意味を正しく受け取りましょう
「…桜花隊長っ!」
『何だ?』
名を呼ばれ振り向けばそこには一人の男性隊士。見覚えはない。誰だろう。…ああ、でも九番隊のヒラにこんな顔居た気がする。て事はうちの隊士か
何の様だと目で問えば、隊士は口をぱくぱくさせた。その口から漏れるのはあのだのそのだの用量を得ない言葉。一体何なんだ。眉を寄せれば焦ったのか隊士がぴんと背筋を伸ばした
「あ、あのっ独月隊長っ!」
『何だ』
「っ…俺と付き合って下さい!」
『………?』
頭を下げながら叫ぶ様に言われ、首を傾げる。付き合えって一体何処に付き合えば良いのか。てかそもそもこいつの名前何だっけ?
そんな事をぼんやりと考えていれば、恐る恐る隊士が顔を上げた
「あの…やっぱり俺じゃ駄目ですか…?」
『いや、別に明日は非番だし問題はない。出掛けるのは明日でも良いだろう?』
「は…はいっ!ありがとうございます!!」
出掛けるのを了承すれば何故か猛烈に感謝された。何故だ。
理解出来ず悩んでいればまたがばっと頭を下げられた
「あ、明日俺午前中で上がりなんで、昼に隊舎の前に来て下さい!」
『昼に隊舎の前だな。判った』
「では明日っ!お疲れ様ですっ!」
またがばっと頭を上げた隊士は笑顔で去っていった。それを見送りつつ小さく呟く
『…あいつの名前何だっけ』
「今日は男性死神協会の財政危機を救う為の会議じゃけぇ、気ぃ締めて掛かれや」
射場さんの言葉を聞き流しつつ、緩く腹を掻く。あれだ、やっぱこの格好落ち着かねぇ
ぼりぼりと掻いて、俺は射場さんに向かって手を挙げた
「何じゃ檜佐木」
「あのー、前から思ってたんすけど、何で素肌に腹巻きするんすか。チクチクして痒いんすけど」
「それが男性死神協会の服装じゃあ!!黙って巻いとかんかい!」
「じゃあ何で部屋ん中でもグラサン外さねぇんすか。滅茶苦茶見にくいんすけど」
「それも男性死神協会の正装に欠かせんもんじゃい!黙って掛けとけ!」
「えー」
「ガキかおんどりゃあ!!」
うだうだと質問すると射場さんがキレた。だってこの格好突っ込み所多過ぎだろ。グラサンで死覇装の上衣を肩に掛けて素肌に腹巻きって。集団で居たら何処の組だってなるぞこれ…って今がそうか。厳ついグラサンの野郎ばっか。明らかにどっかの組の会合じゃねぇか
「まぁまぁ檜佐木さん…桜花隊長に会えなくて苛々してるのは判りますけど落ち着いて」
吉良に背中を叩かれ眉を寄せる。何でお前はそうやって人が気にしねぇ様にしてる事を言いやがる
「何じゃあ珍しいのう、そいつ苛々しとんのか?」
「はい、僕も詳しくは知りませんが」
「こいつの事です。どーせ自分とこの隊長と一緒に居たいとかでしょ」
「ああ、そういえば桜花ならさっき隊士と何処かに行くのを見掛けたよ」
浮竹隊長の言葉に頷く。今日非番の独月は珍しく一人で何処かに出掛けた。普段は必ずと言って良い程俺に合わせるのに、ちょっと野暮用で出てくる、その一言で。
何か嫌な予感がして犬っころに着いていく様命じれば案の定。
独月は男と会ってた
「ヒラ隊士の所為で俺が留守番とか有り得ねぇだろ…!俺も隊長の傍に居たかったのに…!!」
「堂々とアホだな」
「まだ名前呼びじゃない分理性はあります」
「てか副隊長が隊長と休み合わせようとする時点でアホだろ」
「……あはは」
ちょっうるせぇよ阿近さんと吉良。てかそこ否定しろよこの色白金髪野郎。机に伏せれば宥める様に右側から肩を叩かれた。ありがとうございます浮竹隊長
気を取り直し、ゆっくりと机から頭を上げた。だが次に射場さんの発した一言で、俺はぴしりと固まった
「じゃがそいつは所謂でーとっちゅうモンじゃないんか?」
「え゙」
「いやいやいや射場副隊長、チビすけ…桜花隊長に限ってそんな事は」
「じゃが女が野暮用っちゅうて男に会いに行くっちゅう事は、そういう事じゃろ」
「うーん…桜花は檜佐木くん一筋な気がするんだが…」
「女心と秋の空っちゅう諺もありますけぇ、何時の間にか檜佐木よりその男に惹かれてたかも知れんでしょう」
「な、何だと……」
射場さんの放った一言が頭をぐるぐると回る。
デート、だと…?
