「桜花」

『はい』

東仙隊長に呼ばれそちらに向かう。東仙隊長は一枚の書類を僕に渡してきた

「今年も我が隊に十七名入隊した」

『はい』

新人が入隊して一週間経ってるから、そろそろ隊も落ち着いてくる頃だろう
そう思って書類に目を落とす。乗っているのは赤髪のいかにも不良ですって感じの男の子

『斬之橋玲乃……』

何かもう名前からして厳つい。見た目からして明らかに十一番隊だ。何でうちに来た?

「君にはその書類の新人隊士の担当になって欲しい」

『……僕がですか?』

ああと東仙隊長が頷いた。僕これでも三席なんだけど。新人の教育係って十席以下がやるもんじゃないの?
そう聞けば東仙隊長が同意した

「確かにそうだ。だが斬之橋は腕が立つ。五席すら彼に敵わなかったのだ」

『……菅野四席は?』

「菅野は新人教育には向いていないだろう」

…菅野が使えないから僕なのか。溜息を吐いてまた書類に目を落とす

『流魂街第79地区出身……それなら腕っぷしが強くても当然ですね』

「頼めるかい?」

申し訳なさそうにしている東仙隊長に渋々頷く

『取り敢えず叩き潰して良いんですよね?それならやります』























「あれ、独月?」

昼頃、休憩を取ろうと思い顔を上げれば目に付く銀色が居なかった。あれ、何処行った?霊圧を探れば少し離れた場所にあいつを見付けた。距離から考えて、修練場か?そういや知らねぇ霊圧と一緒に居る。宇波五席?いや、それよりでけぇ。国後よりは小せぇし、妙に刺々しい霊圧だ。誰だ、こいつ。そう思った瞬間急に刺々しい霊圧が小さくなった。それと同時に遠くから何かが壁にぶつかったみてぇな音がした。え、独月何した?
俺は慌てて席を立ち、副官室を出た。
瞬歩で修練場に向かえば、見慣れた銀髪が立っていた。奥の壁からは煙が出ていた

「独月、何があった?」

『新人鍛えてた』

鍛えてた?その言葉に眉を寄せる。これが稽古だとしたらやり過ぎだろ

「何撃った?」

『蒼火墜』

「加減しろよ」

『軽くした』

ならこの現状は何だよ。言いながら独月の頭を小突く。確かに加減はしてるんだろう。だが番なしでもこいつの蒼火墜は軽く壁を突き破る。それだけこいつは鬼道が上手い。お前はもう少し自分の実力の高さを知れ

「何でお前が新人の相手してんだよ。別にもっと下にやらせれば良かっただろ?」

『宇波五席もそいつにやられた。だから僕に回ってきた』

「マジか」

新人でそんなに強ぇって凄ぇな。や、だから鬼道ぶちかまして良いって訳でもねぇけど
さてそろそろ救助するか?そう思った時、煙の中で何かが揺らめいた

「っくそ……いってぇな…」

『当たるお前が悪い』

「至近距離で避けられっかよ!!ざけんなチビ!」

『蒼火墜』

「話聞け!」

そう言いながら躱すのは鮮やかな赤。阿散井とはまた違う色だ。

「東仙隊長に許可は?」

『取り敢えず叩き潰して良いんですよねって聞いたら頷いた』

「……ご愁傷さま」

思わず新人に合掌する。こいつが隊長から許可を得てるなら止められねぇし。てか任された時点でボコるつもりとかどんだけだ

『雷吼炮』

「あんた加減って言葉を知らねぇのか!」

『隊長からお前を叩き潰して良いって言われたから程々に叩き潰す。蒼火墜』

「なんつー許可出してんだあの人!」

「まだ斬魄刀抜いてねぇし、かなり加減はしてるぞ」

「あんた止めろよ!副隊長だろ!」

「言葉遣いに気を付けろ。新人が副隊長にタメ口使ってんじゃねぇ」

そう返した時、独月の雰囲気が僅かに固くなった

『…破道の七十三・双蓮蒼火墜』

「は!?」

「え、おい独月…?」

あいつお得意の鬼道が新人を直撃した。てか今瞬歩で移動して新人の顔面掴んで双蓮蒼火墜撃った様に見えたのは気の所為か…?
巻き起こった爆煙が晴れ、小さな影が現れる。そいつの足許に赤いのは倒れていた

『…別に僕に敬語を使えとは言わない。だが修兵さんを軽視するなら今此処でお前を斬る』

「待て待て待て落ち着け独月」

新人を睨みながら斬魄刀の柄を掴んでいる独月を慌てて止める。お前ほんと俺の事になると短気だな!
小さな手を掴めば目を尖らせた独月が俺を見た

「ほら、可愛い顔が台無しだ。睨むの止めな」

『可愛くないし元々こんな目だ。何で止める?』

「そりゃお前が怒ってるから」

つか止めねぇと確実に斬魄刀抜くだろ。そうなりゃ俺は副隊長としてお前を罰しなきゃならなくなるんだが

「俺はお前を罰したくねぇ。だからもう止めとけ、桜花三席」

『……判りました、檜佐木副隊長』

俺の言いてぇ事が判ったらしい独月が斬魄刀から手を離した。だがまだ顔は不機嫌そのもの。ほんとしょうがねぇ奴。
抱き締めれば小さな身体が僅かに震えた

「あんなのは慣れてる。だからいちいち怒るな」

『………………』

胸元に引っ付いてきた独月は無言。あれ、こいつ不機嫌は不機嫌だが、どっちかっつったら拗ねてんのか

「なーんで拗ねてんの、お前は」

『…だって』

「ん?」

『…だって、修兵さんが馬鹿にされた気分になった』

「タメ口使っただけだ。馬鹿にされちゃいねぇよ」

『……やだよ。修兵さんは凄いのに…』

今にも消え入りそうな声で独月はそう言った。ああ、もう……何でこうこいつはいじらしいかな

「お前が思ってる程俺は凄くねぇ。だから悪い風に言われる事もあんだよ。判るな?」

『判んない』

「判ってんだろ?理解したくねぇからって思考を放棄すんな」

耳を塞いだ独月の手を外し、しゃがんで向かい合う。少し高い位置にある独月の顔を覗き込めば目を逸らされた。どうしても理解したくねぇのか。珍しく抵抗する独月に笑いながら、口を開く

「俺はお前がそんな風に思ってくれてるだけで嬉しい。だから、悪口言われても何ともねぇんだよ」

『………………』

「だからお前も周りなんか気にすんな。悪口言う様なつまんねぇ奴等を見る必要なんかねぇ」

こいつの俺に向ける感情は、信頼なんてもん通り越して信仰に近い。俺の事を神みてぇに崇めて、依存してる。それこそ只の悪口で斬り掛かるくらいに
勿論命を救ったその日から、ひたすらに向けられてきた信頼が少しずつ変わっていくのにも気付いてた。
それを指摘するなりなんなりして止めなかったのは、俺にとってもこいつは神様みてぇな存在になっていたから
お前の中で、俺は命を救った神様。
俺の中で、お前は俺の価値観も何もかも、全てをぶっ壊しちまう神様。
───────俺だけお前を信仰するのは不公平だろ?

「お前はずっと、俺だけ見てろ」









Fold a chain into the wings of God








(なぁあれって斬之橋運びに行っても良いのか……?)

(副隊長と三席いちゃついてるし…どうしよう…)