※キャラ崩壊注意











夜、ベッドに転がりながら伝令神機を弄り、受信した電子書簡に気付く。
差出人は乱菊さん。何か良い予感はしないんだがどうしよう、電子書簡読み忘れたとか駄目かな?…駄目だ、あの人にそんな手は通じない。
渋々電子書簡を開けば内容はやっぱりアレな文章で、思わず溜息が出た

『めんどくさ…』

「どうした?」

僕の肩口に頭を乗せる修兵さんが首を傾げた。画面を見せれば文を読んだ修兵さんがあーと声を出す

「お前隙あらば写真撮られそうだよな」

『非常に困ってる』

「そりゃそうか」

女性死神協会主催の旅行なんか行ったら最後な気がする。写真撮られまくるわ無理矢理酒飲まされるわできっと良い事はないだろう。

『断りたい』

「断っても強制連行とかしそうだよな」

『…有り得る』

そうなったら完全に彼方のペースだ。何かと断った事に託つけて、色々やらせようとするに違いない。ああ、断っても断らなくても結果は同じなのか。断った方が分が悪くなるだけで

「何時行くんだ?」

『来月の頭に行くから、各自休み揃えろってさ』

「何日泊まり?」

『一泊二日』

「…て事はほぼ二日お前に会えねぇのか。辛ぇな」

や、二日ぐらい我慢してよ。言えば無理だと修兵さんは口を尖らせた。即答かよ

「知ってるか?充電出来ねぇと俺は死ぬ程辛ぇんだぞ?」

『…電話するから』

「声だけじゃ駄目だ。顔見てぇ」

『……じゃあ映像通話する』

確かそういう機能付いてた筈。現世の携帯のテレビ電話みたいなヤツ。
修兵さんは渋々といった体で頷いた

「ほんとは触りてぇけどなー」

『電話中に画面撫でたら?』

「結構虚しいぞそれ」

てか二日程度でそうなるなら修行中はどうだったんだ。
訊けばしれっとした顔で修兵さんは言う

「気が狂いそうだった」

『……マジか』

「マジだ。廃人になるんじゃねぇかって思った」

『……お疲れ様でした』

「ほんとだな」

くつくつ笑った修兵さんが僕を見上げた。その髪をそっと撫でる。何か何時もと違う寝方すると変な感じ
同じ事を思ったのか、修兵さんが目を細めた

「何か、こうやってるとお前に包まれてる感じがする」

『…修兵さんを包むには些か僕の長さが足りない』

「わーってるよ。マジでお前に包まれても吃驚するわ」

可笑しそうに笑った修兵さんがそう言って擦り付いてきた。その紫がかった黒髪を撫でる。気持ちが良いのか、修兵さんが目を閉じた。何だろう、修兵さんが猫に見えてきた。可笑しいな、修兵さんは犬っぽい筈なのに。
顎を擽れば低い声で唸った。猫が喉鳴らしてるみたい

『ごろごろ?』

「んあ?」

『…無意識か』

開かれた修兵さんの目はとろんとしている。眠たいから喉鳴らしたのかな。だとすれば新発見。また新しい修兵さんに遭遇した。
数回瞬きをして、灰色の瞳がしっかり僕を見た。長い腕がすっと伸ばされ、僕の首に絡み付いてきた。ぴったりと身体をくっ付けてきた修兵さんが耳許で笑う

