夢物語(夫婦ネタ)
『修兵さん』
「……ん…」
肩を揺らされゆっくりと目を開ける。鮮烈な光。すっと手を伸ばせば柔らかな銀糸に触れた
『起きて、修兵さん。今日は隊首会がある。僕はゆっくりしてられない』
「ん……わーった…起きるから…」
数回瞬きをして、銀髪の姿を視界に捉える。
髪に触れていた手を後頭部に伸ばし、引き寄せた。そっと唇を重ねる
暫く柔らかな唇を堪能して、リップ音を立てて回していた手を離せば、僅かに頬を赤く染めた独月が俺を睨んだ。んな事しても可愛いだけだっての。喉の奥で笑いつつ、ベッドから身を起こす
「おはよう、独月」
『…おはよ、早く着替えてね』
まだ顔を赤くした独月が足早に部屋を出ていった。キスで赤くなるとかどんだけ初なんだか。しかもフレンチで。もっと恥ずかしい事もやってんのに、ほんと何時まで経っても可愛い奴。
手早く死覇装に着替え、顔を洗う。居間に向かえば無表情な銀髪が黙々と食事を口に運んでいた
「おはよう珱月。ちゃんと飯食えよ?」
「…おはよう父さん。ちゃんと食べてる」
そう言った珱月は正に独月の生き写しだ。灰色がかった青の両目と桜の痣、傷痕がない事を除けば独月そのまま。まぁ灰色が俺の血が混ざってる証みたいで嬉しいけど
「お前と独月はちゃんと食ったかどうか見てねぇと心配だからな」
「……私はちゃんと食べてる。母さんの方が食べてないよ」
『珱の方が食べてないだろ』
「や、お前らどっちもどっちだから」
親子してそんなとこ似るな。てかもう親子ってか姉妹って言った方がしっくりくるよな。身長も見た目的にも近いし。
独月の朝食作りを手伝いながらそう考えていれば、独月が口を開いた
『珱、食べ終わったら絖呼んできて。どうせ二度寝してるから』
「……めんどくさい。母さんが行けば良い」
『僕の状況を良く見てから言え。因みに修兵さんも忙しいから空いてるのはあんただけだ』
俺を使わない様に独月が釘を刺すと、食べ終わった珱月が渋々と言った感じで立ち上がった
「ごちそうさま…はぁ。判ったよ」
『頼んだ』
珱月が廊下に向かう。あいつが行ったならすぐ起きるだろ
独月が珱月の食べた後の皿を片付けている間に俺は卵焼きを作成中。うん、良い感じじゃね?
作った卵焼きを皿に乗せていれば珱月と黒髪が居間にやって来た
『おはよう、絖』
「…母さん、はよ」
気怠げに欠伸をした馬鹿息子────絖兵は独月の頭を撫でていた
「オイコラ俺は無視か」
「あ?…居たのかよ親父」
居ただろうが、独月の隣に。院生時代の俺そっくりな絖兵は、独月に顎を乗せながら俺を見る
「母さんと珱しか見えなかった。存在感薄いんじゃね?」
「それはてめぇが独月と珱月が大好きなだけだっての。独月から離れろこのマザコンのシスコンが」
「やだね。母さんと妹が好きで何が悪い。あんただって母さんと珱大好き人間じゃねぇか顔面卑猥」
「顔面卑猥言うな。当たり前だ、自分の女と娘が好きで何が悪い」
「うわ、女とかエロい言い方すんな万年発情期。せめて妻って言えよ」
「それも何かエロいだろ。てめぇマジでシメんぞコラ…」
「…母さん、私準備してくるから、兄さんと父さん任せた」
『…判ったよ。
ああもううるさい…絖、ご飯食べて。修兵さんは卵焼きを切って』
「「へいへい…」」
俺と絖兵の頭を撫でて独月は溜息を吐いた。言われた通りに席に着く絖兵と卵焼きを切り始める俺。うわ、弱ぇな俺ら。何だかんだで独月が家では一番強い気がする。
『修兵さんもそれ切ったらご飯食べて』
「りょーかい。お前ももう食うんだろ?」
『ん』
独月の頭を撫でて、よそわれた飯と味噌汁を運ぶ。独月の分も配膳して席に着けば、隣に座る絖兵が不機嫌そうな声を出した
「つーか何で俺の隣が親父なんだよ」
「あ?うっせぇマザコンてめぇはそんなに独月の隣が良いか」
「当たり前。珱が目の前で隣が母さんとか天国だろ」
「なら余計にやだね。お前はずーっと俺の隣決定。いただきます」
手を合わせてから食い始めれば、絖兵が紫紺の両目で俺を睨んだ
「ざけんなクソ親父」
「やんのか馬鹿息子」
俺も睨み返した時、中性的な声が飛んできた
『うるさい。絖はさっさと食べて霊術院に行け。修兵さんも喧嘩売らない』
その一言で口を閉じ、互いに睨み合う。つかほんと独月大好きだなお前。そんなとこ俺に似るなよ
「へいへい…あんたの所為で怒られたじゃねぇか馬鹿親父」
「大体てめぇが文句言うのが悪ぃんだろ馬鹿息子」
「あ?やんのか顔面卑猥」
「顔面卑猥言うな。てめぇ現役の副隊長に敵うと思ってんのか霊術院のひよっ子が」
「ひよっ子じゃねぇ、筆頭だ」
「俺から見たらひよっ子だっての」
『…縛裟氷映喰らわすぞ馬鹿共』
「「………!」」
俺の前に座った独月が低い声でそう言った。やべぇ、目がマジだ。このままじゃ寝室から藤凍月が飛んでくる。
