三日会えないと壊れる
目を通す
押印。
『良し、終わり…』
終わった書類を提出箱に入れ、ぐっと伸びをする。 やっと全部終わった。流石に修兵さんの分までやるのはキツかったな。でもあの人編集室に籠りっきりだし、東仙隊長は長期任務に出ちゃったし。締切乗り越えて帰ってきたら机の上に山積みの書類とか流石に可哀想だろう。うん、取り敢えず終わったし良かった良かった
さてお茶でも飲むかと席を立てば扉がノックされた。誰だろう。返事をすれば扉が開いた
「ちびさぎー今日温泉行かなーい?」
入ってきたのは乱菊さん。彼女は入るなりそう言った
『温泉ですか?』
「まぁ一番隊舎の露天だけどね〜。雛森と七緒も一緒に行くからあんたも誘おうと思って」
『温泉か……』
丁度書類も終わったし、ゆっくりするのも良いだろう。
『良いですね。僕も行きます』
「じゃあ決まりね!」
「終わったぁ…ッ!!」
最後の原稿を机に放り投げ、椅子に雪崩れ込む。疲れた。取り敢えず疲れた。誰が締切ギリッギリに日番谷隊長の隠し撮り写真なんか持ってこいっつったよあの爆乳美人。お陰でこちとら徹夜だっての。深い溜息を吐いて茶を啜る。
どたどたと足音が聞こえてきたのは丁度そんな時
「せんぱーい、居ますー?」
「おー」
返事をすれば扉が開いた。入ってきたのは赤い髪の後輩。阿散井は編集室に入るなり部屋の中を見渡した。周りで倒れている隊士達を見て口を開く
「相変わらず締切間近の此処は凄ぇっすね…」
「今丁度その激闘を終えたトコだ」
「終わったんすか?」
「ああ……つっても今度は書類に追われるんだろうけど」
きっと副官室の俺の机には書類の山があるんだろう。そう考えると気が重い。だって三日は編集室に詰めてたし。少なくとも山が二つは俺の机を我が物顔で占拠してる筈。辛ぇ。東仙隊長居ねぇから書類倍増しだし。俺頑張ってんのに何その仕打ち。取り敢えず泣きたくなるんだがどうしよう
「書類なんてなかったっすよ?」
「あ?」
溜息を吐いた俺に阿散井はそう言った。なかったってどういう事だ。三日も仕事してねぇのに書類がねぇ筈ねぇだろう。寝ぼけてんのかこいつ。言えば阿散井は首を振る
「マジっすよ。確かちびさぎ先輩がやってたし」
「あの馬鹿……!」
阿散井の言葉に思わず頭を抱えた。何してんのあいつ。あいつの書類も多いのに何で俺の分までやってんだよ。アホかあいつ。や、アホは俺だ。あいつの疲労メーター振り切れてぶっ壊れてる事忘れてた俺が悪ぃ
てかもう三日も独月と話してねぇ。話どころか顔も合わせてねぇ。辛ぇ。今まで抑えていたものが沸々と沸き上がってくる
やべぇ独月不足だ。あいつに会いてぇ。声が聞きてぇ
「今なら独月不足で死ねる」
「あー…相変わらず頭残念っすね」
「黙れ阿散井」
泊まり込みで編集室に居たからあいつに会えてねぇんだよ。寧ろ三日も会えてねぇのに良く我慢したな俺。一日会えねぇだけで辛ぇのに
「アレだ。俺にとっての独月はてめぇにとっての鯛焼きと同じ様なもんだ」
「重要過ぎんだろそれ」
「だろうが」
阿散井が抱えている袋を指差せば奴は目を見開いた。つかてめぇ毎日鯛焼き食ってねぇ?気ぃ付けねぇとその内糖尿病になんぞ
ぐっと伸びをして、窓から見えた銀色の月を眺める。あ、独月と同じ色だ。そう考えると段々あいつにしか見えなくなってきた
「抱き締めてぇ。あいつの胸に顔埋めてぇ。あいつの匂い嗅ぎてぇ。銀髪に指通してぇ。色が違って吊り上がってる凄ぇ可愛い猫目に見つめられてぇ。あのひんやりした肌に癒されもがっ」
ぼんやりしていれば口に何かを突っ込まれた。何だこれ。齧れば甘ったるいもんが出てきた。鯛焼き?