あいつが?俺に隠して?今までそんな素振り一切見せなかったのに?何時の間にか俺より大切な奴を作ってた?
何だよそれ、全然笑えねぇ。洒落になんねぇぞ
「………は…ははははは…」
自然と口から乾いた笑い声が漏れた。此方を振り向いた吉良がぎょっとした顔で固まった。
「ひ…檜佐木さん……?」
「おい待て檜佐木、早まんな」
安心してくれよ二人共、俺は全然冷静だ。寧ろ冷えきってる。
そう返せば阿近さんと吉良は揃って首を横に振った。射場さんと浮竹隊長も吃驚した顔で俺を見ている。あはは、何なんすかその反応。俺は普通なのに
左耳のカフスに触れる。独月の事だ。そいつに騙されたか何かに決まってる。ああそうだ、独月が俺より大切な奴を作る筈がねぇ。あいつを疑うなんてどうかしてんぞ、俺。
そうだ、本当に疑うべきはその男じゃねぇか。いや、疑うだけじゃ済まさねぇ
「………殺す…」
ゆらりと立ち上がり、口角を吊り上げた
独月を騙した奴に俺が情けを掛けてやる必要はねぇだろう?
「……俺のもんに手ぇ出した事、後悔させてやる」
俺の一言で一気に場の空気が凍り付いた
『………………』
「………………」
「………………」
何なのこの状況。
取り敢えずこいつは何処に僕を付き合わせたいんだ。抱えた修ちゃんの頭を撫でながら溜息を吐く。確かに瀞霊廷内の町中を歩いてるけど、この男はちらちらと僕を見るだけで一切店には目を向けない。あれか、僕にお勧めの店でも聞きたいのか。残念ながら此方は数回しか来た事ないぞ
そんな事を考えている間にも隊士はちらちらと此方を見ている。何なのお前言いたい事があるならはっきり言え
あまりにもオドオドした態度にイラつき僕は口を開いた
『……おい』
「はっ…はいいっ!!」
『此方をじろじろ見るな。視線が鬱陶しい』
「す、すみません!」
ぺこりと頭を下げた隊士を一瞥してまた前に視線を戻す。すると今まで大人しく胸に抱かれていた修ちゃんが顔を上げた。
『修ちゃん?』
「ん?」
修ちゃんは不思議そうに僕を見た。や、不思議なのはあんただっつの。修ちゃんは僕の腕から抜け出し頭に引っ付いた。ああ、場所を変えたかったのか。納得してまた前を向く。何だか修ちゃんがぱたぱた動いてる気がするが、多分しっくりくる引っ付き方でも探しているんだろうと思い、放置した。
「あ、あのお店に入りませんか?」
『は?……ああ、判った』
不意に声を掛けられ思わず睨んでしまった。やばい、こいつの事すっかり忘れてた。反射的に頷いて店に目を向ける。そこには現世にありそうな見た目のカフェ。うん、まぁ何か食べた方がこいつの視線に晒されて苛々するよりマシか。
何で付き合っても良いって言っちゃったんだろう、やっぱり家でゴロゴロしとけば良かった。僕は深々と溜息を吐いた
「………………」
「………………」
目力で人を睨み殺せそうな表情の檜佐木さんと共に尾行しているのは銀髪の小柄な女性と、隣を歩く男。ぱっと見連れ立って歩いているのは判るけど、仲睦まじい風には見えない。だって二人の間に人一人分の距離があるし。桜花隊長は前しか見てないし。
多分男の方は態度からして確実に桜花隊長に気がある。でもさっきから一切彼の方を見ない辺り、多分桜花隊長は彼の事をどうとも思ってないんじゃないか?
