「…これを彫れば良いんだな」

「はい」

俺が頷けば阿近さんは呆れた様な顔をした。何でこんな顔されてんだ俺

「あいつは知ってんのか?」

その問いに否と首を横に振れば溜息を吐かれた。だから何でそんな反応なんだよ

「チビすけも俺と同じ反応するだろうよ」

がちゃがちゃと準備をし始めた阿近さんをコーヒー片手にぼんやりと眺める。あいつがこんな反応をするだろうか。まぁ吃驚されるだろうとは思うけど

「じゃあ上脱いで横になれ」

言われた通りに死覇装の上を脱いで診察台…というか実験台?に横になる。痛くても我慢しろよ、と阿近さんが言った。













『修兵さん』

振り向けば小さな銀髪が駆け寄って来た。足を止めて待ってやれば直ぐに追い付いてくる。近くに並べばその身長が良く判った。確か俺と40cm近く差があるんだったか?ちいせぇなとしみじみと感じていれば独月は僅かに首を傾げた。何でもねぇと頭を撫でれば首を竦める

「書類配達の帰りか?」

『ん』

頷いた独月が僅かに目元を和らげた事に少し笑う。少し疲れた様子だし行った先は十一番隊か十二番隊だな。つっても殆ど無表情だから直ぐに判るのは俺ぐらいだろうけど。
前に表情で判断している事を言えば阿散井が有り得ねぇと言って引いてた。いや引くなよ。そんな反応する程の事でもねぇだろ。実際こいつは目を見れば判るし。

「なら行こうぜ」

『ん』

頷いて独月が俺に着いてくる。ぽんぽんと頭を撫でれば不思議そうな猫目が俺を見た。ほらな、こいつは目で感情を伝えてる。まぁ相棒だし俺が判るのは当然なんだけど













「独月、もう上がりか?」

『ん』

頷いた銀髪をぽんぽんと撫でる。こいつは書類整理がかなり速い。そして若干休むのを忘れる癖がある。だから俺か東仙隊長が休めと言わないと働き続ける事がたまにある。

「なら俺の部屋来いよ。飲もうぜ」

そう言えば独月がまたかって目で俺を見た。しゃーねぇだろ、飲みてぇんだから

『ほんと肝臓駄目になるよ』

「…あー…確かに肝臓弱ってるって言われたわ…」

この前吉良と足ツボマッサージに行ったらそりゃもう酷い目に遭った。
痛くて痛くて堪らねぇ。あれは死ぬかと思った

『て訳で今日は駄目です』

「マジかよ!」

自業自得だろって顔で片付けを始める。いや、ほんとお前の言う通りなんだけどよ。
休肝日って拷問じゃね?













「上がったぞー」

『んー』

髪をがしがし拭きながら居間に行けば独月は雑誌を読みながら床に転がっていた。濡れた髪はタオルで巻いて放置。お前何回ちゃんと拭けって言やあ判んだよ。風邪引くって言ってんだろうが

「おら、髪拭いてやっから座れ」

『んー』

もぞもぞと独月が起き上がる。髪を拭いてやる間もこいつは雑誌に目を向けたまま。まぁ基本自由人だから仕方ない
銀色の真っ直ぐな髪を乾かし櫛で梳く。手入れすりゃ綺麗なのに勿体無ぇ。こいつは髪すら長くて鬱陶しいと考える奴だ

「終わったぞ」

『ありがと』

此方を見た独月が怪訝そうに眉を寄せた。どうしたんだと見ていれば俺の首に掛かっているタオルを除ける。視線は左の鎖骨付近に固定。俺も視線を辿り独月が何を見ているのか納得した

『………何これ』

「刺青」

『いや、何でこの模様彫っちゃうかな…』

何してんだこいつと言わんばかりの顔で俺を見る。やべぇ、阿近さんの言った通りの反応されてんだけど

「良いだろ?お揃いだ」

眉間に皺を寄せた独月の左頬に触れる。左目の下の桜の痣。俺が鎖骨付近に彫ったのと同じもの。呆れた様に溜息を吐いた独月の頭を撫でればすっと小さな手に刺青を撫でられた。

