「独」

『何だぜんざい』

「財前や」

書類整理をしていれば財前が溜息を吐きながら此方に向かってきた。机に湯呑が置かれる。礼を言えば無言で頷かれた

「独、今日はもうそれ終わったら帰りや」

『は?……熱あるのかお前』

「いてこますぞゴンタクレ。ちゃうわ、前から今日は早く上がらすて約束しとんねん」

『約束?』

首を傾げれば財前は湯呑を口許に運んだ。最後の書類を終わらせて書類箱に入れれば、財前がすっと指で扉を指す。何だと見れば良く知る九番隊の副隊長。あれ、何で此処に居るの?

『修兵さん?』

「おう、お疲れ。迎えに来たぜ」

え、迎え?何でと首を傾げれば財前が早よ行けと手をひらひらさせた。おい、僕は犬猫じゃないぞ。睨んでいれば手を引かれた

「早く行こうぜ。待たせちまってる」

『へ?』

「せやで。早よ行って貰わんと俺が長引かせたって勘違いされてどやされんねん」

『寧ろどやされろ』

「早よ行けアホ。檜佐木さんもうこのチビさっさ連れてって下さいよ」

「はい、無理言ってすいませんでした」

「ええっすよ。そいつなんやかんや言うても有給取ってへんし、丁度ええ」

手を引かれたまま隊首室を出る。てか誰を待たせてるんだろう。聞いても修兵さんは悪戯っぽく笑ってまだ秘密としか言わなかった




十四番隊隊舎を出て向かって行ったのは技術開発局。そこの前に立っていたのは阿近さんだった

『阿近さん?』

「お、やっと来たか。あいつらがお待ちかねだぜ」

僕の頭をぽんと撫でた阿近さんが扉を開けて開発局の中に入っていった。

「わざわざすいません阿近さん」

「気にすんな。女共の喧しさに外に出ただけだ」

『女共?』

そう言った阿近さんの顔は何だか疲れていた。
てか僕が知らない所で一体何が行われているのか。阿近さんを先頭に修兵さんに手を引かれながら歩いていればだんだんと大きな声が聴こえてきた。わーわーきゃーきゃー言ってるんだがほんと何事?
考えていれば阿近さんがある扉の前で立ち止まる。

「ちびさぎ連れてきましたよ」

ノックをした阿近さんが扉を開けた。修兵さんが僕の背を押す。入らないのかと見れば俺はあっちだと向かいの扉を指差す。

「行くぞ檜佐木」

「はい。じゃあまた後でな独月」

『ん』

僕の頭を撫でてから向かいの部屋に行った修兵さんと阿近さんを見送り、少しだけ開いた扉を開けた。
中に入り見えたモノに思わず目を瞬かせた。

「やっと来たわねちびさぎー!」

「桜花副隊長!」

「キラキラ来たよー♪」

『………へ?』

乱菊さん、ルキア、草鹿副隊長が僕を見て声を上げた。他にも雛森や虎徹副隊長や伊勢副隊長など……女性死神協会の皆様が飾り立てていた。

『……あの、僕の義骸に何してるんですか?』

彼女達は僕の義骸の髪を弄っていた。何か服も現世の女の子の物。何でこんな可愛らしい服着てるんだろう

「はい、準備は出来たわ!入りなさいちびさぎ!」

『……え?』

「キラキラはやくー!」

「私達の自信作です!」

『え、あ、はい…』

周りに急かされ義骸に入る。閉じていた目をそっと開ければ皆がキラキラした目で此方を見ていた

「やっぱりあたし達の見立てに間違いはなかったわね!」

「可愛いです桜花さん!」

『あ、ありがとうございます…?』

短い服の裾をちょんと摘まむ。白いコートに膝まであるロングブーツ。コートが太股半ばまであるスカートみたいになってる。まぁ歩きにくかったらチャック開けても大丈夫か。中にショートパンツ履いてるみたいだし
てか髪がリボンで結ばれたツインテールなんだが。僕にはこんな可愛らしいのは似合わないんじゃないかな

