彼の推測
(吉良視点・ヤンデレ気味?)
突然だが、今日は僕の霊術院時代の先輩について語ろうと思う。
名前は檜佐木修兵。尸魂界を守護する護廷十四隊所属九番隊副隊長。とある事件の所為で顔の右半分には三本の傷痕がある。左頬には69の数字と鼻を跨ぐ青灰色のライン。強面だが何時も冷静で、前から後ろから隊長を支える副官だ。その姿勢から彼に憧れる隊士は多い
そうだ、こうして見ると欠点のない人に見える。家事も出来て仕事も出来て強くて冷静な性格。此処だけ見れば完璧だ。そう、此処だけ見れば
何故こんな風に言うのかって?それには勿論理由がある
それは────────────
「隊長、今日も可愛い」
『可愛くない。仕事して檜佐木さん』
「駄目。俺充電しねぇと仕事出来ねぇ」
『予備電源拾ってこい』
「目の前に充電器あんのに使わねぇ奴は居ねぇだろ。じゃ、遠慮なく」
『邪魔。暑い。鬱陶しい』
「マジ喰っちまいてぇぐらい可愛いなお前」
『駄目だ、話通じてない。宇宙人が居る』
この様に、ある特定の人物に対してデレッデレの態度を取るからだ。
そこに普段の冷静さなんてない。自重と共に部屋に置き忘れてきたんだと思う。
檜佐木さんの直属の上官、桜花独月隊長。彼女は霊術院時代の檜佐木さんの後輩であり、僕や阿散井くん、雛森くんの先輩だ。僕達の丁度中間に居る彼女は檜佐木さんから溺愛されている
もう慣れてしまった者達は適当にあしらうが、基本的にこの光景を初めて見た部下達は遠い目をする。それぐらい彼等にとっては見慣れない光景なのだ。
普段から抱き合う腕に乗せるだけでは飽き足らず、酷い時には頬に口付けもするらしい。何なんだこのバカップルとは思うが、二人は付き合ってはいない。勿論口付けもまだだし、身体の関係もないらしい
何故清く正しくいちゃついているのか。問い掛けた隊士は何人も居る。けれどその問いに対して必ずと言って良い程二人はこう言うのだ
そういうものじゃない、と。
抱き締め合って此方が恥ずかしくなりそうな甘い台詞を囁き合うのに?聞いても彼等は頷くだけ。
何故なのか。酒の席で珍しく泥酔一歩手前の状態になった檜佐木さんに訊ねた事があった
「そういえば、ずっと気になってたんですけど」
「んー?」
「何で桜花隊長と付き合わないんですか?」
訊ねた時、檜佐木さんは判ってるだろと言わんばかりに笑っていた
「だーかーらー、あいつと俺はそういうのじゃねぇの。何度も言ってるだろ?」
「でもお二人がやってる事は恋人同士がする様な事でしょ?」
「そうだとしても俺とあいつは上司と部下。それ以外の何物でもねぇよ」
檜佐木さんがぐいっと御猪口を煽った。それに酒を注ぎ足してやりながら、我ながら意地悪な質問をする
「なら、もし桜花隊長に好きな人が出来たらどうするんですか?」
こんな事を聞いたのはきっと僕自身もかなり酔っていたからだ。普段なら絶対に言えないだろう質問をした時、檜佐木さんが眉を顰めた。その表情は切なそうなそれ。そう、一言で言うならば、悲痛そのもの
「…その時は、身を引くさ」
「え………」
思わぬ一言に一気に酔いが覚めた。身を引く?普段からあんなにも愛情表現をしているこの人が?