さっさと行け。それを伝える為に絖兵と目を合わせれば、奴は不服そうだったが小さく頷いた
「ご、ごちそうさん。珱待たせてるし、俺もう行くわ」
『…はぁ。行ってらっしゃい』
独月がひらひらと手を振れば、絖兵が眉を下げて彼女を見る。
「……見送りは?」
『…まったく、良い加減親離れしろ』
そう言いつつ独月は立ち上がった。それを見た絖兵はにっと笑う。何あいつ、尻尾ぶん回してる犬みてぇ。
見ていれば居間を出る間際に絖兵が此方をちらりと振り返った。その勝ち誇った表情に腹が立つ。あいつ帰って来たら絶対シメる。
『……朝から疲れる』
「ん?何で」
執務をする独月に茶を出せば、礼を言いつつ睨んできた
『誰かさんが絖と喧嘩するからですけど』
「へぇ?そりゃ大変だな」
そう返せば独月が更に眉間に皺を増やした。ぶっちゃけ睨んでても上目遣いにしか見えねぇから可愛いだけなんだが
『大体何で喧嘩する?珱とは仲良く出来てる癖に』
「あいつはまんまお前の生き写しだろうが。絖兵が俺に喧嘩売ってくるんだっつの」
『絖も修兵さんの生き写しだけど。兄弟だって言っても通じるだろうし。因みに絖は喧嘩売って……るか』
「だろ?朝っぱらから俺シカトしてお前と珱月に挨拶してんのあいつだし」
つか俺に存在感薄いとか言ったあいつが悪ぃだろ。そもそもあいつは俺の事を邪魔者として認識してる気がする。多分マザコンでシスコンなあいつの事だから、独月と珱月を独り占めしてぇんだろう
『…良い加減親離れしないかな、絖』
「無理じゃね?あいつお前の事大好きだし」
あの髪型も昔のお前の真似してなった訳だし。後から院生時代の俺と独月の写真を見て目ぇ見開いてた。え、何で俺が写ってんだよって。
馬鹿野郎どう考えたってそれは俺だ。刺青してるし目もお前と色が違うだろうが。言えば暫くあいつは不貞腐れてた
『そういえば、修ちゃんと拳西さんが今日霊術院に行くって』
「あ?何で?」
『絖と珱を見に行くらしいよ』
わざわざ霊術院に行かずに家に来りゃ良いのに。呟けば、呆れた様な顔で独月が俺を見た
『息子と旦那が嫁の取り合いしてんのを見に行く程暇じゃねぇって言われた』
「絖兵が下がれば良い話じゃねぇか」
『たまには修兵さんから下がろうよ…』
溜息を吐いた独月を後ろからぎゅっと抱き締める
「たとえ息子でも、俺の女は渡したくねぇ」
『……それ、絖と珱には言わないでね』
恥ずかしいから。そう言った独月が頬を赤くして俺を見た。
「ほんと可愛いな、独月」
『…可愛くない』
唇を重ねればまたむっとした顔で睨まれた
『修兵さん、今仕事中』
「残念。今は休憩中だ」
そう返せば小さく口を尖らせる。ほんと可愛い奴。抱き締める腕に力を込めれば、胸元にそっと擦り寄ってきた
「あーもう今すぐ食いてぇ」
『……死ね、変態』
「「ただいま」」
「おー、お帰り」
霊術院から帰って来た子供二人。何だか院生時代の俺と独月を見てるみたいで未だに慣れない。そんな俺の考えを余所に、早速馬鹿息子は辺りをキョロキョロし始めた
「あいつは後一時間は帰って来ねぇぞ」
「……ちっ」
親に向かって舌打ちすんなっての。さっさと着替えをしに行った珱月の後を追う様に、絖兵も姿を消した。そういや独月の仕事まだあったっけか。立ち上がり、居間から独月の部屋に向かう。
机の上には小さな書類の山。独月のか。でも内容を見る限り俺にも出来るやつ。少しでもあいつの負担は減らしてやりてぇし、勝手にやっとくか。
そう考えて書類を持ち、俺の私室に向かう。
書類を置いて机に向かえば、閉めていた襖が開いた
「…何してんだ親父」
「見りゃ判んだろ、仕事だ」
つかお前何しに来た。見れば絖兵は棚を弄り始めた。や、せめて部屋の主に一言断ってからにしろよ。お前そのマイペースさ独月に似たのか
「何してんだ絖兵」
「お…あったあった」
無視か。書類を捌きつつ馬鹿の様子を窺う。奴が手に持っていたのは二冊の写真集。あれ、あの表紙久々に見た気がする…ってオイ
「何で独月の写真集見てんだお前」
「あ?見てぇから」
そのまま俺のベッドに転がった絖兵が写真集を見始めた。ほんとどうしようこいつ。一回ぶん殴るべきか?つか本棚の奥に隠してたのに良く見付けたな
「うわ、やっべ。可愛過ぎだろ」
「もう良いわ。見るなら黙って見ろマザコン」
溜息を吐いて書類に視線を向ける。何時から育て方間違ったっけ?確かまだ小せぇ頃は普通に父さん母さん言ってたチビだった筈なんだが
「つーか、親父」
「んだよ」
振り向けば絖兵は写真集に目を落としたまま。てめぇが呼んだんだからせめて此方見ろっての
「何で母さんは桜花って名乗ってんだよ。籍は入れてんだろ?」
「あ?入れてるよ」
あいつが檜佐木の姓を名乗らねぇのは単純にややこしいから。同じ九番隊に檜佐木が二人も居たら呼ばれた時に判りにくい。それにもう桜花隊長として周りに定着してる。だからあいつは外では桜花独月のままだ