こいつを俺の口に突っ込んだであろう阿散井は顔を青くして此方を見ていた
「頼む、黙ってくれ先輩。俺ロリコンとつるんでるとか思われたくねぇっす」
「……俺口に出してたか?」
「はい、バッチリ」
「マジか」
口から鯛焼き出してる俺今凄ぇ間抜けだと思う。あれか、独月不足でついうっかり口が滑っちまったのか。やべ、次からは気を付けねぇと。
「つか俺はロリコンじゃねぇ」
「…ちびさぎ先輩の見た目がガキにしか見えねぇのは俺だけっすか」
「ガキで何が悪い。あいつ絶対成長したら美人になんぞ。つか別に成長しなくても良い気もする。このままでも全然綺麗だし可愛い」
「完璧ロリコンじゃねぇか」
別に今のままでも綺麗だし可愛いよな。あ、でも二十代のあいつを見てみたい気もする。絶対美人だ。てか何かあいつ色気やばそう。その綺麗な顔が笑えたら尚良し。や、微笑みでも良い。きっと十分綺麗だ。あ、やべぇ。想像したらにやけてきた
「もうそのだらけたツラはスルーします…先輩今日一番隊の温泉行きません?」
「……あ?一番隊の?」
トリップしていた頭を無理矢理阿散井との会話に戻す。え、温泉?何で?
「たまには良いんじゃねぇかって話になって。吉良も行くんすけど先輩もどうっすか?」
「温泉か……」
確かに何時も部屋の風呂しか使わねぇから温泉なんて久々だ。たまには良いかもしれねぇ…けど取り敢えず独月に会いてぇ
今から副官室に向かうか?そう思った時胸元から震動。伝令神機を取り出せばランプが点滅していた。色は白。あいつ専用の色だ
───────────────
From:独月
No title
───────────────
乱菊さん達と温泉行ってくる。
修兵さんの分の書類もやっといたから今日はゆっくりして下さい。
明日修兵さんは休みなので勝手に出舎しない様に
───────────────
「………………」
思わず口許を押さえた。やべぇ、絶対今にやついてる。心配されて嬉しいとか俺末期か。取り敢えずこの衝動をどうすれば良いのか切実に知りてぇ
「阿散井、転がりてぇぐらい悶えてる時お前ならどうする」
「速やかに四番隊に送ります」
『ふぅ……』
湯を被って一息。髪を洗おうとシャンプーに手を伸ばせば横から伸びてきた手に容器ごと引ったくられた
『乱菊さん?』
「髪洗ってあげる!前向きなさい」
『…ありがとうございます』
笑顔の乱菊さんに言われるまま前を向く。すぐに手が髪に触れ、優しく泡立て始めた
「あんたの髪綺麗よねー。どんな手入れしてるの?」
『主に自然乾燥しようとして修兵さんに拭かれるぐらい雑です』
「あら、そうなの?良いわねー手入れしてないのにこんなに綺麗で。アタシなんか毎日ブローしてるわよ?」
『ちゃんと手入れしてる方が女性らしくて良いと思いますけど』
「ならあんたもちゃんと手入れしなさい。女なんだから」
『……めんどいです』
「言うと思った」
くすくすと笑いながら乱菊さんが手を動かす。人に髪を洗って貰った事はないけど、乱菊さんは上手なんだと思う、気持ち良いし
『乱菊さん髪洗うの上手ですね』
「そう?たまに雛森にするぐらいで殆どした事ないわよ?」
『そうなんですか?上手だから慣れてるのかと』
「まぁアタシだからね!はい、流すわよー」
『はーい』
僅かに上を向いて目を瞑る。すぐに温かな湯が髪に掛けられた。数回濯がれたと思えば何かを髪に塗られる。
『コンディショナー?』
「そ。綺麗なんだから、ちゃんとしないと」
梳く様にしてコンディショナーを塗られ、数回頭皮のマッサージをされた。そしてまた濯がれた
「はい乱菊マッサージは終了よ!」
『ありがとうございました』
ぺこりと頭を下げて洗顔を始める。手早く洗顔と身体を洗うのを終わらせ、先に湯に浸かっていた乱菊さん達を追い掛けた
湯にちょいちょいと足を浸けて温度を確かめる。熱い。一応五分くらい浸かって水風呂に行こう
ちゃぷんと浸かれば視線を感じた。何だと見れば乱菊さんだけじゃなく雛森に伊勢副隊長まで此方を見ている。え、何?
