「修兵って女に興味あるのかしら?」

アタシのその一言で、作戦は始まった




















その1、虎徹勇音


[此方乱菊。準備は良い?]

「ほ…ほんとにやるんですか乱菊さん…」

[当たり前でしょ?ほら、来るわよ!]

耳に着けた通信機から聞こえた乱菊さんの非情な宣告。ほんとは物凄くやりたくない。けどやらないと後が怖いし……
仕方なく…ほんとに仕方なく、乱菊さんの指示通りに胸元を緩めた
そして向かい側からやって来る細身で黒髪の彼に声を掛ける

「ひっ檜佐木副隊長!」

「うおっ!…どうした虎徹」

身長は私の方が高い為、檜佐木副隊長は首を傾げて此方を見上げた。あれ?今の仕種誰かに似てる

[何やってんの!修兵に引っ付くなり何なりしなさい!]

いやそれ無理ですっ!涙目になれば檜佐木副隊長が目を見開いた

「虎徹どうした?何か悩み事か?俺で良ければ相談に乗るぜ?」

「あ、え、えっと……」

乱菊さんをどうにかして下さい。そう言えるものなら言いたい。ほんと、今すぐに。
でもそんな事したら後ろの茂みに隠れている乱菊さん達から何されるか判らない
うう、逃げ出したい。未だに心配そうな表情の檜佐木副隊長に、はだけさせた胸元を近付ける

「…相談があるんですけど…聞いてくれますか…?」

確か私のテーマは「普段ぴっしりした死覇装の着方をしている女の子が胸元をはだけさせたら」だった筈。テーマ通りに出来ていたのか、通信機越しに乱菊さんがその調子!と騒いだ

「相談に乗るのは良いけどよ……取り敢えず、前しっかり閉めてくれねぇか?」

そう言った檜佐木副隊長が然り気無く私から一歩離れた。

[何でって聞いて]

「な…何でですか?」

乱菊さんの指示通りに言えば、檜佐木副隊長が困った様に眉を下げた

「ほら、普段きっちり死覇装着てる奴がんなに緩く着てたら何かあったって思うだろ?そこらの奴に狙われるぜ?」

そう言ってぽんと肩を叩かれた

「お前も綺麗な顔してんだ、気を付けな」

手を挙げて檜佐木副隊長は去っていった。え、綺麗な顔?私が?

「う、うそ………」

顔が熱くなり、何も言えずしゃがみ込んだ

[勇音?ちょっと勇音!もしもーし!]
























その2、 涅ネム


[良い?何が何でも修兵を赤面させるのよ!]

「……畏まりました」

やって来るのは檜佐木副隊長。マユリ様の命令ではないけれど、女性死神協会の重要な仕事だと松本副隊長に言われた。ならば役員である私も協力しなければならない。
赤面、その為の方法を考える。男性は確か、女性との肉体的な接触で赤面する筈

「檜佐木副隊長」

「ん?何だ涅」

近寄ってきた彼に、すっと抱き付く。すると自然な動作で身を離された

「いきなり何だ?涅隊長の命令か?」

「いえ、マユリ様の命令ではありません」

松本副隊長の命令だと言おうとすれば、耳に着けた通信機からアタシだって言わないで、と。
小さく頷いて、彼の手を取る
そして胸に押し付ければ檜佐木副隊長は鋭い目を見開いた

「……何してんだよ…ったく…」

強引に腕を離され、距離を取られる。眉間には皺。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい

「意味判んねぇ。用がねぇならもう行くぜ」

そう言って止める間もなく檜佐木副隊長は行ってしまった。それを見送って、ゆっくりと口を開く

「申し訳ありません。失敗しました」























その3、松本乱菊


「まったく、どいつもこいつも情けないわね!修兵の一人や二人簡単に落としなさいよ!」

[乱菊さん…檜佐木副隊長は一人です…]

「あいつなんか一人も二人も変わんないわよっ!」

通信機越しの勇音にそう言って、構える。見てなさい、すぐに赤面させてやるんだから!

「お、きたきた……修兵!」

「……今度はあんたか。何ですか乱菊さん」

アタシが呼んだ瞬間、修兵はまたかって顔をした。何よその失礼な反応。そうは思うもののぐっと堪え、甘い声を出す

「ねぇ修兵……今夜会えない…?」

「何ですかいきなり」

腕を取って胸を押し付ければ胡散臭そうに見られた。だから何なのよその失礼な反応は。殴るわよ。
その思いをひた隠し、上目遣いで修兵を見た

「アタシ…あんたの事……」

「酒奢らせてぇなら他当たって下さいね。俺今日先約あるんで」

この男……!
蹴飛ばしてやりたい衝動を堪え、目をうるうるさせて修兵を見る

「先約……?」

「虎徹の悩み相談に乗って、その後独月と過ごします」

律儀に勇音の悩み相談の時間は取っていたらしい。でもその後は何時もと一緒じゃない!