「外では桜花って名乗っちゃいるが籍はちゃんと檜佐木だ」
「へぇ、じゃあ珱も檜佐木珱月なのか」
「あ?珱月?」
何で珱月が出て来た?首を傾げれば写真集をガン見したまま絖兵が答える
「あいつさ、霊術院受験した時先公に桜花で登録されたんだよ。何か訂正するのもめんどいっつって名字もそのまま」
「…何だそりゃ」
「このぺったんこな胸がまた可愛いんだよな……確か…佐藤だったか?母さんが一回生の時の担任だったらしくて、珱が母さんそっくりだったからすぐ判ったとか言ってた」
「…………取り敢えず写真集の感想を言うな」
判ったなら一応名前確認しろよ。珱月もめんどくさがらずに訂正しやがれ。つかてめぇも訂正しろ。言えば一言めんどくせぇ、と。何でお前ら変なとこあいつに似やがった。めんどくせぇが蔓延してんじゃねぇか
「まぁそのお蔭で虫除け出来るし丁度良いけど」
「……虫除け?」
ぽつりと呟いた絖兵の一言が何か嫌な予感がする。こいつ絶対めんどくせぇ事やらかしてる。直感でそう思っていれば、ぱらりと絖兵がページを捲った
「俺と珱、霊術院じゃ有名なカップルだぜ?」
「……ほんと何してんだてめぇは…」
思わず頭を抱える。何で妹を恋人扱いしてんだ。お前これ独月に言ったら引かれんぞ
「だって付き合ってる事にしとけばめんどくせぇ告白とか減るだろ。あいつは九番隊の桜花隊長の娘。俺は九番隊の檜佐木副隊長の息子ってブランドもあるし」
「親の前で堂々とブランドとか言うな」
つか独月が妊娠した時騒ぎにならなかったっけ?こいつが産まれた時も俺そっくりだって周りから言われたから、てっきりこいつらの事は知れ渡ってると思ってた
「何か最初、佐藤は珱の事母さんの姉かと思ったらしいぜ。母さんが子供産みそうに見えねぇってのも関係あるんじゃね?」
「あー…見た目か…」
確かに独月は見た目が十三とか十四とかに見える。下手したらそれより下にも。身長も150……多分145ねぇし。
対する珱月はギリギリ150あった筈。まぁ見た目も独月よりは上に見えるか
もしかしたらあの見た目が災いして子供の話もデマだと思われたのか?
「んで、俺は認めたくねぇけどあんた似。だからあんたの息子ってのはすぐバレた」
「認めたくねぇとか言うなコラ」
それ俺に対して凄ぇ失礼だから。まぁ俺もこいつが此処まで俺に似るとは思わなかったけど
「だって俺が母さんに似てんのは目の色だけだろ。後は才能」
「うぜぇ。才能とか当然の様に言う辺りがかなりうぜぇ」
絖兵と珱月はもう始解を会得してる。だから才能があるってのは認めるが、こうやって平然と言われても頷きにくい
「まぁ八割方母さんで二割は一応親父の才能か?」
「あ?何で俺も入れてんだよ」
俺に才能なんかねぇぞ。呟けば、この会話になって初めて紫紺の瞳が此方に向けられた
「出来るんだろ、卍解」
「…何の事だ」
「しらばっくれても無駄だぜ。俺はあんたの卍解、見たし」
「……マジかよ」
書類を置いて頭を抱える。俺が卍解したの会得したあの時だけだぞ。まさか見られてたとか…全然気付かなかった
「卍解の事、母さんには言わねぇの?」
「おう。生涯話すつもりはねぇ」
言えば絖兵がまた視線を写真集に戻した
「母さん、親父が卍解出来る様になるのを待ってるんじゃねぇの?」
「そうだな」
俺が卍解出来る様になったら、隊長になる。だからそれまであいつが隊長でいる。それがあいつと交わした約束
「けど俺はあいつを支えたい。あいつの部下のまま、今まで通り」
これを言ったらあいつは怒るかも知れねぇが、俺は最初から隊長になる気はなかった。そういう器じゃねぇし、独月の補佐って役の方が合ってる
「ふぅん…ま、俺が卍解会得したら母さんの代わりに隊長になるから良いか」
「せいぜい頑張りな。まぁ俺らの餓鬼だ、卍解もすぐ出来る様になるだろ」
書類に目を通していれば絖兵が口を開いた
「俺が入隊したらすぐ九番隊の副隊長になるかもな?…うわ、これやばくね?色気が…見えるか?…あー見えねぇし」
「マジで黙れマザコン、あいつをそんな邪な目で見るんじゃねぇ。因みにてめぇは一番隊お預かりだ。ざまぁみやがれ」
「うわ何この際どい感じやばっ……って、は!?一番隊!?」
飛び起きた絖兵を横目で見て、口角を吊り上げる
「総隊長がお前か珱月か、どっちか一番隊に欲しいって言って下さったんでな、お前を推薦しといた。総隊長も乗り気だったし、多分入隊届にお前が他の隊書いても一番隊だな」
てめぇは総隊長に扱かれてろ。
見ていれば眉を吊り上げた絖兵が立ち上がった
「…んのクソ親父!顔面卑猥!ロリコン!」
「ちょっと待てロリコンってどういう事だ!って写真集置いてけんのクソ餓鬼!」
涙目で部屋を飛び出して行った絖兵を追い掛ける。や、それ独月に見付かったら殺されるだろうが、俺が。