「すっげぇ気持ち良かった」

『ごろごろ?』

「おう。あれは駄目だ、頭が飛ぶ」

『修兵さん喉鳴らしてた』

「え、マジか」

目を瞬かせた修兵さんに頷く。低い声で喉鳴らしてたもん。言えば修兵さんは苦笑いした

「取り敢えず外では禁止な」

『家では良いの?』

「おう。寧ろ甘えてぇ時にされてぇかも」

良いのか。頷いた修兵さんが耳殻を軽く食んでから囁いた

「独月、もっとして?」

『……猫』

胸元に頬擦りしてきた修兵さんの顎を擽る。すぐに修兵さんは気持ち良さそうに目を閉じた。という事は今は甘えたいのか

『気持ち良いですか、黒猫さん?』

「んー…」

猫というにはちょっと大き過ぎる。なら他のネコ科はどうだろう。ライオンとか?でもライオンっぽくはないし…じゃあ豹は?ああ、黒豹とか良いかもしれない

『修兵さんって黒豹みたい』

「ん…?黒豹…?」

『ん』

擦り擦りしてくる修兵さん。ぶっちゃけ重たいから降りて欲しいんだが。もうカーペットに転がってくれないかな。そっちの方が擽る側からすれば楽なんだが

「独月ー……」

『にゃあって言ったら聞いてあげる』

何か頼みたそうな修兵さんに意地悪を言ってみる。普通なら絶対言わないだろうそれを、とろんとした目の修兵さんはあっさりと

「にゃあ……」

『………………』

言ったよこの人。
呆気に取られている間も黒豹は擦り擦りしてくる。どうしようこの人、完全にキャラ崩壊してるんだが
手が止まったからか、まともな目になった修兵さんは僕の首筋に顔を近付けた

「なぁ独月、マーキングして良い?」

『マーキング?』

首を傾げれば修兵さんが笑った。

「こういう事」

囁いて、ちくりとした痛み。これ確か前にもされた事ある様な

『それがマーキング?』

「そ。俺の飼い主だぞって印」

何だそれ。
悩んでいる間にも修兵さんはマーキングしまくっている。それをぼんやりと眺めながら、ふとこの体勢について考えた。身体の上に押し乗る形で人の首筋に顔を埋めている修兵さん。
あれか、修兵さんがほんとに黒豹だった場合僕は襲われてる人間か。多分がじがじと首筋を齧られている途中。助け出されてもきっと出血多量で死ぬ

『結局死ぬのか』

「え、どうしてそうなった?」

不思議そうな修兵さんが首を傾げた。何でもないと顎を擽れば目を細めた。ごろにゃん状態の猫ってこんななのかな。いや、本物はもっと可愛い筈。こんなに大きくないし厳つくない。て事はやっぱり黒豹か。なかなか懐かない感じの。でも一回懐かれたら全力で甘えられるっていう。

『これ外でやったらキャラ崩壊確定だな…』

「んー…外ではやらせねぇぞ…」

『やっぱり?』

流石にこれ写真撮られたらどうしようもない。特に乱菊さんにはバレない様にしないと

『てか修兵さん、マーキングし過ぎ』

右の鎖骨付近に赤い痕が沢山付けられている。傷痕にも付いてるし。擦ると指先を噛まれた

『…こら黒豹、離しなさい』

「やだ」

痛くはないけど気になる。あじあじ噛まれている指先を動かせば熱くて濡れたものが触れた。舐められたのか。
僕の指なんか美味しくないだろうに、何で噛むのか

「お前の指甘ぇ…」

『…別に甘いもの食べてないんだけど』

「お前が甘ぇのかな」

『や、甘くないと思……痛っ』

言い終わる前に左の首筋を噛まれた。痛いわ馬鹿。べしっと頭を叩けば迷惑そうに睨まれた。や、迷惑被ってんのは僕だから

『痛いから』

「邪魔すんな。噛みてぇんだ」

何だその理由。そして目がギラギラしてるのは何でだ。てか何がしたいんだこの人。
首筋をべろりと舐めた修兵さんがまた噛み始める

『……僕は骨じゃないんだけど』

「甘ぇお前が悪い」

『そんな事言われても困る』

犬のおやつの骨の如く首筋をがじがじされている。て事はやっぱり修兵さんは犬?でもやっぱり猫っぽくも見える。どっちなんだこの人

『修兵さんって犬なの?猫なの?』

「その不思議な疑問は何なんだ?俺は人だ」

や、人ですけど。
ああ…もう良いや。溜息を吐けばまた齧り始めた。伝令神機を取ろうと腕を伸ばせば手首を掴んでベッドに縫い付けられた

『伝令神機が取れないんだけど』

「んなもんほっとけ。俺だけ見てろ」

『何それ横暴』

何で自分が噛まれてる様子を見てないといけないんだ。睨めば不服そうに修兵さんが睨み返してくる

『さっきから訳が判らない。何がしたいの?』

「あ?」

先程からずっと考えていた疑問を投げ掛ければ修兵さんは不思議そうに首を傾げた。
そして、ぽつりと言ったのだ

「………甘えてんだよ」

『……え』

思わず目を瞬かせた。凝視すれば居心地悪そうに修兵さんが目を逸らす
あれ、甘えるってこういう事だったっけ?噛み付くのって甘える方法だっけ?