「ちびさぎって……」
『はい?』
「何か、綺麗よねー」
『……はい?』
何がだ。寧ろ何の事だ。首を傾げれば乱菊さんが頷いた。
「あんたってその胸なくてほっそりしてるのが綺麗なのよ。似合ってるっていうか…美術品みたいな?」
「あー…確かにそうですね。桜花さんって何かそんな感じがします」
それはどう受け取れば良いのか。乱菊さんと雛森の言葉に眉を寄せていれば、伊勢副隊長が僕を見て口を開いた
「何というか……汚れのない少女を表す様な美しさですね」
『………』
「ねー!何かこういうの現世の美術館とかにありそうじゃない?」
『こういうのって……』
「ライトアップされてそうですよね」
「陸に上がった時の人魚姫でも良いんじゃないですか?」
「良いわねそれ!なら王子は修兵?」
「激しく似合わないですね」
「…あはは」
『……はぁ』
僕そっちのけで騒ぎだした三人を置いて水風呂に向かう。美術品でも人魚姫でもないっつの。悪かったな胸がなくて。
考えると溜息が出た
「っ」
風呂から上がり部屋に戻ろうとしていた時、見えた銀髪。駆け出して後ろからしがみつけば小さな身体が跳ねた
『……修兵さん?』
「…独月…」
しがみついたまま首筋に擦り付けば擽ったそうに独月が首を竦めた。甘い匂いにほっと息を吐く。髪に指を差し込み梳く様に撫でた。やべぇ、すっげぇ安心する。それに癒される。幸せだ、俺
『…修兵さん、動けない』
「もっと名前呼んで」
『話訊けよ』
腹に回した腕でぎゅーっと抱き締めれば苦しそうに独月が唸った。少しだけ緩めれば頭を撫でられた。うん、幸せ。すぐに離れた手を掴みもっと撫でてくれと擦り付けば独月が溜息を吐いた。髪を優しく撫でられる。ああ、幸せ。やっと独月不足から解放された気がする
「随分甘えたねー」
「まだこれなら良いっすよ…虚ろな目で抱き付きてぇだの何だの言い出すよかマシっす」
「確かに…」
「もうこれは犯罪の域に達してますね…」
「い、伊勢さん……」
騒ぐ外野は無視だ、無視。今は癒されるので忙しい。擦り付けばまた溜息。名前呼んでくんねぇかな。じっと見つめれば独月が此方を見た。空と藤の色を宿した瞳が細められ、呆れた様にまた溜息
『修兵さん』
「もっと」
『修兵さん』
「もっと」
『…修兵さん』
「もっと」
離れてた三日分の名前呼んで欲しい。でも多分これ言ったら絶対呆れられる。てか今も呆れられてるけど
「…こ…此処でやらなくても…」
「あれって完全にバカップルよねー」
「あ、ちびさぎ先輩が遠い目してる」
「桜花三席が哀れですね」
「檜佐木さん……」
三日会えないと辛い
(独月ー)
(修兵さん)
(好きだ独月ー)
(はいはい、僕も好きですよ修兵さん(だんだんめんどくさくなってきた…))
押印。
『良し、終わり…』
終わった書類を提出箱に入れ、ぐっと伸びをする。 やっと全部終わった。流石に修兵さんの分までやるのはキツかったな。でもあの人編集室に籠りっきりだし、東仙隊長は長期任務に出ちゃったし。締切乗り越えて帰ってきたら机の上に山積みの書類とか流石に可哀想だろう。うん、取り敢えず終わったし良かった良かった