どたどたと足音のする方に向かえば銀髪に抱き付いている馬鹿息子。今帰って来たらしい独月が目を半眼にして俺を見た
『…ただいま。修兵さん、絖を泣かせたの?』
「お帰り、俺は泣かせてねぇぞ」
勝手にそいつが泣いただけ。そう言えばまたかって感じで独月が溜息を吐いた。しがみついている絖兵の背中を軽く叩く
『絖、何で泣いてる?言わないと判らない』
「…親父が…俺、一番隊に入隊決定だって…」
『…ああ、それか』
ぐずぐず言ってる絖兵の背中を優しく撫でながら独月が言った
『その事なら総隊長に掛け合っておいた』
「え…?」
『絖は縛られるのを嫌うから、入隊先を勝手に決めればきっと反発する。だからあいつには好きな隊を選ばせてやって下さい、と。その代わりに珱を一番隊に入れる事にした』
あいつなら上手くやれるだろうし。そう言って、独月が俺の後ろを見た
『ただいま。勝手に決めたけど、良い?』
「お帰り。私は別に何処でも良い。入れたらそれで」
そう言った珱月が再び自分の部屋に帰って行った。聞き分け良いなあいつ。絖兵は駄々こねてんのに
「…ありがと、母さん。マジで愛してる」
『どういたしまして。愛情が重い。そろそろ離れて』
「やだ」
『……はぁ』
離れる様子のない絖兵を引っ付けたまま独月が動き出した。然り気無く独月の後ろに回り、絖兵の手から写真集を奪い取る。良し、後は部屋に帰るだけ…
「母さん、あのクソ親父な、母さんの写真集持ってた」
『…は?写真集?』
ばっと振り向いた独月から瞬歩で逃げる。やべぇ、こうなる事が判ってっから隠してたのに
「ざまぁみやがれ、ロリコン」
そう言った絖兵が口角を吊り上げていた。くっそあいつマジでシメる
『…で、あの時の写真集をまだ持ってた、と』
「乱菊さんからタダで貰ったし…お前可愛かったし…」
夜。正座させられた俺が素直に吐けば、独月が溜息を吐いた
『何で絖がそれ持ってたの』
「あいつが俺のベッドに転がって見てたから」
『…あの馬鹿息子……』
呟いた独月が頭を抱える。あいつ結婚とか出来んのかな。そもそも付き合えるかどうかさえ不安だ。だってあいつの好みはちっさくて細くて銀髪の無表情な女。それってまんま独月と珱月じゃねぇか。失礼だがそんなのが当て嵌まる女なんてそうそう居ねぇぞ
『取り敢えず、その写真集は見付からない所に隠す事。判った?』
「捨てろって言わねぇの?」
『どうせ言ったってどっかに隠して持っとくんでしょ?ならもう隠しとけって言った方が楽』
「良く判ってんだな、独月チャン」
『どれだけ一緒に居ると思ってるの』
小さく笑った独月を抱き寄せた。胡座をかいて、その上に向かい合う様にして座らせる
『……疲れた…』
「今日も一日お疲れさん」
首筋に甘えてくる独月の髪を梳く様に撫でる。こうやって甘えてくる所は昔から何も変わらない
『黒崎が十三番隊に入隊するらしい』
「ああ、そういやもうそんなに経ったのか」
天寿を全うした黒崎も尸魂界に来た。俺達にとっては短い時間。でも、その中で変わった関係もある
「愛してる、独月」
『…いきなり何?』
眉を寄せた独月に唇を重ねる。長い間相棒だったこいつと恋人になって、結婚して。何より大切なこいつとこういう事をするのが幸せだって知って
『…苦しい』
「鼻で息しろよ。つか舌入れてねぇぞ?」
『黙れ変態』
啄む様にキスをすればまた独月が険しい顔をした。恥ずかしがり屋だからか、強がり故か。こいつはこういう事をすると何時も険しい顔をする
「そんな顔したって無駄だぜ独月チャン?」
『…変態、顔面卑猥』
「その変態で顔面卑猥が大好きなのは誰だろうな?」
『…大好きじゃないし』
そう呟いた独月が俺の耳許に顔を寄せた
『愛してるに決まってるだろ…馬鹿』
「………ん…?」
ゆっくりと目を開ける。見慣れた天井。隊首室、か。どうやらソファに寝転がって眠っていたらしい。て事はさっきのは夢か。やけにリアルな夢だったな…幸せだったし
ソファから身を起こせば扉の開閉する音が聞こえた
『起きたの?』
近寄って来た銀髪に、自然と口角が上がる
「なぁ、独月」
『何?』
「────俺達、結婚しねぇ?」
I would like to regard a continuation of a dream as you
(お断りします。恋人すっ飛ばして結婚とか何そのスピード離婚フラグ)
(大丈夫だろ。つかもう今が付き合ってる様なもんだし)
(付き合い方知らないし、付き合ってるって自覚あるのとないのじゃ大違いでしょ。それより何でそんな事言い出した?)
(えーそうか?今の関係にやらしい事足すだけなんだが。夢見たんだよ、お前と結婚して子供も居る夢)
(そのやらしい事が大問題なんだっつの。夢は夢だからもう起きたなら働いて下さい、檜佐木副隊長)
(そうかぁ?お前となら相性良い気が…ってぇ!蹴るな馬鹿!)
(もう良いからさっさと書類配ってこい馬鹿!変態!顔面卑猥!)
