(謀反直後)





藍染隊長ら三人の隊長格の謀反は、尸魂界に大きな衝撃を与えた。
信頼していた隊長達の裏切りによる失望、悲しみ、虚しさ。
隊士達の中で、負の感情がぐるぐると渦を巻く。
特に重症なのは、三人が所属していた三つの隊。
それは、俺の所属する九番隊にも該当していた

「どうなるんだろうな、九番隊…」

「ウチはまだマシだろ。桜花副隊長もちょくちょく手伝いに来てくれてるし」

「九番隊が檜佐木副隊長で良かったよなー。吉良副隊長ってほら、なんか暗いしさ」

「それ言っちゃ駄目だろ!俺もまぁ…苦手だけど」

「人の事言えねぇじゃねぇか」

「つーか五番隊ってどうなるんだ?取り潰し?」

「雛森副隊長は療養中だしな。取り潰しはねぇだろうけど、俺五番隊は絶対無理だわ」

聞こえてくる会話に明るいものは殆どない。そりゃそうか、まだあの事件が起きて一ヶ月も経ってねぇ。心の傷が癒えるにはあまりにも短過ぎる。
いまいち集中出来ねぇまま終わらせた書類を置いて、俺は席を立った。
向かうのは、主の居ない部屋

「………」

あの日、深く頭を下げてこの場で待っていた。
貴方が顔を上げて良いと言って下さるまで、ずっと。

「…雲は、ありませんよ。東仙隊長」

俺には、あの日の貴方の問いの真意が未だに判りません。貴方の正義も理解出来ません。
…だから俺は、置いて行かれたんですか?





















縁側でぼんやりと月を眺め、手にした御猪口を口に運ぶ。
ただ空になったら継ぎ足して、口に流し込む。
淡々とその作業染みた行為を繰り返していれば、手から徳利が奪い取られた

『…身体壊したい訳?』

「……独月…」

目を尖らせた銀髪が俺を見下ろしていた。
人一人分の距離を空けて荒々しく腰を下ろした独月が、徳利を煽った

「…珍しい事すんな、独月チャン」

『人の事言えないだろ』

素っ気なくそう返した独月が、横目で俺を睨んだ。
きっと怒ってるんだろう。まともに眠りもせずに働いて、酒を浴びる俺の事を

「返せよ。それ、お前にはキツいだろ」

『口を付けたから僕の物だ』

「……そうかよ」

ささくれ立った心には、些細な事ですら苛立ちの原因になる。俺は不機嫌さも隠そうとせず、乱暴に御猪口を煽った。
その様子を見つめる独月の視線が強くなるのも気にせずに、立ち上がる

『…何処行くの』

「関係ねぇだろ」

『……あっそ』

眉を寄せた独月が徳利の中身を飲み干し、立ち上がった。そのまま遠ざかっていく小さな背を見送って、意味もなく舌打ちした。
違う、あいつを怒らせたかった訳じゃねぇ。
ただ今は一人になりてぇだけなんだ。誰かと一緒に居たら、俺はきっとそいつに甘えて傷付けてしまうから

「…はは、ざまぁねぇな…」

前髪をぐしゃりと掻き乱す。口からは情けねぇ笑いが漏れた。
判ってただろ、俺。何で回避出来なかったんだよ。こうなるって判ってたのに。
俺が勝手に荒れてる所為で、あいつを傷付けた。ほんと馬鹿だ、救い様のねぇ大馬鹿野郎

「…バッカじゃねぇの、俺」

『────────何言ってんの、今更』

呟いた俺の背に投げられたのは、中性的な声。
え、何で?
振り向いて、思わず目を瞬かせた

「……独月…?」

『何』

そこには目を尖らせたままの独月が居た。え、お前怒って部屋に帰ったんじゃねぇの?何で盆に吸い物乗せてきた?

『まぁ座ってよ』

「や、なんだよそれ…」

『座れって言ってるのが判んないのか愚図』

「スイマセン座ります」

ぎっと睨まれ素早く座る。駄目だ、こいつ酒が入って良い感じでキレてる。言う事利かねぇとシメられる

『ん』

「ありがとうございます…」

差し出された器と箸を受け取る。
独月が食べ始めたのを見て、俺も口を付けた

「…蜆…?」

『二日酔いに効く』

そう言って独月は俺のより大分少ねぇそれを口に運び始めた。
…もしかして、さっき居なくなったのはこれを作る為?
マジかよ、お前キレてんのに俺の為に動いてくれんのか。
ささくれ立っていた心が、少しずつ癒されていくのを感じた

「…蜆汁って、色気もクソもねぇな」

『なら飲むな』

「やだね。可愛い独月チャンのくれたもんだから全部食う」

『……死ね』

酔っている所為か何時もより数倍尖った言葉を吐かれる。
そんな辛辣な言葉ですらも嬉しいと感じるのは、俺も酔っているからか

「…俺さ、東仙隊長の言葉が理解出来ねぇんだ」

『僕は財前の言葉を理解するつもりもないけど』

「空に雲は浮かんでいるかって。それがどういうもんだったのか、未だに判んねぇ」

訥々と、酔った勢いに任せて口を動かす。
蜆汁美味ぇと呟けばアホかと返された

『…判んないなんて、当然でしょ』

「え?」

ぽつりと呟かれた言葉に目を瞬かせた。
独月は器の中身を見つめたまま、口を開く

『修兵さんだって僕の言葉の全ては理解出来ない。それと同じだ』

「………」

黙り込めば、独月が視線を空に向けた

『今、雨は降りそうですか?』

「あ?」

『答えて』

「や、雨は降らねぇと思う…」

突然投げ掛けられた問いにしどろもどろで返せば、独月がやっと俺を見た

『この質問の意味は、判った?』

「……いや…」

『それと同じ。だから、東仙隊長の質問が判らない事を悔やむ必要はない』

それだけ言って、独月はまた蜆汁に目を向けた。
…なんつーか、こいつなりに俺を励まそうとしてるってのは判った。
酔ってるから口悪ぃけど。滅茶苦茶目ぇ尖ってっけど。
でもやっぱり、何だかんだ言って俺の傍に居てくれるお前に救われてる

「……ありがとな」

呟けば、鼻で笑われた

『たまには頼れ、馬鹿』











辛い時には私が傘になりましょう












(…頭痛い)

(あー…始解一気飲みしたもんな)

(……あれやっぱり始解だったのか…)

(はは、顔色わりー)

(…黙れ死ね誰の所為だと思ってんだ顔面卑猥野郎)

(へーへー、俺の所為ですよ女王サマ)

(馬鹿、カス、愚図)

(二日酔いでも毒吐くのなお前)




大分終わり方がずれた…