「……う、ん…?」

柔らかな刺激に目を開ける。頬をふにふにと何かが触っていた。何だこれ。ぼーっと見ていれば痺れを切らしたのか、そいつはまた別の方法を取り始める。ぐりぐりと頬に押し付けられる、柔らかいが少し固めのふわふわ。マジで何だこれ。俺こんなもん部屋に置いてねぇぞ。ぬいぐるみかとも思うが、ぬいぐるみはこんなに温かくねぇし

『しゅーへーさん』

何か凄ぇ近くから独月の声がした気がする。ぐりぐりと押し付けられるそれに触ると、ぴこぴこと動いた。何だこれ。二つ着いてる。白っつーか、銀色?
近過ぎてぼやけるそれを眺めていれば、また独月の声がした

『おきろってば、しゅーへー!』

「呼び捨てかよ……」

や、可愛いから良いけど。寧ろこいつに呼び捨てされるとか嬉しいから良いけど。でも何でこんなに近くから声がするんだ?

「おい独月……コレ何だ…?」

『ぼくだよ!いいかげんめぇあけろっ!』

言葉と同時に頬をふにふにと連打しだした何か。おい俺の頬なんかつついても何も面白くなんかねぇだろ。僕だよって事は独月が俺をつついて遊んでんのか。それにしては随分と切羽詰まってた気もする。何か喋り方も幼ぇし。
何回か瞬きをして頬をつつく物を見て────

「……………は?」

思わず目を見開いた。え、猫?
あいつ何時猫なんか部屋に持って来た?つか猫置いてどっか行ったのか?
そう考えていれば、尻尾を布団に叩き付けながら猫が喋った

『ちょっと、なんでむしする?』

「……まだ寝ぼけてんのか、俺」

はははと乾いた笑い声を上げてもう一度目を閉じる。そうだ、俺きっと寝ぼけてるんだ。じゃねぇと猫が独月の声で喋る訳がねぇ。

「ってぇ!」

『おきろってば!』

バリッという音と、頬に走る痛み。飛び起きれば銀色の子猫が俺を見ていた。お前今引っ掻いたろ

『やっとおきた?』

「……独月?」

『そうだけど』

子猫が目を細めた。右は青で左は紫。左の瞳孔は縦に裂けてる。それにこの毛の色に、左頬の模様に、首輪。あいつの髪の色だし、左頬にあるのは桜の痣。首輪は間違いなく俺が独月にやった鈴付きのチョーカーだ

「……何で猫になってんだ?」

『そんなのぼくがききたい』























「……で、俺に付いて来てどうすんのよ子猫チャン」

俺の頭に乗っかった独月に訊ねる。お前今日絶対仕事出来ねぇだろ

『あこんさんのとこにいく』

「一人で?却下だ、俺も行く」

あんなイカれた奴等の巣窟に、子猫になったお前一人で行かせられる訳ねぇだろ。
言えば俺の頭をふわふわな手で叩きながら独月が反論する

『しゅーへーさんはしごと。さんせきにふくたいちょうまでいなかったら、とうせんたいちょうがかわいそう』

「…なら俺の仕事が終わるまで待て。絶対に一人じゃ行かせねぇ」

『…わかった』

「良し、良い子だ」

頭の上の子猫を撫でて九番隊隊舎に入る。周りからの視線は無視。判ってんだよ俺だって子猫頭に乗っけて恥ずかしいわ。可愛いもんが似合わねぇのにこれとか朝からどんな羞恥プレイだ

「おはようございます東仙隊長」

『おはようございます』

「ああ、おはよう。…桜花?」

何時も通り挨拶すれば、東仙隊長は不思議そうに俺の頭に顔を向けた
それに気付いた独月が俺の肩の上に着地する

「何やら随分と小さくなってしまった様だが…大丈夫か?」

『しゅーへーさんにひっついてればだいじょうぶかと。でもたぶんきょうはしごとできません』

「そうか…仕事の事は気にしなくて良い。檜佐木とはぐれない様に」

『すみません。ありがとうございます』

微笑んだ東仙隊長がそっと独月を撫でた。それに目を細める独月。何だこの癒し空間。此処マイナスイオン出てんのか

「何あれ子猫?」

「檜佐木副隊長…猫までちびさぎ三席に似たの飼うとかどんだけ好きなんだよ…」

あれ、何か勘違いされてね?猫だけどこいつは独月だっての。猫までって何か俺が危ねぇ奴みてぇじゃねぇか

「あー…こいつ、独月だから。阿近さんの実験で猫になっちまってるが、何時も通り話し掛けてやってくれ」

咳払いをして隊士達に説明をする。断じて俺は危ねぇ奴じゃねぇ

『きょうはしごとできませんので、よろしく』

また俺の頭の上に戻った独月がそう言った。…お前何か楽しんでねぇか?
























