「────っ!」

不意に現れた霊圧。緊急集会なんかそっちのけで俺は顔を上げた。感じ慣れた柔らかなそれはあいつのものだ

「っ先輩!?」

駆け出した俺を呼び止める阿散井の声にも振り返る余裕はない。もたもたしてたらまた消えちまうかも知れねぇ。そんなのはもう嫌なんだ。

「絶対逃がさねぇ……!!」

隊舎を出て霊圧を感じる方角を捜す。酷く微かなそれは、きっと俺を誘い出す為のものだ。どんなに小さくても、微かでもあいつの霊圧を感じ取る事が出来る、俺を
村正って野郎は一人単独行動を取った俺を独月で潰す気か?だとしたら丁度良い。俺があいつに勝って取り戻せば済む話だ。

「待ってろ、独月」

───お前は、絶対に俺が助け出す。


















辿り着いたのは流魂街第2地区に属する鯉伏山。そこから微かな霊圧を感じた。消えそうな程抑え込まれた霊圧。もしこれが霊圧を抑え込んでねぇ状態なら一刻を争う。

「独月、何処だ?」

山に入り、大きめな声で呼び掛けるが返事はない。
もう一度呼ぼうとして────咄嗟に飛び退いた。
瞬間、地面に真っ白な風死が突き刺さった

「ふん、なかなかやるではないか」

「…この程度、避けられなければ只の愚鈍だ」

がちゃがちゃと金属がぶつかる様な音を立てて
近付いてきた男二人。銀髪に茶髪。その髪の色と、茶髪の被っている兜で確信した

「……藤凍月か」

「…その通りだ」

「その程度の洞察力はある様だな」

茶髪……赤色はやっぱりどんな時でも赤色らしい。あの野郎毒ばっか吐きやがって。その兜の飾り毛引っこ抜くぞ
風死の柄を握れば銀髪……銀色が静かに此方を見る。てかお前その髪型どうした。何でそんな前衛的な髪型なんだ。絶対後頭部弱ぇだろ

「で、あいつは何処だ?」

「あいつ、とは?」

白々しく聞き返してきた赤色に舌打ちする。判りきってる癖に聞いて来るとは腹立たしい

「独月に決まってんだろ」

「貴様の斬魄刀は良いのか?」

「良かねぇよ。けど今は風死より独月優先だ。あの野郎は後で捜す」

そう返せば二人は僅かに雰囲気を和らげた。構えていた武器も下ろす。あれ、戦わねぇの?

「我等の目的は主を護る事」

「独月が望むなら、共に帰るだけだ」

そう言った二人が歩き出す

「着いて来い、独月に会わせてやる」






















「つーかよ、何で俺は形がいけ好かねぇってだけで嫌われねぇといけねぇんだよ」

『…多分修兵さんが怖がりだからっていうのも関係してると思うけど』

風死の膝の上に座ってるのは銀髪。俺が捜していたあいつだ。え、あいつら何してんの?何で呑気に俺の話してんの?

『それに最近は前より始解する回数増えたでしょ?』

「俺っつーか月閉風死だろ。俺は刈りてぇんだよ。命を刈りてぇ。なのにあの野郎は下らねぇ理由で俺を使わねぇ…!!」

命を刈りてぇなんて言う奴を誰がほいほい使うかよ。眉を寄せれば銀色が俺の肩を掴んだ。まだ行くなってか。溜息を吐いて頷く

『…修兵さんは多分そんなに風死の事嫌ってないよ』

「……あ?」

『風死を使わないのは、始解に頼れば自分自身が弱くなるって考えてるから。風死を弱い自分が使えば、それこそ誰彼構わず命を刈ってしまう可能性がある事に気付いてるから』

「………………」

黙り込んだ風死の頭を小さな手がそっと撫でる

『風死の本来の戦い方は暗殺。それに使えば確かに強いし楽。
けどそれは修兵さんの目指している姿とは違う。だから、あの人は怖いの。風死が、じゃなくて、風死を暗殺に使う楽さに溺れる弱い自分が、怖くて嫌いなんだよ』