二人の後ろ姿を見ていると、桜花隊長の肩からひょっこりと黒い犬のぬいぐるみが顔を出した。彼は確か霊骸だった檜佐木さん。あの事件以来檜佐木さんの義魂丸になったんだっけ。
ぬいぐるみは此方に向かって手をぱたぱた動かした。多分何かを伝えようとしてるんだと思う。けど僕にはぬいぐるみがぱたぱたしてる様にしか見えない。愛くるしいというには些か目が鋭すぎるし。じっと見つめていれば隣の檜佐木さんの霊圧が固くなった
え、何でですか。そーっと隣を見て物凄く後悔
「……やっぱりあの野郎の所為か…」
鬼だ。
何か取り敢えず捕まったら最後な感じの鬼が居る。あれ、九番隊の檜佐木副隊長っていったら何時も冷静でああ見えて結構じゃじゃ馬な桜花隊長の手綱握ってる人だった気がするんだけど。間違っても誰かを私情で殺すとか暗器握ったりしない人な筈なんだけど。
今にも暗器を投げ付けそうな檜佐木さんを咄嗟に羽交い締めする
「ちょっ落ち着いて下さい檜佐木さん!」
「離せ吉良!奴を消す!」
「消さなくて良いです!副隊長が私情で部下を殺すなんて大事になりますよ!?」
「大丈夫だ!ばれねぇ様にやる!」
「そもそもその考えが駄目ですって!」
もうやるが殺すと書いて殺ると読む方にしか聞こえない。
何とか食い止めている間に二人は現世にありそうな見た目のカフェに入っていった。
ガラス張りの窓から見える二人に会話はなさそうだ。男はじっと桜花隊長を見つめているけど、彼女の方は伝令神機に没頭してる。ぬいぐるみは彼女の膝の上で丸くなり目を閉じていた。
「何で独月はあんな奴と……!」
今にも噛み付きそうな檜佐木さんはもう普段じゃ考えられない様な暴れっぷり。これ僕一人じゃ押さえるのも限界なんだけど!
何でこういう時に限って居ないんだよ阿散井くん!君力だけが取り柄なのに!
『……何してんのあんたら』
「「え」」
声がした瞬間、ばたばたと暴れていた檜佐木さんがぴたりと止まった。目の前に立ったのはカフェに居た筈の銀髪の小柄な女性とぬいぐるみ。それと、茶髪の男性
彼を見た途端、檜佐木さんの目が更に鋭くなった
『どうしたの?』
そんな檜佐木さんを見て桜花隊長が首を傾げた。ええ、貴女が原因です。というか檜佐木さんがやらかす時は大概貴女が原因です
「…独月。そいつと何してた」
『?出掛けてた』
「理由は?ヒラ隊士に非番のお前が合わせてやる必要なんざねぇだろ」
「なっ…そんな言い方…」
「るせぇ、雑魚は黙ってろ」
「………ッ!」
檜佐木さんの言葉に苛立ったのか、男が眉を寄せた。まぁ好きな人の前で露骨に貶されれば誰だってそうなるだろう
『ああ、昨日付き合って下さいって言われて、今日が丁度非番だったから』
「あ?付き合って下さいだと…?」
やばい、また檜佐木さんの機嫌が降下した。相変わらず桜花隊長は首を傾げている。頼む、気付いて下さい桜花隊長。貴女の発する言葉で僕の隣の鬼は地雷ズカズカ踏まれてます。
桜花隊長を見つめながら、檜佐木さんは低い声で疑問符のない問い掛けをした
「…で、てめぇは受け入れたのか」
『……?だって断る理由もなかったし』
「………………」
あれ、何か可笑しい。最初から可笑しかった気もするけどこれは確実に変だ。檜佐木さんもそう思ったのか、眉を寄せたまま黙り込んだ。
これはやっぱり彼女がやらかしている可能性がある。
僕はゆっくりと口を開いた
「あの…桜花隊長」
『何だ吉良』
「隊長は“今日だけ付き合う”つもりで彼と此処へ?」
『?他に何がある?』
「………………」
大きな目を瞬かせた桜花隊長は頷いた。
てか僕思うんですけど、多分それ告白ですよ桜花隊長。付き合って下さいって言ったんでしょ?決して今日俺の買い物に付き合って下さいって意味じゃないと思いますよ
勿論そんな事は言えず黙りこくった檜佐木さんに目をやる。彼は何とも言えない表情をしていた
『修兵さん?』
「……なぁ独月」
『ん?』
「お前もう一人で出歩くの禁止な」
『は?』
きょとんとした桜花隊長の頭を撫でた檜佐木さんが男を睨んだ。
「こいつに手ぇ出すとは、良い度胸だな」