『どうせ修兵さんの事だから、彫ったのには訳があるんでしょ?』

「バレたか」

『修兵さんの事は大体判る』

そう言って独月は溜息を吐いた。幸せ逃げんぞ。そう言うと誰の所為だと睨まれた。あー、多分俺の所為だな

『傷痕もカフスもお揃いなのにこれ以上お揃い増やしてどうするんだか』

そう呟いた独月が席を立った。あの様子からして飲み物でも取りに行ったんだろうなと推測

「傷痕もお揃い、か」

自分の顔の右側に触れる。其処に残る三本の傷痕。確かにあいつも俺と同じ位置に傷痕がある。目の下以外は綺麗に治ってるけど
髪を拭きつつテレビのリモコンを探す。そう言えば最近俺の部屋にまで現世の電化製品が出没する様になった。最初出て来たのはこの無駄にでかいテレビ。その日先に部屋に来て寛いでいた独月に訊けば僕が来た時にはもうあった、と。次に来たのは冷蔵庫。まぁ若干気味が悪ぃが便利だしそのまま使っている。
リモコンを見付けてテレビを点ければ映ったのは現世の番組。尸魂界でテレビ放送なんてやってねぇから当然と言えば当然か

[ボハハハハハー!!]

や、ボハハて。何だその面倒な笑い方。そして見た目が怪し過ぎる。

「………うおっ」

不意に頬にぴとりと冷たいものを押し付けられた。見れば独月がコップを俺の左頬に押し当てている。ちょっ無駄に冷えてね?帰って来んの遅ぇと思ったらコップ冷やしてたのか
渡されたコップに入っていたのは現世の炭酸飲料。こんなもん何処から持ってきたのか訊けば俺の隣に座った独月はつ、と指を差した。差した先にあるのは冷蔵庫。…判った。電化製品だけじゃなくて飲み物まで増えたんだな。もう突っ込まねぇぞ。何が増えても気にせず使ってやる

『それ』

「あ?」

独月が見ているのは桜の刺青。これがどうかしたかと見ていれば炭酸飲料を一口飲んだ独月が口を開いた

『絶対乱菊さんには見せないでね。面倒な事になりそうだから』

「おー」

軽く返事しつつ炭酸飲料を飲めばほんとに判ってんのかこいつって顔で独月が俺を見る。ちゃんと判ってるって。あの人に見られたらきっと面倒な事しか起きねぇ。つかそもそも上脱がなきゃバレねぇ位置に彫ったんだから平気だとは思うんだが。
自分の右頬に触れた独月がすっと目を細めた。この顔はあれだ、あの日の事を……蟹沢と青鹿を思い出してる時の顔。こいつはもう吹っ切れたと言ってはいるがきっと心の内ではまだ引き摺ってる。日が近付くにつれ悪夢にあの日の事を見やすくなるのがその証拠だ。

「……これは、誓いだ」

小さく呟いた俺をちらりと独月が見る。返事は要らない。只の独り言だし

「もっと強くなるっていう、誓いだ」

この程度の強さじゃ独月を護り通せるか判らねぇ。
もっと強くなりてぇんだ。副隊長になった程度じゃ到底満足なんて出来やしねぇ
溜息を吐いた独月が俺の頭を撫でた。優しい手付きに甘える様に身を寄せれば何も言わず抱き締められる。肩に顔を埋めていれば優しく背中を叩かれた。髪を撫でる手と背中を叩く手の優しさに静かに目を閉じる
こいつには何で俺が強くなりてぇのかバレてるんだろうな。それでも僕を護ろうとするなと言わねぇのは俺がお前無しには生きられねぇと気付いているからか。
恐らく俺はお前に依存しねぇと今まで通りには生きられねぇ。確かに恋人みたいに甘ったるい仲じゃねぇが、そんなもんよりもずっと深い絆がある。

「…俺から離れるな…独月…」

ぎゅっと抱き締める事で応えは返された



Is not there and you can not live



(修兵さん)

(ん?)

(良い加減上を着ろ)

(暑いからやだ)