「……んな事、判ってるよ」

項垂れた風死が呟いた。てか何でそんなに俺の事理解してんのあいつ。そこまで理解されてると何か凄ぇ恥ずかしいんだけど。
内心動揺していれば赤色に鼻で笑われた。てめぇマジでそのもふもふ筆代わりに使ってやろうか

『なら正々堂々修兵さんに頼みに行こう?僕も一緒に頼んであげるから』

「…つかてめぇはさっさと死神共のとこに行きゃあ良いだろうが。一時的に暗示が解けてんならあいつらにもう洗脳されねぇ様にして貰えば良いんだしよ」

その言葉にはっとする。やけに何時も通りだと思っちゃいたが、暗示が解けてたのか。つかやっぱりあの時あの野郎に何かされてたのか。
村正マジでぶん殴る。

『確かにそうだけど、風死を一人にはしたくないから』

「……馬鹿かてめぇは」

吐き捨てる様に言った風死を見つめ、独月が微笑む

『風死は修兵さんだ。だから、一人にはしない』

「……そんなにあの野郎が大事かよ」

『勿論』

当然だと言う様に独月は頷いた

『命を刈りたいって本能も泣き虫な感情も、全部修兵さんな訳だし。たとえあの人がそれを嫌ってても、僕は好きだよ』

「………………」

自分の顔が熱くなるのを感じる。口許を手で隠せば馬鹿にした様に笑う赤色が目に入った。畜生、こいつが独月の斬魄刀とか嘘だろ。銀色はともかく絶対赤色は違ぇ。あいつはこんなに毒舌じゃねぇし
つか何であんなに堂々と言ったんだ。俺の事好きって言ってんのと同じじゃねぇか。や、俺も独月の事好きだけど。でもこれ言われるとかなり恥ずかしいぞ

『じゃあ気が変わらないうちに行こうか。僕も出来るだけ早めに死神達と合流したい』

「……ちっ…しゃーねぇな…」

舌打ちした風死が独月を小脇に抱えた

『…あれ、下ろそうよ』

「こうやってあの野郎を挑発した方が面白ぇだろ」

や、もう全部見ちまったから挑発もクソもねぇんだが。つか俺どうすれば良いんだよ。見れば藤凍月が入ってきた方に向かって歩いていた

「先回りして先程の場所に戻るぞ」

「其処で独月とついでに貴様の斬魄刀も取り戻せば良かろう」

「お、おう」

人の斬魄刀をついでにとか言うな。呟きつつ二人の後を追った






















「おうおうてめぇの大事な独月チャンに傷を付けられたくなかったら、大人しく俺に刈られな!」

独月を小脇に抱えた風死がそう言った瞬間────奴の顔のすぐ傍を一発の銃弾が通り過ぎた

「貴様が独月を傷付けた瞬間我等は貴様を敵とみなすが」

「即刻斬滅してやる」

発砲したのは赤色。銀色も刀に手を掛けている。いやいやお前等さっき一緒に見てたよな?あいつ独月に手出すつもりなんかさらさらねぇぞ?なのに何で俺じゃなくてお前等が殺る気になってんだよ

「…おい風死、取り敢えず独月離せ」

「お、おう…」

うっすらと涙目になっていた風死が素直に独月を下ろした。そっと地面に下ろされた独月は心配顔で奴を見る。お前人質(仮)に心配されてるとかどんだけだ。ぐだぐだ過ぎるだろうがよ

「はぁ……で、俺と戦いに来たんだな?」

助け船を出してやれば独月の頭を撫でていた風死が目を輝かせた。もうどうしようこいつ、やる気なくすんだけど

「そうだよ!俺に勝てたらこいつを返してやる!俺と勝負しやがれ!」

「…しゃーねぇな……良いぜ。方法はどうであれ真正面から勝負挑んで来たんだ。受けてやる」

腰から斬魄刀を抜き、構える。あいつが望んでるのは俺と本気で向き合う事。なら、俺も浅打状態では駄目だ
斬魄刀を構え、解号を唱える

「刈れ────『風死』」

始解した風死を持ち、ちらりと藤凍月を見る。頷いた奴等は独月を下がらせた。此処から離れたのを確認して、構える

「────さて、やるか」
























────ガキィン!!

