愛し抜こう、君の事を
あれから滅却師達は次々と消えていった。
それは俺達が倒した訳ではなく、奴等が長と仰いでいたユーハバッハの手によって。
そのユーハバッハを黒崎が倒し、多大なる被害を被ったものの、尸魂界は救われた。
─────あれから、十年が経った
「瀞霊廷は大分元通りになってきましたね」
『そうだね。…ウチの隊舎がやっと自由になる』
椅子の上でぐっと伸びをした独月に苦笑して、俺はそっと湯飲みを差し出した。
「戻ってきた時は何処の隊舎も殆ど壊れてて、皆でキャンプ状態でしたもんね」
『直哉さんが隊舎を護ってくれてなかったら、僕らも世話を掛ける所だった』
国後はあの戦いが始まった時、先ず最初に隊舎を避難させた…らしい。
というのは本人が謎の機械を見せてそう言っただけだから、原理はさっぱり判らねぇ。
『でも楽しかったよ。皆でわいわい騒げて、合宿みたいだった』
「もうあんな見た目だけ綺麗な槍を見なくて済む様に願ってますよ。隊長の看病なんて、もう御免ですから」
『…判ってるって』
窓から吹き込んだ風で、銀の髪が揺れる。
俺の要望により伸ばされた髪は、今は腰に届く程になっていた。
青い髪留めで結われた銀髪を眺めながら、俺はこの隊舎で起こった事を思い返し、小さく笑う
「阿散井の告白を皆で冷やかしましたっけ」
『いや、それ煽動したの檜佐木さんでしょ』
「そんでロリコンってからかって遊んだ」
『だからそれも檜佐木さんでしょ』
「その後の朽木隊長にフルボッコされてんのは面白かった」
『それも檜佐木さんが朽木隊長にチクったからだよね』
「射場さんのサングラスも取ろうとしましたね」
『檜佐木さんから必死で死守してたけどね』
「ああ、あれも楽しかったですよ。斑目を雪だるまの頭にするの」
『…ねぇ判ってる?全部あんたが中心になってるって判ってる?』
というか斑目さん凍死しかけてたからね?と言われ、笑顔で流す。
やった事は他にも色々ある。拳西さんが寝ている間に顔に墨で落書きしたり、総隊長を阿散井達と一緒に水風呂に放り込んでみたり。
後はあれか、女湯を覗き見して半殺しになった大前田を笑ったり。
…今まで居た人が居ない事に気付いて、ふと寂しさに襲われたり。
「…案外色々やりましたねー」
概ねやってるのがガキの悪戯程度のものだから、案外大勢で悪ふざけした。
『その殆どにあんたが関与してるけどね』
「ははは、何の事やら」
砕蜂隊長が、寝ている大前田の額に肉の塊と書いたのは噴いた。
伊勢が眼鏡を光らせながら、総隊長の顔に落書きをしていたのも笑った。
阿散井の刺青眉毛に筆で線を足したら気付くのかとか、更木隊長の眼帯にこっそり花丸書いてみたり、本当にやってたのは馬鹿な事ばっかりだ。
「……十年なんて、俺らにとっちゃあっという間ですね」
『そうだね。現世の人間とは時の流れが違うから』
たった十年。その程度でも、確実に変わったものがあった。
一つは朽木ルキアと阿散井の結婚。
もう一つは、俺と独月が恋人になった事。
書類に目を落とす独月を見つめる。髪が伸びた他に大した変化はない様に思える。
だが、その身は確実に成長しているらしかった
「隊長、何時身長伸びきるんですか?」
『さぁ?』
─────この十年の間に、独月の身長が0.5センチ伸びたのだ。
たかが0.5、されど0.5。特に俺には重要な事である。
「……推定160かぁ……道程が長過ぎて、もう」
『仕方ないでしょ、直哉さんがそう言ったんだから』
以前独月が、技局の悪戯で大人になった事があった。その時の身長が160程度。
そしてあれこれと奴が計算した結果、現在の独月の推定年齢が出たのである
「隊長、せめて早く中学生に……そうじゃねぇと罪悪感が…」
『そりゃそうでしょうね。いたいけな少女に手を出してるロリコン野郎』
「ちょっ、キッツイっスね隊長!何ですか!昨日の事根に持ってるんスか!?」
『いいえ?止めてって言っても止めてくれなかった変態の事なんて覚えてないけど?』
しれっとした顔で毒を吐いた独月に抗議するが、何処吹く風といった態度。
あれか?昨日虐め過ぎたのか?いや、あれはこいつが可愛いのが悪い。
昨夜の布団の上の独月を思い出していれば、顔面目掛けて文鎮が飛んできた
「ちょっと!?文鎮なんか顔面に当たったら死にますって!!」
『だらしない顔でニヤニヤして…この変態』
むすっとした表情でそっぽを向く独月。
可愛い。可愛いが、流石に文鎮は酷ぇと思うんだ。俺は口を尖らせて、落ちた文鎮を拾いながらぼやく
「えーえー、どうせ変態ですよ。処女のまま隊長をエッロくしてるんですから」
独月の身体の事を考えると、まだ関係を持つには早い。早過ぎる。
だが恋人という関係になった今、これまでずっと我慢していた俺が、触れずに耐えるというのは出来なかった訳で。
─────その結果、俺の恋人は処女のまま、様々な快楽を教え込まれている。
…うん、大変変態染みた現状だというのは理解している。現在進行形で、俺が現世なら逮捕レベルの変態だとも自覚している。
でもあれだ、これは俺の告白を受け入れ、そしてなかなか成長しねぇ独月が悪いと思う。
独月が可愛いのが悪いと思う
『─────ほぉ?余程死にたいと見える』
内心ぐるぐると言い訳染みた事を考えていた時、冷めきった声が聞こえてきた。
はっとそちらを見て、俺は顔を強張らせる。
椅子に座っていた独月が立ち上がり、手にしているのは─────氷で造られた、槍だった
「今もう見たくねぇって言いましたよね!?」
『見たがってるみたいだから、これで刺してあげようかと』
「いやいや刺したいのは俺であって掘られんのは…ってスンマセンごめんなさい槍向けないでッ!!」
「あーあ。酷い目に遭った」
『身から出た錆ですけどね』
「はいはい、反省してまーす」
つんとした顔でそっぽを向き、頭の後ろで手を組む修兵さんを睨んでおく。
そもそも仕事中に不謹慎な話をする方が悪い。
ちっとも反省していない修兵さんに溜息を溢しつつ、僕は前を歩いた。
『そういえば、拳西さんは?』
「今日は隊士達を扱き倒すって言ってましたよ」
『修ちゃんは?』