「っ…お二人は恋人ではないのでしょう!?なら俺がこんな事しても副隊長に文句を言われる筋合いはない筈です!」
おお、言い返した。多分普通なら喧嘩になるんだと思う。そう、相手が檜佐木さんじゃなければ
檜佐木さんは嘲る様な笑みを浮かべたかと思えば桜花隊長を引き寄せた。その際に何か感付いたのか、彼女の腕の中からぬいぐるみが飛び降りた。
サングラスを外し、桜花隊長の後頭部に手を回した檜佐木さんが男を見据える
「────────良く見とけ。てめぇが手ぇ出した女が喘ぐ様を」
そう言った檜佐木さんが桜花隊長に顔を近付けた。
ちゅっと音がしたかと思えば、ぴちゃぴちゃと湿った音が聞こえ始めた。
本来ならあまり聞かないだろう音の発生源はあの二人。目を閉じた檜佐木さんが顔の角度を変えて桜花隊長と何かをしている。
いやまさか。だってあの二人はそういう関係じゃないって。
有り得そうで有り得ないと思っていたその行為に気付いた時、自分の顔が赤くなるのを感じた。
────────まさか、キスしてる?
『んっ…む……んんっ』
次いで聞こえてきたのは鼻に掛かった甘い声。檜佐木さんの胸元を弱々しく握った桜花隊長のものだ。檜佐木さんが荒々しく吐息を漏らしながら水音を立て、桜花隊長が甘い吐息を漏らす光景。
思わず魅入っていると、リップ音を立てて音が止んだ。ゆっくりと重ねられていた顔が離れた。檜佐木さんは肩で息をしている桜花隊長を胸に押し当て、男を見る。てらてらと濡れて光る唇が低く甘い声音で言葉を紡いだ
「これで判っただろ?こいつは俺の女だ」
「っ…!!!」
拳を握り締めた男は走り去っていった。
そりゃそうだ、惚れた人が目の前で男とキスしてたら誰だって傷付く。御愁傷様、君は惚れた相手が悪かったんだよ
そんな事を思いながら彼の後ろ姿を見送っていれば二人の話し声が聞こえてきた
『ちゃんと出来てた?』
「おう、上出来だ」
へらりと笑った檜佐木さんは上機嫌。さっきまでの鬼の様な不機嫌は何処へやら。まぁ恋人とキスすれば機嫌も治るか
「にしても考えたな、キスのフリするなんて」
「あんだけやりゃもうこいつには近付かねぇだろ?」
「……え?」
思わずぽかんと口が開いた。
今ぬいぐるみの檜佐木さんが変な事言わなかったか?
二人を凝視していれば僕に気付いたのか桜花隊長が此方を見た
『吉良?どうした?』
「え、キスのフリって、一体どういう……」
「ああ、お前も騙されてたのか」
ぽんと手を打ったぬいぐるみに何故か無性に苛つく。此方を見てニヤリと笑った檜佐木さんにも
「あれな、俺が口動かしてただけだ」
「へ?」
『僕は苦しそうな声出せって言われたから、そうしただけ』
「え…」
二人共けろっとした顔でそう言った。桜花隊長がまたぬいぐるみを抱き上げ、その頭を撫でている。
「なにお前、俺と独月がキスしてると思ったのかよ。うわー吉良クンやーらしー」
「ムッツリだなムッツリ」
「ち…違いますよ!」
ニヤニヤしている檜佐木さんとぬいぐるみから顔を反らす。この二人ほんと性格悪いな。ああ、どっちも檜佐木さんだから当たり前か
『むっつり?』
「おー。吉良には近付くなよ独月。危ねぇからなー」
「何教えてるんですか檜佐木さん!」
『てか今思ったんだけど、何で二人共そんな格好してんの?』
Stick a collar to a lovely kitten
(お前が心配で男性死神協会の会合抜け出してきたんだよ)
(別に心配する事ないのに。変なの)
(ったく、自覚ナシってのは怖ぇもんだ)
(僕が来た意味って………)
『何だ?』
名を呼ばれ振り向けばそこには一人の男性隊士。見覚えはない。誰だろう。…ああ、でも九番隊のヒラにこんな顔居た気がする。て事はうちの隊士か
何の様だと目で問えば、隊士は口をぱくぱくさせた。その口から漏れるのはあのだのそのだの用量を得ない言葉。一体何なんだ。眉を寄せれば焦ったのか隊士がぴんと背筋を伸ばした
「あ、あのっ独月隊長っ!」
『何だ』
「っ…俺と付き合って下さい!」
『………?』
頭を下げながら叫ぶ様に言われ、首を傾げる。付き合えって一体何処に付き合えば良いのか。てかそもそもこいつの名前何だっけ?
