「あー彼女欲しいわー……」

「其処らの女の子に声掛けて来いよ」

「何か適当っすね先輩」

俺の隣に座った檜佐木先輩はずるずるとうどんを食っていた。其処らの女の子で済むなら誰も彼女作りで苦労しねぇよ。そう思いつつ隣を見れば檜佐木先輩は女の子二人に囲まれていた。あれ、何時の間に?

「ねぇ檜佐木先輩、今週暇ですか?」

「あー忙しいな。暇じゃねぇ」

「えー…じゃあ来週は?」

「来週も予定あり。悪ぃな」

え、何であんた誘いを片っ端から断ってんだよ。今週も暇だってさっきぼやいてたじゃねぇか。見ていれば檜佐木先輩はうどんを食いながら女の子二人をあしらう。その表情はめんどくせぇと言わんばかりに顰められていた。
やがて諦めたのか、二人は檜佐木先輩に頭を下げてから去っていった

「ちょっ先輩何であの二人断ったんすか?結構可愛かったのに」

「あ?俺の趣味じゃねぇし」

そう返した檜佐木先輩は唐揚げを口に放り込む。この人細身の癖に俺と同じくらい食うよな。食った分は何処に行ってんだろう。軽く謎だ

「じゃあどんな子が趣味なんすか?」

「趣味、ねぇ…」

檜佐木先輩が自分の右頬に触れる。巨大虚に付けられた傷痕。それを撫でた先輩はぼんやりとした様子で口を開いた

「俺の邪魔しねぇ子とか?」

「……は?」

思わず首を傾げる。邪魔しねぇって何をだ。訊けば檜佐木先輩は視線を宙に彷徨わせた

「んー…要するに俺のやる事に口出ししねぇ子が良いってこった」

「口出しっすか」

「おう」

そう言った檜佐木先輩は湯呑みを口許に運んだ。そんな風に言うって事は前に何かあったのか?好奇心を隠さず訊いてみれば檜佐木先輩は面倒そうに俺を見る

「おい阿散井、んな事訊いてどうする気だ?」

「別にどうもしないっすよ」

「そうそう、只の興味です」

「吉良」

俺の言葉を引き継いで喋った吉良が向かい側に座った。確かに俺一人より吉良も居た方が聞き出すのは簡単だろう。でもお前何時から話訊いてた?

「で、理由は?」

「マジで訊くのかよ……」

溜息を吐いた檜佐木先輩が頬杖をつく。嫌そうに俺と吉良を見てから渋々といった感じで口を開いた

「…四回生の頃に付き合ってた女は居たんだよ。でもあんまりにも口出ししてくる様になったから、別れた」

「口出しって何に関してですか?」

「……独月に関してだ」

そう呟く様に言った檜佐木先輩は顔を顰めていた。

「最初にあいつを助けてから、あいつの為に稽古つけてたんだよ。そしたら何処の女だ、とか、毎日会ってるのか、とか。日に日にしつこくなってくもんだから、うるせぇっつって別れた」

要はちびさぎ先輩に会いに行く檜佐木先輩を彼女が疑った、と。そんでめんどくせぇから別れた。え、それってちゃんと彼女に説明すりゃ良かったんじゃねぇの?
そう訊けば檜佐木先輩は溜息を吐いた

「下手に名前なんか出してみろ、あの女独月の所に押し掛けて何するか判んねぇだろうが」

「え、そんなに激しい人だったんすか?」

「最初は大人しかったんだがな。独月の存在に気付いてから過激化した」

そう言って檜佐木先輩が湯呑みに手を伸ばす

「まぁ告られたから付き合ってただけだったし、すぐ別れたけど」

それから檜佐木先輩は邪魔しねぇ子が良いらしい。や、単純に選んだ相手が悪かった気もするんだが。

「それで、邪魔しない女性は見付かったんですか?」

「あ?見付かってねぇ。というか最近女の子に興味がねぇ」

「「え」」

え、まさか檜佐木先輩女の子で良い子が居なかったからってアッチの道に行ったんすか?
顔を引き攣らせていれば自分の失言に気付いたらしい檜佐木先輩が慌てて首を横に振った

