殆ど六車視点








「ふぁあ……」

欠伸しつつ隊首室に行くと、毛布の塊が居た

「……おい蓑虫、これは幾ら何でも被り過ぎだろ」

『冬寒い』

まだ十二月の上旬なんだがな。
小さく溜息を吐きつつ毛布を捲った。二枚捲ると銀髪が出てきた。…お前そのうち布団被り過ぎて窒息死しそうで怖ぇわ

「まだ寒ぃか?」

『ん』

「ほんと寒がりだなお前……」

ソファーの上で丸まった独月の隣に座る。テーブルに置いた書類に目を通していれば、隣の毛布の塊がもそもそ動いた

『ねぇ檜佐木副隊長』

「何でしょうか隊長?」

ずぽっと顔だけ毛布から出した独月が俺を見た。
見た目が物凄く可愛いが、俺を副隊長と呼んだ以上隊長として話し掛けてきたんだろう。
緩みそうな表情を引き締めて独月を見る

『最近三席になった六車拳西さんって、強いの?』

「ああ、はい。俺が小せぇ時…確か百年近く前には隊長やってましたけど、強かったですよ」

『ふぅん……』

確かあの時は始解ででけぇ虚を倒してた。
助けて貰ったって贔屓目もあるかも知れねぇけど、あの人が強ぇってのは確かだ。
そう伝えれば、頷いた独月が毛布から出てきた

『判った。じゃあちょっと行ってくる』

「へ?あの、何処に?」

『拳西さんの所。檜佐木さんは書類整理お願いします』

「あ、はい」

あ、つい頷いちまった。
隊首室を出ていく小せぇ背中を見送る。何しに行く気だあいつ。拳西さんに何の用だ?
疑問符が飛びまくる頭を振り、取り敢えず書類整理をする事にした
























『拳西さん、居ますか?』

「おう、居るぞ」

ついそう返事をしてからふと気付く。
今俺って三席だし、敬語使わねぇといけねぇのか。
言い直そうとした時、副官室の扉が開いた

『今空いてます?』

「あ?この書類が終われば暇だ…暇ですよ」

慌てて取り繕えば、銀髪の隊長は僅かに目を細めた

『敬語使わなくて良いですよ。僕の方が使わないといけないんですし』

や、お前隊長だろ。元隊長とはいえ現三席に敬語使わせねぇでどうすんだ。つか何でお前が敬語なんだよ。
そう言えばじゃあ僕も敬語を使わないからと返された。や、だから何か可笑しくね?

『貴方は元隊長。それに僕より隊長を務めていた年数が長い。だから僕に敬語を使わないのは当たり前だと思うんだけど』

普通は自分より下の奴に敬語使わせて礼儀をしっかりさせんのが隊長だ。それは隊を纏めるって意味だったり、一番上だって事を改めて自分で認識する為だったり。
でもこいつは自分より上だと思う奴には敬語を使わせたくねぇんだろう。
それが例え、自分より階級が下だとしても