「ちっ…」

何処からか飛んできた風死を弾いて木の上に着地する。奴は後ろか。右手の鎌を投げ付ければ飛び掛かろうとしていたらしい奴が体勢を崩した

「逃がすかよ!」

再び森の中に身を隠そうとする風死に斬り掛かる。噛み合った刃がぎちぎちと鳴いた

「おい、何でてめぇは村正に手を貸した」

「あ?んなもんてめぇに不満があるからに決まってんだろうが!!」

静かに訊けば風死は声を荒げた。まぁそうだろうな。じゃねぇと着いて行く筈がねぇ

「大体何でてめぇは俺を使わねぇ!形がいけ好かねぇからか!?あいつに褒められた時は喜んでた癖によ!」


────格好良い


あの日…独月に風死を初めて見せた時、確かにあいつはそう言った

「…ああ、俺はお前が気に入らねぇ」

「命を刈り取る形だからか!?この腰抜け野郎が!!」

力で押し返され、宙返りして地面に着地する。その間に奴はまた隠れていた。
────これが、風死本来の戦い方。

「…確かにこうすれば、すぐ強くなれるだろうな」

飛んできた風死を躱す。更に向かって来るそれの軌道は全く読めねぇ。

「破道の三十三・蒼火墜!」

青い炎で風死を撃ち落とし、霊圧を探る。
────其処か。
手を合わせ、光の棒を形成する

「縛道の六十二・百歩欄干!」

投げ付ければ分裂し、幾重にも増える。降り注いだ光の棒は隠れていた奴を捕らえた

「畜生何だよこれ!んの腰抜け!」

「…確かに俺は腰抜けかもな」

暴れる奴の傍に静かに近付く

「俺を形成しているのは理性だ。それがあるからこそ、俺は俺で居られる」

「んなもん知るか!俺は命を刈りてぇんだよ!理性なんてクソ食らえだ!本能に従え!」

斬魄刀は自分自身だ。
理性で圧迫されている本能。命を刈りてぇと叫ぶ鎌。それが、俺の本当の姿だとしたら

「…本能に、か…」

「そうだ!てめぇもほんとはそうだろうが!誰かを護る為なんて理由付けて虚を刈る!そうやって偽善者ぶってもてめぇだって楽しんでるだろうが!!」

もし雁字絡めにした理性の鎖を断ち切ったらどうなる?
目の前のこいつみたいに、誰彼構わず命を刈りてぇと思うのか?
…いや、違う。俺が狙うのはきっとただ一人

「────俺は、あいつを刈りてぇんだよ」

そう言った瞬間、風死の動きが止まった

「なん、で……」

「俺はあいつに殺されたいし殺したい。俺の斬魄刀であるお前なら、んな事知ってんだろ?」

それとも俺の本能はこいつよりやばいのか。だとしたら結構へこむ

「勿論俺はあいつの傍に居たい。傍に居るには…俺が俺で居る為には、理性が必要だ」

正々堂々戦いてぇのは、俺が憧れる人がそうだったから。
風死を使いたくねぇのは、命を刈り取る形をしているから……それを使って楽しむ自分に、気付きたくなかったから

「…だがこんなのはただの言い訳だ。これからはお前を使う様にする。それで良いか?」

「……おう」

頷いた風死の姿が消え、始解姿の風死だけが残った。同時に俺の手に握られた風死が揺らぎ、消えた。どうやら上手くやれたらしい
地面に刺さった風死を抜き、歩き出す。

「さて…あいつを迎えに行かねぇとな」





狂気染みた本能に理性の鎖を巻き付けて






(ふん、上手く調伏出来た様だな)

(おう)

(…修兵さん…)

(お帰り、隊長。あいつを一人にしないでくれて、ありがとな)

(……ただいま。どういたしまして)