「現世に遊びに行きました」
『…え、訊いてないんだけど。直哉さんは?』
「あいつなら阿近さんと共同開発とやらをしてますよ」
全員が自由過ぎる。え、僕に報告が一つもないのは何故なのか。
いや、良いけど。やらかさずに居てくれるなら良いけど。
舗装された道を歩いていると、十番隊の二人に出会した
『お疲れ様です、日番谷隊長、乱菊さん』
「ああ。お前達も今から向かうのか」
『はい。ご一緒しても?』
「ああ。…何時まで経っても腰の低い奴だな」
日番谷隊長の言葉に苦笑する。
僕は呆れた顔をする彼に、頬を掻いた
「お前は俺と同格だ。他と比べると俺は歳も近いし、話しやすいだろう。良い加減に敬語を外す努力ぐらいはしろ」
『いや、もう癖みたいなものですし…』
確かに日番谷隊長とは隊も隣だし、良く話す。
でももうこれは本当に癖みたいなものだから、仕方無いと思うんだ。
頬を掻く僕を見て、日番谷隊長は溜息を吐いた
「うおおおおおおおおおっ!!!」
突然聞こえてきたのは、野太い雄叫びだった。
はっとそちらを見れば、黒い影が崖から飛び降りてきたのが見えた
「しゃあい!!!」
それは最近新しく隊長の座に就任した、射場隊長だった。彼の部下達は崖の上から、情けない声を出す
「お…俺ら無理ですよ隊長ォ〜!」
「気にすな!おどれらは後から来い!!」
『……結構な高さから降ってきたな』
「そうですね。隊長はやらないで下さいよ?」
修兵さんにやらないよと返しつつ、僕は白い羽織を身に纏う射場隊長を見つめる。
此方に振り向いた射場隊長に、日番谷隊長が声を掛けた
「鍛錬場から出勤か。毎日精が出るな、射場隊長」
「日番谷隊長に桜花隊長!」
『お疲れ様です、射場隊長。凄い鍛練ですね』
「いや…まだまだ儂は隊長の器じゃないですけん。
この鍛錬を欠かしたら…隊長じゃあ居れんような気がするんですわ」
「そうか……立派な心意気だ。
隊長になるにはそういうものが必要なんだろうな」
感心した様に呟いて、日番谷隊長は後ろを見た
「誰かに聞かせてやりたいぜ……」
「わー!誰だろ!修兵ですかね!?」
切実な呟きは、さらっと張本人によって流された。
巻き込まれ事故に遭った修兵さんは、嫌そうに顔を顰める
「何で俺なんスか。明らかにアンタでしょうよ」
「えー?なんでアタシなのよー。アンタの方が隊長に向いてないでしょー」
「アンタよりは向いてるでしょう。
俺こそ言っときますけど、俺もうとっくに卍解会得してんですからね」
「アタシ結局それ見てないもーん」
「俺も見てねぇ」
『あ、僕も』
そういえば、出来ると聞いただけで今まで一度も見せて貰った事がない。
僕もと挙手すれば、乱菊さんがにんまりと笑った
「なーに修兵、もしかして卍解するする詐欺じゃないのー?」
「詐欺じゃないっすよ。………使う気ありませんけど」
「はぁ?何でよ?」
乱菊さんに問われ、修兵さんはちらりと僕を見た。
それから暫し視線を彷徨わせた彼は、決まり悪そうに眉を寄せる
「……卍解よりも、始解か暗器を使った戦法の方が隊長の補佐には向いてますから」
…つまり、修兵さんの卍解は派手で強力なものだと考えても良いんだろうか。
僕と共に戦うには、向いていないのか。だとすれば強力な力よりも僕を選んでくれたのが嬉しい様な、上官として一言言いたい様な…
修兵さんはもう良いでしょうと話を打ち切り、口を閉ざしてしまった。
そんな彼をちらりと見て、場を取り繕う様に日番谷隊長が口を開く
「……まぁ、十年使う機会が無かったってのは、良い事なんじゃねぇか」
日番谷隊長の言葉に僕も頷く
『そうですね。十年、平和が保たれたって事なんですから』
「その十年の締め括りに─────今日の式は相応しいと、俺は思うぜ」
一番隊舎。
既に整列した僕と修兵さんは、遅刻してきた更木隊長と、彼を入口で叱っている砕蜂隊長を眺めていた
「遅い!何をしていた!」
「あァ?瀞霊廷一周してきたんだ。逆に早ぇぐらいだろ」
「何故この大事な日に瀞霊廷一周してきたのかと問うているのだが?」
今にも一戦かましそうな二人を止めるでもなく、眺める。正直またか、と感じる方が強かった。
更木隊長の斬魄刀であったらしい草鹿副隊長が彼の中に戻ってから、方向音痴に磨きが掛かった様な気がする。
彼女は彼方だ此方だと無邪気に迷っていた分、厳つい見た目で盛大に迷う更木隊長の方が怖い。
そんな事を考える僕の髪を梳く顔面卑猥は、放置だ
「ととっ…取り敢えずお二方とも中へ入りましょ!ねっハイ!どうぞ!」
二人に中へ入る様に促したのは、虎徹勇音四番隊隊長だ。彼女の副官になった妹の虎徹清音副隊長は、腰の低い彼女に眉を吊り上げる
「姉さんも同じ隊長なんだから、あんなヘコヘコしなくて良いのよ!」
「無理言わないでよォ〜…」
冷や汗を流しながら肩を落とす虎徹隊長を見ていれば、背後から耳許で囁かれた
「耳が痛い会話ですね、隊長?」
『それなら、檜佐木さんが隊長やる?』
「遠慮します。俺は隊長を支える役が似合ってますので」
『……少なくとも、僕よりは似合うと思うけどね。隊首羽織』
耳許でくつくつと笑う低音に溜息を吐きながら、僕は中央に立つ京楽総隊長と伊勢副隊長を見た。
一先ず場が落ち着くと、伊勢副隊長が凛とした声で式を執り行う
「それでは、此より護廷十三隊、新隊長着任の儀を執り行います!新隊長は中へ!」
副隊長の声に促され会場に入ってきたのは、ルキアだ。
彼女は緊張した面持ちで此方まで歩み寄る。
そんなルキアに、夫である阿散井が声を掛けた
「……なんつー顔してんだよ。心配すんな、緊張して足捻ったら、肩車してやるからよ!」
「うっ……うるさい……!」
阿散井のお陰で緊張が解れたらしいルキアは、一つ深呼吸をした。
そういえば、僕はまともな着任の儀もなく隊長になった事を今更ながら思い出す。
あの時はばたばたしていたし、正直僕自身も繋ぎのつもりだった。
あれから十年と少し。…そう考えると、本当に十年なんてあっという間だ
「十三番隊隊長、朽木ルキア!」
伊勢副隊長に呼ばれたルキアは、頬を染めつつも、隊長らしく毅然とした態度で返事をした
「─────はいっ!!」
