何時もの様に家に大きな感覚が近付いてきた。
そしてガラガラと引き戸を開ける

「ちわーっす」

『…こんにちは。いらっしゃいしゅーへーさん』

今日は霊術院という死神になる為の勉強会がなかったらしく、着流し姿の修兵さんが昼間から家にやってきた。出迎えた僕の頭をくしゃくしゃと撫でて座敷に上がる。
何かもうこの場面にも慣れてきた。前は修兵さんが勝手に戸を開けて入ってきただけで吃驚してたのに。慣れって怖い

「あらいらっしゃい檜佐木くん」

声が聞こえたのか、台所に居たお婆ちゃんが此方に顔を出した。それにお邪魔してますと会釈する修兵さん。

「今からお昼にするんだけど、檜佐木くんもどう?」

「あ、良いんすか?是非」

……あんたまさか昼食狙って来たのか。
修兵さんを見れば随分嬉しそうな顔をしていた

「お琴さんの飯美味いんだよな」

隠し味に何使ってんだろ、と思案中な黒髪の人。何か意外だが、この反応はもしかして

『……料理好きなの…?』

「ん?ああ。作るのは好きだな」

まさかの当たりか。
え、その見た目からして意外過ぎる。あんたどう見たって誰かに作らせてる感じだろ。何だその何でも出来ます的な趣味。イケメンの嫌みか。
だが作るのが好きと聞いたら、それはそれでどんなものを作るのか気になる

『………』

「ん?興味あんのか?」

無言で首肯。すると修兵さんは笑って頭をわっしわっし撫でてきた。ちょっ荒いって首がもげる

「なら今度作ってやるよ」

『……ありがとう』

ぺこりと頭を下げれば、修兵さんがどーいたしましてと笑った。
因みに礼儀作法に煩いのは家のお婆ちゃんことお琴さんです。
挨拶は勿論の事、どんなに些細な事でも感謝の気持ちを伝えないと一時間のお小言が待っている。
お爺ちゃんはそれを止めない。笑って見てる。まさにかかあ天下お婆ちゃん怖い。
や、誰か一人はそういう事をしっかり指導してくれる人が居た方が良いっていうのは判ってるけど

「独月」

修兵さんが自分の膝をぽんぽんと叩く。あれか、座れってか
言っとくけど僕はそんなにあんたと年齢変わらないと思うんだが。だって修兵さんが見た目十六歳くらいだったら僕は十四歳くらいだし。
確かに身長は低いけどさ、膝に乗せられる程小さいつもりはない。
それに遅れた成長期が来るって信じてる。今僕は栄養を蓄えているのだ。きっと何時かはにょきにょき伸びる…筈

『…僕…そこまで小さくない…』

「俺が座らせてぇだけだよ。来い」

いやだからそれが嫌なんだってば。
座らせたい=小さいもの扱いだって公式を知らんのかあんたは
ぽんぽん、ふるふる、と互いに無言で意見を主張する。
今思ったけど、修兵さんとは大分普通に話せる様になった。慣れない人に対して慣れるまでどもってしまうのはどうにかしないといけない

「ご飯出来たよー」

『…運ぶの手伝う』

お婆ちゃんの声にこれ幸いと立ち上がれば、俺も手伝うと修兵も腰を上げた。いやいやお客様なんだから座っといてよ。

『…しゅーへーさん、おすわり』

「犬か俺は」

…あ、言い方間違えた

『…お客様、座ってて』

「飯食わせて貰うんだから、手伝いぐらいはしねぇと失礼だろ」

『……おすわり』

「だから俺は犬じゃねぇよ」

何だか物凄く不毛な言い争いに聞こえてきた。
もう良いよ諦める。というか僕が修兵さんに勝てる筈がない。こんな口下手が勝ったらそれはそれで問題だ。
台所に行き、お婆ちゃんから皿を受け取る。

「転ばない様にね」

『……そこまで小さくない』

「ごめんね、お皿の方が独ちゃんより大きく見えたから、つい」

…そんなに皿でかくないんだけど。これ小皿が四枚積んであるだけだし。僕の方が充分でかいわ。後ろで爆笑してる修兵さんには後で仕返ししようと思う
両手で小皿を持って歩けば、後ろから大皿を両手に一つずつ持った修兵さんが付いて来た。
…別に悔しくない。手が大きくて良いなとか身長高くて良いなとかぜんっぜん思ってない。
今度はお味噌汁とご飯を両手に一つずつ持って運んでいると、後ろからご飯を奪われた