「…どうしても噛みたくなった」

『……野性的ですね』

つまり修兵さんは甘えると噛むのか。て事は今まで僕は遠慮しつつ甘えられてたのか。
また一つ新しい一面を発見した気がする。なんか今日は新しい修兵さんと良く遭遇する日だな。エンカ率高過ぎる
ぼんやりとそんな事を考えていれば、眉を下げた修兵さんと目が合った

「…悪ぃ、嫌だったか?」

その問いに首を横に振り、頭を撫でた

『理由が判ったから、別に良いよ』

「……え」

そう返せば今度は修兵さんが目を瞬かせた。そして僕を凝視する。何なんだ、別に僕は変な事言ってないだろ。
見つめ返せば恐る恐る修兵さんが訊ねてきた

「…嫌じゃねぇの?」

『ん』

「でも痛ぇだろ?」

『ん』

「……じゃあ何で嫌じゃねぇんだよ」

何故か最後に不貞腐れた様な態度で修兵さんは言った。何で不貞腐れるんだあんたは。
頭を撫でつつ、問いに答える

『それが修兵さんの甘え方だから』

「………は?」

きょとんとした修兵さんの鼻を抓んでみる。良いな、鼻が高い人は。僕は鼻が低いからかなり羨ましい

『今までこうやって甘えなかったのは、僕が嫌がると思ったから?』

「……やっぱ噛まれんのとか嫌だろ」

『まぁ吃驚したけど、それだけかな』

「それだけって……」

あれ、何で僕が呆れられてるんだろう。普通は僕が修兵さんに呆れるべきなんだが。てか僕が呆れる事はあっても修兵さんが呆れるのは可笑しいだろう

『何?噛んどいて何で僕に呆れてんの?』

「や、だってお前…普通は嫌だろ?」

『噛んどいて言うのかあんた』

なら噛むなよ、とは思うものの噛みたいのなら仕方がないとも思うし。
まぁぶっちゃけた話

『修兵さんだから別に嫌じゃない』

要は修兵さんだからこそ何でも許せるって事であって。修兵さんじゃなきゃ勿論こんな事許しはしない。この体勢になる事すらない。
確かにさっきは嫌がった。でもそれは修兵さんがそういう事をする意味が判らなかったからで。
理由が判ったから、もう嫌だとは思わない

「………………」

それを伝えれば、ぽかんと修兵さんが口を開けた。うむ、間抜け面。頬を抓めば眉を下げた

「……馬鹿か、お前」

『馬鹿じゃない』

「馬鹿だよ、お前……」

馬鹿って言いながら何でそんなに優しい目で見つめてくるんだろう。眉を寄せれば修兵さんが笑う

「……ったく、敵わねぇなぁ…」

そう呟いた修兵さんが優しく僕の髪を撫でた。何が敵わないんだろう、さっきから訳が判らない。首を傾げれば修兵さんがまた首筋に顔を埋めた
さっきまでの様な痛みではなく、ちくりとした痛みが走った
そこをべろりと舐めて、修兵さんが笑う

「やっぱ俺の理解者はお前しか居ねぇわ」

『それはどうも。僕の理解者も修兵さんだけだよ』

そう返せば修兵さんは嬉しそうに笑った








I would like to have eaten sweet all of you








(おはよう藤堂さん)

(あらおはよう独月…ってその首どうしたの!?)

(…黒豹に甘えられたらこうなった)

(……随分激しい甘え方する動物飼ってるのね……)








寧ろ甘え方が病んでる気がする