「あー、やっぱ仕事上がりの一杯は美味ぇ!」

『…オジサンくさ』

ちょっとした宴会の席。
数えるのも面倒になる程注いだお代わりを飲み干し、先程の一言を口にした修兵さんにそう言えば、くいっと口角を上げた

「現世だったら俺もお前もオジサンオバサン通り越してミイラだぞ」

『…確かに』

もうそれ死んでるじゃん。てか僕らって魂だけの存在だから、死んでるのとほぼ同じだけど。
空になった御猪口に酒を注いでやれば頭を撫でられた

「子猫チャンに酌して貰うと酒が美味ぇな」

『酒なんて誰が注いでも一緒だよ』

誰が猫だ。
そう思いつつ言葉を返せば、修兵さんがゆるりと笑った

「判ってねぇな、お前だから美味く感じるんだよ」

『…判らん…』

「お前俺の作った飯好きだろ?それと一緒だ」

『……ふぅん…』

修兵さんの料理は美味しいから好きなんだけど。正直酒は僕が注いでも味は変わらないと思うんだが。
でもそれを言った所で無駄だろう。この人酔ってるし

『…そろそろ止めたら?』

「まだイケる」

『それ言う時は何時も酔ってるんだよ酔っ払い』

御猪口を奪い取って最後の一口を飲む。
舌を焼く様な辛さに眉を寄せた。卍解は度数が高いから好きじゃない
御猪口を返せば修兵さんに水を渡された。
それを飲んでいれば優しく頭を撫でられる

「酒には酔ってねぇぞ」

『自分の顔見ろ酔っ払い』

あんた今確実に酔ってるから。
目潤んでるし。頬うっすら赤いし。気怠げだし。どれも酔った時の症状だ。
そんな修兵さんは頬杖を着いて僕を見る

「俺は、お前に酔ってんの」

『……くさっ』

なんだそのクサイ台詞は。
鳥肌が立ったじゃないか、どうしてくれる。
両腕を擦っていればくつくつと修兵さんが笑った

「酷ぇな、本気なのに」

『修兵さん、あんまりアホな事言ってると明日からかわれるよ』

主に乱菊さんに。
ちらりと視線をさっきから此方にカメラを向けている爆乳美人に向ける。
あの人僕らの会話聞いてるし。ニヤニヤしてるし。
てか乱菊さんの近くできゃーきゃー言ってる女性隊士達は何なんだろう。目をキラキラさせながら此方を見てるって事は、修兵さんのファンか。くそイケメン爆発しろ
ジト目で見れば修兵さんが微笑んだ

「なに?惚れた?」

『頭沸いてますね顔面卑猥サマ』

酔ったあんたに惚れるとか有り得ないから。
呟けば、修兵さんがぐっと顔を寄せてきた

「なら酔ってなかったら惚れんのかよ」

『さぁ?』

「真面目に答えろよ」

肩を掴まれじっと見つめられた。思いの外その表情が真剣で驚く。何でこの人こんな顔してるんだ。
内心混乱しつつ、口を開いた

『…格好良かったら惚れるかもね』

「……へぇ」

『ああ、でも少なくとも卍解出来ないと無理』

惚れた人を護りながら戦える程僕は強くない。自分の身ぐらいは自分で護って貰わないと困る。
そう思いつつ呟けば、修兵さんが眉を寄せた

「…なら、黒崎とか?」

『惹かれた事ないね』

「……日番谷隊長?」

『年下は無理』

「拳西さん」

『あの人はお兄さんポジション』

「…なら阿散井」

『うるさいから嫌』

「京楽隊長」

『最早お父さん』

「…なら浮竹隊長も駄目か」

『ん』

「朽木隊長は?」

『あの人亡くなった奥さん一筋だよ』

次々投げ込まれる質問に淡々と返していれば、候補がなくなったらしい修兵さんが明らかにアウトな人達を挙げた

「………更木隊長」

『やだ』

「………くろつ『やだ無理実験台にされるわ』

更木隊長にはまず怖いという感情しか持てない。あと面倒。正直此処二つは涅隊長も同じ。
でも更木隊長はいちいち喧嘩売ってくるのが面倒。涅隊長は隙あらば藤凍月を解剖しようとするから嫌い。
比べれば審議した末に僅かに更木隊長がマシなだけ。どっちにしたって僕の中では好きには程遠い