そんな事をぼんやりと考えていれば、恐る恐る隊士が顔を上げた
「あの…やっぱり俺じゃ駄目ですか…?」
『いや、別に明日は非番だし問題はない。出掛けるのは明日でも良いだろう?』
「は…はいっ!ありがとうございます!!」
出掛けるのを了承すれば何故か猛烈に感謝された。何故だ。
理解出来ず悩んでいればまたがばっと頭を下げられた
「あ、明日俺午前中で上がりなんで、昼に隊舎の前に来て下さい!」
『昼に隊舎の前だな。判った』
「では明日っ!お疲れ様ですっ!」
またがばっと頭を上げた隊士は笑顔で去っていった。それを見送りつつ小さく呟く
『…あいつの名前何だっけ』
「今日は男性死神協会の財政危機を救う為の会議じゃけぇ、気ぃ締めて掛かれや」
射場さんの言葉を聞き流しつつ、緩く腹を掻く。あれだ、やっぱこの格好落ち着かねぇ
ぼりぼりと掻いて、俺は射場さんに向かって手を挙げた
「何じゃ檜佐木」
「あのー、前から思ってたんすけど、何で素肌に腹巻きするんすか。チクチクして痒いんすけど」
「それが男性死神協会の服装じゃあ!!黙って巻いとかんかい!」
「じゃあ何で部屋ん中でもグラサン外さねぇんすか。滅茶苦茶見にくいんすけど」
「それも男性死神協会の正装に欠かせんもんじゃい!黙って掛けとけ!」
「えー」
「ガキかおんどりゃあ!!」
うだうだと質問すると射場さんがキレた。だってこの格好突っ込み所多過ぎだろ。グラサンで死覇装の上衣を肩に掛けて素肌に腹巻きって。集団で居たら何処の組だってなるぞこれ…って今がそうか。厳ついグラサンの野郎ばっか。明らかにどっかの組の会合じゃねぇか
「まぁまぁ檜佐木さん…桜花隊長に会えなくて苛々してるのは判りますけど落ち着いて」
吉良に背中を叩かれ眉を寄せる。何でお前はそうやって人が気にしねぇ様にしてる事を言いやがる
「何じゃあ珍しいのう、そいつ苛々しとんのか?」
「はい、僕も詳しくは知りませんが」
「こいつの事です。どーせ自分とこの隊長と一緒に居たいとかでしょ」
「ああ、そういえば桜花ならさっき隊士と何処かに行くのを見掛けたよ」
浮竹隊長の言葉に頷く。今日非番の独月は珍しく一人で何処かに出掛けた。普段は必ずと言って良い程俺に合わせるのに、ちょっと野暮用で出てくる、その一言で。
何か嫌な予感がして犬っころに着いていく様命じれば案の定。
独月は男と会ってた
「ヒラ隊士の所為で俺が留守番とか有り得ねぇだろ…!俺も隊長の傍に居たかったのに…!!」
「堂々とアホだな」
「まだ名前呼びじゃない分理性はあります」
「てか副隊長が隊長と休み合わせようとする時点でアホだろ」
「……あはは」
ちょっうるせぇよ阿近さんと吉良。てかそこ否定しろよこの色白金髪野郎。机に伏せれば宥める様に右側から肩を叩かれた。ありがとうございます浮竹隊長
気を取り直し、ゆっくりと机から頭を上げた。だが次に射場さんの発した一言で、俺はぴしりと固まった
「じゃがそいつは所謂でーとっちゅうモンじゃないんか?」
「え゙」
「いやいやいや射場副隊長、チビすけ…桜花隊長に限ってそんな事は」
「じゃが女が野暮用っちゅうて男に会いに行くっちゅう事は、そういう事じゃろ」
「うーん…桜花は檜佐木くん一筋な気がするんだが…」
「女心と秋の空っちゅう諺もありますけぇ、何時の間にか檜佐木よりその男に惹かれてたかも知れんでしょう」
「な、何だと……」
射場さんの放った一言が頭をぐるぐると回る。
デート、だと…?
