『忘年会、ですか』

「せや、お前ちょお俺の代わりに参加して来い」

『ふざけんなぜんざい』

「隊長敬わんかいゴンタクレ」

唐突に突き付けられた忘年会参加命令。勿論そんなものに従いたくなんかない。だってこいつが出るって事はどうせ隊長達の忘年会だ。御酌回りさせられるに決まってる。そんなの絶対やだ。めんどくさい。僕はさっさと帰ってゆっくりしたいんだ

「隊長達の忘年会やない。合同忘年会や」

『合同忘年会?』

溜息を吐いた財前が説明を始める

「八番隊から十四番隊までの合同忘年会や。隊を上げての催しもんやから隊長が出んと示し付かん。せやけど俺今日徹夜明けでごっつ眠いねん。家帰って寝たい。ちゅー訳でお前俺の代わりに参加せぇ」

『死にさらせぜんざい』

要はお前が休みたいだけじゃないか。隊長なんだからそのくらい出ろよ。そう言えば俺今日で三徹やぞ、と。んな事知らんわ

「ならこうしようや。今日忘年会出てくれたら明日休みにしたる。勿論有給や。それならどうや?」

『……善哉も付けろ』

「ほんま甘いもん好きやなお前……しゃーない、俺が奢ったる」

『良し乗った。今の約束忘れるなよ』

「はぁ……とんだ交換条件や…」

頭をがしがしと掻く財前。良い気味だ。鼻で笑えば懐から振動。伝令神機を取り出す。ランプの色は青。あの人からの電子書簡が届いていた




From:修兵さん

No Title

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お前今日の忘年会出んの?

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え、わざわざそんな事聞く為に送ってきたの?
電話してくれた方が早いのに。そう思いつつ返信する




To:修兵さん

Re:

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うん。
ぜんざい野郎が出ないから、代わり


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書類に手を伸ばせばまたランプの点滅。返信早いな修兵さん。何だ、暇なのか




From:修兵さん

Re:Re:

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なら丁度良かった。
俺も東仙隊長の代わりに出るんだ
今から迎えに行く

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『………ん?』

修兵さんの返信に目を通して首を傾げる。今から迎えに行く?え、まだ七時だぞ。てか忘年会って何時からだ

『おい財前』

「隊長付け。なん?」

『忘年会って何時から?』

「んー?あー…確か七時半や…ふぁあ」

欠伸混じりに言われ米神がヒクつく。何でもっと早く言わないんだよこの馬鹿。もうすぐ始まっちゃうじゃないか
慌てて机の上の書類を提出箱に入れて外套を着る。隊長代理で出るのに遅れたりしたら洒落にならん。帽子を被って耳当てを装着すればノックされる扉。感じ慣れた霊圧の持ち主の為に扉を開ける

「お、もう準備出来てんのか」

『今急いで支度したとこ』

紺色の外套を身に纏った修兵さんに頭を撫でられた。ええ急いで準備したとも、そこで欠伸してる馬鹿のせいで

『修兵さんさっさと行こう』

「ん?ああ、そうだな。じゃあちょっと独月借りますね、財前隊長」

「じゃじゃ馬の面倒頼んます」

誰がじゃじゃ馬だ。財前に向かって舌を突き出せば修兵さんに小突かれた













『じゃあ適当に呑んで食べて騒げ。乾杯』

十四番隊隊士達に向かって適当な音頭を取ってから猪口を煽る。歓喜を上げた隊士達がすぐに騒ぎ出した。うん、勝手に騒げ。でも僕に迷惑掛ける様な事はするなよ、めんどくさいから
他隊も混じり合って始まったどんちゃん騒ぎを遠巻きにぼんやりと眺めていれば、ぽんと頭に手を置かれた。振り向けば修兵さんが隣に座る。

『あれ、混ざんないの?』

「混ざったらゆっくり酒を味わえねぇじゃねぇか」

そう言って修兵さんが猪口を煽る。空になったそれに酒を注いでやればゆるりと笑った

「それに此処に居れば可愛い子猫チャンが御酌してくれるしな?」

『御酌一回につき千環頂きます』

そう返せば料金制かよと修兵さんが笑う。人の事を子猫チャンとか言うからだ。そういう口説き文句は綺麗なお姉さんに言ってこい。呟けば頬杖をついた修兵さんが口を開く

「俺はお前を口説いてるんだけど?」

『残念。僕の恋愛感情は摩滅してるんでときめきません』

自分の猪口に酒を注げばちぇっと呟く声。何か何時もより子供っぽい。何この人酔ってんのか。でもまだ忘年会が始まって時間はそんなに経ってない筈。修兵さんは酒は強い方だからこんなに早く酔うなんてまずないと思うんだが
そう思いふと彼が傍に置いている酒瓶に目が行く。もう殆ど中身の残っていない酒瓶。これ卍解じゃん。確か滅茶苦茶アルコール度数高いヤツじゃなかったっけ?
ちらりと修兵さんの顔を見る。平然としているが僅かに赤い頬。潤んだ瞳。この人やっぱ酔ってたのか