「ほら、小せぇのに無理すんな」

『……小さくない』

いやこれくらいは運ばせようよ。
そして一つ言うと小さい人間に小さいというのは只の侮辱である。
良し、仕返しは二倍決定

「運び終わったから座ろうぜ」

『ん』

お婆ちゃんは庭に居るお爺ちゃんを呼びに行ったらしい。
待つ事になった僕は修兵さんの隣に座る。そしてふと隣を見てへこむ。
座高が身長の割に低い。この人身長高い癖に脚まで長いのか。

『………………』

手で測ってみる。僕の座高は修兵さんの胸までしかない。
何この差、不公平だ。
何となくムカついて、眉を寄せて修兵さんの顔を見るとデコピンされた。痛い。

「じゃあ食べましょうか」

額を押さえていればお爺ちゃんとお婆ちゃんが戻ってきた。にこにこしたお爺ちゃんが修兵さんを見て声を掛ける

「おお檜佐木くん、こんにちは」

「こんにちは太蔵さん、お邪魔してます」

修兵さんが笑顔で頭を下げた。それを見て二人が笑う。
お爺ちゃんとお婆ちゃんが手を合わせた。それに合わせて僕と修兵さんも同じ様に手を合わせる

「「「『いただきます』」」」

手を合わせてからぼんやりと天井を眺める。基本的に僕は周りが小皿に取り終わるまでこんな感じだ。
木目を眺めていればぽんと頭に手が置かれた

「ほら、食うぞ」

『……あれ?』

何故か僕の前の小皿は料理がよそわれている。え、何で?
目を瞬かせていればお婆ちゃんが笑いながら言った

「檜佐木くんがよそってくれたわよ?」

『……え』

思わず隣を見れば修兵さんは自分の小皿をガン見していた。どうやら此方を見るつもりはないらしい。
着流しの裾をちょいちょいと引っ張れば声だけ返ってきた

「…んだよ」

『……ありがと』

「……どーいたしまして」

何故か修兵さんの頬が赤い。どうかしたのかと見つめていればさっさと食えと怒られた。何これ理不尽。良し、仕返し三倍決定です

「霊術院は楽しいかい?」

「はい。凄くやりがいもありますし」

「そう。それは良かった」

食べながらお爺ちゃんと修兵さんが話しているのを眺める。
笑顔のお爺ちゃんと修兵さん。
…何だろう、何か不良と自分のお爺ちゃんが仲良くしてるのを見てる気分だ。つまりシュール。違和感半端ない。てか修兵さんが不良にしか見えない
顔か、顔が厳ついからか。何てこった見た目で損してるぞ修兵さん。
考えていた事がバレたのか、隣の修兵さんに人参を取られた。
…何だろうこの微妙な嫌がらせ。
別に人参は好きでも嫌いでもないんだけど。ちらりと見れば、修兵さんは勝ち誇った顔をしていた。何故

『………』

「あっ、てめっ」

何だかムカついたので、修兵さんの小皿にあったウィンナーを横取りして口に入れた。因みにウィンナーは修兵さんの好物である。
これが三倍返しだぞざまぁ。ちらりと見て出来る限り口の端を上げれば、修兵さんは非常に悔しそうな顔をしていた。
率直な感想を言わせて貰うと大人げない。やっといてなんだけど大人げないよ、修兵さん

「仲が良いわね」

「ああ」

お爺ちゃんとお婆ちゃんが僕と修兵さんを笑って見てる。や、僕は仕返ししただけなんだけど。三倍返しだったし。
でも好きな物を横取りしたのは可哀想かと考えて、自分の皿からウィンナーを一個あげた。すると頭を撫でられて、僕の皿に人参が来た。
いや、人参欲しくてウィンナーあげた訳じゃないんだけど…まぁ良いか
もそもそ食べている間、ずっとお爺ちゃんとお婆ちゃんが笑っていた









取り敢えずお昼









(独ちゃんは前より表情が柔らかくなったわね)

(ああ、そうだねぇ)







執筆訂正
20140314