「ねぇ修兵……アタシじゃ駄目なの…?」

きゅっと腕を掴んで、潤んだ瞳の上目遣いで、切なげな声。
アタシの最強コンボでいけば幾ら修兵でも───────

「すいません、今日は駄目っすね」

じゃ、と片手を挙げて修兵は去っていった。

「………………」

立ち尽くし、その背をぼんやりと見送る

「うそ…信じらんない…」

こんな美女が迫っても涼しい顔してる訳!?何で!?あいつ男じゃないの!?

[ら、乱菊さん…?]

「こうなったら最終兵器を出すわよ!」

伝令神機を取り出し、ある番号に掛ける。数回のコールの後、繋がった

「もしもし!?今すぐ此方に来なさい!場所は──────」






















その4、桜花独月


『……はぁ…』

現状はこうだ。
訳判んない事に巻き込まれた。
突然乱菊さんから電話が来た。有無を言わさぬ調子で場所を告げられ来たのが此処。僕隊長なんだけど。そんな事言う間もなく通信機を手渡された。
やる事は乱菊さんが指示するから、その通りに従えば良い、と。今は修兵さんが来るのを待機中

[良い?あんたに懸かってんのよ、しっかりやんなさい!]

『何が懸かってるんですか』

[女のプライドよ!]

うわ、意味判らん。修兵さんあんた乱菊さんに何したんだ。目茶苦茶燃えてるんだが
後ろの茂みを見れば虎徹副隊長には申し訳なさそうに見られた。涅副隊長には会釈された。乱菊さんにはぐっと拳を握られた。乱菊さん気合入ってるな。ほんと何したんだ修兵さん
深く溜息を吐くと───────後ろから抱き締められた

「……はぁ…」

『どうしたの?』

首筋に擦り付いて溜息を吐いた修兵さんの髪を撫でる。掛かったわね!と乱菊さんの喜ぶ声が耳許で聞こえた

「今日絶対女難の相が出てる……何か無駄に絡まれて疲れた……」

『僕も女だけど』

「お前は特別。だから傍に居ろ……」

気怠げにそう言った修兵さんの髪を撫でていれば、通信機から気合の入った人の声がした

[ちびさぎ!アタシが台詞言うからそれ読んであんたは上手く演技しなさい!]

え、演技?要は表情とかも付けろって事?困惑しつつ口を開く

[ねぇ修兵、アタシあんたに話があるの]

『……ねぇ修兵さん、僕修兵さんに話があるんだけど…』

「ん?どうした?」

顔を上げた修兵さんに耳の通信機が見えない様に注意しながら、小さく俯く

[アタシ、あんたの事……]

『…僕、修兵さんの事が』

え、告白?これ言わないといけないの?眉を寄せれば修兵さんががばりと身体を離し、壁の方に逃げた

「待て、待て待て待て。頼むから止めてくれ…!」

[いけるわよちびさぎ!]

や、指示出せよ乱菊さん。危うくそれ言いそうになったじゃないか
静かに修兵さんに近付けばその分だけ後退する。何だこれ新手の遊びか

[やっぱり、他の人の方が良い?]

『……やっぱり、他の人の方が良い…?』

「そ、そうじゃねぇっ!取り敢えず落ち着け!」

[じゃあ何で逃げるの?]

『…じゃあ何で逃げるの…?』

「それは、その……」

頬を赤く染めた修兵さんが俯いた。何これ面白い。忍び足で修兵さんに近付き、そっと首に腕を回した

「っ!!!?」

『修兵さん…』

名前を呼べば修兵さんの身体が大袈裟な程に震えた。アレだよね、こんな反応されると苛めたくなる

[あんたも結構良い性格してるわよねー]

乱菊さんにはバレたらしい。まぁこれを始めたのは乱菊さんだし、良いけど
引き寄せて、近付いた耳許でそっと囁く

『ねぇ、僕じゃ駄目?』

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!?」

言った瞬間、修兵さんが上を向いた。え、どうした
見ていると───────

「ぶふぅっ!!」

『はぁっ!?』

鼻血を噴いた修兵さんが倒れた。
取り敢えず手拭いで血を拭く。廊下を汚した本人は顔を真っ赤にしたまま、目を回している。
駆け寄ってきた三人と処理をしながらぼんやりと呟いた






どうしてこうなった





(あーもーめんどくさい倒れ方したわねコイツ!絶対奢らせてやるんだから!)

(まぁまぁ乱菊さん……こんな事した私達も悪いんですし…)

(出血により著しく血液を損失していますので、増血剤を投与します。宜しいですか?)

(…ああ、はい。お願いします(ほんと見た目は格好良いのに中身が残念だよなこの人……))




たまにアホなのが書きたくなる