(わーったから蹴るな!(うわ、顔真っ赤))
「……ん…」
肩を揺らされゆっくりと目を開ける。鮮烈な光。すっと手を伸ばせば柔らかな銀糸に触れた
『起きて、修兵さん。今日は隊首会がある。僕はゆっくりしてられない』
「ん……わーった…起きるから…」
数回瞬きをして、銀髪の姿を視界に捉える。
髪に触れていた手を後頭部に伸ばし、引き寄せた。そっと唇を重ねる
暫く柔らかな唇を堪能して、リップ音を立てて回していた手を離せば、僅かに頬を赤く染めた独月が俺を睨んだ。んな事しても可愛いだけだっての。喉の奥で笑いつつ、ベッドから身を起こす
「おはよう、独月」
『…おはよ、早く着替えてね』
まだ顔を赤くした独月が足早に部屋を出ていった。キスで赤くなるとかどんだけ初なんだか。しかもフレンチで。もっと恥ずかしい事もやってんのに、ほんと何時まで経っても可愛い奴。
手早く死覇装に着替え、顔を洗う。居間に向かえば無表情な銀髪が黙々と食事を口に運んでいた
「おはよう珱月。ちゃんと飯食えよ?」
「…おはよう父さん。ちゃんと食べてる」
そう言った珱月は正に独月の生き写しだ。灰色がかった青の両目と桜の痣、傷痕がない事を除けば独月そのまま。まぁ灰色が俺の血が混ざってる証みたいで嬉しいけど
「お前と独月はちゃんと食ったかどうか見てねぇと心配だからな」
「……私はちゃんと食べてる。母さんの方が食べてないよ」
『珱の方が食べてないだろ』
「や、お前らどっちもどっちだから」
親子してそんなとこ似るな。てかもう親子ってか姉妹って言った方がしっくりくるよな。身長も見た目的にも近いし。
独月の朝食作りを手伝いながらそう考えていれば、独月が口を開いた
『珱、食べ終わったら絖呼んできて。どうせ二度寝してるから』
「……めんどくさい。母さんが行けば良い」
『僕の状況を良く見てから言え。因みに修兵さんも忙しいから空いてるのはあんただけだ』
俺を使わない様に独月が釘を刺すと、食べ終わった珱月が渋々と言った感じで立ち上がった
「ごちそうさま…はぁ。判ったよ」
『頼んだ』
珱月が廊下に向かう。あいつが行ったならすぐ起きるだろ
独月が珱月の食べた後の皿を片付けている間に俺は卵焼きを作成中。うん、良い感じじゃね?
作った卵焼きを皿に乗せていれば珱月と黒髪が居間にやって来た
『おはよう、絖』
「…母さん、はよ」
気怠げに欠伸をした馬鹿息子────絖兵は独月の頭を撫でていた
「オイコラ俺は無視か」
「あ?…居たのかよ親父」
居ただろうが、独月の隣に。院生時代の俺そっくりな絖兵は、独月に顎を乗せながら俺を見る
「母さんと珱しか見えなかった。存在感薄いんじゃね?」
「それはてめぇが独月と珱月が大好きなだけだっての。独月から離れろこのマザコンのシスコンが」
「やだね。母さんと妹が好きで何が悪い。あんただって母さんと珱大好き人間じゃねぇか顔面卑猥」
「顔面卑猥言うな。当たり前だ、自分の女と娘が好きで何が悪い」
「うわ、女とかエロい言い方すんな万年発情期。せめて妻って言えよ」
「それも何かエロいだろ。てめぇマジでシメんぞコラ…」
「…母さん、私準備してくるから、兄さんと父さん任せた」
『…判ったよ。
ああもううるさい…絖、ご飯食べて。修兵さんは卵焼きを切って』
「「へいへい…」」
俺と絖兵の頭を撫でて独月は溜息を吐いた。言われた通りに席に着く絖兵と卵焼きを切り始める俺。うわ、弱ぇな俺ら。何だかんだで独月が家では一番強い気がする。
『修兵さんもそれ切ったらご飯食べて』
「りょーかい。お前ももう食うんだろ?」
『ん』
独月の頭を撫でて、よそわれた飯と味噌汁を運ぶ。独月の分も配膳して席に着けば、隣に座る絖兵が不機嫌そうな声を出した
「つーか何で俺の隣が親父なんだよ」
「あ?うっせぇマザコンてめぇはそんなに独月の隣が良いか」
「当たり前。珱が目の前で隣が母さんとか天国だろ」
「なら余計にやだね。お前はずーっと俺の隣決定。いただきます」
手を合わせてから食い始めれば、絖兵が紫紺の両目で俺を睨んだ
「ざけんなクソ親父」
「やんのか馬鹿息子」
俺も睨み返した時、中性的な声が飛んできた
『うるさい。絖はさっさと食べて霊術院に行け。修兵さんも喧嘩売らない』
その一言で口を閉じ、互いに睨み合う。つかほんと独月大好きだなお前。そんなとこ俺に似るなよ
「へいへい…あんたの所為で怒られたじゃねぇか馬鹿親父」
「大体てめぇが文句言うのが悪ぃんだろ馬鹿息子」
「あ?やんのか顔面卑猥」
「顔面卑猥言うな。てめぇ現役の副隊長に敵うと思ってんのか霊術院のひよっ子が」
「ひよっ子じゃねぇ、筆頭だ」
「俺から見たらひよっ子だっての」
『…縛裟氷映喰らわすぞ馬鹿共』
「「………!」」
俺の前に座った独月が低い声でそう言った。やべぇ、目がマジだ。このままじゃ寝室から藤凍月が飛んでくる。