「なんか今日の檜佐木副隊長すっごくカッコ良くない?」

「うん、色気っていうの?すごいねー」

「良いなぁ大人の色気!」

聞こえてきた会話に耳を疑った。や、確かにこの人は格好良いけど変態だしヘタレだしタラシだぞ。それに色気がどうとか言ってたけどこの人はただ眠いだけだ。目、半開きだし
じっと観察していれば視線に気付いたらしい修兵さんが此方を見た。

「何?見惚れた?」

『うん、寝たらどうだろう酔っ払い』

酔ってるなら醜態晒す前に部屋に帰ってさっさと寝てくれ。そう思いつつ猪口を掴めばその手が掴まれた。にゅっと隣から伸ばされた大きな手が僕の手ごと猪口を口許に引き寄せる

『修兵さん、僕の手は離そうか』

「んー。酒旨ぇ」

『話聞けよ酔っ払い』

ぐいぐい手を引っ張ってみても修兵さんは僕の手を離さない。寧ろ掴んだまま酒を呑み続ける。僕の手は猪口じゃないんだが。てかこの人平気そうな顔してかなり酔ってないか?

『修兵さん、ちょっともう呑まない方が』

「まだイケる」

『それ言う時は何時も酔ってるよ。少し休憩しなよ』

片手で酒瓶を奪い取れば不機嫌そうな顔で睨まれた。そんな顔したって駄目です。呑み過ぎだよ。少しは休憩しないと身体に悪い
そう言えば修兵さんがへらりと笑った

「じゃあ休憩する」

『ん。判っ………え?』

珍しく素直に言う事を聞いたなと思った瞬間────ぽすり、と。
僕の膝に黒い頭が乗せられた。

「おやすみー」

『は?ちょっ……え?』

修兵さんはそう言って目を閉じた。
ちょっと待て。何でそうなる。何をどう考えたら膝枕なんて結論に至ったんだこの酔っ払い。
頭を落としてやろうかとも思うがそれは流石にやり過ぎなんじゃないかと思って気が引ける。
何か凄く幸せそうな顔してくーくー寝てるし。ほんとどうしようこの顔面卑猥

「あら、檜佐木先輩寝てるの?」

『藤堂さん』

声のする方を見れば金髪を高い所で一つに括ったうちの三席が笑っていた。うん、そうなんだよ。この顔面卑猥勝手に人の膝に頭乗せて寝始めたんだよ

「何か被るものでも持って来ましょうか?」

『僕の上着掛けるから大丈夫』

「馬鹿ね、あんたは寒さに弱いんだから着てなさい。ちょっと毛布でも持って来るわ」

僕にデコピンした藤堂さんが宴会場から出ていった。ああ、外は寒いのに申し訳ない。俯いていればぽんと頭に手を置かれた

「…藤堂はお前の為に動くのが好きらしいから、気にするな」

『小鳥遊くん…』

八番隊三席の小鳥遊くんが優しく笑った。
久々に見た彼は少し大人っぽくなっている。そういえば藤堂さんも綺麗になったよな。
あれ、て事は成長してないのは僕だけ?

「独月ー毛布持って来たわよ…って小鳥遊居たの」

「久し振りだな」

藤堂さんから毛布を受け取り修兵さんの身体に掛ける。多分これで風邪は引かない…筈。

「相変わらず仲良しねー」

「付き合っては別れる藤堂とは大違いだな」

「だまらっしゃい小鳥野郎」

『藤堂さん此処で鬼道は止めようか』

何かこうやって三人で話す機会がなかったから凄く懐かしく感じる。霊術院で初めて出来た僕の友達。二人も元気にやっている様で酷く安心した










「ん……?」

藤堂さんと小鳥遊くんと別れてまたちびちびと酒を呑んでいれば膝の上の顔面卑猥様が小さく呻いた

『起きた?』

「あ…?独月…?」

『ん』

頷けば修兵さんが数回目を瞬かせた。そしてゆっくりと身を起こす

「あれ、何で膝枕……?」

『修兵さんが勝手に僕の膝に頭乗っけて寝たからですけど』

「あー…すまん…足痺れてねぇか…?」

『平気』

申し訳なさそうに眉を下げる修兵さんを見て小さく笑う。別にそこまで気にしてないのに。僕の肩を抱き寄せた修兵さんがぽりぽりと頬を掻いた

「流石に卍解一升瓶は効くな。あんなに酔ったのは久し振りだ」

『これからは限度考えてね』

「おう」

僕の肩に毛布を掛けた修兵さんが小さく笑う。
そして置いてあった水を飲んだ。コップを机に戻した修兵さんは何処か気怠げ。それを見た女性隊士達がまたきゃいきゃい騒いでいる。やっぱこの人人気あるのか