「さ、部屋から出てみなさい。あんたの王子様が待ってるわよ?」

『…はぁ……』

「楽しんできて下さいね!」

乱菊さんにウィンクされてゆっくりと扉を開ける。扉の外に出ると少し先に修兵さんが立っていた

「迎えに来たぜ、お姫サマ?」

『………姫違う…』

呟けばくつくつと笑われた。というか修兵さんも義骸に入ってたのか。この人何着ても似合うなと見ていれば修兵さんが腰を曲げた。

「その格好と髪型似合ってんな。可愛い」

『……っ!』

耳許での囁きに硬直する。や、可愛いって。何か凄く恥ずかしいんだが。固まっていれば僕を見て修兵さんが笑った

「さ、行こうぜ?」

『……ん…あの』

「どうした?」

『……修兵さん…格好良い…』

「…サンキュ」

何だか照れ臭くなりつつ手を引かれて着いていけば、技術開発局から外に出た。辿り着いたのは穿界門の前。そこには阿散井と吉良が立っていた

「お、きたきた」

「お待ちしてました、桜花さん、檜佐木さん」

『二人共…何故此処に?』

「僕達も普段からお二人にはお世話になっているので」

そう言った吉良の後ろで阿散井が穿界門を開けた

「よっと……さ、どーぞ」

「悪ぃな、阿散井、吉良」

吉良達に声を掛けた修兵さんが穿界門に向かって歩き出す。ひらりと僕達の傍で飛ぶ地獄蝶。
門を潜る前に僕は後ろを振り返った。
何故現世に連れていかれるのかとか、何故こんな風に着飾っているのかとか良く判らない事が多いけれど

『阿散井、吉良……ありがとう』












襖状の扉が開き、現世に降り立つ。雪が積もった道路の上。特に何もなさそうだが此処は何処なんだろう。辺りを見渡していれば修兵さんが歩き出した

「少し歩くぞ」

『ん』

僕の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる修兵さんに頷く。目的地は近い様だが一体何処に行くんだろう。車道側を歩いている修兵さんは僕の視線に気付いたのか此方を見て小さく笑う

「着いたぞ」

『………わぁ…』

目に入ったのはキラキラと輝く街。あちこちが沢山のイルミネーションで飾られていた

『今日、お祭り?』

「クリスマスだ。お前、クリスマスに現世来た事なかったろ?」

『初めて』

クリスマスは確かサンタとかいう不審者が子供の居る家に不法侵入してプレゼントを置いていくって行事だ。その日に贈り物をするとかって聞いてから修兵さんや普段お世話になってる人達に贈り物をする様になったけど、現世でその日を過ごした事はなかったからこんな光景になるなんて知らなかった
きょろきょろと周りを見ていると笑った修兵さんに頭を撫でられた。

「どっか気になる店あるか?」

『んー……あ、彼処』

偶然目に入った店を指差す。ショーウィンドウにぬいぐるみが沢山飾られた店。それを見た修兵さんが笑って歩き出す

「じゃ、あの店行くか」

『……良いの?』

自分で指差しといてなんだがあの店男の人は凄く入り辛いと思う。現に気まずそうな男の人が店から出てきたし。それを言えば何だそんな事かと修兵さんは言った

「全然平気だから、お前はただ楽しめよ」

『……ありがとう』

チリンチリンとベルが鳴る扉を開けて店に入る。中は沢山のぬいぐるみで溢れていた。

『…可愛いのが沢山』

「楽しそうで何よりだ」

修兵さんに笑われ何だか恥ずかしくなった。うわ、今絶対顔赤い。俯けば僕の頭を撫でた修兵さんが手を引き歩き出す

「お前こういうの好きだろ」

『……うさぎ』

高い棚から取って渡されたのは大きな兎のぬいぐるみ。ふわふわなそれを抱っこすればつぶらな瞳と目が合った。うん、可愛い

「やばいな」

『?』

見上げれば修兵さんが微笑んでいる。え、どうしたの?

「お前、すっげぇ可愛い」

『………え』

だんだんと自分の体温が上がっていくのが判る。咄嗟にぬいぐるみで顔を隠した。
駄目だ、顔が上げられない。今絶対顔赤い。てか何で今日はこんなに赤くなるんだ
顔を隠した理由に気付いているらしい修兵さんはくつくつと笑う。てか赤くなったのはあんたの所為だ
そっと顔を上げれば此方を見つめる灰色の瞳と目が合った。

「そいつで決まりっぽいが…一応他のも見てみるか?」

その問いに首を横に振る。確かに他のぬいぐるみも可愛いけど

『この子が良い』

修兵さんが選んでくれたし。そう言うと修兵さんが目を大きく見開いた。

「…やられた」

『?』

口許を隠した修兵さんが小さく呟いた。どうしたんだろう。繋がれたままの手にきゅっと力が込められる。というか顔が赤くなってる様に見えるのは気の所為か?