目を瞬かせれば、また檜佐木さんが酒を煽った
「あいつに俺より大事なものが出来たなら、そん時は副官としてあいつを支える。少しは邪魔しちまうかも知れねぇけど、あいつが選んだ奴なら、俺は……」
「な、何で告白しないんですかっ」
今の表情は言い表せない程に悲痛なものだった。そんなにも想っているなら何故それを口にしないのか
半ば遮る形で聞けば、彼は眉を下げてへにゃりと笑う
「言える訳ねぇだろう。言えば、あいつは俺に流されちまう」
「え………?」
「あいつはな、俺を何よりも一番に考えてる。でもそれは恋愛感情じゃねぇ。俺があいつの命を救ったから。てめぇの命を救ってくれた、神様に対する信仰心みてぇなもんなんだよ」
「………………」
「だから、あいつは俺を誰かに取られるのを嫌う。俺が傷付くのを嫌がる。あいつにとって俺は神様だから。誰だっててめぇの心の支えが他人に傷付けられんのは嫌だろ?」
「……だから、彼女は檜佐木さんに懐いていると?」
「ああ。あいつにあるのは深い信仰心。だから俺が望む事をしたがる」
そう言ってまた檜佐木さんが酒を煽った
「だからもし俺が抱かせろって言ったら素直に従っちまうんだろうよ。てめぇのほんとの気持ちは置いてきぼりでな」
「………………」
「だから俺はあいつに対して欲は見せねぇ様にしてる。そりゃ抱き付いたりはすっけどキスはしねぇし。無理強いはしたくねぇしな」
ぐいっと飲み干した檜佐木さんはあー美味ぇと笑う。強烈な内容を聞いた身としてはもう酒を楽しむどころじゃないんだが。
内心そう思いつつ、核心に迫る事にした
「檜佐木さんは、桜花隊長の事が好きなんですか?」
「好きだ」
思ったよりもさらりと答えた檜佐木さんは目を伏せながら言葉を続けた
「好きだし、愛してる。俺の全てを捧げても良いと思ってる。あいつの為なら死ねる。俺はあいつを殺したいし、死ぬ時はあいつに殺されたい。ずっと何処かに閉じ込めて誰にも見られねぇ様にしたい。
あいつが目にするもんは俺だけで良いと思うしあいつが呼ぶのも俺だけで良い。他のもんなんて要らねぇ。壊してぇ。ぐちゃぐちゃにしてぇ。あいつの全てを俺だけにしてぇ」
つらつらと紡がれるのは愛情が凝縮され過ぎてぐつぐつに煮詰まったかの様な、怨嗟にも似た言葉。というか後半危険過ぎる。何だっけ、確か現世でこれを言い表す言葉があった筈。ああ、思い出した、ヤンデレだ。愛情が深過ぎて精神を病んでしまったり病んでいる愛情表現を対象に向けるものの総称。
どうしようこれ気付いたら物凄く怖くなってきた。幾ら向けられる相手が自分じゃないと判っていてもこれは怖過ぎる。
恐る恐る檜佐木さんを見ていると、彼は妖しく笑った
「そもそもこの想いも誰かに聞かれちゃ困るんだ……聞いちまったんだから、覚悟は出来てるよなぁ…?」
「ひぃ……っ!!!」
地を這う様な低い声。あ、駄目だ。僕死んだ。
ぎゅっと目を瞑る
「──────────なーんてな」
「……へ?」
あっけらかんとした声がして、小さく笑う声が聞こえてきた。そっと目を開けるとげらげらと笑う檜佐木さんが見えた。え、どういう事?今明らかに僕死亡フラグ立ってたよね?
訊ねれば涙目の檜佐木さんが言った
「あれな、演技だ」
「え……?」
「や、お前やけに聞いてくっからちょっとからかってやろうと思って」
「………………」
ぽかんとした僕には構わず檜佐木さんは徳利を傾けた
「そしたらお前まんまと引っ掛かるもんだから、つい面白くってさ」
つまり僕は騙されたのか。でも今の冗談って言うには迫力があり過ぎやしないか。普段からそう思ってるからこそあんな迫力が出たんじゃ…
「何だ、またあんな風に言って欲しいのか?」
「違いますっ!!!」
「ははっ!なら深追いは止めときな。怪我するだけだぜ?」
青ざめた僕を見て檜佐木さんは満足そうに笑った