「ん…?どうした?」

『や、人気あるなーって』

「あ?人気?」

首を傾げた修兵さんにこくりと頷く。チーズかまぼこをもっさもっさ食べていれば何の事だよとチーズかまぼこを奪われた。あ、僕のチーかま。返せと手を伸ばせばそれは修兵さんの口に収まる

『チーズかまぼこ……』

「え、ちょっ泣くなよ?まだ沢山あるから泣くなよ!?」

焦りだした修兵さんに新しいチーズかまぼこを握らされた。御礼を言えばほっと溜息を吐かれた。てか泣かないし。ちょっとしょげただけだし

「まさかチーズかまぼこで泣かれるとは…」

『泣いてないし。しょげただけだし』

「そうかい。ま、ご機嫌なら何よりだ」

ぎゅっと抱き付いてきた修兵さんをそのままにチーズかまぼこを咀嚼する。美味しいなこれ。
酒に合う
もそもそとチーズかまぼこを食べていればカメラを構えた爆乳美女がやって来た

「今日も沢山撮れたわー♪」

「また隠し撮りっすか……」

げんなりした様子で修兵さんが訊ねる。チーズかまぼこを口許に運べばぱくりと食い付いた。
これ修兵さんが釣れるな

「ねぇちょっとこれ食べてよ!」

笑顔の乱菊さんが差し出したのは赤い箱。あれだ、現世で良く見るお菓子

『……ポッキー?』

「そ!ちょっと二人で食べてみてよ!」

「『…………』」

ちらりと修兵さんを見る。彼も神妙な面持ちで此方を見ていた。笑顔の乱菊さんからの提案。
経験からして絶対良からぬ事だ。尚且つ撮られた写真は乱菊さんの酒代と女性死神協会の懐に行く。僕達はあんまり利益ないし。というか損しかしてない気がする
小さく頷いて、同時に口を開いた

『「お断りします」』

「えー何でよー」

や、何でじゃないから。あからさまに写真撮ろうとしてるじゃん。しかもそのお菓子わざわざ持って来たって事は絶対何かさせる気でしょ
そう言えば乱菊さんがごね始めた

「食べなさいよー!一回ポッキーゲームしてくれればそれで良いんだからー!」

「なんすかその激しく嫌な予感のする遊びは」

『食べ物で遊ぶのは良くないです』

「お前は論点ずれてる」

え、ずれてる?首を傾げれば修兵さんに頭を撫でられた。だってゲームって言ったし。食べ物で遊ぶのは駄目だってお婆ちゃん言ってたし
てかこの人引く気はないのか。どうやら乱菊さんは写真を撮るまで戻る気はないらしい。厄介だなこの酔っ払い
ぎゃーぎゃー喚く乱菊さんがだんだん面倒になってきたのか、耳を塞いでいた修兵さんが溜息を吐いた

「だーもう面倒くせぇ!要は写真撮らせりゃ良いんでしょ!?」

「そうよーさっさとポッキーゲームしなさいよこのヘタレー!」

「うわこの酔っ払いマジ面倒くせぇ。…ったく、しゃーねぇな……」

ちゃんと構えてて下さいよと言ってから修兵さんが僕を見た。何をする気だと見ていればカメラを見とけと顔の向きを変えられる。真っ正面には酔っ払いのカメラマン。や、ほんと何する気?もう一度修兵さんの方を見ようとして──────


『───へ?』


頬に柔らかな感触。カシャリとなるシャッター音。ちゅっと音をたてて柔らかな何かは離れた。何だ今の。フリーズしていると響く悲鳴。

「「「きゃーーーーー!!!」」」

ちょっ鼻血噴いて倒れたんだがあのお姉さん方大丈夫か



It is kiss to your lovely cheek



(ちょっと修兵さん何したの?)

(さぁ?ヒ・ミ・ツ)

(うわ腹立つ)

(良い写真が撮れたわー♪)