「ならお前どういう奴がタイプなんだよ」

『…修兵さん目が据わってる』

「早く言え」

僕の肩を掴んだままの修兵さんが急かす。どうしようこの酔っ払い面倒くさい。
さっきからニヤニヤしてる乱菊さん、少しは僕を助けようと思わないのか。
視線をそちらに投げ掛ければ笑顔で手を振られた。因みに近くに居た阿散井はさっと目を逸らし、吉良は酔い潰れている。
ルキアは何故か目をキラキラさせて此方を見ている。雛森はオロオロしつつ静観。…味方は居ないのか、そうか。
若干気が遠くなった時、ぐいっと顔面卑猥が視界に入り込んできた

「なに?好きな奴に助けでも求めてんの?」

『味方は居なかった』

「はっ、ご愁傷サマ」

鼻で笑った修兵さんが額をくっ付けてきた。至近距離でドスの利いた声を出す

「で?お前どういう奴が好きなんだよ」

『…それは見た目?』

「見た目も中身も」

…こいつ面倒くさい。
この酔っ払いほんと厄介。絡み酒かこの野郎。
きっと僕は今遠い目をしている。
痺れを切らしたのか、肩を掴む手に力が籠った。判ったよ、言うから掴むな。
ぺしぺし叩けばその手に僕のそれが掴まれた

『見た目……黒髪が良い』

「…地味じゃね?」

『僕は好きだけど』

僕自身がこんな色だから、黒髪が羨ましいのだ。そう言うとふぅんと相槌を打った

「顔は?」

『顔?』

「格好良いとか、そういうの」

『んー……笑顔が可愛い人が良い』

修兵さんが唇を尖らせた。何でだ、拗ねてるのか。唇を抓めば更に眉間に皺が増えた

『拗ねた顔が可愛いのも好きだけど』

「……顔に傷痕やら刺青やらあってもか?」

『僕自身傷痕あるから、気にはしない』

そう答えれば修兵さんが小さく笑った。
掴んだ手を絡み合う様に握り、何度も閉じたり開いたりする。
ああ、機嫌治ったのか。良く判らんが良かった良かった。
至近距離の灰色を見つめていれば、今更ながらその瞳が僅かに紫がかって見える事に気付いた。
…あれ、病んでる?

「性格は?」

『…んー……優しい人?』

「月並みだな」

『……なら残念な人』

「は?」

鋭い目を修兵さんが瞬かせた。ふとした表情が可愛いよねこの人。
頷きつつ、言葉を返す

『多分、普段は格好良いのにふとした時に残念な人が好き』

言った瞬間悲鳴が上がった。
おい今あんたもだったろ乱菊さん。小さく溜息を吐きつつ、憮然とした表情の修兵さんを見る。
あれ、また不機嫌?

「……誰だそれ」

出された声は何時もより低いもので。明らかに機嫌が悪い。目の紫が濃くなって見えるのは気の所為か。
ぼんやりとそんな事を思いつつ、修兵さんを眺める

『何で怒ってる?』

「…お前が誰かを好きだから」

『………?』

その言葉に今度は僕が眉を寄せた。
何言ってんだこの酔っ払い。僕はあんたが聞いてきたから答えただけだ。別に好きな人なんて居ないんだけど
そう考えて、ふと気付く

『…黒髪で、笑顔が可愛くて、普段は格好良いのにふとした時に残念……』

呟いて、目の前の酔っ払いを凝視した。
短めの紫がかった黒髪。普段は鋭い印象を受けるけど、笑うと幼くて可愛い顔。普段は頼りになるのに何かと残念な中身。
………うわぁ

『修兵さん』

「……んだよ」

『僕気付いちゃいけない事に気付いた』

「あ…?」

更に目を尖らせた修兵さんに、たった今気付いた事を報告する












『僕、修兵さんみたいな人がタイプらしい』

「………あ?」












修兵さんがぽかんと口を開けて目を丸くした。対する僕は満足そうな顔をしているだろう。そりゃそうだ、生まれて初めて異性に対する自分の好みを把握したんだから。
そうか、僕はこういう人が好きなのかと修兵さんを眺めていれば、フリーズしていた彼がゆっくり目を瞬かせた。
そして目が合った瞬間、修兵さんは急に真っ赤になった

