腹を斬り裂かれたマスキュリンがゆっくりと倒れていく。
それを見つめていた独月が背中に現れた鞘に斬魄刀を戻そうとした、その時

「────────むんっ!!!」

『「……は?」』

目の前で起きた荒業に、ぽかんと口が開いた。
────────力を入れる事で、無理矢理傷口を閉じたのだ。
や、可笑しいだろ。腹かっ捌かれてそれを力ずくで塞ぐなんて
独月も目を丸くしてマスキュリンを見つめていた

「ワガハイは死なんぞ…!!ワガハイはあああ死なんのだあああッ!!!!!」

吼えたマスキュリンを見つめる独月が目を細めた。…あれ、なんか面倒そうな顔してんな

「スターが悪党にやられて…死ぬなど有り得んのだあああ!!!!」

一頻り吼えたマスキュリンがばっとある方向を見た。
そして転がっているそれに声を掛ける

「そうは思わんか!?ジェイムズ!!!」

それはさっき独月がバラバラにしたジェイムズ。や、幾ら何でもそこまで刻まれたら生きてねぇだろ。それで生きてたらマジでプラナリア説が浮上する
そんな事を考えていると────────









「勿論さーー!!!!」








「…おおう…」

『…ほら、あいつプラナリアだ』

「や、ゾンビじゃね?」

声を出したのはジェイムズの口。斬られて転がっていた口の中から、小せぇ何かが這い出してきた。
這い出してきたり、斬られた部分から生えてきたり。
……うわぁ

『……刻んで失敗だったかも』

独月も盛大に顔を引き攣らせていた。
うん、ドン引きしても差し支えはねぇと思う

「…確かプラナリアって切った分だけ増えるんだっけ?」

『そんな感じだった気がする…』

「……てか、隊長」

『何?』

「俺、嫌な予感がします」

もそもそ増えるジェイムズを見つめながら、自分の頭に浮かんだ嫌な予感に冷や汗をかく。
あいつ、マスキュリンの能力は声援による回復と、強化。
仮に、声援の数だけ回復や強化の幅の上がる能力だとしたら

「頑張ってー!」

「フレー、フレー」

「ス・タ・ー!!」

次々と出てきたジェイムズが応援を始めた。それが嫌な予感を的中させている気がして、また冷や汗が増える

「頑張って下サイスーパースター!!」

「がんばーれ、がんばーれ!!」

「応援してマスよ、スター!!」

大量のジェイムズから声援を受けたマスキュリンが身体を震わせ始めた。
…ああ、やっぱり予感が当たっちまった

「ううううおおおおおお!!!!!!エネルギーを感じるぞおおおッ!!!!!!」

雄叫びを上げながら、マスキュリンの只でさえでけぇ身体が更にでかくなっていく。
服が破れ、やたらと筋肉質な身体が現れた

「……うわぁ」

強化が終わったらしいマスキュリンがニカッと笑う。
更に筋肉質になった身体はまだ判る。だがこう…乳首やら胸毛やら色んなもんが星形なのは何でなのか
覆面まで新しくなってるし

「スターパワーアップ、完了!!」

そう宣言したマスキュリンがビシッと独月を指差した

「もう貴様の時代は終わりだ!!さっさと死ね!!!」

『人に指差すな』

「何処もかしこも星形なのは突っ込んで良いのか?」

呟いていれば腕をグルグル回しながらマスキュリンは笑った

「ンフフフ…やっと思い出したぞ…」

『何をだ』

「さっきの赤髪の男はスタードロップキックでぶっ飛ばした悪党だな!?」

『え、あいつそんなやられ方したのか。だっさ』

「スーパースターは倒した敵のことなど一々覚えてられんからな、全く気付かなかったぞ!」

「や、それ俺らに言われても困るし」

俺ら阿散井じゃねぇし
そんな言葉をまるっと無視したマスキュリンが独月を見据え、余裕の笑みを浮かべる

「小蝿の仲間がどれだけの悪党かは知らないが…ワガハイの本当の力を見る事が出来て光栄だと思うんだな!!」

『うわ、阿散井小蝿だって』

「や、小蝿の仲間って言われてるし俺らも小蝿扱いなんじゃ…」

『え、嫌だ』

「ぬうううううううう…」

急に聞こえてきた唸り声に視線を向ける。
マスキュリンが拳を握り、力を溜めていた

『!』

「喰らうが良い!全力を出した時にしか見せんワガハイの秘儀────────スターラリアット!!」

ぐっと握られた腕が後ろに引かれ────────

「スター!!!」

振り抜かれた腕。拳の風圧で周囲の建物が吹っ飛んだ

「隊長っ!!」

『ぐっ……』

それを喰らった独月の華奢な身体が呆気なく吹っ飛ばされた。

「どうだ!?全力を出したワガハイの攻撃は1マイル先の敵にも届くぞ!!別名“1マイルの芸術”!!」

にいっと笑ったマスキュリンが再び拳を振り上げた

「もういっちょ、スター!!」

振りかぶられた拳がまた構えられた。
そのまま両の拳が振り抜かれる

「スタースタースタースタースター!!!!」

拳による猛打。
飛ばされる拳圧が次々と独月に襲い掛かった

『っ…!』

独月が建物の影に隠れようと手を伸ばした。
けれどその壁も拳圧によってあっさりと打ち砕かれる

「フハハハハ!!!スーパースターの力の前では壁や床に指を掛ける事すら叶わぬ!!空の彼方まで吹き飛ぶが良い!!」

『ちっ…』

独月が拳圧を逃れる為に飛び上がった。
それを見たマスキュリンが笑みを浮かべる。
────────駄目だ、あれはあいつが狙ってる動きだ

「駄目だ、隊長ッ!!」

「そして────────地上に帰る事なくスーパースターの神の力の前に塵となれ!!」

マスキュリンの姿が更に変わった。
頭にまで星を付けた…多分完聖体とかってヤツになったんだろう覆面野郎が身を屈める

「格好良いデスよ!スーパースター!!」

ジェイムズの声援を背に、勢い良くマスキュリンが飛び上がった。
空を飛んだ奴が描くのは、星

「わあああああ!!!」

下から見上げるジェイムズが歓声を上げた。
独月は、まだ宙に居るままだ

「良し、喰らえ」

独月より高い位置から、マスキュリンが勝ち誇った笑みを浮かべた

「スターフラッシュスーパーノヴァッ!!!」

さっきの比じゃねぇ星形の光線が繰り出された。それは未だ拳圧で動けねぇ独月に向かって、一直線に向かう

「逃げろ、独月ッ!!!」

『────────っ!!』

一瞬にして建物が消えていく。
独月に、光線が直撃した。
いや、それどころか俺達の居る場所まで巻き込まれた

「ぐっ……!!」

あまりの眩しさに目を瞑る。だが痛みはちっともなかった。
────────何故?
薄く開けた俺の目に見えたのは青い結界。
あの光線にもびくともしなかったらしいそれは、俺達を覆ったままだった。
それを見て、不思議と安心感を得る
────────こんな凄ぇ結界張ってくれたんなら、あいつは絶対大丈夫

「さらばだ、悪党よ!!」

俺達を殺したと思っているらしいマスキュリンが笑っている。
だが次の瞬間、怪訝そうな表情を浮かべた。

「……ん?」

同時に俺は口角を上げる。
────────立ち上る粉塵から垣間見えたのは、真っ白な刀身の長い斬魄刀だった








新たな力