『敬語は嫌だし、正直呼び捨ての方が良いし』

「……お前なんかずれてんな」

『?』

不思議そうに首を傾げた隊長の頭を撫でる。
普通三席に呼び捨てにしろって言う奴居ねぇし。
その背を陣取る斬魄刀を見て、今度は俺が首を傾げた

「で?俺に何の用だよ、隊長」

『あ、そうだった』

…忘れてたのかてめぇ。
内心溜息を吐きつつ隊長を眺める。
暫し見下ろしていれば、無表情なまま独月は言った

『今から僕と手合わせして下さい、六車元隊長』














瀞霊廷の中の小さな森の中、独月と向かい合う

「で?手合わせって事は肉弾戦か?」

それしたら確実にほっせぇお前より俺が有利だが。訊けば独月は首を横に振った

『斬魄刀アリで。第一解放許可は貰ってきたから始解まではOKで』

「始解までな」

小さく頷き、鞘から斬魄刀を引き抜く。独月も斬魄刀を背中から抜いた

「じゃあ、行くぜ?」

『はい』

言葉と同時に地面を蹴った。小手調べに拳を突き出す。独月は僅かに動いて躱した。それと同時に右脇腹目掛けて斬魄刀が迫る。斬魄刀で防げば胸の前に掌が突き出された

『破道の三十三・蒼火墜』

「っ!吹っ飛ばせ──────“断地風”!」

蒼い炎を掻き消した時にはもう独月は上空に逃げていた。
衝撃波を飛ばせばひらりと躱す

「手ぇ抜いてんじゃねぇぞ!」

断地風を握った拳で殴り掛かれば独月が斬魄刀で受け止めた。
ぎちぎちと刃を噛み合わせながら、独月が呟く

『“藤凍月”』

涼やかな音を立てて独月の斬魄刀が姿を変えた。拳銃と刀身の長ぇ刀が鎖で繋がった形状。二刀一対とも違うそれ。独月は俺の額に拳銃を向けた

「チィ…ッ!!!」

一切の躊躇いもなく発砲された銃弾を避ける。衝撃波を込めた刃を叩き付ければ独月の腕が切れた。無表情が痛みに僅かに歪む。

『縛裟氷映!』

「効かねぇよ!!」

俺を押し退けた独月が氷の刃を放った。それに衝撃波をぶつける。
俺の断地風は炎熱系だ。ぶっちゃけ氷雪系とは相性が悪ぃ。
炎と氷がぶつかって煙が上がった。
目を細め、前を見据える。
煙の中、前方で僅かに揺らぐ影に衝撃波を飛ばした。影が掻き消えた時、後方から首筋に当てられた刃に身体が硬直した

『尽敵螫殺──────“雀蜂”』

首筋にピリッとした痛み。
反射的に腕を振るえば独月は離れた。
それと同時に辺りが急激に温度が下がった事に気付く。
しまった────────こいつは氷雪系だ

『氷華』

「っ!!」

全身を包み込まんとする氷の花を叩き割る。
するとまた氷の粒が舞った。独月が繰り出す氷を俺が壊す度、氷の粒が増える。
氷雪系が操れるのは水分。それが増えればどんどん独月に有利になっていく。このままじゃ俺が不利だ。
……仕方ねぇな、アレを使うか
始解を解き、斬魄刀を構えた

「卍解!!」

唱えた瞬間爆風が起きた

「────────鐵拳断風!!」

拳に握った刃を繰り出した。
凝縮された炎が氷の粒を消し飛ばす。水煙を吹き飛ばせば距離を取った場所に独月が立っていた。
始解を解いた独月が斬魄刀を構えた

『…卍解』

巻き起こる爆風。
目を細めた時、不思議な影が煙に映った

『────────結九十九尾藤凍月』

爆風が晴れた時に現れた姿に思わず目を見開いた。銀色の九本の尾に、同色の獣耳。辺りに漂う大量の扇。
鎧と陣羽織を纏った独月が俺を見下ろす

『一尾・千本桜景厳』

独月が呟いた瞬間、銀色の尾が桜になった。大量の桜が独月の周りを舞う

『二尾・雀蜂』

銀色の尾が光になった。刀身の長ぇ刀の先端に光が触れたと思えば、白と青の模様が入った針みてぇなのが付いた。

『三尾・灰猫』

三本目が灰になった。それも桜と同じ様に独月の周りをくるくると回る

『四尾・風死』

四本目が真っ白な一対の鎌になった。
何時も傍に居るあいつの様に、風死は独月の背後に控える様に浮かんでいる

『五尾・残火の太刀』

五本目が焦げ付いた様な刀になった。おい待て流石にアレはやべぇぞ。
拳を握った時、独月が尾をけしかけた。

「おらぁ!!!」

向かってきた桜と灰を吹き飛ばす。背後から突き出された白い針を躱した。頬を掠った刀が引かれる隙に拳を突き出す。
当たった筈の拳は燃え滓みてぇな斬魄刀に防がれた。放った筈の衝撃波は残火の太刀に押されている

「チッ…!」

『あんたの能力は炎。なら炎熱系最古の斬魄刀で抑え込むまで』

「やれるもんならやってみやがれ!」

両手の刃をメリケンサックに変えた。
ぐっと力を込めて拳をぶつける。衝撃波を纏った拳が焦げ付いた刀身に罅を入れた

『!』

独月が残火の太刀を退いた。追う様に手を伸ばした瞬間、奴の手に握られたライフルが火を噴いた。
慌てて躱した時、辺りを灰と桜が囲っているのに気付いた。
はっと独月に目を戻し──────その目を見開いた

『戦舞・壱式』

独月の姿が、崩れる様にして沢山の蝶に変わっていく。蒼い蝶が丸く囲われた空間内を埋め尽くす様に飛び回った、瞬間

『──────蝶炎跋扈』

大量の蝶が、一斉に爆発した









「っ…!!」

『……良く耐えたね』

上空に浮かぶ独月が俺を見下ろしていた。肩で息をしながら済まし顔を見上げる

「炎は俺には効かねぇぞ」

『……そう』

呟いた独月の背後に瞬歩で回り、拳を振り上げた。拳が当たる前に白い鎌が立ち塞がった。その間に独月が俺から距離を取る。
衝撃波で粉々に砕け散った鎌を眺めた独月が、ゆっくりと左手を持ち上げた

