僕が昔住んでいた所は、治安が良くなかった。
お金は勿論持ってなくて、飲み水を強欲商人から奪い取ったり食べ物を盗んだり、取り敢えず生きる為なら何だってした。


夢で銀色の狐と赤茶色の狐と話をしたその日から手にした日本刀で、人も沢山傷付けた。
この時僕は、空腹になる事を疑問視した事はなかった


暫くして、別の地区で僕を拾ってくれたお爺ちゃんとお婆ちゃんも、食べ物を口にしていたからだ。
その頃の僕は無知で。
虚の事も死神の事も……僕に霊力がある事も、知らなかった























ある日僕は、流魂街から少し離れた森に向かっていた
理由は、怪我に良く効く薬を作る為の薬草を摘む為。
最近では此処に薬草を摘みに来る事が多くなったから、すっかり道も覚えてしまった。
鬱蒼と茂った緑の中をすたすた歩く。
少し歩けば何時も薬草を摘む場所に出た。
繁茂する緑の中から、捜していた物を見付ける。似た様な物もあるけど、それは毒草だから気を付けなければ。


『ふぅ………』


座り込んで作業していた手を止めた。そしてこんもりと籠の中に積まれた薬草を見る。
取り敢えず沢山摘んだ。こんだけあれば暫くは大丈夫でしょ
空を見れば、既に日が傾きかけている。
…あれ、僕が此処に来たの真っ昼間だったんだけど。
どんだけ薬草摘みに夢中になってたんだ、僕。
もう暗くなるし、早く帰ろう。
まぁ日本刀を持ってるから、そう簡単には危ない目に遭わないとは思うけど。
そんな事を呑気に考えていた時、それは響いた












─────────オオオオオオオオ!!












『っ!!』

突然聞こえてきたのは、鼓膜が破れそうな大音量の、何か
……何だ今の。声?












────────オオオオオオオオ!!











また、聞こえた。
何か凄く近くから聞こえた気がする。
うん、気の所為だ。
でも念の為、そーっと振り向いてみる


『………………』


……居たよ、後ろに
何か魚みたいな骸骨みたいな顔した、変なのが。
あんなの此処らには居ない筈。
だって、あんな生き物みたら一生忘れないと思うし。てかあれ生き物?
うん、何て言うかあれって


『……化け…もの………』


口から出た言葉は予想以上に掠れていて、まるで僕のものではない様だった。
耳が痛い。足も震えてる。胸の辺りもざわざわする。


何だこれ、怖い


意識したら余計に怖くなって来た
じり、と後退りした時、背中に背負った日本刀───────藤凍月が、かちゃりと音を立てた。その音ではっとする。
取り敢えず、逃げないと。
幾ら刀を背負ってたって、適当に振り回してるだけの剣術じゃ、到底こんな化け物からは逃げ切れやしない。
腰を上げようとした瞬間、真っ黒な眼窩と目が合った


『…ぅ…あ…』


────────────死ぬ
目が合った瞬間に浮かんだ、死のイメージ。
喰われる?殺される?
絶対に逃げ切れない。汗が噴き出す。浮かせかけた身体が尻餅をついた。
動けない僕に向かって、化け物がその丸太みたいに太い腕を振り上げた。
ああ、僕は此処で死ぬのか。