閉ざされた記憶
「逃げて………副隊ちょ……」
血塗れの隊士達。突き刺さった太い触手。にやりと笑った虚の口からはみ出ている手。ぼりぼりぼり、響く音。虚が徐に口を開く。その手に握られているのは都さん。だらりとした身体が口に入れられた瞬間、ぐるりと彼女の首が回って此方を見た
「何故助けてくれなかったの、副隊長」
『っ!!!!』
「おっと」
反射的に起こした身は何かに支えられた。肩で息をしていると優しく背中を撫でられる。見れば隣に居たのは修兵さん。何で修兵さんが此処に?そう思って辺りを見渡す。真っ白な部屋。繋がれた点滴。花を活けられた花瓶。……此処、何処だ?
「落ち着いたか?」
優しく訊かれて小さく頷く。そもそも何で飛び起きたんだろう。夢の内容が思い出せない
僕を見た修兵さんが安心したと笑った。え、安心したって何で?
「お前三日間寝てたんだぞ」
『……三日…?』
こくりと修兵さんが頷いた。え、三日間も?驚いた脳裏をふと過ぎる何か。ちょっと待て、僕は何か重要な事を忘れてる
「独月?」
黙り込んだ僕の顔を修兵さんが覗き込んだ。何だ?何を忘れてる?何を――思い出さない様にしてる?
『………っ』
急にずきりと頭が痛んだ。脳内に掛かっていた白い靄が晴れていく
「あら、ちびさぎ副隊長が同行して下さるんですか?」
『……………あ…』
「………独月?」
浮かぶ笑顔。月の明るい夜。森の中。虚。貫かれた隊士達と都さん。虚の口からはみ出た手。ぼりぼりと硬いものを擦り潰す様な音。口に入れられる都さん。アレに、皆喰われ――
「――眠れ、独月」
不意に耳元で修兵さんの声がして、目の前が真っ白になった。身体から力が抜ける。混濁した意識の中、ごめんな、と呟く声が聞こえた気がした
「桜花副隊長があの事を思い出しそうになった場合は直ぐに白伏を使って下さい」
「………」
あの日独月の治療を終えた卯ノ花隊長は俺にそう言った。理由はまだあいつの精神が安定していないから。部下を目の前で喰われた事を今思い出せばきっとこいつは荒れる。事実を教えるには暫く様子見をした方が良いからと言われた
倒れて来た独月をベッドに寝かせる。この点滴にも最近の記憶を朧気にさせる効果があるらしいから、まぁ暫くは大丈夫だろう
「……言える訳ねぇよな…」
額に手をやり俯く。あの後海燕さんも死んだ。虚に寄生され、朽木に胸を刺されて
都さんも勿論助からなかった。その遺体を見た海燕さんは酷く辛そうだった。あの人は都さんに会った後、この病室に来た
「…ありがとな、ちびさぎ。都を連れて帰って来てくれて……辛い目に遭わせちまってごめんな…」
「……海燕さん…」
「檜佐木、ちびさぎが起きたら伝えといてくれ……オメーらは立派な副隊長だってよ」
「………はい」
独月の頭を撫でた海燕さんは俺の頭に手を置いてそう言った。あの時何故か胸騒ぎはしてたんだ。けど言わなかった。だってあの人は強いから、俺なんかが心配しなくても虚を倒して帰って来るって思ってたから。だから、あれが最期の別れになるなんて思ってなかったんだ
「…辛い目に遭わせちまってるのはあんたもだ……」
今は思い出さない様に周りが動いているが、何時かはこいつも自分の記憶と向き合わなきゃならない時が来る。その時こいつは都さんが死んだ事を思い出して、それからきっとあんたが居ない事に気付く。こいつはあんたと都さんに懐いてたんだぞ。なのに、何で死んじまうんだよ
「……独月…」
そっと銀髪に指を絡める。あの夜独月の髪は血で固まっていた。
髪どころか全身血塗れになった独月の腕に抱かれた上半身しかねぇ都さんを見て――独月がああなってなくて良かったと一瞬でも考えた俺は薄情者だ
Until that day you will all know
(目を覚ましたら、散歩でも行こうな、独月)
血塗れの隊士達。突き刺さった太い触手。にやりと笑った虚の口からはみ出ている手。ぼりぼりぼり、響く音。虚が徐に口を開く。その手に握られているのは都さん。だらりとした身体が口に入れられた瞬間、ぐるりと彼女の首が回って此方を見た
「何故助けてくれなかったの、副隊長」
『っ!!!!』
「おっと」
反射的に起こした身は何かに支えられた。肩で息をしていると優しく背中を撫でられる。見れば隣に居たのは修兵さん。何で修兵さんが此処に?そう思って辺りを見渡す。真っ白な部屋。繋がれた点滴。花を活けられた花瓶。……此処、何処だ?
