「ふぅ……」

終わった書類を提出箱に放り投げ、息を吐く。これで急ぎの書類はねぇな。首を回すとごきごきといかにも凝ってそうな音がした。次の非番に整体にでも行くか?だが足ツボで一回痛い目見てるからな、止めた方が良いかも知れねぇ。
散々渡された包みを袋に放り込み、席を立つ。出舎してから気付いたが、どうやら今日は俺の誕生日だったらしい。いやすっかり忘れてた。道理で独月に何か欲しい物はねぇか聞かれる訳だ。てかあいつ俺より早く部屋出てた。そういや去年も早く出てたよな。いや、去年だけじゃねぇ。ほぼ毎年だ。何となく覚えてる限りでは誕生日の朝は必ず一人で起きる気がする。え、それ何の嫌がらせ?朝起きてあいつの寝顔を拝めねぇとか地味に辛ぇのに。何あいつ毎年俺に嫌がらせしてんのか。しかも誕生日に

「やっべぇ今すぐ会いたくなってきた」

朝の貴重な癒しの時間を奪われた日は最悪だ。大抵そんな日に限ってクソ忙しいから勿論独月で充電する時間もねぇ。例に漏れず今日も忙しかった。原稿に不備があるわ書類失くすわ取り敢えず部下がやらかす日だった。何なんだろう俺の誕生日ってのは厄日なのか
貰い物を詰め込んだ袋を持って廊下を歩く。これで赤い着物でも着てれば季節外れのサンタになれそうだ。いや、俺が届けてもガキは泣くか。俺それなりに強面だし
部屋に着き鍵を開ける。扉を開けて部屋に入り、すんと鼻を鳴らす。何か美味そうな匂いがする。何だ、犬っころが料理でもしてんのか?
そう思いながら居間に行き、固まった

『早かったね、おかえり』

「お、おう…ただいま……」

台所に独月が立っていた。いや、それだけならまだ少し驚くだけで済む。でもそうじゃねぇ、それだけじゃねぇんだよ

エプロンしてんだぞ、フリフリの。

白いリボンとフリフリの付いたエプロン着けた独月が台所に立ってんだぞ。そんでもって玉葱切ってる。何これ新婚か。やべぇにやける

「結婚してくれ」

『お断りします』

や、そんなすぱっと断らなくても。まぁいきなりそんな事言われれば誰だって断るか。訝しげな目を向ける独月の頭を撫でる

「なにお前何でこんな可愛い格好してんの?」

『乱菊さんがこれ着たら修兵さんが喜ぶって』

グッジョブ乱菊さん。あんたマジで良い仕事した。着流しにエプロンがこんな破壊力だなんて俺今まで知らなかった。てかこいつのエプロン姿の破壊力舐めてた。マジで可愛い鼻血出そう

『……喜んだ?』

「おう。すっげぇテンション上がった」

『?なら良かった』

こてんと首を傾げた独月がまだ納得出来ていない様子でそう言った。お前何でそう一々可愛いんだ。何なのお前マジで天使か。
小せぇ身体を抱き締めれば若干鬱陶しそうに見られた

『くっつき虫、邪魔』

「お前が可愛いのが悪い」

『料理出来ない。意味判んない。邪魔』

「あーお前マジ天使」

『…修兵さんが壊れた』

深い溜息を吐いた独月が諦めて作業を再開した。流石に怪我されたら困るので玉葱を微塵切りし始めた独月からそっと離れ、台の上を見る。挽き肉に玉葱に卵。ああ、ハンバーグか

「手伝おうか?」

『誕生日の人は座ってて。そう言えば誕生日おめでとう』

「さんきゅ。すげぇついでに言ったな」

手を洗い、挽き肉をボウルに入れた。微塵切りにされた玉葱と卵を入れて捏ねる。その間に独月は鍋を見ていた

「お前料理出来たんだな。台所に立たせた事ねぇのに」

『乱菊さんと雛森と練習した』

その言葉に思わず手が止まった。え、わざわざ今日の為に?全力で顔筋が勝手に動こうとするのを阻止する。頑張れ俺、ポーカーフェイスはお手の物だろ。今此処でにやけるんじゃねぇ、クールになれ俺!

『…修兵さん?』

「お、おう。何だ?」

『や、口許引き攣ってるから。どうかした?』

お前がやる事なす事可愛過ぎてにやけてました。でも多分これ言ったらぶっ叩かれる。そして下手すりゃ機嫌を損ねる。それは絶対嫌だ、てか俺の顔筋が勝手過ぎる
何でもねぇと返しハンバーグの形を作る。独月はフライパンに油を引いて温めてた。やべぇ、何かこれほんと新婚っぽい。
もう隠さずににやければ独月が不思議そうに俺を見た

『…さっきから何?』

「や、可愛いなーって」

『可愛くない。修兵さんの目は可笑しい』

そう言った独月が挽き肉をフライパンで焼き始める。その間に手持ち無沙汰な俺は手を洗い独月をガン見。此方をチラ見した独月は諦めたのか、またフライパンに視線を戻した。
紫の桜が描かれた水色の着流しにエプロン。見れば見る程可愛い。てか永久保存してぇ。あ、伝令神機で撮れば良いのか。
早速胸元から伝令神機を取り出しカメラを起動。レンズを独月に向けてボタンを押した。カシャリと連続で音がしてエプロン姿の独月が表示される。勿論全部保存。その音で振り向いた独月は何してんだあんたって顔してた