着任の儀を終えた僕達は、九番隊舎に戻っていた。
直哉さんは現在十二番隊で何かを造っている様だし、修ちゃんに至っては尸魂界に居ない。
なので取り敢えず、頼れる兄貴分の様子を見に来たのだが
「おう、お疲れ、隊長。何事もなく済んだか」
『お疲れ様、拳西さん』
道場にて死屍累々の光景を作り出した拳西さんに笑いつつ、僕は水を飲む彼に手拭いを渡す。
『…これは、隊士達、生きてる?』
「あァ?すこーし力込めて殴っただけだ。死ぬ訳ねぇ」
「あ、普通に拳で沈めたんですね」
膝を着いて隊士達の具合を診ていた修兵さんが苦笑いして、ゆっくりと立ち上がる。
「こいつら、どうします?」
「ほっとけ。起きたら勝手に仕事に戻るだろ」
拳西さんの言葉に苦笑いしつつ、三人で道場を出る。
まだ暴れ足りなかったのか、拳西さんはぐるぐると肩を回した
「あー。暴れ足りねぇ。おい修兵、付き合え」
「えー、嫌ですよ。今から隊長の補佐です。今日付けの書類がそれなりにあるんですから」
嫌だと断る修兵さんを見つつ、僕は拳西さんに笑顔を向けた
『良いよ、連れてって。一時間後に返してね』
「おー。じゃあ借りるぞ」
「はぁ!?ちょっ、隊長!?」
僕の許可にぎょっとしたのは修兵さんだ。
首根っこをがしっと掴まれ引き摺られていく修兵さんに、僕はひらひらと手を振る。
『扱かれてきてねー』
「おいふざけんなこの人の相手が遊びで済むかよ!!止めて下さいよ隊長ー!!」
『はい、ばいばーい』
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら連行された修兵さんを見送って、僕はゆっくりと歩き出した。
『……花は、何処で買おうかな』
そっとそれぞれの花器に、買ってきた花を供える。
小高い丘にぽつんと並ぶ二つの墓に、僕は目を細めた。
『……東仙隊長。貴方の仰っていた平和が、漸く訪れましたよ』
貴方の仰っていた正義が、僕に理解出来たのかは判らないけど。
それでも、護廷隊に居た時の貴方は、こんな平和を望んでいた様に見えた。
『さっき市丸隊長にも、海燕さんにも、蟹沢さんにもご挨拶してきました。山本総隊長と、浮竹隊長と、雀部副隊長にも』
花を手向けるという行為は、一人で行いたかった。
誰かに見られて困る訳ではないけれど、あまり見られたいとは思わないというのも事実。
手を合わせ、目を閉じる。
僕は静かに心の中で問い掛けた
─────今でも思うのです。
僕は、隊長に相応しい人間になれていますか?
確かに、もう代わりの隊長は止めた。
でも、それでも。他者から見た桜花独月はちゃんと隊長として振る舞えているのかと、不安になる。
己の目指すものが間違っていたら、と。
誰も指摘してくれないだけで、本当は道を踏み外しているんじゃないかと。
『……すみません、下らない事を訊いてしまって』
静かに手を降ろし、ゆっくりと立ち上がる。
死者からの返事なんてない。判っている、もう隊長達の魂魄は、輪廻の環に加わってしまった。
此処に在るのは、嘗て彼等が確かに此処に居たという、存在の証明だけだ
『また来ますね』
頭を下げて、丘を降りる。
降りきって隊舎に戻ろうと思った所で、見慣れた細身の影を見付けた
『……拳西さんから逃げてきたの?』
「適当な所で切り上げてきただけです。…ったく、一人にして欲しいなら、素直にそう言ってくれたら良かったのに」
『…そうだね、ごめん』
足を止めずに追い抜く僕に、修兵さんは頭を掻いた。
後ろに付いた足音を聞きながら、僕は静かに問い掛ける
『…隊長ってさ、どういう人が向いてるんだろうね』
新たに着任する隊長も、嘗てその座に居た隊長も、皆癖のある人ばかり。
そんな人達を見ていると、僕は隊長として相応しいのかと、自問自答する事が増えた。
答えなんか出ないと判っていながら、その問いを続ける。確かに力はある。でも、皆を纏めるだけの人格であるのか、と
「…俺は、隊長ってのは副官が支えてなんぼのモンだと思いますけどね」
『………』
「結構やらかす人が多いでしょ、隊長って。冷静に見えてキレやすかったり、頭のネジぶっ飛んでたり、飄々としてて実は中身がエグかったり」
…どうしよう、該当する隊長達が頭の中をぐるぐる回ってる。
黙ったままの僕に、後ろから付いてくる修兵さんは尚も続けた
「だから、副官が支えてやんなきゃいけないんです。隊長が好きに振る舞える様に、フォローに回るのが副官の役目です」
『……損な役じゃない?』
「いいえ?それなりに楽しんでますし。それに俺には、隊長を支える役が似合ってますから」
ルキアの着任の儀でも言った言葉を口にして、修兵さんは笑った。
「だから、隊長は好きな様に動いて下さい。何時だって俺が支えますから」
─────この人は本当に、僕が欲しい言葉をくれる。
肩越しに振り向けば、修兵さんは柔らかく笑っていた
『…ありがとう。これからもよろしくね、檜佐木さん』
「ええ、此方こそ」
家というのは本来ならば、心の休まる場所だ。
だが此処に限っては違うのである
「…隊長、そろそろ隊首羽織を脱いで頂けますか?」
『や、やだ』
恋人という関係になってから、僕と修兵さんは瀞霊廷内に家を建て、同居を始めた。
いや、正直今までと殆ど変わらない。今までも寝る時は一緒だったし。常に互いの部屋で一緒に居たのだから。
…でもアレだ、この男の所為で明確に意味が変わった事もある。
「ねぇ、隊長。そろそろ恋人に戻って欲しいんですけど?」
家に戻ってかれこれ三十分は経つ。隊首羽織を脱ごうとしない僕を背後から抱き締め、修兵さんは低く掠れた声で囁く。
その声に以前とは違う肌のざわめきを覚える様になったのも、この男の所為だ
『ぬ…脱いだらやらしい事するつもりでしょ』
「え?何です?御希望なら頑張りますけど?」
『望んでない!ていうかその目!その目を止めて!』
まるで獣の様にギラギラした目に危機感を覚える。この目をしている時は、隊首羽織を脱いだら酷い目に遭う。今だって、お腹に回された手が意味ありげに蠢いているのだ。これ絶対良くないヤツだ。しかももう、手甲外してるし。
