「独月ちょっと来い」

『何?』

呼ばれて書類片手に返事をすれば頭をぺしりと叩かれた。その隙に書類を引ったくられる

「来いっつったのに何書類整理してんだお前は」

『え、駄目?』

「いや普通に俺優先だろ」

『其処は書類優先』

「お前最近俺弄るの好きだな」

『気の所為です』







『えーと…本日鬼道を教える九番隊三席桜花独月です。宜しく』

「同じく九番隊副隊長の檜佐木修兵だ。俺は白打を教える」

「十一番隊五席綾瀬川弓親。美しい剣術を教えてあげよう」

「二番隊副隊長大前田希千代様だ!歩法を教えてやるから感謝しろてめーら!」

何故こうなった。これ確か乱菊さんが出る筈だったのに。修兵さんに聞けば一言

「あの人二日酔いだからお前代理」

『………』

何二日酔いしてんのあの人。つか飲み過ぎなんだよ。何でほぼ毎日居酒屋行ってんの。あの人の栄養分はアルコールか

「破道の四・白雷!」

指導中の赤犬(鬼道の苦手な問題児)は何故か的に当てられない。寧ろ手元で暴発。お前どうやったら白雷で失敗出来んの。ある意味才能だぞそれ

『……もう少し力抜け』

「抜いてるんすよこれでも!」

抜けてねぇよ。イメージより込める力が多いから暴発するんだろうが

『ならゼロのつもりで撃て』

「ゼロ?」

首を傾げた阿散井を叩きたくなるが我慢。理解力ないのかこの赤犬

『お前は力を馬鹿みたいに込めるから失敗する。だから出来るだけ力を込めない事を心掛けて撃ってみろって意味だ』

「おー」

再び構えた阿散井。また暴発させたら殴ってやる

「破道の四・白雷!」

放たれた雷は的を捉えた。うん、撃てたね

『合格』

「っしゃあ!」

『喜んでるけどお前まだ蒼火墜も撃ててないからね?』

言えば阿散井が慌てだした。うん、因みに入隊試験の鬼道は百歩欄干だって。難易度高いけど鬼道苦手な赤犬は合格出来ないんじゃないか

「ちびさぎ先輩助けて下さいよ!」

『やだ。精々苦しめ』

「性格悪ぃなこのチビごふつ」

誰がチビだこの野郎。アッパーを食らわせれば阿散井はひっくり返った。ざまぁ

『悪いな赤犬手が滑った』

「手が滑ってアッパーっておかしいだろ!!」

『喧しい』

余りにもキャンキャン喚くので脛を蹴飛ばせばもんどり打った。
これで少しは静かになるかな
そう思っていれば頭に手を置かれた

「こら、院生を虐めんじゃねぇ」

『修兵さん』

隣に来た修兵さんを見上げればぽんぽん頭を叩かれた。ぶっちゃけ悪いのはあの赤犬だ

『あの赤犬がチビって言った』

「お前も赤犬って呼んでる時点でどっこいどっこいだけどな」

呆れた様に笑う修兵さんがそう言った。え、あんな赤犬と同レベルとか嫌だ
そう言えば僕の頭を撫でながら修兵さんが笑った

「お前等紅白饅頭みたいで縁起良い色してるけどな」

『はっ倒しますよ修兵さん』

「やってみなおチビチャン?」

『言ったな』

頭に乗せられていた手を両手で掴んで背負い投げの要領で投げる。宙に浮かんだ身体に蹴りを食らわそうとすれば手で防がれた。そのまま受け身を取って立ち上がった修兵さんの顔面目掛けて回し蹴りを放てば受け止められた

「ったく足癖悪ぃな」

『そりゃどーも』

受け止められた足を腕に絡めてもう片方で蹴ろうとすれば修兵さんが目を見開いた

「おまっ…それ二番隊の…」

慌てて躱され浮いた身体をしっかりと捕獲される。離せと暴れればあやす様に頭を撫でられた

「おら、遊びは終わりだ」

『……また一撃も当てられなかった…』

「残念でした」

床に降ろされれば拍手が沸き起こる。そういえば院生が居るの忘れてた。

「吊柿だっけか?あんな技何処で覚えたんだ?」

『砕蜂隊長の真似』

さっきの技は主に二番隊の砕蜂隊長が使う足技だ。隠密機動の技っぽいけどまぁ使ったって問題は無いだろう。

「良し、続き始めんぞ」

『了解。やるぞ赤犬』

「犬じゃねぇし」

『お前は犬だ』

阿散井を蹴飛ばして今度は赤火砲の指導を始める。六回生でこんだけ鬼道苦手って大丈夫なのかこいつ













『……終わった…』

「お疲れさん」

ぽんぽんと修兵さんに頭を撫でられる。疲れた。予想外に赤犬が鬼道出来なくて疲れた。あの後他の子も見たけど群を抜いて下手だったのは赤犬だったし

「お前明日休みだったよな?」

『ん』

「なら飲むか」

にっと笑った修兵さんに思わず溜息を吐く。そんなに飲んでると肝臓悪くなるよ?

「平気だろ」

『足ツボマッサージにでも行けば良い』

絶対肝臓のとこ痛いと思う
そう言えば修兵さんは笑った

「ま、そのうちな」













「なぁ独月」

『何?』

隣でお酒を飲む修兵さんが僕の名を呼んだ。見れば彼は僅かに頬を赤く染め視線を下げている。酔ったのか

「蟹沢と青鹿は……今の俺を見てどう思うかな…」

返す言葉に詰まった僕は握っていたコップに視線を落とす。あの時の三人に出会って思い出したんだろう。指導中に一瞬眉を寄せたのはその所為か

『否定はしないでしょ』

呟いた僕を修兵さんが見る。だって努力して副隊長にまで上り詰めたんだよ?あの二人なら誉めこそすれ貶したり否定したりする筈ないと思うんだけど

「……そうか…?」

『多分』

断言は出来ないけど。そっと右頬の傷痕を撫でる指に目を細めれば修兵さんが笑った。その笑みは弱々しい

「お前にこんな怪我させねぇ様に強くならねぇとな……」

いや僕も自分の身ぐらい自分で護れますが。そう思うが口には出さず頷いておく。酔っ払いには何を言ったって無駄だし
着流しをはだけさせる手にも文句は言わない。もう慣れた。肩に残った傷痕を静かに撫でる修兵さんを只ぼんやりと眺める。右頬の傷痕に触れれば彼は目を細めた

『僕も、強くなるよ』

修兵さんにもうこんな傷痕を残さずに済む様に。呟けば修兵さんは小さく笑った


傷痕に改めて誓おう



(修兵さん、飲み過ぎ)

(まだイケる)

(限度を知れ酔っ払い)