さっさと行け。それを伝える為に絖兵と目を合わせれば、奴は不服そうだったが小さく頷いた
「ご、ごちそうさん。珱待たせてるし、俺もう行くわ」
『…はぁ。行ってらっしゃい』
独月がひらひらと手を振れば、絖兵が眉を下げて彼女を見る。
「……見送りは?」
『…まったく、良い加減親離れしろ』
そう言いつつ独月は立ち上がった。それを見た絖兵はにっと笑う。何あいつ、尻尾ぶん回してる犬みてぇ。
見ていれば居間を出る間際に絖兵が此方をちらりと振り返った。その勝ち誇った表情に腹が立つ。あいつ帰って来たら絶対シメる。
『……朝から疲れる』
「ん?何で」
執務をする独月に茶を出せば、礼を言いつつ睨んできた
『誰かさんが絖と喧嘩するからですけど』
「へぇ?そりゃ大変だな」
そう返せば独月が更に眉間に皺を増やした。ぶっちゃけ睨んでても上目遣いにしか見えねぇから可愛いだけなんだが
『大体何で喧嘩する?珱とは仲良く出来てる癖に』
「あいつはまんまお前の生き写しだろうが。絖兵が俺に喧嘩売ってくるんだっつの」
『絖も修兵さんの生き写しだけど。兄弟だって言っても通じるだろうし。因みに絖は喧嘩売って……るか』
「だろ?朝っぱらから俺シカトしてお前と珱月に挨拶してんのあいつだし」
つか俺に存在感薄いとか言ったあいつが悪ぃだろ。そもそもあいつは俺の事を邪魔者として認識してる気がする。多分マザコンでシスコンなあいつの事だから、独月と珱月を独り占めしてぇんだろう
『…良い加減親離れしないかな、絖』
「無理じゃね?あいつお前の事大好きだし」
あの髪型も昔のお前の真似してなった訳だし。後から院生時代の俺と独月の写真を見て目ぇ見開いてた。え、何で俺が写ってんだよって。
馬鹿野郎どう考えたってそれは俺だ。刺青してるし目もお前と色が違うだろうが。言えば暫くあいつは不貞腐れてた
『そういえば、修ちゃんと拳西さんが今日霊術院に行くって』
「あ?何で?」
『絖と珱を見に行くらしいよ』
わざわざ霊術院に行かずに家に来りゃ良いのに。呟けば、呆れた様な顔で独月が俺を見た
『息子と旦那が嫁の取り合いしてんのを見に行く程暇じゃねぇって言われた』
「絖兵が下がれば良い話じゃねぇか」
『たまには修兵さんから下がろうよ…』
溜息を吐いた独月を後ろからぎゅっと抱き締める
「たとえ息子でも、俺の女は渡したくねぇ」
『……それ、絖と珱には言わないでね』
恥ずかしいから。そう言った独月が頬を赤くして俺を見た。
「ほんと可愛いな、独月」
『…可愛くない』
唇を重ねればまたむっとした顔で睨まれた
『修兵さん、今仕事中』
「残念。今は休憩中だ」
そう返せば小さく口を尖らせる。ほんと可愛い奴。抱き締める腕に力を込めれば、胸元にそっと擦り寄ってきた
「あーもう今すぐ食いてぇ」
『……死ね、変態』
「「ただいま」」
「おー、お帰り」
霊術院から帰って来た子供二人。何だか院生時代の俺と独月を見てるみたいで未だに慣れない。そんな俺の考えを余所に、早速馬鹿息子は辺りをキョロキョロし始めた
「あいつは後一時間は帰って来ねぇぞ」
「……ちっ」
親に向かって舌打ちすんなっての。さっさと着替えをしに行った珱月の後を追う様に、絖兵も姿を消した。そういや独月の仕事まだあったっけか。立ち上がり、居間から独月の部屋に向かう。
机の上には小さな書類の山。独月のか。でも内容を見る限り俺にも出来るやつ。少しでもあいつの負担は減らしてやりてぇし、勝手にやっとくか。
そう考えて書類を持ち、俺の私室に向かう。
書類を置いて机に向かえば、閉めていた襖が開いた
「…何してんだ親父」
「見りゃ判んだろ、仕事だ」
つかお前何しに来た。見れば絖兵は棚を弄り始めた。や、せめて部屋の主に一言断ってからにしろよ。お前そのマイペースさ独月に似たのか
「何してんだ絖兵」
「お…あったあった」
無視か。書類を捌きつつ馬鹿の様子を窺う。奴が手に持っていたのは二冊の写真集。あれ、あの表紙久々に見た気がする…ってオイ
「何で独月の写真集見てんだお前」
「あ?見てぇから」
そのまま俺のベッドに転がった絖兵が写真集を見始めた。ほんとどうしようこいつ。一回ぶん殴るべきか?つか本棚の奥に隠してたのに良く見付けたな
「うわ、やっべ。可愛過ぎだろ」
「もう良いわ。見るなら黙って見ろマザコン」
溜息を吐いて書類に視線を向ける。何時から育て方間違ったっけ?確かまだ小せぇ頃は普通に父さん母さん言ってたチビだった筈なんだが
「つーか、親父」
「んだよ」
振り向けば絖兵は写真集に目を落としたまま。てめぇが呼んだんだからせめて此方見ろっての
「何で母さんは桜花って名乗ってんだよ。籍は入れてんだろ?」
「あ?入れてるよ」
あいつが檜佐木の姓を名乗らねぇのは単純にややこしいから。同じ九番隊に檜佐木が二人も居たら呼ばれた時に判りにくい。それにもう桜花隊長として周りに定着してる。だからあいつは外では桜花独月のままだ