どうにか出来ないかと視線を彷徨わせていれば、首筋に柔いものが触れた。
それが痛みを覚える程きつく吸い付いて、堪らず声を上げる
『ちょっ、ちょっと…』
「早く脱いで、隊長。それとも前みたいに、羽織を着たままが御所望ですか?」
『う』
…そういえば前に、隊首羽織を脱がなかった僕を、この男はそのまま弄んだんだった。
敬語のまま。物凄い笑顔で。
嫌な事を思い出しつつ、渋々脱ごうと身動ぐ。腕の力が緩められ、僕は溜息を吐いた
『…メンタルはダイヤモンドになったんじゃなかったの』
「ええ。だから最後までしてないでしょう?相手が俺じゃなかったら、とっくの昔に隊長は処女喪失してますよ」
ダイヤモンドなら、手を出さずに成長を待ってろよと言ってやりたい。
だがそれよりも引っ掛かる言葉があって、僕は眉を寄せた。
『……修兵さんじゃなきゃ、こんな事許してない』
拳西さんでも直哉さんでも、修ちゃんでも駄目なんだ。こんな事、修兵さんにしかさせる気はない。
眉を寄せつつ隊首羽織を脱ぎ、畳んで畳の上に置く。
そして背後で動かなくなった修兵さんを振り向いて─────唇を、塞がれた
『ん、ぅっ!?』
驚き開いてしまった口の中に、濡れた熱いものが滑り込んでくる。引っ込める前に舌が侵入者に絡め取られ、強く吸われた。
僕はきつく目を閉じ、身体の向きを変える。そのまま修兵さんの首に腕を回した。
咥内を好き勝手に蹂躙する修兵さんにしがみついていれば、優しく畳の上に押し倒された。
頬を修兵さんの髪が撫でて、擽ったい。
上顎の奥を舌先で擽られ、溜まった唾液を飲み込む。僕の動きを褒める様に大きな手で頭を撫でて、漸く口が解放された
『ぷはっ……』
「…あんまり煽んなよ、独月。優しくしてやれねぇぞ」
『…気付いて。もう全然優しくないから』
息が苦しい。こういう時の修兵さんは優しいとか言いながら、意地悪だ。
人の事をぐちゃぐちゃにして、嬉しそうに笑う。こういう事をする時に見せる男の人の顔で、僕を弄ぶ。
『ロリコンって言われても知らないから』
「どうせロリコンだよ。お前に欲情してんだ、言い訳なんかしねぇさ」
『よ…っ!?』
さらりと恥ずかしい事を言われて、かーっと身体が熱くなる。ちょっと、何でそんな恥ずかしい事を真顔で言えるの!?ねぇ馬鹿なの!?
言いたい事が沢山あるのに、言葉が喉の奥でつっかえて口に出来ない。
そんな僕の防具を剥ぎ取って、修兵さんは笑う
「当たり前だろ。好いた女を抱かねぇ男が何処に居る。此方じゃ歳の差なんて、少し待ってりゃ埋まるだろ」
『っだから…!』
「睦言だ。言葉責めも嫌いじゃねぇだろ?」
この人は厄介だ。僕の事を全部理解した上で、こうやって意地悪な事をする。
どうやったってやっぱり僕はまだ子供で。修兵さんに意地悪したくても、身体も知識も足りていない。
「今日は着たまま、な」
『……変態』
「その変態を変態にしたのはお前だよ、独月」
首筋に舌が這って、僕は修兵さんを抱き締めた。際どい位置にキスマークを付けられる事はもう諦めている。
指摘した所で止めてくれないし、寧ろ見せ付けてやろうと悪化する事を学んだからだ
『…元々修兵さんに変態の気があったんじゃないの』
「そりゃあるだろ。男なんて皆変態だ。俺はたまたま、好きになった女がちょっと幼いってだけ。…まぁ、それだけ成長過程を目でも身体でも楽しめるってのも、イイけど」
『……やっぱり変態だ』
大きな手がゆっくりと胸元をまさぐる。
両手で触りながら、修兵さんは笑った。
「なぁ、少しおっぱい大きくなったろ?」
『胸って言って。…なってないし』
「いーや、なってるね。…毎日揉んでる成果か?それとも、今からおっぱいが育つのか」
『胸だってば変態。…毎日揉まないでよ。育ったら邪魔…っ』
死覇装の上から胸の先端を弄られ、ぞわぞわした感覚に息が詰まった。息を詰めた僕を見て、修兵さんが目を細める
「感度良いもんな、お前。…毎日防具が当たって、乳首勃ってんじゃねぇの?」
『んの変態…っ』
「あー可愛い。ツンデレってほんと癖になるわ。ツンツンしてるのに言葉責めで感じるとか、可愛いなぁお前は」
ねっとりと嬲る様な言葉が耳に注ぎ込まれ、身体が熱くなる。
…仕方ないじゃないか、僕はあんたに惚れてるんだから。
くりくりと指先で胸の先を潰しながら、修兵さんは意地悪く微笑む
「なぁ、乳首勃ってんぞ。俺の手、そんなに悦いか?」
『っ…うるさい』
「どんどんおっぱいが発達すんのかな。感度良い巨乳とか、俺が護ってやんねぇと心配だわ」
『なら揉むなっ』
耳を舐める舌に目を細めながら、僕は圧し掛かってくる修兵さんを太股で挟んだ。
こういう行為の最後まで進まないのは、僕の身体がまだ幼いからだ。現世でいうなら日番谷隊長より少し上の学年に当て嵌まるぐらいの肉体年齢だから、修兵さんには我慢させてしまっている。
…本当は、今全て暴かれても良いのに、なんて。
絶対に口にする気のない気持ちを覆い隠して、優しい獣の背中まで伸ばされた髪をそっと撫でた。
「愛してる、独月」
胸元を割り開かれ、修兵さんの唇が鎖骨に触れた。
最近キツくなってきたサラシを剥ぎ取りながら、何度も首筋にきつく吸い付く彼に、僕も囁く
『…僕も愛してる、修兵さん』
きっと、初めて会った時から惚れていたんだろう。あまりにも長く傍に居過ぎて、僕も幼くて、理解出来ていなかったけど。
『好き。好きなの、修兵さん』
愛してると囁かれるだけで、何も考えられなくなる。笑ってもらえたら、胸がきゅうっと苦しくなる。
夜に色気のある顔を向けられると、欲されていると判って心が舞い上がる。
長い指と舌でぐちゃぐちゃにされると、心も身体も溶けそうになる。
好きだ。本当に、何よりも。
少しでも伝われば、と修兵さんをきつく抱き締めれば、胸の中の修兵さんがぴたりと動きを止めた。
『…修兵さん?』
どうかしたのかと腕の力を緩めれば、ゆっくりと修兵さんが顔を上げた。色白の頬を赤く染めた彼は、僕の下腹部をゆっくりと撫で上げる。
…その仕草と表情に、お腹の辺りがきゅんとした
「……早く成長しやがれ。我慢出来なくなりそうだ」
吐き捨てる言葉に欲を交え、修兵さんは僕に襲い掛かった。