『ひまー』

「俺はとっても忙しい」

肩の上の子猫はのんびりと欠伸をする。良いなお前は暇で。こちとらお前の分まで編集作業してるっての

「ったく…阿近さんももうちょっと時期考えてくれりゃ良いのに」

何で瀞霊廷通信の締め切りが近いこの時期にこいつをこんなにしたんだか。こいつの処理能力
は主戦力だってのに

『てつだいたいけどげんこうめくれないんだよね……ごめん』

「謝んな、お前は悪くねぇだろ」

しゅんとした独月の頭を撫でる。こうなっちまったのも阿近さんの所為だし

「つか、今のお前の仕事はごろごろする事だ」

『…ごろごろ?』

首を傾げた銀色に小さく笑う。

「そ。俺の傍で好きな様に過ごすのがお前のお仕事。判ったか?」

『……こうかは?』

「俺が癒される」

『…ならがんばる』

「おう、頑張りな」

頑張ってごろごろするってどうなんだ。噴き出しそうになるのを堪えながら原稿に目を通す

『ごろごろー』

「くくっ…お前ほんと可愛いな」

首筋に擦り付いて来る子猫に自然と笑みが漏れる。ごろごろーってお前可愛過ぎだろ。何なのお前、お前は可愛いで構成されてんのか。今なら主成分は可愛いですとか言われても余裕で信じられる気がする

『……んにゃ?』

「ん?どうした?」

んにゃって。お前ほんとやばい。可愛過ぎて心臓が痛い。何だこれ俺病気だったのか
そう思いつつ耳をぴこぴこ動かす独月を眺める

『いま、かしゃっておとがきこえた』

「あ?…シャッター音か?」

『たぶん』

ゆるりと俺の首に尻尾を巻き付けてきた独月が頷く。猫は聴覚が発達してるし間違いはねぇだろう。問題は誰が何を撮ったか、だ。もし俺達を隠し撮りって名目で撮ったなら、そんな事をやらかすのはあの人しか居ない

『またきこえた』

「独月、聞こえてくる方角は判るか?」

『とびら』

「瞬歩使うから、しっかり掴まっとけ」

『ん』

独月に小声で囁いて、ゆっくりと椅子から立ち上がる。瞬歩を使って一気に扉の前に進んだ。
勢い良く扉を開ければ悲鳴を上げた、爆乳美人

「…何してるんですか、乱菊さん」

「……あら、バレちゃった?」























「ったく…遊んでる暇あんなら原稿持って来て下さいよ、原稿!」

『げんこうー』

俺の肩の上でぴっと前肢を挙げる独月。
うん、お前が可愛過ぎて萎えるからちょっと黙っててくんねぇかな。喉元を擽ればゴロゴロと喉を鳴らした。あー、お前はお前で仕事してんのか。でも怒ってる最中に癒すのは駄目だろ

「ちびさぎが居ると修兵が怖くなくて助かるわー」

「……カメラ壊しますよ」

「やーん、ちびさぎ助けてー?」

助けを求めた乱菊さんは涙目。ちょっと待てこいつに助け求めるとか卑怯だろ

『しゅーへーさん、おんなのひとなかすのはだめ』

「や、でも今のは明らかに乱菊さんが悪いだろ……」

『…………』

「やめろっ!んなに潤んだ目で俺を見るなっ!」

『…ならちゃんとあやまる?』

「謝るっ!脅してすみませんでしたっ!謝ったからその目やめろっ!」

『ん、しゅーへーさんいいこ』

「………………」

どうしよう俺猫に頭撫でられてんだけど。つかそれすらも嬉しく感じる俺マジで爆発しろ

「可愛いわねちびさぎー」

『?かわいくないです。らんぎくさんはきょうもびじんですね』

「ちょっとほんと可愛いわね修兵この子頂戴?」

「お断りします」








猫になりました







(ねぇちびさぎ、うちに来ない?お菓子あげるわよ?)

(いきません。
とうせんたいちょうがしゅーへーさんからはなれないようにっていったので)