あいつが?俺に隠して?今までそんな素振り一切見せなかったのに?何時の間にか俺より大切な奴を作ってた?
何だよそれ、全然笑えねぇ。洒落になんねぇぞ
「………は…ははははは…」
自然と口から乾いた笑い声が漏れた。此方を振り向いた吉良がぎょっとした顔で固まった。
「ひ…檜佐木さん……?」
「おい待て檜佐木、早まんな」
安心してくれよ二人共、俺は全然冷静だ。寧ろ冷えきってる。
そう返せば阿近さんと吉良は揃って首を横に振った。射場さんと浮竹隊長も吃驚した顔で俺を見ている。あはは、何なんすかその反応。俺は普通なのに
左耳のカフスに触れる。独月の事だ。そいつに騙されたか何かに決まってる。ああそうだ、独月が俺より大切な奴を作る筈がねぇ。あいつを疑うなんてどうかしてんぞ、俺。
そうだ、本当に疑うべきはその男じゃねぇか。いや、疑うだけじゃ済まさねぇ
「………殺す…」
ゆらりと立ち上がり、口角を吊り上げた
独月を騙した奴に俺が情けを掛けてやる必要はねぇだろう?
「……俺のもんに手ぇ出した事、後悔させてやる」
俺の一言で一気に場の空気が凍り付いた
『………………』
「………………」
「………………」
何なのこの状況。
取り敢えずこいつは何処に僕を付き合わせたいんだ。抱えた修ちゃんの頭を撫でながら溜息を吐く。確かに瀞霊廷内の町中を歩いてるけど、この男はちらちらと僕を見るだけで一切店には目を向けない。あれか、僕にお勧めの店でも聞きたいのか。残念ながら此方は数回しか来た事ないぞ
そんな事を考えている間にも隊士はちらちらと此方を見ている。何なのお前言いたい事があるならはっきり言え
あまりにもオドオドした態度にイラつき僕は口を開いた
『……おい』
「はっ…はいいっ!!」
『此方をじろじろ見るな。視線が鬱陶しい』
「す、すみません!」
ぺこりと頭を下げた隊士を一瞥してまた前に視線を戻す。すると今まで大人しく胸に抱かれていた修ちゃんが顔を上げた。
『修ちゃん?』
「ん?」
修ちゃんは不思議そうに僕を見た。や、不思議なのはあんただっつの。修ちゃんは僕の腕から抜け出し頭に引っ付いた。ああ、場所を変えたかったのか。納得してまた前を向く。何だか修ちゃんがぱたぱた動いてる気がするが、多分しっくりくる引っ付き方でも探しているんだろうと思い、放置した。
「あ、あのお店に入りませんか?」
『は?……ああ、判った』
不意に声を掛けられ思わず睨んでしまった。やばい、こいつの事すっかり忘れてた。反射的に頷いて店に目を向ける。そこには現世にありそうな見た目のカフェ。うん、まぁ何か食べた方がこいつの視線に晒されて苛々するよりマシか。
何で付き合っても良いって言っちゃったんだろう、やっぱり家でゴロゴロしとけば良かった。僕は深々と溜息を吐いた
「………………」
「………………」
目力で人を睨み殺せそうな表情の檜佐木さんと共に尾行しているのは銀髪の小柄な女性と、隣を歩く男。ぱっと見連れ立って歩いているのは判るけど、仲睦まじい風には見えない。だって二人の間に人一人分の距離があるし。桜花隊長は前しか見てないし。
多分男の方は態度からして確実に桜花隊長に気がある。でもさっきから一切彼の方を見ない辺り、多分桜花隊長は彼の事をどうとも思ってないんじゃないか?