あなたに、愛を
それは俺達が倒した訳ではなく、奴等が長と仰いでいたユーハバッハの手によって。
そのユーハバッハを黒崎が倒し、多大なる被害を被ったものの、尸魂界は救われた。
─────あれから、十年が経った
「瀞霊廷は大分元通りになってきましたね」
『そうだね。…ウチの隊舎がやっと自由になる』
椅子の上でぐっと伸びをした独月に苦笑して、俺はそっと湯飲みを差し出した。
「戻ってきた時は何処の隊舎も殆ど壊れてて、皆でキャンプ状態でしたもんね」
『直哉さんが隊舎を護ってくれてなかったら、僕らも世話を掛ける所だった』
国後はあの戦いが始まった時、先ず最初に隊舎を避難させた…らしい。
というのは本人が謎の機械を見せてそう言っただけだから、原理はさっぱり判らねぇ。
『でも楽しかったよ。皆でわいわい騒げて、合宿みたいだった』
「もうあんな見た目だけ綺麗な槍を見なくて済む様に願ってますよ。隊長の看病なんて、もう御免ですから」
『…判ってるって』
窓から吹き込んだ風で、銀の髪が揺れる。
俺の要望により伸ばされた髪は、今は腰に届く程になっていた。
青い髪留めで結われた銀髪を眺めながら、俺はこの隊舎で起こった事を思い返し、小さく笑う
「阿散井の告白を皆で冷やかしましたっけ」
『いや、それ煽動したの檜佐木さんでしょ』
「そんでロリコンってからかって遊んだ」
『だからそれも檜佐木さんでしょ』
「その後の朽木隊長にフルボッコされてんのは面白かった」
『それも檜佐木さんが朽木隊長にチクったからだよね』
「射場さんのサングラスも取ろうとしましたね」
『檜佐木さんから必死で死守してたけどね』
「ああ、あれも楽しかったですよ。斑目を雪だるまの頭にするの」
『…ねぇ判ってる?全部あんたが中心になってるって判ってる?』
というか斑目さん凍死しかけてたからね?と言われ、笑顔で流す。
やった事は他にも色々ある。拳西さんが寝ている間に顔に墨で落書きしたり、総隊長を阿散井達と一緒に水風呂に放り込んでみたり。
後はあれか、女湯を覗き見して半殺しになった大前田を笑ったり。
…今まで居た人が居ない事に気付いて、ふと寂しさに襲われたり。
「…案外色々やりましたねー」
概ねやってるのがガキの悪戯程度のものだから、案外大勢で悪ふざけした。
『その殆どにあんたが関与してるけどね』
「ははは、何の事やら」
砕蜂隊長が、寝ている大前田の額に肉の塊と書いたのは噴いた。
伊勢が眼鏡を光らせながら、総隊長の顔に落書きをしていたのも笑った。
阿散井の刺青眉毛に筆で線を足したら気付くのかとか、更木隊長の眼帯にこっそり花丸書いてみたり、本当にやってたのは馬鹿な事ばっかりだ。
「……十年なんて、俺らにとっちゃあっという間ですね」
『そうだね。現世の人間とは時の流れが違うから』
たった十年。その程度でも、確実に変わったものがあった。
一つは朽木ルキアと阿散井の結婚。
もう一つは、俺と独月が恋人になった事。
書類に目を落とす独月を見つめる。髪が伸びた他に大した変化はない様に思える。
だが、その身は確実に成長しているらしかった
「隊長、何時身長伸びきるんですか?」
『さぁ?』
─────この十年の間に、独月の身長が0.5センチ伸びたのだ。
たかが0.5、されど0.5。特に俺には重要な事である。
「……推定160かぁ……道程が長過ぎて、もう」
『仕方ないでしょ、直哉さんがそう言ったんだから』
以前独月が、技局の悪戯で大人になった事があった。その時の身長が160程度。
そしてあれこれと奴が計算した結果、現在の独月の推定年齢が出たのである
「隊長、せめて早く中学生に……そうじゃねぇと罪悪感が…」
『そりゃそうでしょうね。いたいけな少女に手を出してるロリコン野郎』
「ちょっ、キッツイっスね隊長!何ですか!昨日の事根に持ってるんスか!?」
『いいえ?止めてって言っても止めてくれなかった変態の事なんて覚えてないけど?』
しれっとした顔で毒を吐いた独月に抗議するが、何処吹く風といった態度。
あれか?昨日虐め過ぎたのか?いや、あれはこいつが可愛いのが悪い。
昨夜の布団の上の独月を思い出していれば、顔面目掛けて文鎮が飛んできた
「ちょっと!?文鎮なんか顔面に当たったら死にますって!!」
『だらしない顔でニヤニヤして…この変態』
むすっとした表情でそっぽを向く独月。
可愛い。可愛いが、流石に文鎮は酷ぇと思うんだ。俺は口を尖らせて、落ちた文鎮を拾いながらぼやく
「えーえー、どうせ変態ですよ。処女のまま隊長をエッロくしてるんですから」
独月の身体の事を考えると、まだ関係を持つには早い。早過ぎる。
だが恋人という関係になった今、これまでずっと我慢していた俺が、触れずに耐えるというのは出来なかった訳で。
─────その結果、俺の恋人は処女のまま、様々な快楽を教え込まれている。
…うん、大変変態染みた現状だというのは理解している。現在進行形で、俺が現世なら逮捕レベルの変態だとも自覚している。
でもあれだ、これは俺の告白を受け入れ、そしてなかなか成長しねぇ独月が悪いと思う。
独月が可愛いのが悪いと思う
『─────ほぉ?余程死にたいと見える』
内心ぐるぐると言い訳染みた事を考えていた時、冷めきった声が聞こえてきた。
はっとそちらを見て、俺は顔を強張らせる。
椅子に座っていた独月が立ち上がり、手にしているのは─────氷で造られた、槍だった
「今もう見たくねぇって言いましたよね!?」
『見たがってるみたいだから、これで刺してあげようかと』
「いやいや刺したいのは俺であって掘られんのは…ってスンマセンごめんなさい槍向けないでッ!!」
「あーあ。酷い目に遭った」
『身から出た錆ですけどね』
「はいはい、反省してまーす」
つんとした顔でそっぽを向き、頭の後ろで手を組む修兵さんを睨んでおく。
そもそも仕事中に不謹慎な話をする方が悪い。
ちっとも反省していない修兵さんに溜息を溢しつつ、僕は前を歩いた。
『そういえば、拳西さんは?』
「今日は隊士達を扱き倒すって言ってましたよ」
『修ちゃんは?』
「現世に遊びに行きました」