「外では桜花って名乗っちゃいるが籍はちゃんと檜佐木だ」
「へぇ、じゃあ珱も檜佐木珱月なのか」
「あ?珱月?」
何で珱月が出て来た?首を傾げれば写真集をガン見したまま絖兵が答える
「あいつさ、霊術院受験した時先公に桜花で登録されたんだよ。何か訂正するのもめんどいっつって名字もそのまま」
「…何だそりゃ」
「このぺったんこな胸がまた可愛いんだよな……確か…佐藤だったか?母さんが一回生の時の担任だったらしくて、珱が母さんそっくりだったからすぐ判ったとか言ってた」
「…………取り敢えず写真集の感想を言うな」
判ったなら一応名前確認しろよ。珱月もめんどくさがらずに訂正しやがれ。つかてめぇも訂正しろ。言えば一言めんどくせぇ、と。何でお前ら変なとこあいつに似やがった。めんどくせぇが蔓延してんじゃねぇか
「まぁそのお蔭で虫除け出来るし丁度良いけど」
「……虫除け?」
ぽつりと呟いた絖兵の一言が何か嫌な予感がする。こいつ絶対めんどくせぇ事やらかしてる。直感でそう思っていれば、ぱらりと絖兵がページを捲った
「俺と珱、霊術院じゃ有名なカップルだぜ?」
「……ほんと何してんだてめぇは…」
思わず頭を抱える。何で妹を恋人扱いしてんだ。お前これ独月に言ったら引かれんぞ
「だって付き合ってる事にしとけばめんどくせぇ告白とか減るだろ。あいつは九番隊の桜花隊長の娘。俺は九番隊の檜佐木副隊長の息子ってブランドもあるし」
「親の前で堂々とブランドとか言うな」
つか独月が妊娠した時騒ぎにならなかったっけ?こいつが産まれた時も俺そっくりだって周りから言われたから、てっきりこいつらの事は知れ渡ってると思ってた
「何か最初、佐藤は珱の事母さんの姉かと思ったらしいぜ。母さんが子供産みそうに見えねぇってのも関係あるんじゃね?」
「あー…見た目か…」
確かに独月は見た目が十三とか十四とかに見える。下手したらそれより下にも。身長も150……多分145ねぇし。
対する珱月はギリギリ150あった筈。まぁ見た目も独月よりは上に見えるか
もしかしたらあの見た目が災いして子供の話もデマだと思われたのか?
「んで、俺は認めたくねぇけどあんた似。だからあんたの息子ってのはすぐバレた」
「認めたくねぇとか言うなコラ」
それ俺に対して凄ぇ失礼だから。まぁ俺もこいつが此処まで俺に似るとは思わなかったけど
「だって俺が母さんに似てんのは目の色だけだろ。後は才能」
「うぜぇ。才能とか当然の様に言う辺りがかなりうぜぇ」
絖兵と珱月はもう始解を会得してる。だから才能があるってのは認めるが、こうやって平然と言われても頷きにくい
「まぁ八割方母さんで二割は一応親父の才能か?」
「あ?何で俺も入れてんだよ」
俺に才能なんかねぇぞ。呟けば、この会話になって初めて紫紺の瞳が此方に向けられた
「出来るんだろ、卍解」
「…何の事だ」
「しらばっくれても無駄だぜ。俺はあんたの卍解、見たし」
「……マジかよ」
書類を置いて頭を抱える。俺が卍解したの会得したあの時だけだぞ。まさか見られてたとか…全然気付かなかった
「卍解の事、母さんには言わねぇの?」
「おう。生涯話すつもりはねぇ」
言えば絖兵がまた視線を写真集に戻した
「母さん、親父が卍解出来る様になるのを待ってるんじゃねぇの?」
「そうだな」
俺が卍解出来る様になったら、隊長になる。だからそれまであいつが隊長でいる。それがあいつと交わした約束
「けど俺はあいつを支えたい。あいつの部下のまま、今まで通り」
これを言ったらあいつは怒るかも知れねぇが、俺は最初から隊長になる気はなかった。そういう器じゃねぇし、独月の補佐って役の方が合ってる
「ふぅん…ま、俺が卍解会得したら母さんの代わりに隊長になるから良いか」
「せいぜい頑張りな。まぁ俺らの餓鬼だ、卍解もすぐ出来る様になるだろ」
書類に目を通していれば絖兵が口を開いた
「俺が入隊したらすぐ九番隊の副隊長になるかもな?…うわ、これやばくね?色気が…見えるか?…あー見えねぇし」
「マジで黙れマザコン、あいつをそんな邪な目で見るんじゃねぇ。因みにてめぇは一番隊お預かりだ。ざまぁみやがれ」
「うわ何この際どい感じやばっ……って、は!?一番隊!?」
飛び起きた絖兵を横目で見て、口角を吊り上げる
「総隊長がお前か珱月か、どっちか一番隊に欲しいって言って下さったんでな、お前を推薦しといた。総隊長も乗り気だったし、多分入隊届にお前が他の隊書いても一番隊だな」
てめぇは総隊長に扱かれてろ。
見ていれば眉を吊り上げた絖兵が立ち上がった
「…んのクソ親父!顔面卑猥!ロリコン!」
「ちょっと待てロリコンってどういう事だ!って写真集置いてけんのクソ餓鬼!」
涙目で部屋を飛び出して行った絖兵を追い掛ける。や、それ独月に見付かったら殺されるだろうが、俺が。
どたどたと足音のする方に向かえば銀髪に抱き付いている馬鹿息子。今帰って来たらしい独月が目を半眼にして俺を見た