『……何で連写?』

「え、可愛いお前をコマ送りでじっくり眺めてぇから」

「お前それ只の変態じゃねぇか」

ソファからひょっこり顔を出した犬っころがそう言った。うるせぇよ独月が可愛いんだから仕方ねぇだろ。

『どうせ消してって頼んでも消してくれないんでしょ?』

「おう。てか永久保存する」

『はぁ………』

これを消せる訳ねぇだろ。パタリと伝令神機を閉じて胸元に戻す。待受にはしねぇ、だってもし他の奴が見たら嫌だし。だからロック掛けたフォルダに移動だけしておいた。仕事中に見よう

『修兵さん、お皿出して』

「へいへい」

最早俺に撮られ慣れてる独月はもう溜息しか吐かなくなった。言われた通りに皿を出し、並べる。数は三。白米と焼けたハンバーグを皿に乗せ、小鍋に入っていたソースを掛ける。それから冷蔵庫から取り出したサラダを乗せた。
かと思えば独月はハンバーグに旗らしきものが付いた爪楊枝を刺した。それを二つに刺し、俺を見た。ああ、運ぶの手伝えと。二皿持ってやれば独月が残った一皿を持った。そしてテーブルに置き、ソファに転がる犬っころを呼ぶ。俺と犬っころは爪楊枝の刺さった席に座らされた

『はい、じゃあ改めて。誕生日おめでとう』

「さんきゅ」

「旗……これ俺か?」

『ん。修ちゃんは犬。修兵さんは人』

「…まぁ似てるから良いか」

見れば犬っころの旗には犬が描かれていた。俺の方はデフォルメされた俺の顔。お前絵まで描けるのか。もう弱点ねぇんじゃねぇの?

『言っとくけど味は保証しない。美味しくなかったら食べるの止めてね』

その言葉を聞きながらハンバーグを口に放り込む。噛めば出てくる肉汁。やべぇ、すげぇ美味い

「んまい」

『……良かった』

だから素直に伝えれば、何処か不安げだった独月は安心した様に柔らかく微笑んだ。

「……おい原種、鼻血拭け」

「……すまん」

手渡されたティッシュで血を拭う。やべぇ俺今日辺り悶え死ぬんじゃねぇかな。生きて乗り切れるかな。何かどっかでやらかす気がすんだけど

『そういえば……』

そう言ったかと思えば独月は徐に席を立った。そのまま寝室に入り、すぐに何かを持って出てきた。
席に戻り、犬っころに大きな包みを渡す

『はい修ちゃん』

「あ?俺の?」

きょとんとした犬っころが目を瞬かせる。それに頷いた独月はなかなか受け取ろうとしない犬っころに無理矢理包みを持たせた。
今度は俺を向き、手に持っていた小さな箱を差し出してきた

『これは修兵さんに』

「おう、さんきゅ」

開けて良いか確認して早速開ける。出てきたのは十字架と桜を象ったバングル。あ、独月っぽい。右腕に嵌めて見せれば独月が小さく笑った

『僕が好きなのにしたけど、ほんとにそれで良かったの?』

「おう。これ見りゃすぐお前を思い出せるだろ?」

欲しいもんがねぇか聞かれた時に、お前が好きなアクセサリーが良いと俺は言った。そうすればこいつはてめぇが好きなデザインの物を選ぶから

「さんきゅ。じゃあお前の誕生日には俺が好きなデザインのバングルやるよ」

『何かプレゼント交換みたいになってる』

小さく笑った独月が犬っころに何かを着せていた。虎が描かれた青い着流し。着せて貰った犬っころが独月を見る

「似合ってるか?」

『ん。可愛い』

「や、そこは格好良いって言ってやれよ」

『じゃあ格好良い』

「じゃあって……まぁ良いけど」

そう言いつつ犬っころは尻尾をぶん回していた。お前それマジで犬じゃねぇか。ちょっ止めろ俺のイメージが崩れるっ

『あ、そういえば』

また何か思い出したらしい独月が声を出した。何だと見ていればのそのそ動いて俺のすぐ傍までやって来た。そしてこてんと首を傾げ、上目遣いで俺を見る
そして甘い声で、堂々と爆弾を投下した

『ご飯にする?お風呂にする?それとも──────ぼ・く?』





頭がぱーんっ!ってなった





(お前でお願いしますっ!!)

(っうわ!?)

(縛道の六十一・六杖光牢ぉッ!!)

(うおおっ!?)

(てめぇふざけんな原種!独月に手ぇ出すのは五百年早ぇッ!独月此方来い!)

(ん。あー吃驚した。何で押し倒してきた?)

(お前があんな事言うからだろッ!あんな体勢であんな甘い声で言われたら俺じゃなくても理性飛ぶわ!!)

(だって乱菊さんが言えって)

((爆乳美人あの野郎!!!))





ハッピーバースディ檜佐木