さてお茶でも飲むかと席を立てば扉がノックされた。誰だろう。返事をすれば扉が開いた
「ちびさぎー今日温泉行かなーい?」
入ってきたのは乱菊さん。彼女は入るなりそう言った
『温泉ですか?』
「まぁ一番隊舎の露天だけどね〜。雛森と七緒も一緒に行くからあんたも誘おうと思って」
『温泉か……』
丁度書類も終わったし、ゆっくりするのも良いだろう。
『良いですね。僕も行きます』
「じゃあ決まりね!」
「終わったぁ…ッ!!」
最後の原稿を机に放り投げ、椅子に雪崩れ込む。疲れた。取り敢えず疲れた。誰が締切ギリッギリに日番谷隊長の隠し撮り写真なんか持ってこいっつったよあの爆乳美人。お陰でこちとら徹夜だっての。深い溜息を吐いて茶を啜る。
どたどたと足音が聞こえてきたのは丁度そんな時
「せんぱーい、居ますー?」
「おー」
返事をすれば扉が開いた。入ってきたのは赤い髪の後輩。阿散井は編集室に入るなり部屋の中を見渡した。周りで倒れている隊士達を見て口を開く
「相変わらず締切間近の此処は凄ぇっすね…」
「今丁度その激闘を終えたトコだ」
「終わったんすか?」
「ああ……つっても今度は書類に追われるんだろうけど」
きっと副官室の俺の机には書類の山があるんだろう。そう考えると気が重い。だって三日は編集室に詰めてたし。少なくとも山が二つは俺の机を我が物顔で占拠してる筈。辛ぇ。東仙隊長居ねぇから書類倍増しだし。俺頑張ってんのに何その仕打ち。取り敢えず泣きたくなるんだがどうしよう
「書類なんてなかったっすよ?」
「あ?」
溜息を吐いた俺に阿散井はそう言った。なかったってどういう事だ。三日も仕事してねぇのに書類がねぇ筈ねぇだろう。寝ぼけてんのかこいつ。言えば阿散井は首を振る
「マジっすよ。確かちびさぎ先輩がやってたし」
「あの馬鹿……!」
阿散井の言葉に思わず頭を抱えた。何してんのあいつ。あいつの書類も多いのに何で俺の分までやってんだよ。アホかあいつ。や、アホは俺だ。あいつの疲労メーター振り切れてぶっ壊れてる事忘れてた俺が悪ぃ
てかもう三日も独月と話してねぇ。話どころか顔も合わせてねぇ。辛ぇ。今まで抑えていたものが沸々と沸き上がってくる
やべぇ独月不足だ。あいつに会いてぇ。声が聞きてぇ
「今なら独月不足で死ねる」
「あー…相変わらず頭残念っすね」
「黙れ阿散井」
泊まり込みで編集室に居たからあいつに会えてねぇんだよ。寧ろ三日も会えてねぇのに良く我慢したな俺。一日会えねぇだけで辛ぇのに
「アレだ。俺にとっての独月はてめぇにとっての鯛焼きと同じ様なもんだ」
「重要過ぎんだろそれ」
「だろうが」
阿散井が抱えている袋を指差せば奴は目を見開いた。つかてめぇ毎日鯛焼き食ってねぇ?気ぃ付けねぇとその内糖尿病になんぞ
ぐっと伸びをして、窓から見えた銀色の月を眺める。あ、独月と同じ色だ。そう考えると段々あいつにしか見えなくなってきた
「抱き締めてぇ。あいつの胸に顔埋めてぇ。あいつの匂い嗅ぎてぇ。銀髪に指通してぇ。色が違って吊り上がってる凄ぇ可愛い猫目に見つめられてぇ。あのひんやりした肌に癒されもがっ」
ぼんやりしていれば口に何かを突っ込まれた。何だこれ。齧れば甘ったるいもんが出てきた。鯛焼き?