『…ただいま。修兵さん、絖を泣かせたの?』
「お帰り、俺は泣かせてねぇぞ」
勝手にそいつが泣いただけ。そう言えばまたかって感じで独月が溜息を吐いた。しがみついている絖兵の背中を軽く叩く
『絖、何で泣いてる?言わないと判らない』
「…親父が…俺、一番隊に入隊決定だって…」
『…ああ、それか』
ぐずぐず言ってる絖兵の背中を優しく撫でながら独月が言った
『その事なら総隊長に掛け合っておいた』
「え…?」
『絖は縛られるのを嫌うから、入隊先を勝手に決めればきっと反発する。だからあいつには好きな隊を選ばせてやって下さい、と。その代わりに珱を一番隊に入れる事にした』
あいつなら上手くやれるだろうし。そう言って、独月が俺の後ろを見た
『ただいま。勝手に決めたけど、良い?』
「お帰り。私は別に何処でも良い。入れたらそれで」
そう言った珱月が再び自分の部屋に帰って行った。聞き分け良いなあいつ。絖兵は駄々こねてんのに
「…ありがと、母さん。マジで愛してる」
『どういたしまして。愛情が重い。そろそろ離れて』
「やだ」
『……はぁ』
離れる様子のない絖兵を引っ付けたまま独月が動き出した。然り気無く独月の後ろに回り、絖兵の手から写真集を奪い取る。良し、後は部屋に帰るだけ…
「母さん、あのクソ親父な、母さんの写真集持ってた」
『…は?写真集?』
ばっと振り向いた独月から瞬歩で逃げる。やべぇ、こうなる事が判ってっから隠してたのに
「ざまぁみやがれ、ロリコン」
そう言った絖兵が口角を吊り上げていた。くっそあいつマジでシメる
『…で、あの時の写真集をまだ持ってた、と』
「乱菊さんからタダで貰ったし…お前可愛かったし…」
夜。正座させられた俺が素直に吐けば、独月が溜息を吐いた
『何で絖がそれ持ってたの』
「あいつが俺のベッドに転がって見てたから」
『…あの馬鹿息子……』
呟いた独月が頭を抱える。あいつ結婚とか出来んのかな。そもそも付き合えるかどうかさえ不安だ。だってあいつの好みはちっさくて細くて銀髪の無表情な女。それってまんま独月と珱月じゃねぇか。失礼だがそんなのが当て嵌まる女なんてそうそう居ねぇぞ
『取り敢えず、その写真集は見付からない所に隠す事。判った?』
「捨てろって言わねぇの?」
『どうせ言ったってどっかに隠して持っとくんでしょ?ならもう隠しとけって言った方が楽』
「良く判ってんだな、独月チャン」
『どれだけ一緒に居ると思ってるの』
小さく笑った独月を抱き寄せた。胡座をかいて、その上に向かい合う様にして座らせる
『……疲れた…』
「今日も一日お疲れさん」
首筋に甘えてくる独月の髪を梳く様に撫でる。こうやって甘えてくる所は昔から何も変わらない
『黒崎が十三番隊に入隊するらしい』
「ああ、そういやもうそんなに経ったのか」
天寿を全うした黒崎も尸魂界に来た。俺達にとっては短い時間。でも、その中で変わった関係もある
「愛してる、独月」
『…いきなり何?』
眉を寄せた独月に唇を重ねる。長い間相棒だったこいつと恋人になって、結婚して。何より大切なこいつとこういう事をするのが幸せだって知って
『…苦しい』
「鼻で息しろよ。つか舌入れてねぇぞ?」
『黙れ変態』
啄む様にキスをすればまた独月が険しい顔をした。恥ずかしがり屋だからか、強がり故か。こいつはこういう事をすると何時も険しい顔をする
「そんな顔したって無駄だぜ独月チャン?」
『…変態、顔面卑猥』
「その変態で顔面卑猥が大好きなのは誰だろうな?」
『…大好きじゃないし』
そう呟いた独月が俺の耳許に顔を寄せた
『愛してるに決まってるだろ…馬鹿』
「………ん…?」
ゆっくりと目を開ける。見慣れた天井。隊首室、か。どうやらソファに寝転がって眠っていたらしい。て事はさっきのは夢か。やけにリアルな夢だったな…幸せだったし
ソファから身を起こせば扉の開閉する音が聞こえた
『起きたの?』
近寄って来た銀髪に、自然と口角が上がる
「なぁ、独月」
『何?』
「────俺達、結婚しねぇ?」
I would like to regard a continuation of a dream as you
(お断りします。恋人すっ飛ばして結婚とか何そのスピード離婚フラグ)
(大丈夫だろ。つかもう今が付き合ってる様なもんだし)
(付き合い方知らないし、付き合ってるって自覚あるのとないのじゃ大違いでしょ。それより何でそんな事言い出した?)
(えーそうか?今の関係にやらしい事足すだけなんだが。夢見たんだよ、お前と結婚して子供も居る夢)
(そのやらしい事が大問題なんだっつの。夢は夢だからもう起きたなら働いて下さい、檜佐木副隊長)
(そうかぁ?お前となら相性良い気が…ってぇ!蹴るな馬鹿!)
(もう良いからさっさと書類配ってこい馬鹿!変態!顔面卑猥!)
(わーったから蹴るな!(うわ、顔真っ赤))