『…え、訊いてないんだけど。直哉さんは?』
「あいつなら阿近さんと共同開発とやらをしてますよ」
全員が自由過ぎる。え、僕に報告が一つもないのは何故なのか。
いや、良いけど。やらかさずに居てくれるなら良いけど。
舗装された道を歩いていると、十番隊の二人に出会した
『お疲れ様です、日番谷隊長、乱菊さん』
「ああ。お前達も今から向かうのか」
『はい。ご一緒しても?』
「ああ。…何時まで経っても腰の低い奴だな」
日番谷隊長の言葉に苦笑する。
僕は呆れた顔をする彼に、頬を掻いた
「お前は俺と同格だ。他と比べると俺は歳も近いし、話しやすいだろう。良い加減に敬語を外す努力ぐらいはしろ」
『いや、もう癖みたいなものですし…』
確かに日番谷隊長とは隊も隣だし、良く話す。
でももうこれは本当に癖みたいなものだから、仕方無いと思うんだ。
頬を掻く僕を見て、日番谷隊長は溜息を吐いた
「うおおおおおおおおおっ!!!」
突然聞こえてきたのは、野太い雄叫びだった。
はっとそちらを見れば、黒い影が崖から飛び降りてきたのが見えた
「しゃあい!!!」
それは最近新しく隊長の座に就任した、射場隊長だった。彼の部下達は崖の上から、情けない声を出す
「お…俺ら無理ですよ隊長ォ〜!」
「気にすな!おどれらは後から来い!!」
『……結構な高さから降ってきたな』
「そうですね。隊長はやらないで下さいよ?」
修兵さんにやらないよと返しつつ、僕は白い羽織を身に纏う射場隊長を見つめる。
此方に振り向いた射場隊長に、日番谷隊長が声を掛けた
「鍛錬場から出勤か。毎日精が出るな、射場隊長」
「日番谷隊長に桜花隊長!」
『お疲れ様です、射場隊長。凄い鍛練ですね』
「いや…まだまだ儂は隊長の器じゃないですけん。
この鍛錬を欠かしたら…隊長じゃあ居れんような気がするんですわ」
「そうか……立派な心意気だ。
隊長になるにはそういうものが必要なんだろうな」
感心した様に呟いて、日番谷隊長は後ろを見た
「誰かに聞かせてやりたいぜ……」
「わー!誰だろ!修兵ですかね!?」
切実な呟きは、さらっと張本人によって流された。
巻き込まれ事故に遭った修兵さんは、嫌そうに顔を顰める
「何で俺なんスか。明らかにアンタでしょうよ」
「えー?なんでアタシなのよー。アンタの方が隊長に向いてないでしょー」
「アンタよりは向いてるでしょう。
俺こそ言っときますけど、俺もうとっくに卍解会得してんですからね」
「アタシ結局それ見てないもーん」
「俺も見てねぇ」
『あ、僕も』
そういえば、出来ると聞いただけで今まで一度も見せて貰った事がない。
僕もと挙手すれば、乱菊さんがにんまりと笑った
「なーに修兵、もしかして卍解するする詐欺じゃないのー?」
「詐欺じゃないっすよ。………使う気ありませんけど」
「はぁ?何でよ?」
乱菊さんに問われ、修兵さんはちらりと僕を見た。
それから暫し視線を彷徨わせた彼は、決まり悪そうに眉を寄せる
「……卍解よりも、始解か暗器を使った戦法の方が隊長の補佐には向いてますから」
…つまり、修兵さんの卍解は派手で強力なものだと考えても良いんだろうか。
僕と共に戦うには、向いていないのか。だとすれば強力な力よりも僕を選んでくれたのが嬉しい様な、上官として一言言いたい様な…
修兵さんはもう良いでしょうと話を打ち切り、口を閉ざしてしまった。
そんな彼をちらりと見て、場を取り繕う様に日番谷隊長が口を開く
「……まぁ、十年使う機会が無かったってのは、良い事なんじゃねぇか」
日番谷隊長の言葉に僕も頷く
『そうですね。十年、平和が保たれたって事なんですから』
「その十年の締め括りに─────今日の式は相応しいと、俺は思うぜ」
一番隊舎。
既に整列した僕と修兵さんは、遅刻してきた更木隊長と、彼を入口で叱っている砕蜂隊長を眺めていた
「遅い!何をしていた!」
「あァ?瀞霊廷一周してきたんだ。逆に早ぇぐらいだろ」
「何故この大事な日に瀞霊廷一周してきたのかと問うているのだが?」
今にも一戦かましそうな二人を止めるでもなく、眺める。正直またか、と感じる方が強かった。
更木隊長の斬魄刀であったらしい草鹿副隊長が彼の中に戻ってから、方向音痴に磨きが掛かった様な気がする。
彼女は彼方だ此方だと無邪気に迷っていた分、厳つい見た目で盛大に迷う更木隊長の方が怖い。
そんな事を考える僕の髪を梳く顔面卑猥は、放置だ
「ととっ…取り敢えずお二方とも中へ入りましょ!ねっハイ!どうぞ!」
二人に中へ入る様に促したのは、虎徹勇音四番隊隊長だ。彼女の副官になった妹の虎徹清音副隊長は、腰の低い彼女に眉を吊り上げる
「姉さんも同じ隊長なんだから、あんなヘコヘコしなくて良いのよ!」
「無理言わないでよォ〜…」
冷や汗を流しながら肩を落とす虎徹隊長を見ていれば、背後から耳許で囁かれた
「耳が痛い会話ですね、隊長?」
『それなら、檜佐木さんが隊長やる?』
「遠慮します。俺は隊長を支える役が似合ってますので」
『……少なくとも、僕よりは似合うと思うけどね。隊首羽織』
耳許でくつくつと笑う低音に溜息を吐きながら、僕は中央に立つ京楽総隊長と伊勢副隊長を見た。
一先ず場が落ち着くと、伊勢副隊長が凛とした声で式を執り行う
「それでは、此より護廷十三隊、新隊長着任の儀を執り行います!新隊長は中へ!」
副隊長の声に促され会場に入ってきたのは、ルキアだ。
彼女は緊張した面持ちで此方まで歩み寄る。
そんなルキアに、夫である阿散井が声を掛けた
「……なんつー顔してんだよ。心配すんな、緊張して足捻ったら、肩車してやるからよ!」
「うっ……うるさい……!」
阿散井のお陰で緊張が解れたらしいルキアは、一つ深呼吸をした。
そういえば、僕はまともな着任の儀もなく隊長になった事を今更ながら思い出す。
あの時はばたばたしていたし、正直僕自身も繋ぎのつもりだった。
あれから十年と少し。…そう考えると、本当に十年なんてあっという間だ
「十三番隊隊長、朽木ルキア!」
伊勢副隊長に呼ばれたルキアは、頬を染めつつも、隊長らしく毅然とした態度で返事をした
「─────はいっ!!」
着任の儀を終えた僕達は、九番隊舎に戻っていた。