こいつを俺の口に突っ込んだであろう阿散井は顔を青くして此方を見ていた
「頼む、黙ってくれ先輩。俺ロリコンとつるんでるとか思われたくねぇっす」
「……俺口に出してたか?」
「はい、バッチリ」
「マジか」
口から鯛焼き出してる俺今凄ぇ間抜けだと思う。あれか、独月不足でついうっかり口が滑っちまったのか。やべ、次からは気を付けねぇと。
「つか俺はロリコンじゃねぇ」
「…ちびさぎ先輩の見た目がガキにしか見えねぇのは俺だけっすか」
「ガキで何が悪い。あいつ絶対成長したら美人になんぞ。つか別に成長しなくても良い気もする。このままでも全然綺麗だし可愛い」
「完璧ロリコンじゃねぇか」
別に今のままでも綺麗だし可愛いよな。あ、でも二十代のあいつを見てみたい気もする。絶対美人だ。てか何かあいつ色気やばそう。その綺麗な顔が笑えたら尚良し。や、微笑みでも良い。きっと十分綺麗だ。あ、やべぇ。想像したらにやけてきた
「もうそのだらけたツラはスルーします…先輩今日一番隊の温泉行きません?」
「……あ?一番隊の?」
トリップしていた頭を無理矢理阿散井との会話に戻す。え、温泉?何で?
「たまには良いんじゃねぇかって話になって。吉良も行くんすけど先輩もどうっすか?」
「温泉か……」
確かに何時も部屋の風呂しか使わねぇから温泉なんて久々だ。たまには良いかもしれねぇ…けど取り敢えず独月に会いてぇ
今から副官室に向かうか?そう思った時胸元から震動。伝令神機を取り出せばランプが点滅していた。色は白。あいつ専用の色だ
───────────────
From:独月
No title
───────────────
乱菊さん達と温泉行ってくる。
修兵さんの分の書類もやっといたから今日はゆっくりして下さい。
明日修兵さんは休みなので勝手に出舎しない様に
───────────────
「………………」
思わず口許を押さえた。やべぇ、絶対今にやついてる。心配されて嬉しいとか俺末期か。取り敢えずこの衝動をどうすれば良いのか切実に知りてぇ
「阿散井、転がりてぇぐらい悶えてる時お前ならどうする」
「速やかに四番隊に送ります」
『ふぅ……』
湯を被って一息。髪を洗おうとシャンプーに手を伸ばせば横から伸びてきた手に容器ごと引ったくられた
『乱菊さん?』
「髪洗ってあげる!前向きなさい」
『…ありがとうございます』
笑顔の乱菊さんに言われるまま前を向く。すぐに手が髪に触れ、優しく泡立て始めた
「あんたの髪綺麗よねー。どんな手入れしてるの?」
『主に自然乾燥しようとして修兵さんに拭かれるぐらい雑です』
「あら、そうなの?良いわねー手入れしてないのにこんなに綺麗で。アタシなんか毎日ブローしてるわよ?」
『ちゃんと手入れしてる方が女性らしくて良いと思いますけど』
「ならあんたもちゃんと手入れしなさい。女なんだから」
『……めんどいです』
「言うと思った」
くすくすと笑いながら乱菊さんが手を動かす。人に髪を洗って貰った事はないけど、乱菊さんは上手なんだと思う、気持ち良いし
『乱菊さん髪洗うの上手ですね』
「そう?たまに雛森にするぐらいで殆どした事ないわよ?」
『そうなんですか?上手だから慣れてるのかと』
「まぁアタシだからね!はい、流すわよー」
『はーい』
僅かに上を向いて目を瞑る。すぐに温かな湯が髪に掛けられた。数回濯がれたと思えば何かを髪に塗られる。
『コンディショナー?』
「そ。綺麗なんだから、ちゃんとしないと」
梳く様にしてコンディショナーを塗られ、数回頭皮のマッサージをされた。そしてまた濯がれた
「はい乱菊マッサージは終了よ!」
『ありがとうございました』
ぺこりと頭を下げて洗顔を始める。手早く洗顔と身体を洗うのを終わらせ、先に湯に浸かっていた乱菊さん達を追い掛けた
湯にちょいちょいと足を浸けて温度を確かめる。熱い。一応五分くらい浸かって水風呂に行こう
ちゃぷんと浸かれば視線を感じた。何だと見れば乱菊さんだけじゃなく雛森に伊勢副隊長まで此方を見ている。え、何?