『戦舞・弐式』

独月がくるりと白い刀を手首で回した。
その瞬間────────俺の身体がピクリとも動かなくなった。
目一杯右を見れば、右手首に白い十字架が付いていた。右だけじゃなく、左手にも。
見れば十字架になっているのは風死の破片。
独月の前には銀色の、頭ぐらいの大きさの円が浮かんでいた。
怖ぇ程無表情な独月が、左手をまっすぐ上に振り上げた

『────────枝垂月』

振り上げられた刀が銀色の円目掛けて振り下ろされた。
悪寒が走る。
拘束を解こうとして暴れていた瞬間









「そろそろ止めとけよ、隊長」









後ろから伸ばされた大きな手によって、刀を握った手が止められた。
独月の後ろに立った修兵が、俺と目が合いへらりと笑う

「危なかったですね拳西さん」

そう言った修兵がぽんと独月の頭に手を置いた。
兜の飾り毛をわしゃわしゃと撫でてから突き出た獣耳を触り、笑う

「やっぱこの耳触り心地良いな」

『…耳触らないで』

「ふわふわしてんのに毛並みはサラサラだな」

『耳やだ』

俺を拘束していた十字架が砕けて消えた。
卍解を解いて見上げる合間にも奴等はいちゃついている

「尻尾もふっかふかだな。毎日これだったら暖かそうなのに」

「尻尾触るな」

尻尾を撫で回す修兵の手がべしんと尻尾に叩かれた。確かアレって千本桜になったりしてたヤツだよな?何時の間にかまた九本揃ってんだけど。アレが化けた斬魄刀を俺罅入れたり砕いたりしたよな?
…どうなってんだあいつの尻尾

『これ卍解なんだけど。出来れば格好良いって言われたいんだけど』

「無理。可愛いです隊長」

『良し、減給だ』

「殺生な!」

コントみてぇな会話をしながら二人は降りてきた。因みに修兵が独月を抱き締めている。独月はでけぇ目を半開きにして眉を吊り上げていた

「だって猫耳に尻尾とか可愛い以外に言えねぇよ」

『猫違う。狐だ』

「俺の子猫チャンは子狐チャンにもなれんのか。贅沢過ぎる」

『狐だ。子狐じゃない』

「いやー、マジ眼福。眼福過ぎて胸が痛い」

『僕は修兵さんの中身がやらかしてて頭が痛い』

「相思相愛だ。良し結婚しよう」

『お断りします』

…マジでコントじゃねぇか。
俺を仲間外れにして始まったコントを呆然と眺めていれば、修兵が独月の獣耳に唇を寄せた。
その瞬間両の耳がビクリと動き、独月が固まった

『っ!?!?』

「あ、やっぱ息吹き込まれんの苦手なのか」

『っばか!修兵さんなんかもう知らん!』

顔を真っ赤にした独月が尻尾で修兵の頭をぶっ叩いた。その衝撃で緩んだ腕から抜け出した独月がふわりと宙を舞う

『檜佐木さん、一ヶ月減給決定!』

「マジか!」

そう言い残して独月は飛んでいった。…あれを目撃した奴はどう思うんだろう。空飛ぶ狐?化物?
取り敢えず死神だって気付いてくれんのは少なそうだな

「はは、怒っちまった」

後で機嫌取りしねぇと、と修兵がぶっ叩かれた後頭部を撫でて笑う。
その姿を見つつ、俺は疑問に思っていた事を訊ねた

「何時から此処に来てた?」

あの反応は少し前から見ていた様なそれだった。的確に独月の攻撃を止め気を逸らさせる。そして先に帰る様に仕向けた。
これら全部を踏まえると、少なくとも三十分は前から見ていたんじゃねぇかと思う

「三十分ぐらい前っすかね。丁度お二人が始解した時です」

案の定修兵はそう言った。
そしてあいつが飛んでいった方を見る

「隊長に頼まれた書類を片して来てみれば二人共本気で戦ってるし。頃合いを見て止めました」

「独月が最後に使おうとしてた技は何だ?」

相手を拘束し、銀色の円に刃を振り下ろす技。半端なく寒気がした。
それを告げれば修兵は目を瞬かせ、言った

「アレっすか?枝垂月って言って、円を斬ると相手がスパッと逝く技です」

「………………」

さらりとえげつねぇ事を言った修兵がへらりと笑う

「因みに隊長は縦にまっすぐ斬ろうとしてたんで、もし決まってたら拳西さんが縦に真っ二つでした」

「………………」

もう言葉が出ねぇ。
何だそのえげつねぇ技。もし喰らってたら俺即死じゃねぇか。だから寒気がしたのか。

「おい、修兵」

「はい?」

「お前俺が枝垂月喰らうの見てたのか」

もう一つ気になる点を口にした。
三十分ぐらい前から居たならこいつ確実に俺があの技喰らうの見てたよな。こいつならアレを独月がやる前に止められたよな。
問えば、修兵はあっさりと

「や、拳西さんが隊長に怪我させたから」

だからちょっと斬れても良いかなーって

「………………」

────────ぷちっ

「てめぇどんな脳味噌してんだクソガキ!!」

「いってぇ!?」

俺より背の高ぇ黒髪に拳骨を喰らわせた。俺が独月に怪我させたからちょっと斬れても良いだぁ?こいつマジでふざけてんのか!