「たーいちょー。休もうぜー」
『これやってから……ちょっと書類返して』
「却下。お前そう言って一時間休まねぇから」
眉を寄せた桜花隊長を檜佐木さんは自らの腕に乗せた。抵抗する桜花隊長を無視して隊首室から出る
『自分で歩ける』
「俺が運びてぇの。良いだろ?」
押し黙った小さな隊長を見る檜佐木さんは満足そうに笑った。
結局あの日の話は嘘だと言われてしまったけれど、少なからず彼の中に言い表せない程に凝縮された激情があるのは確かだろう
Violent emotion in him
(彼女が自分に恋するまで待つ)
(僕にはそう言ってる様に思えた)
あくまでも吉良の考えなので檜佐木の本心とは無関係
突然だが、今日は僕の霊術院時代の先輩について語ろうと思う。
名前は檜佐木修兵。尸魂界を守護する護廷十四隊所属九番隊副隊長。とある事件の所為で顔の右半分には三本の傷痕がある。左頬には69の数字と鼻を跨ぐ青灰色のライン。強面だが何時も冷静で、前から後ろから隊長を支える副官だ。その姿勢から彼に憧れる隊士は多い
そうだ、こうして見ると欠点のない人に見える。家事も出来て仕事も出来て強くて冷静な性格。此処だけ見れば完璧だ。そう、此処だけ見れば
何故こんな風に言うのかって?それには勿論理由がある
それは────────────
「隊長、今日も可愛い」
『可愛くない。仕事して檜佐木さん』
「駄目。俺充電しねぇと仕事出来ねぇ」
『予備電源拾ってこい』
「目の前に充電器あんのに使わねぇ奴は居ねぇだろ。じゃ、遠慮なく」
『邪魔。暑い。鬱陶しい』
「マジ喰っちまいてぇぐらい可愛いなお前」
『駄目だ、話通じてない。宇宙人が居る』
この様に、ある特定の人物に対してデレッデレの態度を取るからだ。
そこに普段の冷静さなんてない。自重と共に部屋に置き忘れてきたんだと思う。
檜佐木さんの直属の上官、桜花独月隊長。彼女は霊術院時代の檜佐木さんの後輩であり、僕や阿散井くん、雛森くんの先輩だ。僕達の丁度中間に居る彼女は檜佐木さんから溺愛されている
もう慣れてしまった者達は適当にあしらうが、基本的にこの光景を初めて見た部下達は遠い目をする。それぐらい彼等にとっては見慣れない光景なのだ。
普段から抱き合う腕に乗せるだけでは飽き足らず、酷い時には頬に口付けもするらしい。何なんだこのバカップルとは思うが、二人は付き合ってはいない。勿論口付けもまだだし、身体の関係もないらしい
何故清く正しくいちゃついているのか。問い掛けた隊士は何人も居る。けれどその問いに対して必ずと言って良い程二人はこう言うのだ
そういうものじゃない、と。
抱き締め合って此方が恥ずかしくなりそうな甘い台詞を囁き合うのに?聞いても彼等は頷くだけ。
何故なのか。酒の席で珍しく泥酔一歩手前の状態になった檜佐木さんに訊ねた事があった
「そういえば、ずっと気になってたんですけど」
「んー?」
「何で桜花隊長と付き合わないんですか?」
訊ねた時、檜佐木さんは判ってるだろと言わんばかりに笑っていた
「だーかーらー、あいつと俺はそういうのじゃねぇの。何度も言ってるだろ?」
「でもお二人がやってる事は恋人同士がする様な事でしょ?」
「そうだとしても俺とあいつは上司と部下。それ以外の何物でもねぇよ」
檜佐木さんがぐいっと御猪口を煽った。それに酒を注ぎ足してやりながら、我ながら意地悪な質問をする
「なら、もし桜花隊長に好きな人が出来たらどうするんですか?」
こんな事を聞いたのはきっと僕自身もかなり酔っていたからだ。普段なら絶対に言えないだろう質問をした時、檜佐木さんが眉を顰めた。その表情は切なそうなそれ。そう、一言で言うならば、悲痛そのもの
「…その時は、身を引くさ」
「え………」
思わぬ一言に一気に酔いが覚めた。身を引く?普段からあんなにも愛情表現をしているこの人が?