「落ち着いたか?」
優しく訊かれて小さく頷く。そもそも何で飛び起きたんだろう。夢の内容が思い出せない
僕を見た修兵さんが安心したと笑った。え、安心したって何で?
「お前三日間寝てたんだぞ」
『……三日…?』
こくりと修兵さんが頷いた。え、三日間も?驚いた脳裏をふと過ぎる何か。ちょっと待て、僕は何か重要な事を忘れてる
「独月?」
黙り込んだ僕の顔を修兵さんが覗き込んだ。何だ?何を忘れてる?何を――思い出さない様にしてる?
『………っ』
急にずきりと頭が痛んだ。脳内に掛かっていた白い靄が晴れていく
「あら、ちびさぎ副隊長が同行して下さるんですか?」
『……………あ…』
「………独月?」
浮かぶ笑顔。月の明るい夜。森の中。虚。貫かれた隊士達と都さん。虚の口からはみ出た手。ぼりぼりと硬いものを擦り潰す様な音。口に入れられる都さん。アレに、皆喰われ――
「――眠れ、独月」
不意に耳元で修兵さんの声がして、目の前が真っ白になった。身体から力が抜ける。混濁した意識の中、ごめんな、と呟く声が聞こえた気がした
「桜花副隊長があの事を思い出しそうになった場合は直ぐに白伏を使って下さい」
「………」
あの日独月の治療を終えた卯ノ花隊長は俺にそう言った。理由はまだあいつの精神が安定していないから。部下を目の前で喰われた事を今思い出せばきっとこいつは荒れる。事実を教えるには暫く様子見をした方が良いからと言われた
倒れて来た独月をベッドに寝かせる。この点滴にも最近の記憶を朧気にさせる効果があるらしいから、まぁ暫くは大丈夫だろう
「……言える訳ねぇよな…」
額に手をやり俯く。あの後海燕さんも死んだ。虚に寄生され、朽木に胸を刺されて
都さんも勿論助からなかった。その遺体を見た海燕さんは酷く辛そうだった。あの人は都さんに会った後、この病室に来た
「…ありがとな、ちびさぎ。都を連れて帰って来てくれて……辛い目に遭わせちまってごめんな…」
「……海燕さん…」
「檜佐木、ちびさぎが起きたら伝えといてくれ……オメーらは立派な副隊長だってよ」
「………はい」
独月の頭を撫でた海燕さんは俺の頭に手を置いてそう言った。あの時何故か胸騒ぎはしてたんだ。けど言わなかった。だってあの人は強いから、俺なんかが心配しなくても虚を倒して帰って来るって思ってたから。だから、あれが最期の別れになるなんて思ってなかったんだ
「…辛い目に遭わせちまってるのはあんたもだ……」
今は思い出さない様に周りが動いているが、何時かはこいつも自分の記憶と向き合わなきゃならない時が来る。その時こいつは都さんが死んだ事を思い出して、それからきっとあんたが居ない事に気付く。こいつはあんたと都さんに懐いてたんだぞ。なのに、何で死んじまうんだよ
「……独月…」
そっと銀髪に指を絡める。あの夜独月の髪は血で固まっていた。
髪どころか全身血塗れになった独月の腕に抱かれた上半身しかねぇ都さんを見て――独月がああなってなくて良かったと一瞬でも考えた俺は薄情者だ
Until that day you will all know
(目を覚ましたら、散歩でも行こうな、独月)