『修兵さん?』

「み、見んなっ!!」

ばっと僕から離れ、修兵さんが此方に背を向ける。え、何でだ。
覗き込もうとすればまた此方に背を向ける。口許を押さえているが、顔が赤いのは丸分かりである。何でそうなったのか

『なに?乱菊さんの裸でも想像した?』

「違ぇよ馬鹿!俺は…っ!」

そこまで言って修兵さんが再び固まる。何でだ、何で僕を見て固まるんだ。
まさか乱菊さんと僕を比べて落胆したとか?だとしたらかなり失礼だぞ顔面卑猥。
目を細めれば、はっとしたらしい修兵さんが御猪口の残りを飲み干した

『……俺は?』

「お、俺は………っ言えるか馬鹿ッ!!!」

そこまで言って修兵さんが頭を抱えた。
ただでさえ赤かった顔は最早湯気が出そうな域に達している。てか腕まで赤い。火噴くんじゃないかこの人。
なかなか変な行動を取る修兵さんを眺めながらチーズかまぼこを食べていれば、やっとまともになったらしい酔っ払いが僕を見た

「…忘れろ、今日の俺の言動を全部忘れてくれ…!!」

『無理』

「お願いしますッ!」

涙目な修兵さんを見て、加虐心に火が点いた。というか仕返しがしたい、猛烈に

『……ああ、散々人の事尋問したんだから、僕もやって良いよね?』

笑みを浮かべれば、ぴきりと修兵さんが固まった。
さっと青くなった修兵さんの胸倉をがっしり掴む

「あ、あの…独月チャン…?」

『さぁ、質問のお時間です』



















「た、隊長…降りて下さい」

『降りたら逃げるだろ。逃がさない』

「う……」

「あはははっ!おもしろーいっ!!」

「…ヘタレっすね先輩…」

乱菊さんと俺が見つめる先に居るのは檜佐木先輩とちびさぎ隊長。
檜佐木先輩の腹にちびさぎ隊長が座ってる。
一見すると良い雰囲気だが、実際は全然違う。
檜佐木先輩の胸倉を掴んだちびさぎ隊長が尋問しているのだ。
や、まぁ先輩が先にやらかしたんだけど。ちびさぎ隊長は仕返ししてるだけなんだけど。
涙目の檜佐木先輩に乗ったちびさぎ隊長は無表情だが楽しげ。あの人絶対ドSだろ。

『じゃあ、好きな人のタイプは?』

「や、えーと…それは……」

『なに?姉御肌な人?』

「ち、違ぇっ!!」

『ふぅん?じゃあどんなの?』

「え゙、あ……」

嘘吐きゃ良いのに先輩は馬鹿正直に返事をする。だからちびさぎ隊長が楽しんでるのに気付いてねぇらしい。普段はあの程度平気な癖に、ちびさぎ隊長が相手だとあんなに情けなくなるんだから不思議だ。それも惚れた弱みってヤツなのか

「……意地っ張りとか…」

『……ああ、砕蜂隊長』

「違ぇよ!」

『へぇ?じゃあ誰?』

「う……」

や、あんたも気付けよ。
明らかにあんたの事だろうが。
端から見れば明らかに両想い。このアホな騒動も痴話喧嘩にしか見えねぇし。
青くなりつつも甘ったるい目でちびさぎ隊長を見つめる先輩をぼんやりと眺めていれば、乱菊さんが笑った

「面白いわよねー、あの二人」

「さっさとくっ付きゃ良いんすよ」

「それじゃあ面白くないじゃない」









シーソーゲーム








(じゃあ髪の色は?)

(……答えねぇと駄目か?)

(さっさと吐け)

(……銀髪)

(意地っ張りで銀髪って……まさか…)

(え…(やべ、気付かれた?))

(ひ…日番谷隊長…?)

(違ぇッ!!!)

(……もうさっさとくっ付けよ)




ただいちゃつくだけの話