目を瞬かせれば、また檜佐木さんが酒を煽った
「あいつに俺より大事なものが出来たなら、そん時は副官としてあいつを支える。少しは邪魔しちまうかも知れねぇけど、あいつが選んだ奴なら、俺は……」
「な、何で告白しないんですかっ」
今の表情は言い表せない程に悲痛なものだった。そんなにも想っているなら何故それを口にしないのか
半ば遮る形で聞けば、彼は眉を下げてへにゃりと笑う
「言える訳ねぇだろう。言えば、あいつは俺に流されちまう」
「え………?」
「あいつはな、俺を何よりも一番に考えてる。でもそれは恋愛感情じゃねぇ。俺があいつの命を救ったから。てめぇの命を救ってくれた、神様に対する信仰心みてぇなもんなんだよ」
「………………」
「だから、あいつは俺を誰かに取られるのを嫌う。俺が傷付くのを嫌がる。あいつにとって俺は神様だから。誰だっててめぇの心の支えが他人に傷付けられんのは嫌だろ?」
「……だから、彼女は檜佐木さんに懐いていると?」
「ああ。あいつにあるのは深い信仰心。だから俺が望む事をしたがる」
そう言ってまた檜佐木さんが酒を煽った
「だからもし俺が抱かせろって言ったら素直に従っちまうんだろうよ。てめぇのほんとの気持ちは置いてきぼりでな」
「………………」
「だから俺はあいつに対して欲は見せねぇ様にしてる。そりゃ抱き付いたりはすっけどキスはしねぇし。無理強いはしたくねぇしな」
ぐいっと飲み干した檜佐木さんはあー美味ぇと笑う。強烈な内容を聞いた身としてはもう酒を楽しむどころじゃないんだが。
内心そう思いつつ、核心に迫る事にした
「檜佐木さんは、桜花隊長の事が好きなんですか?」
「好きだ」
思ったよりもさらりと答えた檜佐木さんは目を伏せながら言葉を続けた
「好きだし、愛してる。俺の全てを捧げても良いと思ってる。あいつの為なら死ねる。俺はあいつを殺したいし、死ぬ時はあいつに殺されたい。ずっと何処かに閉じ込めて誰にも見られねぇ様にしたい。
あいつが目にするもんは俺だけで良いと思うしあいつが呼ぶのも俺だけで良い。他のもんなんて要らねぇ。壊してぇ。ぐちゃぐちゃにしてぇ。あいつの全てを俺だけにしてぇ」
つらつらと紡がれるのは愛情が凝縮され過ぎてぐつぐつに煮詰まったかの様な、怨嗟にも似た言葉。というか後半危険過ぎる。何だっけ、確か現世でこれを言い表す言葉があった筈。ああ、思い出した、ヤンデレだ。愛情が深過ぎて精神を病んでしまったり病んでいる愛情表現を対象に向けるものの総称。
どうしようこれ気付いたら物凄く怖くなってきた。幾ら向けられる相手が自分じゃないと判っていてもこれは怖過ぎる。
恐る恐る檜佐木さんを見ていると、彼は妖しく笑った
「そもそもこの想いも誰かに聞かれちゃ困るんだ……聞いちまったんだから、覚悟は出来てるよなぁ…?」
「ひぃ……っ!!!」
地を這う様な低い声。あ、駄目だ。僕死んだ。
ぎゅっと目を瞑る
「──────────なーんてな」
「……へ?」
あっけらかんとした声がして、小さく笑う声が聞こえてきた。そっと目を開けるとげらげらと笑う檜佐木さんが見えた。え、どういう事?今明らかに僕死亡フラグ立ってたよね?
訊ねれば涙目の檜佐木さんが言った
「あれな、演技だ」
「え……?」
「や、お前やけに聞いてくっからちょっとからかってやろうと思って」
「………………」
ぽかんとした僕には構わず檜佐木さんは徳利を傾けた
「そしたらお前まんまと引っ掛かるもんだから、つい面白くってさ」
つまり僕は騙されたのか。でも今の冗談って言うには迫力があり過ぎやしないか。普段からそう思ってるからこそあんな迫力が出たんじゃ…
「何だ、またあんな風に言って欲しいのか?」
「違いますっ!!!」
「ははっ!なら深追いは止めときな。怪我するだけだぜ?」
青ざめた僕を見て檜佐木さんは満足そうに笑った
「たーいちょー。休もうぜー」
『これやってから……ちょっと書類返して』
「却下。お前そう言って一時間休まねぇから」
眉を寄せた桜花隊長を檜佐木さんは自らの腕に乗せた。抵抗する桜花隊長を無視して隊首室から出る
『自分で歩ける』
「俺が運びてぇの。良いだろ?」
押し黙った小さな隊長を見る檜佐木さんは満足そうに笑った。
結局あの日の話は嘘だと言われてしまったけれど、少なからず彼の中に言い表せない程に凝縮された激情があるのは確かだろう
Violent emotion in him
(彼女が自分に恋するまで待つ)
(僕にはそう言ってる様に思えた)
あくまでも吉良の考えなので檜佐木の本心とは無関係