店を出てぷらぷらと街中を歩く。ぬいぐるみは後で取りに行くらしい。まぁ抱っこして歩くにはあの子は大き過ぎるから仕方ない

『修兵さん、ぬいぐるみありがとう』

「どーいたしまして」

礼を言えば修兵さんが笑った。何か今日は修兵さんが良く笑う日だ。普段からそうしてれば良いのに。まぁ楽しそうで良いけど

『ん?』

「どうした?」

『あれ』

人混みの中目立つ色を見付けて声を上げる。指差せば修兵さんがああと納得した。あのオレンジ頭は見付けやすい
家族で来ているらしい黒崎に声を掛けるのは憚られ、彼らを見ていた修兵さんの手を軽く引けば判ったと頭を撫でられた

「次は何処に行きたい?」

『修兵さんが行きたいとこ』

「あ?俺?」

『ん』

頷けば頭を掻いて修兵さんが悩みだした。
や、そんなに悩む事じゃないと思うんだが。見ていれば修兵さんがすっと指を差す

「あの店、良いか?」

『……見えない…』

指を差されても背の低い僕には見えない。丁度背の高い人が僕の前を歩いているのだ。それに気付いた修兵さんが小さく笑って僕の手を引いた

「なら近付いてみるか」

『ん』






修兵さんの言う店は落ち着いた感じのカフェだった。夕暮れ時で割と客が多いが、空いていた窓際に座る

「何が良い?」

『んー……カルボナーラかな…修兵さんは?』

「俺はスパゲティかな」

そう言った修兵さんが店員を呼んだ。来た女の人は赤い服。何だっけこれ……ああ、サンタの衣装だ

「飲み物は?」

『抹茶オレ』

「……カルボナーラに合うのかそれ。じゃあ抹茶オレとコーヒーで」

「かしこまりました」

ぺこりと頭を下げた店員がカウンターに向かう。それを見てから修兵さんが僕を見た

「楽しいか?」

『ん。修兵さんは?』

「俺も楽しい」

そう言った修兵さんにほっとした。
良かった、僕だけ楽しんでたらどうしようかと思った。
そう考えたのがばれたのか、修兵さんが目を細める

「俺はお前が楽しんでくれてたらそれで良い。お前が楽しいなら俺も楽しいからな」

『…………』

何かさらっと恥ずかしい事言われた気がする。何でそんな風に平気な顔して言えるんだろう

『……また恥ずかしい事を…』

「ん、何?照れた?」

『照れてない…』

小さく俯けば修兵さんがにやにやしだした。笑うな顔面卑猥め。無駄に格好良いのが腹立つ

「お待たせしました」

修兵さんを睨んでいれば店員が料理を運んできた。テーブルに並んだそれに二人で手を合わせる

「『いただきます』」

湯気の出ているカルボナーラにフォークを入れる。スプーンも使って麺をくるくると巻いて、数回息を吹き掛けて冷ましてから口に入れる。少し味が濃いが美味しい

「美味いか?」

『ん』

スパゲティを食べていた修兵さんに聞かれて頷く。乗せられていた卵を割って混ぜる。混ぜて食べてみると味がまろやかになった。
うん、美味しい

「それちょっと頂戴」

『ん』

フォークに巻いたカルボナーラを差し出せば修兵さんがぱくりと食い付いた。もぐもぐと食べた修兵さんがこくりと頷く

「ん、美味い」

『それは良かった』

自分のスパゲティを巻いた修兵さんが僕の方にフォークを差し出した

「ほら」

『ありがと』

少し身体を前に倒して口に入れる。うん、美味しい。

『美味しい』

「そ」

でも修兵さんの料理の方が好きだな。呟けば修兵さんが目を細めて笑った

「おだてても何も出ねぇぞ?」

『事実』

ぱくりとフォークに食い付く。修兵さんは何だか凄く嬉しそうだった










『うわっ、さむ』

食事をしてから外に出ると気温が下がっていた。かなり寒い。あ、息が白くなった。
息を吐き出して遊んでいれば不意に右手が温かくなった

『修兵さん?』

「こうすりゃ温まるだろ?はぐれねぇし」

見れば僕の右手が修兵さんの左手に繋がれていた。それも普通に手を繋いでいる訳じゃなく、指と指を絡める様な繋ぎ方。何だっけこれ、何て繋ぎ方だっけ
見ていればその手が繋がれたままポケットに入れられる。あ、ポケットの中温かい

