檜佐木修兵。
その名を聞けばきっと沢山の言葉が浮かんでくるだろう。
成績優秀、六回生筆頭、冷静沈着、容姿端麗、など。彼の名を聞いて連想する言葉は他にも沢山ある筈だ。
私の彼氏である、檜佐木くん
けれど最近、彼が変わった様に思える


















「おい独月」

『…何?』

小さな銀髪の女子生徒を呼んだ檜佐木くん。彼は目の前の的に片手を上げた

「ちょっと見てろ。今から凄ぇもん見せてやる」

『ん』

頷いた少女は檜佐木くんの前で静止した。マネキンの様にぴたっと止まった少女の前で、檜佐木くんは上げた片手に霊圧を込める

「血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」

それは蒼火墜に似た、けれど聞き慣れない詠唱。何だあれはと見ていれば、低い声が耳朶を打った

「──────破道の七十三・双蓮蒼火墜」

掌から放たれた蒼炎。それは的を綺麗に燃やして消えた。蒼火墜よりも大きなそれを放った檜佐木くんは若干不満そうな表情

「あの壁壊すつもりだったのにな…」

『…修兵さん、そんな事したらまた怒られる』

「それもそうか」

少女の言葉に頷いた檜佐木くんは肩をぐるぐると回す。少女はじっとその手を注視していた
それに気付いた檜佐木くんが首を傾げる

「独月、どうした?」

『……何で、片手?』

主語のない問い。けれど檜佐木くんは判ったのか、にっと笑った。

「ちょっと霊圧の練り方変えてみたんだよ。まだ試作途中だから霊圧練るのもちょっと難しいけど、斬魄刀握ってられる分本来の奴よりは良いと思うぜ」

『……凄いね』

「だろ?」

そう言って檜佐木くんは照れ臭そうに微笑んだ。あんな表情見た事ない。彼は普段はあんな風に笑わない。そう、笑わないんだ。あんなに嬉しそうに。あんなに優しい表情で

「やり方教えるから一緒にやろうぜ?」

『…出来るかな』

「出来るよ。お前は天才なんだから」

『………天才じゃない』

「俺からしたらお前は凄ぇ奴だ」

『………………』

俯いた少女の頭を撫でて檜佐木くんが笑う。

「お前が何て言っても俺はお前の事を天才だと思ってる。だから自分をもっと高く評価してやれ。お前は凄ぇんだから」

『………』

優しい表情と声で紡がれるのは、どれも彼女を認め励ます言葉。こんな檜佐木くんは知らない。私は、見た事がない
私が悩んでいてもあんなに優しい言葉を掛けてくれた事はなかったのに。

「だから、俺はお前の事ずっと天才だと思い続ける。良いな?」

『…拒否しても、どうせ無駄なんでしょ』

「良く判ってるじゃねぇか」

私が鬼道の事を相談しても、彼は何のアドバイスもくれなかった。それどころかちゃんと私の話を聞いてくれていたかすら危うい。最近二人きりにもなれていない。会話も出来てない
なのに、あの子は。
無表情のまま佇むあの子は、檜佐木くんから教えて貰える。話をして貰えてる。彼に見つめて貰えてる。
──────私は、もう視線すら合わないのに
歯を食い縛った瞬間、銀髪の少女の隻眼と目が合った。

『…修兵さん』

「ん?」

私を見つめたまま、少女は檜佐木くんの名前を呼んだ。

『……あの人』

まるで人形みたいな済ました顔で、あの子は私を指差した。その指先を追った檜佐木くんと目が合う。
久し振りに絡み合った視線。目を見開いた私とは対照的に、檜佐木くんは怪訝そうな表情で首を傾げた
その目は普段通りの、笑みを浮かべても興味のなさそうなそれ。冷めきったそれは私を射抜いた。
そして愛想笑いをほんの少し浮かべながら、彼はこう、言ったのだ

「えーと…あんた、誰だっけ?」



























少女はきっと私の事を知っていた。だから、檜佐木くんがああ言った瞬間、目を見開いたのだ。
少女は今にも泣きそうな震える声で、咎めるように彼の名を呼んだ。
修兵さん、と。
私は名字でしか呼べないのに。
優しく目を細めた彼を見て、居たたまれなくなってしまった私は二人の前から逃げ出した。







始まりも終わりもなく







(最初から薄々感付いてはいたのだ)

(檜佐木くんの心にはもう誰かが居る事なんて)

(だって彼は変わったから)

(授業中に鬼事をしてみたり、演習場を壊した事もあった)

(今まではそんな事なかったのに)

(だから、本当は納得しないといけない)

(只さよならもなく終わる関係の希薄さに)

(一方的な想いが報われない残酷さに)

(私が勝手に傷付いているだけなんだから)









酷い(?)檜佐木が書きたかったというよりは、勝手に檜佐木が酷い(?)奴になった。
多分これはもう桜花病初期。
何故初期か?それはこの時点ではギリギリ交際相手を作る事が出来ていたから。何か檜佐木この娘の存在自体うろ覚えだったけど。
もう護廷隊入ってからは(というかこの子が付き合った最後の娘)独月以外の女性に惹かれる描写が一切ないんで、きっと桜花病末期。治療方法はない
因みに度々片手で撃たれている双蓮蒼火墜の原点はこれ。実は管理人が両手構えないといけないのを忘れてたからどうにか誤魔化そうとして考えたっていう………