直哉さんは現在十二番隊で何かを造っている様だし、修ちゃんに至っては尸魂界に居ない。
なので取り敢えず、頼れる兄貴分の様子を見に来たのだが
「おう、お疲れ、隊長。何事もなく済んだか」
『お疲れ様、拳西さん』
道場にて死屍累々の光景を作り出した拳西さんに笑いつつ、僕は水を飲む彼に手拭いを渡す。
『…これは、隊士達、生きてる?』
「あァ?すこーし力込めて殴っただけだ。死ぬ訳ねぇ」
「あ、普通に拳で沈めたんですね」
膝を着いて隊士達の具合を診ていた修兵さんが苦笑いして、ゆっくりと立ち上がる。
「こいつら、どうします?」
「ほっとけ。起きたら勝手に仕事に戻るだろ」
拳西さんの言葉に苦笑いしつつ、三人で道場を出る。
まだ暴れ足りなかったのか、拳西さんはぐるぐると肩を回した
「あー。暴れ足りねぇ。おい修兵、付き合え」
「えー、嫌ですよ。今から隊長の補佐です。今日付けの書類がそれなりにあるんですから」
嫌だと断る修兵さんを見つつ、僕は拳西さんに笑顔を向けた
『良いよ、連れてって。一時間後に返してね』
「おー。じゃあ借りるぞ」
「はぁ!?ちょっ、隊長!?」
僕の許可にぎょっとしたのは修兵さんだ。
首根っこをがしっと掴まれ引き摺られていく修兵さんに、僕はひらひらと手を振る。
『扱かれてきてねー』
「おいふざけんなこの人の相手が遊びで済むかよ!!止めて下さいよ隊長ー!!」
『はい、ばいばーい』
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら連行された修兵さんを見送って、僕はゆっくりと歩き出した。
『……花は、何処で買おうかな』
そっとそれぞれの花器に、買ってきた花を供える。
小高い丘にぽつんと並ぶ二つの墓に、僕は目を細めた。
『……東仙隊長。貴方の仰っていた平和が、漸く訪れましたよ』
貴方の仰っていた正義が、僕に理解出来たのかは判らないけど。
それでも、護廷隊に居た時の貴方は、こんな平和を望んでいた様に見えた。
『さっき市丸隊長にも、海燕さんにも、蟹沢さんにもご挨拶してきました。山本総隊長と、浮竹隊長と、雀部副隊長にも』
花を手向けるという行為は、一人で行いたかった。
誰かに見られて困る訳ではないけれど、あまり見られたいとは思わないというのも事実。
手を合わせ、目を閉じる。
僕は静かに心の中で問い掛けた
─────今でも思うのです。
僕は、隊長に相応しい人間になれていますか?
確かに、もう代わりの隊長は止めた。
でも、それでも。他者から見た桜花独月はちゃんと隊長として振る舞えているのかと、不安になる。
己の目指すものが間違っていたら、と。
誰も指摘してくれないだけで、本当は道を踏み外しているんじゃないかと。
『……すみません、下らない事を訊いてしまって』
静かに手を降ろし、ゆっくりと立ち上がる。
死者からの返事なんてない。判っている、もう隊長達の魂魄は、輪廻の環に加わってしまった。
此処に在るのは、嘗て彼等が確かに此処に居たという、存在の証明だけだ
『また来ますね』
頭を下げて、丘を降りる。
降りきって隊舎に戻ろうと思った所で、見慣れた細身の影を見付けた
『……拳西さんから逃げてきたの?』
「適当な所で切り上げてきただけです。…ったく、一人にして欲しいなら、素直にそう言ってくれたら良かったのに」
『…そうだね、ごめん』
足を止めずに追い抜く僕に、修兵さんは頭を掻いた。
後ろに付いた足音を聞きながら、僕は静かに問い掛ける
『…隊長ってさ、どういう人が向いてるんだろうね』
新たに着任する隊長も、嘗てその座に居た隊長も、皆癖のある人ばかり。
そんな人達を見ていると、僕は隊長として相応しいのかと、自問自答する事が増えた。
答えなんか出ないと判っていながら、その問いを続ける。確かに力はある。でも、皆を纏めるだけの人格であるのか、と
「…俺は、隊長ってのは副官が支えてなんぼのモンだと思いますけどね」
『………』
「結構やらかす人が多いでしょ、隊長って。冷静に見えてキレやすかったり、頭のネジぶっ飛んでたり、飄々としてて実は中身がエグかったり」
…どうしよう、該当する隊長達が頭の中をぐるぐる回ってる。
黙ったままの僕に、後ろから付いてくる修兵さんは尚も続けた
「だから、副官が支えてやんなきゃいけないんです。隊長が好きに振る舞える様に、フォローに回るのが副官の役目です」
『……損な役じゃない?』
「いいえ?それなりに楽しんでますし。それに俺には、隊長を支える役が似合ってますから」
ルキアの着任の儀でも言った言葉を口にして、修兵さんは笑った。
「だから、隊長は好きな様に動いて下さい。何時だって俺が支えますから」
─────この人は本当に、僕が欲しい言葉をくれる。
肩越しに振り向けば、修兵さんは柔らかく笑っていた
『…ありがとう。これからもよろしくね、檜佐木さん』
「ええ、此方こそ」
家というのは本来ならば、心の休まる場所だ。
だが此処に限っては違うのである
「…隊長、そろそろ隊首羽織を脱いで頂けますか?」
『や、やだ』
恋人という関係になってから、僕と修兵さんは瀞霊廷内に家を建て、同居を始めた。
いや、正直今までと殆ど変わらない。今までも寝る時は一緒だったし。常に互いの部屋で一緒に居たのだから。
…でもアレだ、この男の所為で明確に意味が変わった事もある。
「ねぇ、隊長。そろそろ恋人に戻って欲しいんですけど?」
家に戻ってかれこれ三十分は経つ。隊首羽織を脱ごうとしない僕を背後から抱き締め、修兵さんは低く掠れた声で囁く。
その声に以前とは違う肌のざわめきを覚える様になったのも、この男の所為だ
『ぬ…脱いだらやらしい事するつもりでしょ』
「え?何です?御希望なら頑張りますけど?」
『望んでない!ていうかその目!その目を止めて!』
まるで獣の様にギラギラした目に危機感を覚える。この目をしている時は、隊首羽織を脱いだら酷い目に遭う。今だって、お腹に回された手が意味ありげに蠢いているのだ。これ絶対良くないヤツだ。しかももう、手甲外してるし。
どうにか出来ないかと視線を彷徨わせていれば、首筋に柔いものが触れた。