二人の後ろ姿を見ていると、桜花隊長の肩からひょっこりと黒い犬のぬいぐるみが顔を出した。彼は確か霊骸だった檜佐木さん。あの事件以来檜佐木さんの義魂丸になったんだっけ。
ぬいぐるみは此方に向かって手をぱたぱた動かした。多分何かを伝えようとしてるんだと思う。けど僕にはぬいぐるみがぱたぱたしてる様にしか見えない。愛くるしいというには些か目が鋭すぎるし。じっと見つめていれば隣の檜佐木さんの霊圧が固くなった
え、何でですか。そーっと隣を見て物凄く後悔
「……やっぱりあの野郎の所為か…」
鬼だ。
何か取り敢えず捕まったら最後な感じの鬼が居る。あれ、九番隊の檜佐木副隊長っていったら何時も冷静でああ見えて結構じゃじゃ馬な桜花隊長の手綱握ってる人だった気がするんだけど。間違っても誰かを私情で殺すとか暗器握ったりしない人な筈なんだけど。
今にも暗器を投げ付けそうな檜佐木さんを咄嗟に羽交い締めする
「ちょっ落ち着いて下さい檜佐木さん!」
「離せ吉良!奴を消す!」
「消さなくて良いです!副隊長が私情で部下を殺すなんて大事になりますよ!?」
「大丈夫だ!ばれねぇ様にやる!」
「そもそもその考えが駄目ですって!」
もうやるが殺すと書いて殺ると読む方にしか聞こえない。
何とか食い止めている間に二人は現世にありそうな見た目のカフェに入っていった。
ガラス張りの窓から見える二人に会話はなさそうだ。男はじっと桜花隊長を見つめているけど、彼女の方は伝令神機に没頭してる。ぬいぐるみは彼女の膝の上で丸くなり目を閉じていた。
「何で独月はあんな奴と……!」
今にも噛み付きそうな檜佐木さんはもう普段じゃ考えられない様な暴れっぷり。これ僕一人じゃ押さえるのも限界なんだけど!
何でこういう時に限って居ないんだよ阿散井くん!君力だけが取り柄なのに!
『……何してんのあんたら』
「「え」」
声がした瞬間、ばたばたと暴れていた檜佐木さんがぴたりと止まった。目の前に立ったのはカフェに居た筈の銀髪の小柄な女性とぬいぐるみ。それと、茶髪の男性
彼を見た途端、檜佐木さんの目が更に鋭くなった
『どうしたの?』
そんな檜佐木さんを見て桜花隊長が首を傾げた。ええ、貴女が原因です。というか檜佐木さんがやらかす時は大概貴女が原因です
「…独月。そいつと何してた」
『?出掛けてた』
「理由は?ヒラ隊士に非番のお前が合わせてやる必要なんざねぇだろ」
「なっ…そんな言い方…」
「るせぇ、雑魚は黙ってろ」
「………ッ!」
檜佐木さんの言葉に苛立ったのか、男が眉を寄せた。まぁ好きな人の前で露骨に貶されれば誰だってそうなるだろう
『ああ、昨日付き合って下さいって言われて、今日が丁度非番だったから』
「あ?付き合って下さいだと…?」
やばい、また檜佐木さんの機嫌が降下した。相変わらず桜花隊長は首を傾げている。頼む、気付いて下さい桜花隊長。貴女の発する言葉で僕の隣の鬼は地雷ズカズカ踏まれてます。
桜花隊長を見つめながら、檜佐木さんは低い声で疑問符のない問い掛けをした
「…で、てめぇは受け入れたのか」
『……?だって断る理由もなかったし』
「………………」
あれ、何か可笑しい。最初から可笑しかった気もするけどこれは確実に変だ。檜佐木さんもそう思ったのか、眉を寄せたまま黙り込んだ。
これはやっぱり彼女がやらかしている可能性がある。
僕はゆっくりと口を開いた
「あの…桜花隊長」
『何だ吉良』
「隊長は“今日だけ付き合う”つもりで彼と此処へ?」
『?他に何がある?』
「………………」
大きな目を瞬かせた桜花隊長は頷いた。
てか僕思うんですけど、多分それ告白ですよ桜花隊長。付き合って下さいって言ったんでしょ?決して今日俺の買い物に付き合って下さいって意味じゃないと思いますよ
勿論そんな事は言えず黙りこくった檜佐木さんに目をやる。彼は何とも言えない表情をしていた
