「藍染……」

空は閉じられた。もう危険はない。なのに何故この人はこの状態を解かない?

「…っは…っは…」

『修兵さん…』

僕を掻き抱いたまま。右手にはまだあの鎖の繋がった武器を握り締めて。その目も鋭いまま。
名を呼んでも反応はない。
京楽隊長が近付けば急に高まる霊圧。咄嗟に京楽隊長は飛び退いた。瞬間地面から風死が勢い良く顔を出す

「なっ……危ないなぁ…」

今狙われたのは京楽隊長。普段の修兵さんなら有り得ない。まさか、敵味方の判断が付いていない?

「……る…」

『修兵さん…?』

微かに聞こえた声に耳を澄ます。

「…れが……ま……」

『………?』

「……俺が、護る…」

慌てて修兵さんの顔を覗き込む。虚ろな目。恐らく意識はない。只譫言の様に俺が護る、と呟いて
取り敢えず修兵さんの顔を両手で挟み、僕の方を向けさせた。目を見ながら声を掛ける

『修兵さん、修兵さん』

「……俺が護る…」

『もう大丈夫だよ修兵さん』

頬を撫でつつ呼び掛ける事約五分。修兵さんの目に僅かに光が戻った。

『修兵さん、聞こえる?』

僕の声は聞こえてますか?

『もう大丈夫だよ、怖い奴は居ないよ』

聞こえてたら良いな

『修兵さんが護ってくれたんだよ?』

「……護れた、のか…?」

聞こえたのは微かな一言。目はぼんやりと僕を見ている

『うん。怪我もしてないし。修兵さん、護ってくれてありがとう』

そう言えば修兵さんの目がじっと僕を見始めた。光はある。意識が戻った?

「……そうか…良かった…」

言葉と共に周りを取り囲んでいた鎖と刀が消える。重い霊圧も消えた。修兵さんの手に風死と藤凍月が戻って来た。
また意識を失った修兵さんの身体が倒れる。未だに力強く腕に抱かれた僕ごと。ちょっと待て潰れるっ

「危なかったな!」

「大丈夫かい?」

地面にぶつかる前に修兵さんの身体が浮竹隊長と京楽隊長に受け止められた。助かった。潰れずに済んだ
浮竹隊長と京楽隊長に修兵さんを仰向けにして貰い治療を試みる。一番深いのは腹部の傷。恐らく僕の受けた傷。さっきの状態を解いたからか、血はさっきよりどくどくと溢れて一向に止まる素振りを見せない。
治療して欲しくても四番隊の隊士も他の重傷者の手当てに奔走している。

『っどうすれば…』

どんどん冷たくなっていく。血は止まらない。呼吸も小さくなっていく。
僕を掻き抱く力のみそのままで、修兵さんはどんどん弱っていく
死ぬ?また僕は護られたまま?

『……っ嫌だ…修兵さん…っ!!』

傍から居なくなる?まだ恩返しもろくに出来てはいないのに?

『死ぬなっ!!!』

「――双天帰盾!私は拒絶する!」

背後からの声。オレンジ色の光に包まれる。咄嗟に藤凍月を握ったがこの光からは危害を加えそうな気配はしなかった。寧ろ暖かい、優しい光。
ぼんやりと光を眺めていると隣に茶髪の女の子が立った。しゃがみ込んで視線を合わせ、僕に向かって笑いかける

「大丈夫だよ。その人は今助けるからね」

『…っ…ありがとう…』

ああ、もう大丈夫だと感じた。この人は修兵さんを助けてくれると素直にそう感じた
不意に視界が滲んで温かいものが零れ落ちた。それは修兵さんの頬にぽたぽたと落ちる。修兵さんに零れない様に何とか位置を変えようとすれば不意に頬を拭われた。良く知ってる、けど何時もより冷たい大きな手。え、何で今動いてるの

『……、…』

「……泣くな…独月……」

優しい笑みを浮かべて、修兵さんがそう言った。辛いのに何で僕を慰めるんだよ。傷痛いでしょ?腕動かすのもキツいんでしょ?今ぐらいゆっくりしててよ

「…お前が泣くと…胸が痛ぇ…」

『……っ…馬鹿…』

その言葉に涙腺が崩壊した。ぼろぼろ涙を零す僕に修兵さんがあったけぇ雨だなと笑う。
もう泣くなと胸元に頭を引き寄せられた。それでも涙は止まらない。穏やかな心音。少しずつ温かさが戻って来る。生きてる。修兵さんが生きてるんだ
頭を何度かぽんぽんと叩かれ、ねみぃ、という呟き。女の子の治療で大分傷が塞がってきたらしい修兵さんが目をしぱしぱさせている。眠って良いよ、と言えばお前も寝ろ、と。

「後は大丈夫だから君達は眠ると良い」

渋っていれば眼鏡を掛けた旅禍の男の人に寝る事を勧められた。いやでも他にも重傷者居るのに動ける僕が動かなきゃ迷惑でしょうよ。そう言えば霊圧弱ってんだから休め、とタンポポくんにも言われた。いやあんたも休め。うだうだと起きていたものの最終的に修兵さんが寝始め、その安らかな寝息に段々と意識が遠のいていった



『………ん』

「お、目ぇ覚めたんか」

目を開ければ真っ白な天井に包帯を彼方此方に巻いた気怠げな上司。うわ怪我人
取り敢えず状況把握を試みる。部屋からして救護詰所か?問えば財前は頷いた。僕は怪我ないんだけどな、と零せばお前阿呆ちゃうかと財前に呆れられた
何でも意識を失った後僕の霊圧は下がり続けたらしく修兵さんと共に救護詰所に担架で運ばれたらしい。そして投薬の結果何とか状態は回復した、と。

「大方檜佐木さんに卍解の時霊圧流しすぎたんやろ。んで藍染に対抗する為に残り少ない霊圧高くしとったら反動でガンガン下がった…理由なんてそんなもんやろ」

『………』

まぁ修兵さんに霊圧を流しすぎたっていうのは否定しない。だって自分で流す量増やしたし。卍解が解けるまで流し続けたし
まぁ理由は判ったから良い。良いんだけどさ

『財前。一つ聞きたい』

「隊長付け。なん?」

『何で修兵さんが同じベッドで寝てるんだ』

腕枕ならぬ肩枕状態の修兵さんを指差す。何かこの枕固めだなとか思ってたら修兵さんの肩だし。しかも僕の寝てるスペース小さい。良く寝てたな僕

「檜佐木さんが離さへんからや」

『は?離さない?』

何を、と問えば顎で指された

「お前」

『………ああ』

何言ってんだお前と財前を見たもののふと左肩の重さに気付き納得。左肩を修兵さんの左手が掴んでいた。そりゃもうがっしりと。ああこれは引き離せないだろうなというぐらいにはしっかり掴まれている。僕の肩青痣出来てないだろうな

「京楽隊長とかも手伝ったらしいけど離さへんかったんやって」

『マジか』

いやどんだけ力強いの修兵さん。何で寝てんのに無駄に頑張ってんの修兵さん。僕起き上がれないし。修兵さんが起きるまでまさかずっとこのまま?

「ご愁傷様」

『死ねぜんざい』


早く起きて


(早く起きないかなぁ)

(もう暫く掛かるやろ)

(え、動けないじゃん僕)

(ざまぁ)

(死ね財前)