「あのぐらい掠り傷だろうが!てめぇは掠り傷で俺を見殺しにすんのか!?」

「あれ確実に掠り傷じゃねぇよ!スパッといってたぞ!俺出来ればあいつに怪我させたくねぇしちょっと怪我させたあんたにイラッとしたし!!」

「だからって俺を見殺しにして良い理由にはならねぇだろ!」

「だってあんた殺しても死ななそうだし!」

「殺したら死ぬわボケ!!」

お前は俺を何だと思ってんだ!
涙目で反論する修兵にもう一発拳骨を喰らわせ俺は歩き出した。

「…で、うちの隊長はどうでした?」

「あ?」

殴られた所を擦りつつ、隣に並んだ修兵を横目で見て歩を進める。

「隊長が何であんたと戦ったか、判ってるんでしょ?」

「……当たり前だ」

独月は恐らく俺に自分の実力を判らせる為に手合わせを提案したんだと思う。同時にあいつも俺の実力を測る為に

「大方元隊長にてめぇの実力を測らせて、下に付くかどうか決めろって言いたかったんだろ?」

「決めろっつーか、どうせあいつの事だから納得しなければ代わりに隊長になってくれって思ってたんじゃないっすかね」

「アホかあいつ」

あれは確実に俺が負けてた。
つか死んでた
あれぐらいの実力があるならもっと堂々としてても良い気がするんだが。
呟けば、修兵がまだ頭を撫でながら言った

「うちの隊長ってちょっと抜けてるトコあるんすよね」

「…抜けてるトコ?」

「はい。あいつは自分がどれぐらい強いか判ってねぇトコがあるんです」

独月は俺より弱ぇと思ってるんです、と修兵は笑った

「あいつは力の使い方次第できっと総隊長にも勝てる。でもその強さを自覚してねぇから弱い」

自分の強さを自覚してねぇ奴はその力を満足に使えねぇから、弱ぇ。下手すれば自分より格下の奴にも勝てねぇ事もある。

「あいつ、尻尾を九本全部は使わなかったでしょ?あれもきっと、無意識に実力を抑え込んでるんです」

「つまり、あいつが自覚すればもっと強くなるってか」

「はい」

尻尾五本だけでも厄介なのに、九本全部使えばまず敵はねぇだろう。
それをあの時使わなかったのは、あいつが使わなかったんじゃなく、自分では使えなかったからなのか

「戦舞ってアレは幾つあるんだ?」

「俺が見た事があるのは三つっす。でもアレって表らしいから、多分もうちょいあるんじゃないですか?」

指を折りながら数える修兵がそう言った

「壱式が爆撃、弐式が真っ二つ、参式は確か……粉々?」

「……おい、二番目辺りから全然笑えねぇぞ」

「はは、まぁあいつの敵にならねぇ限り俺らが喰らう事はねぇから大丈夫ですって」

その壱式と弐式を俺は喰らったんだがな。
ぼやきつつ足許の小石を蹴飛ばした

「で、うちの隊長は気に入って貰えました?」

隣で楽しそうに笑う修兵の背をぶっ叩いた。
痛みに悶える修兵を放置して、さっさと白い壁に覆われた建物に向かう

「俺は三席だ。隊長を信頼すんのは当たり前だろ」

呟けば、背中越しにくつくつと笑う声

「そうですね。まぁうちの隊長が信頼出来ねぇとか有り得ねぇけど」








隊長を護る為に隊士在り







(拳西さんもうちょい加減して下さいよ。背中絶対赤くなってる)

(悪ぃな、細けぇ事は苦手なんだ)

(ああ、もしかして鬼道苦手なタイプですか?)

(うるせぇよ)

(いっで!!!んの馬鹿力!)

(ぁあ?馬鹿だと?)

(やっぱ頭の先っちょ独月に斬られとけば良かったのに…!)

(…ほーう、てめぇはちょっと教育が必要みてぇだな…)

(あ、やべ…ちょっ拳西さん?落ち着きましょ?話せば判る!多分!)

(卍・解っ!!)

(ぎゃあああああああああああっ!!)








実は独月って強いんだよっていう話。
参式はその内出るかも?