「ちびさぎって……」
『はい?』
「何か、綺麗よねー」
『……はい?』
何がだ。寧ろ何の事だ。首を傾げれば乱菊さんが頷いた。
「あんたってその胸なくてほっそりしてるのが綺麗なのよ。似合ってるっていうか…美術品みたいな?」
「あー…確かにそうですね。桜花さんって何かそんな感じがします」
それはどう受け取れば良いのか。乱菊さんと雛森の言葉に眉を寄せていれば、伊勢副隊長が僕を見て口を開いた
「何というか……汚れのない少女を表す様な美しさですね」
『………』
「ねー!何かこういうの現世の美術館とかにありそうじゃない?」
『こういうのって……』
「ライトアップされてそうですよね」
「陸に上がった時の人魚姫でも良いんじゃないですか?」
「良いわねそれ!なら王子は修兵?」
「激しく似合わないですね」
「…あはは」
『……はぁ』
僕そっちのけで騒ぎだした三人を置いて水風呂に向かう。美術品でも人魚姫でもないっつの。悪かったな胸がなくて。
考えると溜息が出た
「っ」
風呂から上がり部屋に戻ろうとしていた時、見えた銀髪。駆け出して後ろからしがみつけば小さな身体が跳ねた
『……修兵さん?』
「…独月…」
しがみついたまま首筋に擦り付けば擽ったそうに独月が首を竦めた。甘い匂いにほっと息を吐く。髪に指を差し込み梳く様に撫でた。やべぇ、すっげぇ安心する。それに癒される。幸せだ、俺
『…修兵さん、動けない』
「もっと名前呼んで」
『話訊けよ』
腹に回した腕でぎゅーっと抱き締めれば苦しそうに独月が唸った。少しだけ緩めれば頭を撫でられた。うん、幸せ。すぐに離れた手を掴みもっと撫でてくれと擦り付けば独月が溜息を吐いた。髪を優しく撫でられる。ああ、幸せ。やっと独月不足から解放された気がする
「随分甘えたねー」
「まだこれなら良いっすよ…虚ろな目で抱き付きてぇだの何だの言い出すよかマシっす」
「確かに…」
「もうこれは犯罪の域に達してますね…」
「い、伊勢さん……」
騒ぐ外野は無視だ、無視。今は癒されるので忙しい。擦り付けばまた溜息。名前呼んでくんねぇかな。じっと見つめれば独月が此方を見た。空と藤の色を宿した瞳が細められ、呆れた様にまた溜息
『修兵さん』
「もっと」
『修兵さん』
「もっと」
『…修兵さん』
「もっと」
離れてた三日分の名前呼んで欲しい。でも多分これ言ったら絶対呆れられる。てか今も呆れられてるけど
「…こ…此処でやらなくても…」
「あれって完全にバカップルよねー」
「あ、ちびさぎ先輩が遠い目してる」
「桜花三席が哀れですね」
「檜佐木さん……」
三日会えないと辛い
(独月ー)
(修兵さん)
(好きだ独月ー)
(はいはい、僕も好きですよ修兵さん(だんだんめんどくさくなってきた…))