「ちょっ違ぇぞ!?興味がねぇとは言ったがそれはあいつ以外にって事だぞ!?」

「そ、そうなんすか?俺てっきり先輩がアッチの道に行ったのかと……」

「よーし後で覚えとけ阿散井」

檜佐木先輩がこめかみをひくつかせながら笑顔でそう言った。あ、やべぇ後でキャメルクラッチ食らう気がする

「君って檜佐木先輩怒らせるの上手いよね」

「るせっ」

吉良に憐れみの視線を受けて目を逸らす。怒らせるのが上手いって何だ。俺は思った事を言っただけだぞ。

「で、あいつって?」

「あ?独月だよ」

そう言った檜佐木先輩が長めの髪を指に巻く。

「告られて付き合ってもどうしても好きになれねぇんだよ。その子と居ても今日の独月の稽古どうすっかなー、とか考えちまう」

「へー…」

先輩それ末期っすよ。口から出掛かった言葉を慌てて飲み込む。これ以上余計な事言うとキャメルクラッチどころかハートブレイクショットが来そうで怖い。

「だからもう今は恋愛する気はねぇの。気持ちがねぇのに付き合っちゃ相手にも悪ぃしな」

そう言ってへらりと笑った檜佐木先輩が最後の唐揚げを口にした。その時丁度来たのは檜佐木先輩とお揃いの髪型の銀髪

『修兵さん』

「ん?どしたぁ独月」

やって来たちびさぎ先輩は持っていた教科書で檜佐木先輩の頭を叩いた。結構痛そうな音したぞ

「いてっ」

『…どしたぁじゃない。何で勝手に僕の教科書に答え書くの。しかも普通に答え書くならまだしも三択にしてるし。先生の出す問題より難しいし』

「勉強になるだろ?」

『ありがた迷惑』

そう言ったちびさぎ先輩は小さく溜息を吐いた。まぁ座れよと檜佐木先輩に手を引かれ、先輩の隣に腰を下ろす

「判んねぇの少なくても五個はあっただろ」

『……七個』

「おー、一桁なら大したもんだ」

わっしわっしと頭を撫でる檜佐木先輩。ちょっと先輩、ちびさぎ先輩睨んでますよ。でけぇ目が半開きになってますって

『…他の教科書には何もしてないよね?』

「ん?もう全部やってあるぞ?」

『………………』

檜佐木先輩がそう言った途端、周りの気温が下がった。へらりと笑う檜佐木先輩に眉間にぎっちり皺寄せてるちびさぎ先輩。明らかに気温が下がったの檜佐木先輩のせいじゃねぇか

「怒んなよ、独月チャン?」

『…顔面卑猥、変態、あほぼけかす女たらし』

「や、ちょっと待て何で悪口?」

『うるさい女たらし。今日から一ヶ月部屋に来るの禁止』

「え、ちょっ独月!?」

急に悪口を言ったかと思えばちびさぎ先輩はがたりと席を立った。そのまま立ち去ろうとする小柄な身体に檜佐木先輩が慌てて追い縋る。それを躱してすたすた歩いていくちびさぎ先輩

「……なぁ吉良」

「何だい阿散井くん」

140pぐらいの女に180pぐらいの男が必死こいて謝る様を見ながら俺は口を開く

「檜佐木先輩ってちびさぎ先輩の事好きなんじゃね?」

「さぁ?それは本人にしか判らないよ」






大の男が必死こいて謝ってるのが何となく間抜けに見えた






(ほんとすいませんでした機嫌治して下さい独月サマ!)

(…やだ。檜佐木先輩は今許すとまたやらかすので許しません)

(ちょっほんと敬語は止めて下さい距離取られた感じがしてへこむっ…って待て待って下さいお願いしますっ!)

(待ちません。聞こえません。さようなら)



(…檜佐木先輩ってちびさぎ先輩の前だと普段のクールさ欠片もねぇよな)

(阿散井くん、世の中には言っちゃいけない事もあるんだよ)