かったりぃ授業がやっと終わった。大きく伸びをして、席を立つ

「今日も噂の天才児のトコか?」

「おう。その呼び方あいつ嫌がってっからあんますんなよ」

まぁ天才だとは思うが、あいつはそう呼ばれるのを嫌う。挙げ句俺の方が凄ぇとか言い出すし。あれは謙遜通り越して馬鹿だと思う。
教室を出て、一回生のクラスの並ぶ階に降りた。途端に集まる視線。何だ、俺が此処に居るのがそんなに変か?
首を傾げつつ、一組に入った

「おい独月……あれ?」

見渡すが目立つ銀色はない。あれ、あいつ何処行った?霊圧を探れば離れた所にでけぇのが一つと、小せぇのが四つ。
霊術院の地図を思い浮かべ推測する。図書館か?別に図書館に行くのが可笑しい訳じゃねぇが、あいつが俺を置いていくなんて珍しい。仕方なく、身体を図書館の方に向ける。
足早に向かえば聞こえてきた声。女の声。見えたのは四人の女の背中。此方に背を向けて何かを言っている。多分、四人で誰かを囲んで。

「あんた何時まで檜佐木くんにくっ付いてるつもり?早く離れなよ、寧ろ近付かないで」

「檜佐木くんが迷惑してるって判んないの?」

「うざがられてるって良い加減気付きなよ」

「檜佐木くん優しいから言わないけど、あんた正直嫌われてるよ?」

女の向こう側にちらりと見えた銀色。やっぱりお前か。溜息を吐き、霊圧を消して近付く

『………言いたいのは、それだけ…ですか』

聞こえてきた何時もより低い声に思わず足を止めた。疑問符もねぇ問い掛け。珍しい、もしかしてあいつキレてる?

「何よあんた偉そうに……」

『……確かに…僕は口下手、だし…修兵さんには、たくさん……迷惑、掛けてます。
でも……修兵さん、を…知ったような口ぶりで…そんな風に、いわれる…のは』

独月の霊圧が固くなった
凛とした中性的な声が響く

『───────凄く、ムカつきます』

「っ!…あんた嘗めてんの!?」

気色ばんだ女が独月に手を伸ばしたのを見て瞬歩で移動する。独月の前に立ち、伸ばされた手を掴んだ

「こいつに手ぇ出すの、止めてくれません?」

「っ…檜佐木くん…!」

何回か見た事のある上級生。リーダー格らしき女を睨みながらそう言えば、周りも狼狽え始めた。

「俺はこいつと一緒に居たいから居るんです。あんたらの言った様にしょうがなくじゃねぇ。勝手に人の事知ったかぶんの止めてくれません?」

「っ…!」

「つか俺あんたらの事知らねぇし。名前も知らねぇ奴等に俺を語る権利とかねぇだろ。それで俺に恩でも売りたいんすか?無理だろ、寧ろあんたらに引くわ気持ち悪ぃ。
勝手にこいつを囲んで言葉で傷付けて、挙げ句の果てには近付くな?有り得ねぇだろ普通。そんな事されて俺が喜ぶとでも?ふざけんな見ず知らずの奴等に対人関係管理されて喜ぶ馬鹿が何処に居んだよ。あんたら頭可笑しいんじゃねぇの?」

素直に感じた事を口に出せば四人して泣き始めた。意味判んねぇ。取り敢えずこいつらどうやってシメよう。そんな事を考えていると後ろから袖を引かれた。
見れば独月が眉を下げた顔で俺を見上げていた。

「何だ?」

『………もう…許しても…』

「駄目だ。お前を苛めた奴等に情けを掛ける必要はねぇ」

『……でも…』

袖を弱く掴んだまま、独月が俯いた。ああもう何で俺が悪者みてぇになってんだ

「………ったく…」

がしがしと頭を掻いて、泣きじゃくる四人組に視線を向ける。独月を背に隠し、奴等を見下ろした

「…今回は独月に免じて見逃します。けど、次はねぇぞ」

最後に霊圧を上げて、奴等に背を向ける。俺の袖を掴んだままの独月を目で促し、図書館に入った。
手頃な本を何冊か手に取り、席に座る。独月も俺の隣に座った
独月の前に一冊本を置き、自分用に選んだ本の表紙を捲る

「…何で許したんだ?」

『………可哀想、だったから』

「可哀想ってお前……あいつらがお前にした事判ってんのか?」

『……ん』

なら何でそう思ったんだ。訊けば独月は空色の瞳を宙に彷徨わせ、口を開いた

『……修兵さんに言われて…ないてた。…だから…もう……』

「…許しても良いって?」

独月が頷いた。ったく、ほんと甘い奴だな。思わず溜息が出た。銀髪を撫でて、此方を見た独月に笑みを向ける

「お前は優し過ぎ。まぁそれもお前の良いトコだけど」

そう言えば、また眉を下げた独月が俺の袖を引っ張った。
袖を握った独月が小さく口を動かした

『……助けてくれて、ありがと……』

「どーいたしまして。これからは勝手に呼び出しに付いて行くなよ?危ねぇし」

『……ん…』

頷いた独月の頭を撫でて、本に目を落とした。上級鬼道の本。席官でも扱うのが難しい鬼道ばかり載っている

「破道の六十三・雷吼炮に破道の七十三・双蓮蒼火墜ねぇ…」

『……上級』

「おう。難しいやつだ」

隣から覗き込んできた独月にも見やすい様に本を寄せる。興味を持ったのか、独月が指で文字を追う

『……蒼火墜に似てる』

「まぁ蒼火墜の強化版みてぇなもんだしな」

構えは両手を使うらしい。って事は斬魄刀を持ってる時は無理か?

『……斬魄刀…なげたら…?』

「あ?……ああ、そういう事か」

発動する時に斬魄刀を宙に放るなり何なりすれば良いのか。頭良いなお前。頭を撫でれば擽ったそうに首を竦めた

「雷吼炮は片手だし、詠唱覚えりゃ何とかなるか」

『…難しい…』

「最近授業暇だろ?一緒にやらね?」

『……修兵さんが、良いなら』

「良し、決まりな」

ぐりぐりと独月の頭を撫でて笑う。良かった、独月もさっきより表情が柔らかくなった。

『……修兵さん…たのしそう』

「ん?……あー、そうかも」

不思議そうに俺を見つめる独月の頬を撫でた。
だってお前が笑ってるんだ。俺も楽しくなるのは当たり前だろ?





君を護る騎士になりたい





(今日何か食いてぇもんあるか?)

(…なんでも)

(何でも良いが一番困る)

(…なら、聞かないで)

(そりゃそうか)