それが痛みを覚える程きつく吸い付いて、堪らず声を上げる
『ちょっ、ちょっと…』
「早く脱いで、隊長。それとも前みたいに、羽織を着たままが御所望ですか?」
『う』
…そういえば前に、隊首羽織を脱がなかった僕を、この男はそのまま弄んだんだった。
敬語のまま。物凄い笑顔で。
嫌な事を思い出しつつ、渋々脱ごうと身動ぐ。腕の力が緩められ、僕は溜息を吐いた
『…メンタルはダイヤモンドになったんじゃなかったの』
「ええ。だから最後までしてないでしょう?相手が俺じゃなかったら、とっくの昔に隊長は処女喪失してますよ」
ダイヤモンドなら、手を出さずに成長を待ってろよと言ってやりたい。
だがそれよりも引っ掛かる言葉があって、僕は眉を寄せた。
『……修兵さんじゃなきゃ、こんな事許してない』
拳西さんでも直哉さんでも、修ちゃんでも駄目なんだ。こんな事、修兵さんにしかさせる気はない。
眉を寄せつつ隊首羽織を脱ぎ、畳んで畳の上に置く。
そして背後で動かなくなった修兵さんを振り向いて─────唇を、塞がれた
『ん、ぅっ!?』
驚き開いてしまった口の中に、濡れた熱いものが滑り込んでくる。引っ込める前に舌が侵入者に絡め取られ、強く吸われた。
僕はきつく目を閉じ、身体の向きを変える。そのまま修兵さんの首に腕を回した。
咥内を好き勝手に蹂躙する修兵さんにしがみついていれば、優しく畳の上に押し倒された。
頬を修兵さんの髪が撫でて、擽ったい。
上顎の奥を舌先で擽られ、溜まった唾液を飲み込む。僕の動きを褒める様に大きな手で頭を撫でて、漸く口が解放された
『ぷはっ……』
「…あんまり煽んなよ、独月。優しくしてやれねぇぞ」
『…気付いて。もう全然優しくないから』
息が苦しい。こういう時の修兵さんは優しいとか言いながら、意地悪だ。
人の事をぐちゃぐちゃにして、嬉しそうに笑う。こういう事をする時に見せる男の人の顔で、僕を弄ぶ。
『ロリコンって言われても知らないから』
「どうせロリコンだよ。お前に欲情してんだ、言い訳なんかしねぇさ」
『よ…っ!?』
さらりと恥ずかしい事を言われて、かーっと身体が熱くなる。ちょっと、何でそんな恥ずかしい事を真顔で言えるの!?ねぇ馬鹿なの!?
言いたい事が沢山あるのに、言葉が喉の奥でつっかえて口に出来ない。
そんな僕の防具を剥ぎ取って、修兵さんは笑う
「当たり前だろ。好いた女を抱かねぇ男が何処に居る。此方じゃ歳の差なんて、少し待ってりゃ埋まるだろ」
『っだから…!』
「睦言だ。言葉責めも嫌いじゃねぇだろ?」
この人は厄介だ。僕の事を全部理解した上で、こうやって意地悪な事をする。
どうやったってやっぱり僕はまだ子供で。修兵さんに意地悪したくても、身体も知識も足りていない。
「今日は着たまま、な」
『……変態』
「その変態を変態にしたのはお前だよ、独月」
首筋に舌が這って、僕は修兵さんを抱き締めた。際どい位置にキスマークを付けられる事はもう諦めている。
指摘した所で止めてくれないし、寧ろ見せ付けてやろうと悪化する事を学んだからだ
『…元々修兵さんに変態の気があったんじゃないの』
「そりゃあるだろ。男なんて皆変態だ。俺はたまたま、好きになった女がちょっと幼いってだけ。…まぁ、それだけ成長過程を目でも身体でも楽しめるってのも、イイけど」
『……やっぱり変態だ』
大きな手がゆっくりと胸元をまさぐる。
両手で触りながら、修兵さんは笑った。
「なぁ、少しおっぱい大きくなったろ?」
『胸って言って。…なってないし』
「いーや、なってるね。…毎日揉んでる成果か?それとも、今からおっぱいが育つのか」
『胸だってば変態。…毎日揉まないでよ。育ったら邪魔…っ』
死覇装の上から胸の先端を弄られ、ぞわぞわした感覚に息が詰まった。息を詰めた僕を見て、修兵さんが目を細める
「感度良いもんな、お前。…毎日防具が当たって、乳首勃ってんじゃねぇの?」
『んの変態…っ』
「あー可愛い。ツンデレってほんと癖になるわ。ツンツンしてるのに言葉責めで感じるとか、可愛いなぁお前は」
ねっとりと嬲る様な言葉が耳に注ぎ込まれ、身体が熱くなる。
…仕方ないじゃないか、僕はあんたに惚れてるんだから。
くりくりと指先で胸の先を潰しながら、修兵さんは意地悪く微笑む
「なぁ、乳首勃ってんぞ。俺の手、そんなに悦いか?」
『っ…うるさい』
「どんどんおっぱいが発達すんのかな。感度良い巨乳とか、俺が護ってやんねぇと心配だわ」
『なら揉むなっ』
耳を舐める舌に目を細めながら、僕は圧し掛かってくる修兵さんを太股で挟んだ。
こういう行為の最後まで進まないのは、僕の身体がまだ幼いからだ。現世でいうなら日番谷隊長より少し上の学年に当て嵌まるぐらいの肉体年齢だから、修兵さんには我慢させてしまっている。
…本当は、今全て暴かれても良いのに、なんて。
絶対に口にする気のない気持ちを覆い隠して、優しい獣の背中まで伸ばされた髪をそっと撫でた。
「愛してる、独月」
胸元を割り開かれ、修兵さんの唇が鎖骨に触れた。
最近キツくなってきたサラシを剥ぎ取りながら、何度も首筋にきつく吸い付く彼に、僕も囁く
『…僕も愛してる、修兵さん』
きっと、初めて会った時から惚れていたんだろう。あまりにも長く傍に居過ぎて、僕も幼くて、理解出来ていなかったけど。
『好き。好きなの、修兵さん』
愛してると囁かれるだけで、何も考えられなくなる。笑ってもらえたら、胸がきゅうっと苦しくなる。
夜に色気のある顔を向けられると、欲されていると判って心が舞い上がる。
長い指と舌でぐちゃぐちゃにされると、心も身体も溶けそうになる。
好きだ。本当に、何よりも。
少しでも伝われば、と修兵さんをきつく抱き締めれば、胸の中の修兵さんがぴたりと動きを止めた。
『…修兵さん?』
どうかしたのかと腕の力を緩めれば、ゆっくりと修兵さんが顔を上げた。色白の頬を赤く染めた彼は、僕の下腹部をゆっくりと撫で上げる。
…その仕草と表情に、お腹の辺りがきゅんとした
「……早く成長しやがれ。我慢出来なくなりそうだ」
吐き捨てる言葉に欲を交え、修兵さんは僕に襲い掛かった。
あなたに、愛を