『修兵さん冷たくない?』

「平気。それにお前が温まれば温かさも二倍になんだろ」

『……ありがとう』

「どーいたしまして」

修兵さんが優しく笑う。体温の低い僕の手が少しずつ温まってきた。少しだけ握る手に力を込めれば温かい手に握り返される
修兵さんに手を引かれ歩き出せば沢山の光が見えた

「ほら、夜の方が綺麗だろ?」

『綺麗…』

空が暗くなってきた事でイルミネーションの光が映える。広場の中央に置かれたクリスマスツリーは一層輝いていた

『ん?……何してるんですか修兵さん』

「ん?お前の目見てんの」

修兵さんは何故か僕の顔……彼曰く目を覗き込んでいた。何でだ。僕の目なんて見たって何にも面白くないだろうに。首を傾げれば修兵さんが笑う

「お前の目、イルミネーションの光が映っててすっげぇ綺麗」

『………………』

や、何してるんですかあんた。クリスマスツリー見ようよ。僕の目なんて見たって全然綺麗じゃないだろ。呆れた様な目で見れば修兵さんの右手が僕の頬を撫でた

「綺麗な目、もっと見せろよ」

『……修兵、さん…?』

ちょっと顔近くないか?イルミネーションはもう見えない。修兵さんの顔が視界一杯に映る。
灰色の瞳がどんどん近付いてくる。いやちょっと冗談抜きで近───





───ドォォォォォォォォォォォン!!!





「『………あ』」

大きな音の方を見れば空に華が咲いていた。あれは花火?でもこんな時季に?

「……あいつら…」

がしがしと頭を掻いた修兵さんが身体を離した。あいつらって誰だろう。そう思っていると空から微かに霊圧を感じた。知っているそれに首を傾げる。

『…斑目さん?』

これは確かに彼のもの。他にも綾瀬川さんや乱菊さんや阿散井、黒崎など……色んな人のものがある。それは花火が上がると微かに感じるもの。もしかして花火を上げてるのが皆なのか?

「まぁ、サプライズってヤツかな」

修兵さんにウィンクされて目を瞬かせる。僕にとってはこの外出自体がサプライズなんだけど。
そう思いながら空を見ていれば修兵さんが僕の左手を取った

「目ぇ瞑ってな、独月」

『ん』

素直に目を閉じれば笑った修兵さんが僕の指にすっと何か冷たいものを通す。中指に通されたそれ。何だろうこれ、まだ開けちゃ駄目なのかな。じっと待っていれば良いぞと言う声

『………あ…』

「これが最後のサプライズだ」

中指に嵌められていたのは桜を象った指輪。キラキラと輝くそれは酷く綺麗だった
顔が赤くなるのを感じる。何これ、凄く嬉しい。引き寄せられそっと抱き締められる。酷く優しい声で修兵さんが囁いた

「メリークリスマス、独月」

『……メリークリスマス』

空からちらちらと白いものが降ってくる。止んでいた雪がまた降りだしたらしい。

「ホワイトクリスマスに花火とは贅沢だな」

派手な色の花火を見ながら雪に手を伸ばした修兵さんが笑う。温もりに抱かれながら色とりどりの華を眺める
この光景を作ってくれたのは、この外出の機会を与えてくれたのは沢山の人達。皆が僕に与えてくれたんだ

『修兵さん』

「ん?」

『僕…今凄く幸せです』

「そうか…そいつは良かった」

修兵さんが優しく笑った




He is you about the fireworks of winter.



(さーてじゃんじゃん上げるわよーっ!)

(おーっ!)

(あんまり羽目外すんじゃねぇぞ松本)

(何であの二人あんなにノリノリなんだろう…)

(おい恋次、俺の方が綺麗だろ!)

(いーや、俺の方が綺麗だ!)

(違ぇな、一番はこの俺だぁ!!)

(たまにはこういうのもええな……めんどいけど)

(見て下さい兄様!上手く打てました!)

(うむ…見事だ)

(あらー皆サンやる気満々っスねぇ)