれまでに何回かあった気もする

「奴が怒っているのなら、その激情に呑まれぬ様にしろ。まだ貴様では細かい調節は出来ん」

『ん……』

酷く荒々しい波。普段冷静な修兵さんからすれば考えられない程尖ったそれが、気を抜いた瞬間胸の内に浮上する

『大丈夫。修兵さんなら、大丈夫』

呟いて、チョーカーに触れる。あの人ならきっと大丈夫だ。一度目を閉じて、ゆっくり開ける。まだ荒々しいそれはあるけれど、大丈夫

『続き頼む、銀色』

「ああ」








離れていても繋がっている