『修兵さん?』
「……なぁ独月」
『ん?』
「お前もう一人で出歩くの禁止な」
『は?』
きょとんとした桜花隊長の頭を撫でた檜佐木さんが男を睨んだ。
「こいつに手ぇ出すとは、良い度胸だな」
「っ…お二人は恋人ではないのでしょう!?なら俺がこんな事しても副隊長に文句を言われる筋合いはない筈です!」
おお、言い返した。多分普通なら喧嘩になるんだと思う。そう、相手が檜佐木さんじゃなければ
檜佐木さんは嘲る様な笑みを浮かべたかと思えば桜花隊長を引き寄せた。その際に何か感付いたのか、彼女の腕の中からぬいぐるみが飛び降りた。
サングラスを外し、桜花隊長の後頭部に手を回した檜佐木さんが男を見据える
「────────良く見とけ。てめぇが手ぇ出した女が喘ぐ様を」
そう言った檜佐木さんが桜花隊長に顔を近付けた。
ちゅっと音がしたかと思えば、ぴちゃぴちゃと湿った音が聞こえ始めた。
本来ならあまり聞かないだろう音の発生源はあの二人。目を閉じた檜佐木さんが顔の角度を変えて桜花隊長と何かをしている。
いやまさか。だってあの二人はそういう関係じゃないって。
有り得そうで有り得ないと思っていたその行為に気付いた時、自分の顔が赤くなるのを感じた。
────────まさか、キスしてる?
『んっ…む……んんっ』
次いで聞こえてきたのは鼻に掛かった甘い声。檜佐木さんの胸元を弱々しく握った桜花隊長のものだ。檜佐木さんが荒々しく吐息を漏らしながら水音を立て、桜花隊長が甘い吐息を漏らす光景。
思わず魅入っていると、リップ音を立てて音が止んだ。ゆっくりと重ねられていた顔が離れた。檜佐木さんは肩で息をしている桜花隊長を胸に押し当て、男を見る。てらてらと濡れて光る唇が低く甘い声音で言葉を紡いだ
「これで判っただろ?こいつは俺の女だ」
「っ…!!!」
拳を握り締めた男は走り去っていった。
そりゃそうだ、惚れた人が目の前で男とキスしてたら誰だって傷付く。御愁傷様、君は惚れた相手が悪かったんだよ
そんな事を思いながら彼の後ろ姿を見送っていれば二人の話し声が聞こえてきた
『ちゃんと出来てた?』
「おう、上出来だ」
へらりと笑った檜佐木さんは上機嫌。さっきまでの鬼の様な不機嫌は何処へやら。まぁ恋人とキスすれば機嫌も治るか
「にしても考えたな、キスのフリするなんて」
「あんだけやりゃもうこいつには近付かねぇだろ?」
「……え?」
思わずぽかんと口が開いた。
今ぬいぐるみの檜佐木さんが変な事言わなかったか?
二人を凝視していれば僕に気付いたのか桜花隊長が此方を見た
『吉良?どうした?』
「え、キスのフリって、一体どういう……」
「ああ、お前も騙されてたのか」
ぽんと手を打ったぬいぐるみに何故か無性に苛つく。此方を見てニヤリと笑った檜佐木さんにも
「あれな、俺が口動かしてただけだ」
「へ?」
『僕は苦しそうな声出せって言われたから、そうしただけ』
「え…」
二人共けろっとした顔でそう言った。桜花隊長がまたぬいぐるみを抱き上げ、その頭を撫でている。
「なにお前、俺と独月がキスしてると思ったのかよ。うわー吉良クンやーらしー」
「ムッツリだなムッツリ」
「ち…違いますよ!」
ニヤニヤしている檜佐木さんとぬいぐるみから顔を反らす。この二人ほんと性格悪いな。ああ、どっちも檜佐木さんだから当たり前か
『むっつり?』
「おー。吉良には近付くなよ独月。危ねぇからなー」
「何教えてるんですか檜佐木さん!」
『てか今思ったんだけど、何で二人共そんな格好してんの?』
Stick a collar to a lovely kitten
(お前が心配で男性死神協会の会合抜け出してきたんだよ)
(別に心配する事ないのに。変なの)
(ったく、自覚ナシってのは怖ぇもんだ)
(僕が来た意味って………)